第22話 掃討

 握り潰されたゴブリンの頭部から噴出した大量の赤黒い血液がアゼレアの手から地面へと滴り落ち、まるで意思を持つかの如く幾何学模様の魔法陣が形成されていき、やがて陣は彼女を中心に展開を終える。


 その魔法陣は大きな二重丸を形作り、円と円の間の空間に日本語や英語でもない、ヘブライ文字とキリル文字の中間のような不思議な形の文字が描かれ、二重丸の内側に六角形と八角形が幾重にも重なった紋様が浮かび上がった。


 魔法陣をよく見ると、先程の文字が紋様のいたる所に小さく書き込まれており、赤黒い血液で描かれた陣が完成すると、どんな仕掛けが施されているのか魔法陣が赤く光り始める。


 その光はパトカーや消防車の赤色灯以上に強く光り、上空から地面にプロジェクションマッピングでも投影しているのかというくらい幻想的に輝いていた。


 数秒後、赤く光っていた魔法陣がさらにもっと強く光り、周囲で戦っている人間やゴブリン達が何事かと一斉に目を向けるが、アゼレアはそんな視線を無視し、右手を上に掲げて指を鳴らす。


 “パチンッ!”と指が鳴った瞬間、ゴブリン達の足元に先程より小型ではあるものの、同じ紋様の魔法陣が展開し、それを確認した彼女は掲げていたままだった右手を振り下ろしたのだ。


 アゼレアが腕を振り下ろした瞬間、ゴブリン達に異変が生じる。

 魔法陣は消え、代わりにゴブリン達が震えだし、その異変に危険を感じたのか、戦っていた騎士や兵士、冒険者や魔法使いたちは後ろに下がった。


 そして次の瞬間、地獄絵図が目の前に出現する。


 全身の穴という穴から勢いよく血を吹き出す個体もあれば、眼球を血走らせ零れ落ちるのではないかと思うくらい限界まで目を開けながら喉を押さて口から血の泡を大量に溢れ出させる個体、全身から湯気を放ち顔面をボールの様に赤く膨れ上がる個体に着ている革鎧を変形させながら、体が風船のように徐々に膨れていき最後に“パンッ!!”という音と共に破裂する個体。


 それとは逆にミイラの様に体が痩せ細って萎んでいき収縮の圧力耐えられなくなったのか“パキパキッ!!”と全身の骨が折れて砕け散る音を響かせる個体など、健全な精神を持つ者であれば到底見るに耐えられない光景が目の前で繰り広げられた。


 そして他にも、絵や言葉では言い表せない方法で絶命していくゴブリン達の姿が、その場にいた者達の目に入る。



「ひ……ヒイィィィィーーッ!!」


「ヴウェェェェェェーーーー!!!!」



 その余りにも惨い死に方に堪らず、大の大人が他人の目も憚らずに胃の中に残っていた物を全て吐き出す。中にはその惨さ故に、顔を土気色に変えて悲鳴を上げながら気を失う者もいる。


 しかし、そんな残虐な魔法を実行させた本人はその光景に対して何も感じないのか、笑うことも憤怒の表情さえ浮かべることなく終始真顔であり、そんな彼女の肩をポンポンと叩く者がいた。



「あれは血液を媒介とした戦術魔法か?」


「ええ、そうよ。 よく知っているわね」


「以前、見たことがあるんでな。

 伊達に俺も元魔王軍の兵士だったわけじゃねえぞ?」


「そう」



 声の主は冒険者のスミスであった。

 彼は目の前の後継を見ても眉一つ動かさず、平然としている。



(この光景を見ても平気だなんて、余程の修羅場を経験しているのかしら?)



 彼女はふとそんなことを考える。

 よく見ると周囲で戦っていた彼の仲間やベアトリーチェ達もスミスと同じく平然としていた。



(成程。

 彼らは彼らで、それなりに修羅場を経験しているということかしらね?)



 痩せ我慢をしているのか、それとも本当に平気なのかは判らないが、彼らがこれしきの事で取り乱さなかったのは良い意味で予想外だった。



(ならばもう少し派手にやっても良いかしら?)



