第25話 転移者

 野村 優一ノムラ ユウイチ 28歳、日本人。


 その日、彼は最近よく利用している食堂[ドドンパ亭]という巨大な食堂で冒険者クランのメンバーである『マール・コングラット・ダルクフール』と『ウィル・テレノール』らと共に食事をしていた。


 場所は『冒険者の国バルト』と呼ばれることもあるバルト永世中立王国の王都テルム近郊の街シュレット。


 つい3ヶ月前にこの国を訪れた彼らは、この街で冒険者として生活している。


 『冒険者の国』と言われるだけあって、この国は良識を持った冒険者達tにとって非常に暮らしやすく、他国でありがちな冒険者同士のトラブルや職業や種族による差別も殆ど無い。治安も非常に良いので、彼らクランのメンバーは優一がギルドから冒険者として最高ランクとされる『勇者』の称号を得たのを機に、この国に冒険者としての拠点を設けることを決めた。


 しかし、いざ拠点を構えてみると、山脈に囲まれたこの国は他国と比べて物価が高く、冬の本格的な寒波に見舞われると一部の街道を除いて道が完全に閉ざされてしまうので、隣国に行くことさえも難しくなることが判明し、この国とは別にマールの実家があるダルクフール法国にもう一つ活動の拠点を設けることとなった。


 冒険者は収入が常に不安定なので拠点を持ちつつも、隣国まで渡って依頼をこなすことなどざらだ。


 各国のそれぞれの職種のギルドが全て統合され、バレット大陸の殆どの国に統合された新生ギルドの事務所が設置されたことにより、ギルドに所属する冒険者や魔法使い、商人達の活動の場が広がったことは大変結構なことだが、隊商の護衛任務や魔物の大規模討伐要請など国と国を跨ぐような依頼が多くなった。


 要するに異世界ギルドのグローバル化の波がバレット大陸各地に広がる結果となり、国を跨ぐ依頼に限って一人当たりの報酬額が高いので、一流と呼ばれる冒険者や魔法使い達も特定の国に活動の拠点を持っていながらも、連絡役と拠点の維持を兼ねた使用人だけを残して殆ど留守ということも珍しくない時代だ。


 そういう意味で言えば、冒険者の国と言われながらも他国より物価が高いバルト永世中立王国に拠点を置き活動を続ける冒険者たちが一流と言われるのもわかる話である。優一も含め、彼らはそれだけの報酬を手に入れるために危険な依頼を自ら選び、確実に依頼を達成させているのだから。


 しかし、物価が高いと言われるこの国も『冒険者の国』と言われるだけあって、値段が安い店はそれなりに幾つか存在している。


 食堂に武具店、洗濯店や被服店、宿泊施設に公衆浴場などといったこれらの店や施設は、国や自治体が実施する補助金制度や助成金制度を利用し、建物や設備を整えたりした所が殆どであり、優一らが食事を摂っているこの『ドドンパ亭』もそんな店の一つだ。


 そして、そんな恩恵に預かり、隣国のシグマ大帝国とさほど変わらない値段で提供されているエールを飲みつつ、若香草と共に若鶏を一羽丸々蒸し焼きにした料理を仲間と共に食していた優一は食事の手を止め、固まったようにある人物を目で追っていた。



「ユウイチさん?」



 同じクランのメンバーであり仲でもある人間種の少女、マールが彼に話し掛ける。

 しかし、優一はマールの声が聞こえていないのか、一点を見つめたままであった。



「ユウイチ、一体どうしたんです?」



 マールの隣で食事をしていた同じく将来を誓い合った恋人の獣人と魔族の混血である少女、ウィルも心配そうに彼の顔を覗き込む。


 目が覚めるような美少女2人から己の顔を見つめられるという羨ましい状況であるにも拘らず、優一はまるでメデューサの魔眼によって石像に変えられたの如く微動だにしない。彼女らが何回か話しかけても一向に返事をしない彼に痺れを切らしたのか、マールがテーブルの下で優一の脛を革のブーツを履いた足で蹴飛ばす。



「痛ぇ! 何するんだマール!?」



 “ゴスッ!”っという鈍い音が響き、漸く意識を引き戻した優一は己の脛を蹴った少女に抗議する。



「さっきから呼び掛けているのに、無視し続けるユウイチさんが悪いんですよ。

 一体どうしたんですか? 壊れた石像人形ゴーレムみたいに固まっちゃって」


「そうですよ、ユウイチ。 

 食事中いきなり固まってしまって。

 もしかして好みの美女でも見つけたんですか?