 次にどんな方法でゴブリン達を処分するのを考えているのか、獰猛な笑みを浮かべるアゼレアを見てスミスが釘を刺す。



「何か物騒なことを考えているところすまんが、これ以上惨いことはしない方がいいぞ」


「あら、どうしてかしら?」


「これ以上派手にやると、いくらゴブリンの群れを鎮圧したとはいえ、要らぬ禍根を残す。

 ここにいるのは俺達だけじゃないんだ。

 下手をすると、あらぬ誤解や噂が流れてバルトに入国し辛くなるぞ?」



 スミスにそう言われて周囲を見回すアゼレア。

 確かに彼の言う通り、こちらを怯えた顔で見る者、睨み付けている者や真顔だが目で鋭い殺気をぶつけてくる者、あからさまに剣をこちらに向けて構えている者など様々な反応を見せていた。



「それもそうね。 じゃあ次からは切り刻むだけにしておきましょう」



 そう言って腰に吊っている軍刀を抜くアゼレアとそれに合わせるように森を抜けて、こちらに突撃して来るゴブリンの第二陣。魔物達がそれぞれ武器を振り上げ、目を血走らせて突っ込んでくる様は中々の迫力がある。



「ほら、お客さんが来たぞ」



 そう言って彼自身も剣を構えるスミス。

 周囲にいた者達も、先程の光景から漸く立ち直ったのか剣や槍、斧に弓を構える。



「フフフ……!」



 不敵な笑みを漏らすとアゼレアは腰を少し低くし、軍刀を構えた。

 接近してくるゴブリンの内、何匹かは突撃中矢を射られて途中で倒れる。


 ズラックを含む何人かの冒険者や弓兵が弓や弩弓ボウガンで狙撃しているのだ。

 それでもゴブリン達は矢を射られて倒れている仲間を踏みつけて突っ込んで来た。


 とその時、ゴブリンの群れの中央部で雷のようなものが落ち爆発が起こる。

 “ドッガーン!!”という雷独特の轟音が響き、雷が地上に突き刺さった衝撃で地面が吹き飛び、複数のゴブリンがその巻き添えを喰らって吹っ飛ぶ。


 それに驚いて後方を振り向く先頭のゴブリン達だったが、後ろを振り返った瞬間バタバタと倒れていく。よく見ると、倒れた先頭のゴブリン達は口から泡を吹いて絶命していた。


 突然のことに二列目のゴブリンが前を振り返ると、連続で矢が突き刺さる。首や腹部に矢が突き刺さり、地面で苦しそうにもがく個体や眼球や額に矢が命中して即死する個体など様々だ。


 他にも突然全身が松明の様に一瞬で燃え上がる、大小の石つぶてを打たれて目を潰されたり顔面を潰されるなど、様々な攻撃をくらうゴブリン達。


 それもこれも、こちら側に取り残された騎士や兵士、冒険者や傭兵、魔法使いや狩人たちによる多種多様な職種による者達の攻撃である。


 実はこのとき、燃え上がる大木の山によって分断された広場の戦力は大きく分けて二つに分かれていた。


 孝司が居る方の広場は主にウィルティア公国の兵を中心としたある程度纏まった戦力、アゼレア達が居た方の広場は主に冒険者や傭兵を中心とした雑多な戦力である。


 これが統率の取れた軍隊が相手であれば孝司達の方が有利であったが、襲撃してきたのはゴブリンの群れという大規模な魔物達の集団だった。


 ウィルティア側はあくまでシレイラ第一公女を警護するための兵を中心に編成されていたため、武装は通常の剣や槍を中心としており、この編成は小規模な魔物の群れや盗賊の襲撃を意識したものであったため、攻撃魔法を使える魔法使いは巻き込まれた冒険者クランの者なども含めてウィルティア側に数人しか居らず、弓を装備した者もウィルティアの弓兵などを含めて十数人程度しかいなかったのだ。


 そのため孝司が自動小銃と手榴弾を使用していたにも拘らず、早々に乱戦を許していた。

 しかし、アゼレア達が居た方の広場では、他国の兵に加えて冒険者、隊商護衛の傭兵などに少なからず魔法使いが存在しており、弓や弩弓を装備していた者もそれなりに人数がいたため、第一陣のゴブリン達をほぼ近付けることなくかなりの数を緒戦で討ち取っている。


 しかも冒険者や傭兵、狩人たちにとって魔物の相手をするのは日常茶飯事のことであり、対人戦闘を主とする公国の警護兵たちと違って魔物討伐は得意だったことも起因していた。


 また惨いとはいえ、アゼレアが戦術魔法でゴブリンの第一陣の半数以上を殲滅していたことも大きな要因だが、第二陣ともなればその数は第一陣の数倍の数に上り、軽く二百を超えるゴブリンの群れが突撃して来る。さすがにこれだけの数を近寄らせないことは不可能で、徐々に群れは駐車する馬車へと近付きつつあった。



「ロレンゾ! 馬車に防護結界を張れ! 馬と馬車を守るんだ!」


「分かりました!」



 馬車の傍で守るようにして矢を射っていたズラックが魔法使いであるロレンゾに指示を飛ばす。



「ちょっと待って!」



 しかし、それに待ったの声が掛かる。



「いきなり何ですか!?」


「ちょっと馬車の中から取ってくる物があるの!」



 声の主はアゼレアであった。

 彼女はロレンゾが防護結界を張る前に何か必要なものがあるらしく、まさしく飛び込むようにして馬車へと駆け付ける。



「何か分かりませんが、早くしてくださいね!」


「ええ! ごめんなさい!!」



 そう言って謝りつつ、馬車の後部から車内に入るアゼレア。

 目的の物は既に見つかったのか、彼女は直ぐに出て来た。



「いいわよ!」



 入れ替わるようにして馬車の傍に立ったロレンゾは、一応中に誰もいないことを確認して早口で魔法の短縮呪文を唱え、直後に薄い水色のドーム状の膜のようなものが馬車と曳き馬を守るように展開し、馬車全体を包み込む。



「ズラック! 防護結界の展開、完了しましたよ!」


「よしっ!」



 これで一先ず馬車は安全だ。

 ロレンゾの防護結界は並みの魔法使いが繰り出す攻撃魔法や高速で飛翔する矢などを簡単に弾き返す。もちろんゴブリン程度の魔物の攻撃などビクともしない。


 よく見ると、あちこちで馬車や馬、荷車や非戦闘員などを防護結界で包み込む魔法使いの姿があった。


 防護結界が展開されたことを確認したズラックは背中に背負っていた矢筒から矢を纏めて三本抜き矢を番えた直後に“ビシュンッ”という矢を射るときの弦が空気を切る音が鳴る。すかさずズラックは二射目、三射目と矢を放つ。


 中には余りの初速の高さにゴブリンを二匹纏めて貫通した矢もあったが、命中した全ての矢が急所に突き刺さっていることからも、ズラックの類稀なる弓使いとしての腕が顕著に現れていた。


 それに釣られたように比較的近くで弩弓を射っていた何処かの国の弓兵も、ズラックの恐るべき命中力の高さに後れを取るまいと、次々と矢をゴブリンの急所目掛けて矢を射る。



「そろそろ矢が使えなくなる距離までゴブリン共が接近する!

 全員、気を付けろ!!」



 そう言ってズラックが警告を送ると、周囲で矢を射っていた者達が剣やメイス、斧といった接近戦闘用の武器へと切り替え始める。


 彼が予め警告したのは、弓や弩弓といった飛び道具から背近戦用の武器に持ち帰る際、非常に隙が生じやすいからだ。


 弓兵や弓使いと言った者達は剣士と一緒で己の体の一部になっており、自分の腕力や体型に合わせて弓や弩弓の弦や引き金の重さを調整している。


 剣は刃が鈍くなったら砥げば切れ味は復活するが、弓・弩弓はそうもいかない。弦が切断されれば、一から己の持つ弓や弩弓に合う弦を探さないといけないし、自分で最適と思う張力に調整しないといけないからだ。


 そのため弓または弩弓を大切に思うあまり射続けた挙句、捨てることもできない相棒を抱えてタイミングを誤り、武器の切り替えが遅くなった上に必要以上に敵の接近を許して終いには切り殺される場合が多い。


 特に敵兵が槍などの全長が長い武器を所持している場合、尚更である。

 その場合は武器を切り替える前に串刺しにされてしまう。


 だからこそ、飛び道具を使うのはそろそろ潮時だという意味も込めて、ズラックは己と同じ弓を使う者達に対して警告を発したのだ。



「カルロッタ、これ!!」



 ズラック達弓使いが武器を切り替え、もうすぐ乱戦が始まろうという直前、アゼレアがカルロッタにある“物”を投げた。



「こ、これは!?」



 突然、自分に投げられた“ソレ”をおっかなびっくりで受け取ったカルロッタは、自分が持っている“物”の正体を知って驚いていた。



「それ、鞘から抜くときは柄の上にある金具を下に押しながら鞘から抜くのよ!