 ユウイチは見境が無いですからねぇ」


「いや、すまん……っていうかウィル、俺は見境が無いほど女にだらしがない男じゃないぞ?」


「今まで町娘から神官、貴族のご令嬢や王族に至るまで複数の女性から言い寄られ、鼻の下を伸ばしていた男の言うことなんて信じられませんよ」


「ぐっ!? ……すまん」


「ところでユウイチさん。 さっきは本当にどうしたんですか?」



 ウィルとの会話を遮るようにマールが質問し、優一は自分達から見て左斜め方向の5つ離れた隅のテーブル席を黙って見るように促した。彼の見ていた方向に視線を向けると、そこには黒髪・黒目の青年が仲間と思われる者達と共に食事をしているところであった。



「あの男性、ユウイチさんと同じ黒髪・黒目の人ですね。

 肌の色も何だか同じような?」


「確かにユウイチと同じ人種のように見えますね……」



 彼女らの目に移った男は優一より少し若く見えるが、髪や肌、目の色から見て優一と同じ人種のように見えた。ウィルが“ように”と言ったのは、あの男の方が優一よりも髪が黒く、瞳の色も同じくらい黒かったためだ。


 一方、優一の髪と目はパッと見は同じように黒いが、光に照らされると若干茶色く見えるので一概に同じと決め付けられなかったのもある。



「……恐らく彼は日本人だ」


「二ホン人……ということは、ユウイチさんがかつて居た世界と同じ国の人ということですか?」


「それが何か問題でも?」


「いや、その……」



 そう言われて優一は口ごもる。


 『野村 優一』という男は元々この世界の人間ではない。

 地球という星にある日本という国から転生して来た人間であった。


 彼は日本のとある地方都市で大手自動車会社のディーラー社員として働いていたのだが、新たに発表された新型自動運転車の試乗会発表前の従業員向けデモンストレーション用試乗会の際、交差点で信号を無視して進入して来たコンクリートを満載したミキサー車に右横から高速で激突されて亡くなった。


 車ごと押し潰され即死だった彼が次に目覚めたのは病院の霊安室でもはたまた来世などでもなく、ぼんやりとオレンジ色に光る不思議な空間であった。


 目を覚ますと彼の前には西洋人の風貌を持つ老人が立っており、ローマ人が来ていた白いトーガを着込み、長い白髪と同じく長く伸びた白い顎鬚というどこぞの賢者の様な格好をしていたのである。


 老人は優一の意識が覚醒するのが早いか、彼に矢継ぎ早に色々な話をして異世界が危機に曝されていることをしゃべり、彼に様々な特殊能力を施して転生先の異世界『ウル』に放り込んだ。


 その時に彼は自分が死んでしまった以上、異世界に行くことになるのは吝かではないが自分と同じ境遇になった者、要するに異世界『ウル』に行くことになった、あるいはこれから赴く予定の日本人や外国人はいるのかという説明に“神”と思われる老人はこう言ったのだった。



『現在、ウルに行くことになっている日本人は君だけだ。

 もしかしたら、我等が送り込む以外に現地の民によって日本人が召喚されることもないとは言い切れん。

 しかしそのような場合、召喚される日本人は性別年齢、職業等問わず無作為に選ばれることになることだろう。

 どのような者が召喚されるかわからぬ故、くれぐれも気を付けることだ』



 と忠告されていた。

 そしてその召喚されたと思われる日本人がいたのだ。


 相手がどんな経緯でこの世界に来たのかは分からないが、こうやって初めて自分以外の日本人を目の当たりにして彼はかなり動揺していたが、優一が動揺するもう一つの理由として、あの日本人の青年が手に持ってい“モノ”にかなりの驚きがあったのである。



「自動小銃だと?」



 そう。

 驚いたことにあの青年は肩からなんと自動小銃を提げていたのだ。

 よく見ると、右の太ももには拳銃のようなものがチラリと確認できた。


 しかも、着ている服はこの世界のものではなく、日本でよく目にしたダッフルコートとジーンズといったもので、左手には腕時計を嵌めている。


 優一は日本では自動車ディーラーに勤めていたこともあり、客の身なりで客層の年収を大体予測できたが、それで言えばあの青年の服はかなり良いものを着込んでいると思え、それなりに裕福だった者ではないかと推察した。


 間違っても海外の有名ブランド品でありながら、実は中国製であったりフランスやイタリアに中国本国から出稼ぎに来た中国人達が作っているブランド品となんかとは違う。


 日本製の生地を用いて日本人の職人が作った紛れもない純日本製であることが、その細やかな縫製や雰囲気から嫌というほどに伝わってくるのだ。


 対して優一が身に着けている物の全てがこの世界で作られた品物である。


 この世界に転生したとき、優一は日本で死亡したその瞬間まで着用していたビジネススーツを着ていたのだが、異世界でビジネススーツなど砂漠で取り残された元SASの考古学者でもあるまいに、早々に現地調達した異世界の古着に着替えていた。


 彼が身に付けている外套に上着、ズボンに靴などの衣服や剣などの武器に至るまで全て異世界産の物であり、あの青年とは対照的で、唯一身に付けている日本製品は国産メーカーの腕時計だけである。


 一応、この世界では金銭的にそれなりに裕福な部類に入る優一は、マールやウィルと共に服や装備を特注で揃えてはいるが、あの青年の隣に立つと地球にいる日本人の目から見たら若干見劣りすることだろう。



(ここからなら『鑑定』のスキルは使えるか?)



 そう思い鑑定のスキルを発動させるが、距離があるのと手前に他人が座っているテーブル席が幾つかある所為でスキルの効果が阻害されてしまう。



(やっぱり、ある程度接近しないと鑑定のスキルは使えないか……)



 スキル。

 それは転生者である優一が持つ“能力”の一つである。


 彼はこの世界に転生する際に現代生活に慣れきって色々と不都合があると思った例の白髪の老人により“特殊な能力=スキル”を与えられた。


 スキルの種類としては、先ほど優一が使おうとした『鑑定』という相手の名前や職業などといったある程度の個人情報やその者が持つ能力や戦闘力を推し量ることが出来る。


 他にもこの世界の地図や国の情報等が記された記録媒体を検索出来たり、魔法障壁を含む人間やエルフが使用できる魔法の殆どを使えたりするスキルを付与された。


 鑑定スキルのように対象に一定の距離まで近付かないと使えないとか、大規模な魔法を行使する際には規定値まで魔力を貯めなければいけないなど幾つかの制約はあるが、今のところ、この世界ではチート状態を維持できている。



「ユウイチさん、あの男性が気になるんですか?」


「うん。

 マール達には以前話しただろう?

 俺が元の世界で事故で死んでその後、神様だか何だかわからない爺さんによってこの世界に連れてこられたことを」


「はい。

 初めてそのことを聞かされた時は信じられませんでしたが、優一さんの知識や強さを実際に目の当たりにしてからは本当だったんだって思いましたよ」


「私もマールと同じです」


「俺は思うんだ。

 あの日本人の彼はどうやってこの世界に来たのかってな?

 果たして俺と同じように死んでからあの爺さんによってこの世界に送り込まれたのか、それとも……」


「それとも?」


「この世界の誰かがあの人を呼び寄せたのかって……ね?」



 そしてあの銃が本物であるのかも含めて調べてみる必要があると思っていた。






 ◆






 あの日本人青年の一行が食事を終え、『ドドンパ亭』を去るのを密かに見送った優一達は一度食堂裏の厩まで行き、自分達の馬3頭を引き取ってから、あの一行を尾行することにした。


 目的はあの一行が泊まる予定の宿を突き止めること。

 あの青年が一人になったところで優一が彼に接触し、この世界に来た経緯を問い質すのだ。


 尾行前に優一は自分も含めてマールとウィルに対し、姿を変える魔法しまう――――変装用の幻惑魔法を使って3人の姿を変えることにしたのだ。


 これは優一の姿が日本人のままだと尾行途中に目立ってしまうということもあるのだが、それ以外にもう一つ理由があった。

 ウィルである。


 あの一行が食事を終えて会計を済ませるために立ち上がったとき、彼らの顔と姿を見たウィルは顔を青褪めさせ固まっていた。



「じゃあ会計を済ませてくるから、アゼレア達は先に馬車に戻っていてね」


「分かったわ」


 そして、あの青年が隣にいた女魔族の名前を呼び、その声を聞いた直後からあからさまに震えだしたのである。



「ユウイチ、悪いことは言わない! 彼らを尾行するのはやめよう」


「どうしたんだ、ウィル? いつものお前らしくないぞ」


「私の予想通りなら、相手が悪過ぎるっ! 全員殺されるぞ!!」


「落ち着け。 一体、どうしたっていうんだ?」



 優一はウィルという魔族の少女のことはこの2年の付き合いで大体知っている。

 彼より10歳若い彼女は、魔王領出身の母親と傭兵を営んでいた獣人の父との間に生まれた混血児だ。


 マールが金髪のストレートロングヘアーに対し、ウィルの容姿は狼人族特有の狼の耳を有し薄桃色のセミロングの髪をひっつめ、背は180cmの優一と比べて少し低い170cmほど。


 今は季節が冬であるため露出が少ない服に軽鎧という格好だが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる素晴らしいプロポーションの持ち主で、よく見ると手足の筋肉が引き締まっておりガッチリとした体格で女性戦士として理想の体格をしている。


 母親は魔女族で父親は狼人族であり、魔力・戦闘力共に高く、並みの騎士や魔法使い程度なら簡単に打ち負かすくらい強い。


 ウィルはバレット大陸南方のウッドランド平野に存在する幾つかの国の一つ、ドーラン王国出身で王国では魔法を扱える者が少なかったこともあり、母親から教え込まれた魔法を一通り使えるようになった頃には国から仕官の誘いを度々受けていた。