 でないと刀身が鞘から引き抜けないからね!!」



 複雑かつ精緻な細工が施されている金属製の柄、先端に石突が付いたサーベルの如き金属製の鞘。そしてその鞘に取り付けられている丸い吊環。


 騎士として剣士として今まで見たことが無い剣が己の手にあった。

 その鞘に収まった状態の剣に見惚れる間もなく、アゼレアの注意に従って柄の上部にある鞘に固定している反しの付いた金具を下に押し込みながら、カルロッタは剣を鞘から一気に抜き放つ。



「おお……!」



 言葉が出なかった。

 細長く僅かに反り上がった特徴的な剣は独特の輝きを放ち、剣先から根元に至るまで一本の溝が刀身の左右に彫り込まれている。


 その独特の妖しい雰囲気に一瞬背筋がゾクッとした。

 己の腰に下げている細身の剣とは全く違う不可思議な剣。


 見れば見るほどその妖しさに引き込まれそうになるのを必死に振り払い、カルロッタは目の前に迫る魔物共に意識を集中させる。



(構えていて気持ちが良い。 まるで私の為にあつらえたかのような作りの剣だ)



 飛んでくる視線が気になったのでふと横目で見ると、自分の近くで同じように剣を構えていたどこかの国の騎士が物欲しげに、そして珍しそうに己の持つこの剣を見ている。その顔は、まるで友達の持つ玩具を欲しがる子供のような表情であった。



(私もアゼレア殿が持つ剣を同じように見ていたのだろうか……)



 しかし、そんな考えも直ぐに消え去り、今度は別の思いが沸き上がって来た。



(“コレ”の斬り味はどの様なものなのだろうか?)





 『斬りたい……斬りたい、斬りたい、キリタイ』





 カルロッタの中にそんな思いが沸き上がって来たと思ったら、彼女は自然と一歩を踏み出していた。



「カルロッタ!?」



 異変に気付いたベアトリーチェがカルロッタを止めようとするが、時既に遅しとばかりに彼女はゴブリンの群れに向かって走り出していたのだ。



「ハアアアアァァァァーーーーッ!!!!」



 ゴブリンの群れに一人突っ込んで行ったカルロッタは先頭のゴブリン数匹を相手に剣を一閃する。左下から右上へと薙ぎ払うようにして振るわれた剣はゴブリン共が着込んでいた金属鎧や樹脂で固く補強された革鎧、果ては槍や剣をも一刀両断し、ゴブリンの胴体や腕、肩、首、顔面をまるで紙の様に斬り裂いた。



(何なのだ、この剣は!?

 今まで幾つかの剣を使ってきたが、これほどまでの切れ味はなかったぞ!!)



 それは恐怖すら抱きかねないほどの切れ味。

 鉄も肉も骨もまるでバターにナイフを入れたのかと錯覚を起こすほどで、金属鎧に刃が触れた瞬間、ヌルリと刃が沈み込んでいくような感触があり、そのまま何の抵抗もなくスーッと刀身が滑っていく感触があった。



(私はこんな剣を知らない!!)



 ゴブリンを一閃したカルロッタはそのまま剣を構え直し、こちらに斧で切りかかって来たゴブリンを上段から斬りつける。


 刀身が奥まで届かなかったのか、斬りつけられたゴブリンの体は頭頂部から手前を股間までバッサリと切断され、割れた身体の断面が除き大量の血が噴出する。余りの斬れ味と中途半端に切断されたゴブリンはしばらく両目をグルグルとあちこちに目を向けながら暫く立ち続けた後、地面に倒れ伏す。


 近距離で斬りつけたために、僅かにゴブリンの返り血を浴びたカルロッタは次の獲物に切りかかるべく周囲を睥睨する。ゴブリン達から見れば、余りにも惨い形で斬り捨てられた仲間の惨状を目の当たりにし、魔物達は怯えてカルロッタから距離を取る。



(もっと斬りたい。 モットコノケンヲタメシタイ)


「フフフッ……!」



 右手に妖しげな気配をプンプンと放つ剣を持ち、顔に点々と返り血の花を咲かせながら恍惚の表情でゴブリン達を見つめるカルロッタは新たな快感に酔いしれようと、ゴブリン共に向けていた不敵な笑みから一変して獰猛な笑みとなって一歩を踏み出す。



「ハハハッ……!!」






 ◇






「貴女、カルロッタに何をしたのです……?」



 ゴブリンの群れに単身突っ込み、次々と魔物を切り捨てるカルロッタを見ながら彼女の上司であるベアトリーチェはアゼレアへ質問する。



「別に私はコレと言って何もしていないわ。

 強いて上げるとすれば……この剣の予備を彼女に渡したことくらいかしら?」



 そう言って己の右手に持つ軍刀をベアトリーチェに見せる。



「私も前々からその一風変わった剣のことは気になっていたのですが、それは魔剣か何かの類なのでしょうか?」


「そういうものではないわ。

 形はちょっと変わっているけれど、普通の剣よ……多分ね」


(確かに、このような形状の剣は私も見たことがありませんわ。

 騎士達が持つ剣と比べると全体的に細身ではありますが、曲刀と違い僅かに反りがあることと、特徴的な柄と鞘。

 あの剣は一体何処で作られたのでしょうか?)