 しかも、彼女は母親から受け継いだ魔女族特有の魔法の才能だけではなく、剣の腕も父親から受け継いでいる。


 基本的にこの世界の魔法使いは軍に所属している者以外、接近戦は基本苦手だ。

 その理由は魔法の操作や術式の訓練を優先するあまり、剣術の習得や基礎体力の練成を必要最低限しか行っていない者が比較的多いからである。


 それで言えばウィルは幼少の頃から両親によって、魔法と剣術の訓練を交互に施されていたので魔法と剣の操作を両方行える魔法剣士という貴重な存在として育った。


 現在、軍や冒険者で剣術と魔法の両方をバランス良く扱える者はそう多くない。それで言えば、ウィルが仲間に入ってくれたことは非常に心強いものだった。


 しかし、そのウィルがまるで怖いものを見てしまった幼い子供のように震えているではないか。


 いつもの彼女なら、どんな相手に対してもいの一番に切り込み、笑って攻撃魔法を至近距離で炸裂させるウィルが産まれたての子鹿のようにブルブル震えているのを見て心配になり、優一はその原因となったあの女魔族のことを問い質す。



「ウィル、話したくないのならば、それでも構わない。

 ただ、これだけは正直に教えてくれ。

 あの女魔族は知り合いなのか?

 もしかすると、何か弱みでも握られているのか?」


「違う。 あのお方とは知り合いでもなんでも無い」


「じゃあ何故、そんなに震えているんだ?

 俺は今までお前がそんなに恐怖に慄いている姿を見たことがないぞ」


「ユウイチの言う通りよ、ウィル。

 一体、どうしたの?

 もしユウイチに話せないのなら、私にだけ話してみて?」


「……ごめんなさい、心配掛けて。

 あの魔族の女性はアゼレア・クローチェ様と言って、魔王領吸血族大公家のご息女で、魔王軍でも一二を争う強さを持つ高位上級魔族よ」


「なんだって?」


「最初は微妙に容姿が違っていたから、人違いだって思っていたの。

 でもあのニホン人の男が名前を呼んで、それに応えた声を聞いて確信したわ。

 あの女性魔族は間違いなくアゼレア様よ」


「でも確か魔王領の上級魔族って、余程のことが無い限り魔王領から出てくることはないと母から聞いてますけど?」



 ウィルの話を聞いてマールが記憶の中から魔王領の上級魔族について教えられた知識を引っ張り出す。


 マールはウィルより若干スタイルが劣るが、こう見えてもダルクフール法国の王位継承権第三位を持つ第一王女で、その知識はそこら辺の貴族よりも豊富である。


 その彼女も、自分の知識の中にある魔王領の上級魔族像とウィルから聞いた『アゼレア』という女魔族の行動に齟齬があることを感じているのだろう。



「私も何故アゼレア様が隣国とはいえ、バルトの大衆食堂にいるのか理解出来ない。

 しかし、これだけは言える。

 彼らを尾行すれば、確実に全員殺される」


「そんな大袈裟な……」


「ユウイチはあの方の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるのだ!

 アゼレア様は本気になれば龍族の五人や十人、纏めて殲滅出来るほどの禁呪・戦術魔法の使い手なのよ!

 以前、母の里帰りについて行った際に、魔王領で開催された剣舞大会で各方面軍から選抜された軍人や飛び入りで参加したバルトの一級冒険者達を息切れ一つせずに、全員を一瞬で倒したのをこの目で見たんだから!

  魔法だけじゃなく、剣や弓の腕だって当時魔王領一の使い手と名を馳せていた悪魔族の将軍を圧倒したのよ!

 そんなバケモノを相手に勝てるわけないじゃない!!」


「落ちつけ、ウィル!

 俺は何も彼らに喧嘩を売ろうとしているわけじゃない。

 ただ、あの日本人の青年から話を聞きたいだけだ」


「それが危険なのよ。

 アゼレア様はあの時の剣舞大会が原因で、それまで殺到していたお見合いや求婚の話がパッタリと無くなったわ。

 彼女にコテンパンに殺られた男性魔族達はアゼレア様を見ると逃げるようになったって聞いたし。

 そんなアゼレア様があんなに楽しそうに人間種の男の人と一緒にいるってことは、あの男性は多分恋人よ?

 魔王領一の武闘派魔族で通っているアゼレア様が、もし優一を危険因子として判断したら、その場で殺されるわ!」


「だったら、どうすれば良いんだ?」


「ユウイチがいつもやっている髪や目の色を変える変装魔法だけではダメだわ。

 もっと全身の格好を変えるくらいの魔法じゃないと絶対に見破られる……!」


「分かった。 他には?」


「二手に別れたほうが良いと思うわ。

 そのほうが、もしもの事態に対応できると思うから」


「よし。

 じゃあ俺が1人で先行するから、マールとウィルは離れて付いて来てくれ。

 一応、俺を含めて全員に変装用の幻惑魔法を掛けておこう」



 そう言うが早いか、優一は無詠唱で幻惑魔法を掛けると、彼は無精髭と髪がボサボサに伸びた西洋人風の男になり、着ている外套やズボンも薄汚れた姿になった。


 次いで、マールは金髪から茶色い髪へと変化し、目の色もそれに合わせるように緑から茶へと変化して、ウィルも目立つ桃色の髪が薄い金髪へと変化すると同時に狼人族特有の耳も無くなり、金属製の軽鎧が消えて代わりに薄茶色い外套が出現する。



「こんなもんだろう。 これで大丈夫と思うが?」


「良いと思いますよ。

 どこからどう見ても、ユウイチさんに見えません」


「確かにこれなら大丈夫だと……思うわ」


「じゃあ早速、尾行開始だ。

 もし俺が危なくなったら援護してくれ。

 無理なら逃げろよ」



 こうして優一達は、あの日本人青年を含む一行の尾行を開始した。




 そして…………結論から言えば、彼らの目論見は見事ご破産することになる。



「動くな! 抵抗すれば射殺するッ!!」



 幻惑魔法で変装した優一は馬上にいながら、自動小銃の銃口を向けられることになるのである。






 ◆






 最初の頃は優一の尾行は上手くいっていた。

 しかし、優一は尾行途中相手の馬車が停車と発進を数回繰り返していたことに対し、自身の馬も律儀に同じ動きをさせてしまったのだ。



(クソッ!

 車と違ってサイドミラーやルームミラーが無いから大丈夫だと思っていたが、気付かれていたか……!)



 この世界には自動車も無く、鏡も手鏡サイズの物は王族や貴族以外所持しているものは殆どいないので幌付きの大型馬車であれば、後方は御者台から見て幌が邪魔になり死角になると思っていたのだが、優一の予想は外れた。


 馬車の後方の出入り口に掛かっていた垂れ幕が開いたかと思ったら、馬車が急停車して傭兵と思われる男と魔法使いの男に鎧を着込んだ騎士風の女、そして司祭服を着た女の計4人が飛び降りて来て優一が騎乗する騎馬に向かって来たのである。


 

「おーっと兄ちゃん、すまねえな!

 ちぃと、あんたに話を聞きたいんだわ。

 手間は取らせねえから、馬から降りて来てくれねえか?」



 先頭を走って来た傭兵の身形をした男が優一を見上げながら、まるで知り合いに声を掛けるよう感じで朗らかに話しかける。しかし、男の目は油断なく優一を見つめながら腰に剣に手を添えていた。


 優一は周囲を見渡すが魔法使いの男は優一の右後方に展開し無表情で魔法仗を持ち、司祭服の女は左前方でニコニコと笑みを浮かべているが、その佇まいに隙がない。


 騎士風の女は優一の左後方で傭兵の男と同じように腰の剣に手を添えて腰を低くし、いつでも動ける構えを見せている。


 街中で、しかも通行人や他の馬車や荷車がいる中、彼らは優一を完全に包囲していた。突然の出来事に通行人達は何事かと足を止めて目を向けていた。



(まずいな。 正体がバレる前にここは一旦退くか……)



 このままでは後方から付いて来ているマールやウィルが異変に気付いて優一の元にやって来るだろう。ウィルは兎も角、マールは魔物相手ならまだしも、こういった荒事に長けた連中を相手にするのは荷が重い筈だ。


 ドワーフの職人が作り、知り合いのダークエルフによって破魔の精霊魔法を纏った剣と共に、腰の革ベルトに提げているポーチに入れている強烈な光と音を発する特殊な魔石を取り出そうと思い、馬の手綱を握っていた左手を外套の中に差し込もうとした時、新たな声が聞こえてきた。



「動くな! 抵抗すれば射殺するッ!!」



 そう言いながら例の日本人の青年がやや遅れてやって来たのだが、彼は自動小銃を構えていた。もちろん、銃口は優一のほうを向いている上に、威嚇なのか明るい時間にも関わらず、緑色のレーザーポインターの光が優一の胸の中央部に灯っている。


 あの自動小銃がエアガンであるわけはないだろう。それが証拠に、自動小銃に挿さっている弾倉に連結された予備弾倉の一番上には鈍く金色に光るライフル弾が見えるのだ。



(くっ、どうする!?

 いくら『勇者』の資格を得たとはいえ、本物の銃弾を避け切るのか……?)



 優一はこの世界に来て身分証を得るため、直ぐにギルドへと直行して身分登録をした。


 その後マールと出会ってとんとん拍子にギルド冒険者のランクを駆け上がり、遂に冒険者としての最高ランクである『勇者』の称号を得ることに成功する。まさに異世界ファンタジーの主人公的王道な物語だが、異世界でも元の世界の地球でも銃器と対峙するのは今回が生まれて初めてだ。


 優一は銃器に対し知識が豊富というわけではないが、矢と銃弾を比べた場合、銃弾のほうが矢よりもスピードが速いくらいは知っている。

 そして連射が効くということもだ。


 優一は今までも似たようなシチュエーションに陥ったことが何度かあるのだが、そのいずれも敵は剣と弓、あるいは魔法を使用しており、そのときは先ず相手に矢を射らせたり魔法を使わせたりした直後に避けたり弾いたりしてから反撃に転じていた。


 要するに敵にわざと飛び道具を使わせ、二射目の矢を番える瞬間や次の攻撃魔法を発動する瞬間の隙を突いて反撃するという捨て身の戦法で危機を脱して来たわけだが、こと自動小銃が相手では分が悪すぎる。


 1発目の銃弾を避けれたとしても、連続でしかも至近距離から撃ち出される無数の銃弾を避けるのは不可能に近い。


 仮に弾倉内の銃弾が尽きたとしても相手は直ぐに新しい弾倉に取り替えるだろうし、拳銃も持っているので接近戦に持ち込むことさえも難しいだろう。



(クソッ!

 まさか銃がこんなにも厄介な武器だったとは………この距離じゃあ、瞬時に対応策が思い浮かばないぞ)



 そうこう考えている間に優一の背筋に“ゾクリ”と悪寒が走る。己の直ぐ後ろに膨大な魔力と殺気が生まれたのを察知した直後、一瞬で外套の中に差し込んでいた己の左手が掴まれ、自分の首筋に刃物が押し当てられる。



「何をするつもりか知らないけれど、抵抗するならその首を即刻斬り落とすわよ」


(なっ!?

 魔力感知のスキルを使っているのに魔力どころか気配さえ探知できなかっただと!?)



 そのことに驚きつつも、優一は自分の脳髄に響き渡るかのような声、耳に吹きかけられる甘く蕩けそうな吐息と体に無理矢理染み込んでくる恐怖と殺気に対し、一瞬で意識を別のところに持って行かれそうになりながらも彼はギリギリのところで耐えていた。


 正面を見ると、日本人青年は優一の後ろに女魔族が出現したことにより銃口を外してたが、何時でも撃てるようにこちらを油断なく見据えている。



「何故、私達の馬車を尾行していたのかしら?

 理由を聞かせてくれる?

 あまり時間を掛ける気は無いから、手短に答えなさい」



 恐らく、この女魔族は優一が答えなければ、本当に首を落とす気なのだろう。

 甘くゆっくりとした声で話し掛けて来るが、その声は確実に殺気を孕んでいた。



「さあ、話してちょうだい。

 それとも首を落とす?

 もしくは全身から血を吹き出して死ぬのがお好みかしら?」



 後ろにいる女魔族がそう言った瞬間、優一の頭上に真っ赤な魔法陣が出現する。

 その魔法陣は赤々しく、見ているだけで全身に震えが走り体が麻痺したように動かなくなってしまう。


 この世界に来て早3年、今まで盗賊団から軍隊に暗殺者、魔物の群れに迷宮に住まう魔獣や不死者アンデッド、同じ勇者の称号を持つマールの父親など数多の敵と戦って来たが、ここまでの恐怖は未だかつてなかった。



「あら?

 あなた視覚に作用する幻覚魔法を使っているわね。

 取り敢えずその魔法を解きましょうか」



 女魔族がそう言って剣を持つ手――――よく見ると日本刀を持っていた!――――で何かを摘む仕草をし、薄い膜を剥ぐように手を動かすと、己にかけていたかけていた変装用の幻惑魔法が強制解除されてしまう。



(強制解除だと!?

 この女魔族、どれだけ出鱈目な魔力を内包しているんだ!?)



 最初、ウィルからこの女魔族のことを聞いたときは単に他の魔族より頭一つ分突き出た強さに尾鰭がついた与太話だと思っていた。


 相手が魔王や古代竜でも無い限り、神かそれに近しい存在によって与えられたスキルで勝てるものと思っていたが、この女魔族はウィルの言う通りバケモノだ。会ったことはないが魔力・強さともに恐らく魔王より上だろという実感が頭に浮かぶ。



「なっ! 日本人!?」



 幻惑魔法が強制的に解除されたことにより、正体を晒した優一を見て自動小銃を構えていた日本人青年が驚愕の表情を浮かべる。



「なんてこった……」



 彼は優一が自分と同じ日本人であったことに驚きつつも安心したのか、完全に自動小銃の銃口を地面に向けてトリガーから指を外す。


 その様子を見た優一は、少なくともこれにより問答無用で射殺される心配はないと思っていたが、自分の正体が日本人であると分かっても尚、警戒を解くどころか殺気を募らせる者がいた。



「あら?

 あなた、孝司と同じ日本人だったの?

 ということは、シグマやウィルティアの密偵ではないにしても、孝司を狙って私達を尾行していたのね」



 女魔族がそう言った瞬間、猛烈な殺気が優一の後ろで膨れ上がり、思わず心臓が破裂しそうなほどの恐怖に見舞われる。



「ぐうぅぅ!!

 ご、誤解だ……俺は彼に危害を加えようと近寄った訳ではない……!

 ただ、彼がどのようにしてこの世界に来たのか知りたかっただけだ……」


「げっ……!!」



 優一がそう釈明した直後、日本人青年はあからさまに狼狽し始める。

 彼は一緒に自分を包囲している仲間の方を横目でチラチラと見て彼らの表情を伺っていたが、その様子を馬上から見ていた優一は、ある結論を導き出す。



(もしかして、彼は仲間に自分が異世界から来たことを言っていないのか?)



 そう思ったとき、彼の喉元に当てられていた日本刀の刀身が僅かに食い込み、皮膚にチクリと鋭い痛みが一瞬走り、女魔族が耳元で彼だけに聞こえるようにしてこう言ったのだ。



「あ~あ、孝司がスミス達に悟られないように必死に隠していたことをよくも言ってくれたわね。

 どうもあなたは孝司の傍に居ると足を引っ張りそうだから、このまま消えてもらおうかしら?」


(マズった……)



 どうやら自分は言ってはいけないことを口走ってしまったようだ。口は災いの元とはよく言ったもので、優一の脳裏には日本刀で一瞬のうちに首を削ぎ落とされる映像がありありと映し出された。



(異世界に来て3年。 短い第二の人生だったなあ……)



 日本刀を握る女魔族の手に力が入り、今まさに首を切り落とされると思った瞬間、彼に救いの女神が舞い降りる。



「彼を殺さないでください!!」



 凛とした、それでいて必死に懇願する声を聞き、優一は目だけ動かして聞こえてきたその声の主を探す。



(ウィル……)



 その声の主は薄桃色の髪が特徴的な優一に取って掛け替えのない大切な女性の一人、ウィルであった。


 彼女は何時もの勝気な態度とは全く違う、恐怖に怯え慄き震える体に鞭を入れ、優一の後ろにいるバケモノに懇願していた。よく見ると、ウィルの足元にも優一の頭上に展開している魔法陣と同じものが現出しており、常に彼女を捕捉している。



「お願いします。 アゼレア様、ユウイチを殺さないでください!」


「あなたユウイチっていうの?

 いきなり出て来たところ悪いけれど、そこのあなたは誰なの?

 そして彼とはどんな関係なのかしら?」


「突然の無礼、申し訳ございません。

 私はウィル・テレノールと申します。

 ドーラン王国出身で父は狼人族、母は魔王領の魔女族です」


「ふうん。

 ということは、混血なのね。

 魔女族は淫魔族と同じで子供が出来難い体質だけれど、あなたの様な剣も魔法もイケるクチの娘がいるということはお父様はさぞ頑張ったのでしょうね。

 一つ聞きたいのだけれど、いいかしら?」


「……何なりとお聞きください」


「もし、私があなたのお願いを無視して彼を殺したら、あなたはどうする?」



 先程までとはまた違う緊張感が周囲に漂い、周囲の野次馬から息を吞む音が聞こえた。



「もしそうなったら私はアゼレア様をしいし、その後で私自身もユウイチの後を追います……!」


「そう」



 そう言った瞬間、アゼレアと呼ばれた女魔族の姿がブレ、一瞬でウィルの前へと再び姿を現す。



「貴女、中々の胆力よ。

 魔王軍の一員でないのが残念だけれど、貴女を失くすのが惜しいわ」



 アゼレアが赤金色の目を妖しく輝かせながら、至近距離で真っ直ぐにウィルの眼を覗き込む。

 その瞳を正面から見ることになった彼女はその妖しい雰囲気に気圧され、“ゴクリ”と息を吞んだ。



「あ、ありがとうございます」



 ウィルは今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちを押し殺し、アゼレアに向かって礼をする。



「素直で良いわね。

 良いわ。 今回は何ら実害はないし、見逃してあげる。

 但し、一つだけ条件があるわ」



 そう言いながらまだ解放するつもりはないのか、優一の頭上では未だにあの赤い魔法陣が彼を捕捉したままであった。



「何でしょうか?」


「それは孝司次第よ」


「え、俺!?」



 突如、名前を呼ばれた日本人の青年は銃を優一に向けたまま、驚いていた。



「孝司、ちょっと耳を貸して?」


「ん? うん……」



 アゼレアという女魔族が先ほど孝司と呼ばれた青年に対し何かを耳打ちする。

 それを聞いて納得したのか、彼女に対し「いいよ」と答えた。



「じゃあ、決まりね」



 そう言って彼女は再びウィルのところに戻って来る。



「貴方達三人は、このまま私達に付いてきなさい。

 孝司が貴方達に色々と聞きたいことがあるそうよ。

 心配しなくても危害は加えないわ」


「分かりました……」



 ウィルと優一は心の中で「さっきまで殺す気満々だったじゃねーか!!」と突っ込みを入れつつもホッとしていた。


 そして同時に恐怖していた、このアゼレアという魔族の能力に。

 優一達のクランは彼とウィル、そしてマールも入れて3人なのだが、今この場にはマールはいない。


 最初、彼女達から見て、優一の姿がギリギリ視認できる距離まで開けてついて行っていたのだが、優一の馬が不意に停止したと思ったら、突如彼の背後にアゼレアが出現した。


 この時、ウィルは慌てるマールを残して下馬して優一の下まで走って行ったのだが、このときアゼレアは背後を見ていないはずなのに、3人目のマールの存在を既に察知していたのだ。


 それが証拠にウィルがマールのいる方向を見ると、騎乗したままの彼女の頭上にもウィルと優一の傍に展開しているあの赤い魔法陣が現れており、マールはというと突如自分の頭上に現れた正体不明の魔法陣に涙目になり、顔は恐怖で引き攣っていた。



「結構。 では、行きましょうか?」



 そう言うと女魔族は展開していた魔法陣を消して仲間の下へと戻って行った。

 向こうからは、「やれやれ、一時はどうなることかと思ったぜ……」とか「衆人環視の中で無茶しないでよ、アゼレア!」とかいう声が聞こえてきた。



「大丈夫だった? ユウイチ」


「ぐはあぁー!

 何なんだ、あの魔族は……! 俺、本当に死ぬかと思ったぜ!」


「私もよ、ユウイチ。

 ああ、アゼレア様に目を付けられちゃった。

 しかも弾みで殺すなんて言っちゃったし……どうしよう!」


「ごめん。

 俺が尾行すると言ったばかりに、ウィルを怖い目に合わせちまったな……」


「だから言ったでしょう! 私達、殺されるって……!」


「ごめん……」


「もう少しで本当に死ぬかと思ったんだから!

 早くマールも迎えに行かないと……って、あら?」


 ユウイチに涙目になりながら抗議していたウィルだが、マールを迎えに行こうと踵を返した瞬間、足元から地面に崩れ落ちる。



「ウィル!?」


「ハハ……ハ。 ゴメン、腰が抜けちゃったみたい」


「大丈夫か? ほら」


「うん、ありがとう」



 ウィルを抱き起こしおんぶするユウイチだったが、彼女が優一におんぶされると安心したのか、ウィルは泣きじゃくり始めた。



「ウウッ……ウッ!

 怖かった、怖かったよぉ……! うわーん!!」


「よしよし、もう怖くないからな。 しっかりしろ」



 まるで怖い夢を見た子供をあやす親の様に、優一はウィルをおんぶしたまま慰める。

 同時に彼は下馬した馬を曳きながら、マールが待つところまで歩く。


 彼女の下まで歩いて行くと優一の顔を見た彼女は今にも泣きそうな顔を向ける。

 幸いにも彼女の頭上に現れていた魔法陣も消えており、優一はそのことに内心安堵していた。



「大丈夫だったか? マール」


「ふぇぇぇぇぇぇ!

 ユウイチさぁーん!! あの女魔族怖かったですぅー!!」



 マールの普段殆ど見せることのない泣き顔に内心ガッツポーズを決めがら、幻惑魔法を解除されて馬から下馬し駆け寄ってくる彼女を抱き留める。



「もう大丈夫だ。

 あの女は今回のことを許してくれるってさ。

 ただ、ある条件を付けられたがな……」


「ひっく……何ですか?」



 鼻声になりながら聞き返してくるマールの目は涙で真っ赤になっていた。



「彼らが泊まる宿までついて行って、あのタカシと言ったけか?

 その彼から色々と話を聞かれることになった。

 まあ、俺としても彼とは話をしたかったから、願ったりかなったりなんだが……」


「もし逃げたらどうなります?」


「言うな。 その先を考えること自体、怖いんだから……」


「分かりました……」


「よし。

 そろそろ彼らの馬車が動き出すだろうから、俺達も馬に乗ろう。

 ……ウィル、馬に乗れるか?」


「はい。 多分、大丈夫です……」



 そして彼らは馬に乗り、孝司達が乗る馬車の後ろへと着く。

 馬車の後ろの垂幕は巻き上げられており、先ほどの女魔族と日本人の青年が逃げないかこちらを監視していた。



(一体、どんな質問をされるのだろうか……?)



 こちらをチラチラと横目で見てくるタカシという日本人を見ながら彼は内心考える。

 しかし、彼は自分の予想もつかない事態を知らせれることになるのだった。

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