 最近、ドワーフ達が風変わりな剣を作ったという噂を以前小耳に挟んだことがあるが、もしかしてあの剣がそうなのだろうか?


 そう思いながらチラリとアゼレアの持つ剣を見るベアトリーチェだったが、視線を正面に戻すと、そこには未だにゴブリン達を狩り続けるカルロッタ姿があった。


 彼女が通った後には首や胴体、肩などを斬り捨てられたゴブリンの遺骸が倒れており、中には体を縦に真っ二つにされたものや口の中に刀身の切っ先を突っ込まれたあと、顔面を半分斬り裂かれた遺骸も幾つか散見できるが、斬られた遺骸の切断面は真っ直ぐであり、力技で切られたような無理やり押し斬った感じは見られない。



(凄い切れ味ですわね。

 肉体だけではなく、金属鎧まで易々と切り裂いている上に刀身が折れたり曲がったりしている様子も見受けられませんわ……)


「あの剣は元々タカシさんが持っていた物なのですか?」


「ええそうよ。

 私が持っているのが九八式っていう軍刀で、彼女が持っているのが九五式っていう軍刀らしいわよ?」


「グントウ……」



 ベアトリーチェはそんな名前の剣など聞いたこともなかった。



 九五式陸軍軍刀。

 それは昭和10年に制定された旧大日本帝国陸軍の軍刀で、陸軍造兵廠製官給下士官刀とも曹長刀とも呼ばれる軍刀である。


 その呼ばれ方の通り、曹長などの下士官の武装用として作られた軍刀であり、日本が今日に至るまでの間で近代での白兵戦を意識して作られた実戦用の日本刀だ。


 九五式軍刀は第二次世界大戦終戦までに陸軍造兵廠で最初期型から最末期型に至るまで銃器などと同じように大量に生産された兵器としての側面を持つ刀で、カルロッタが持つのはその内の“初期型”と呼ばれる軍刀コレクター垂涎のものであり、現代の日本では最も手に入れにくい軍刀の一つである。


 なぜこの軍刀が手に入れにくい軍刀かというとそれはこの軍刀の製法にあった。

 通常、日本刀は現代で作られているものも含めて、古来より守り受け継がれてきた日本刀独特の製法に則って刀鍛冶が日本刀を作り続けてきたいわば芸術品であり美術品である。


 他の刃物を寄せ付けない切れ味と本来、人を斬るために存在してきた歴史を持つ日本刀を美術品や芸術品と定義することに違和感を覚える者もいるだろうが、日本刀の登録を猟銃等の銃器の所持許可を所管する公安委員会や警察ではなく、教育委員会が所管しているのは日本刀が銃器などの武器ではなく美術品・芸術品として定義されているからだ。


 対して軍刀――――特に九五式軍刀という下士官用軍刀は他の陸軍軍刀と違い、大量生産できる実戦兵器・武器として作られている。


 本来刀鍛冶が人の手で一本一本鍛造して作る日本刀と違い、これらの軍刀は一貫して機械による鍛造で作られており、寒冷地から熱帯地域まで広く軍事行動を行う旧日本陸軍の要求に従って刀身の素材が科学的に研究されて作られているため、美術品というより工業製品の兵器として定義されることが多い。


 そのため官給品の軍刀としてシリアルナンバーが刀身と鞘にそれぞれ打刻されており、製造時に殆ど刀鍛冶という刀工の手が入っていない工業製品としての側面があるため、教育委員会での美術品・芸術品の日本刀としての登録が絶望的であり、時折見られる偽物を除く正真正銘の登録証付の下士官刀は登録鑑定を行う者に軍刀に対する理解があるなど幸運が左右して登録されていることが多いし――――と言っても、その登録本数は極僅かである。


 話を元に戻そう。

 九五式陸軍軍刀初期型は他の軍刀とは違い、非常に特徴的な作りをした軍刀だ。


 通常、日本刀の柄は兜金・目貫・柄糸で構成されており、それぞれ別々の部品であるが九五式初期型の場合、これらが全てアルミニウムの一体成型で作られている。


 また、刀身を柄に固定する目釘は本来の日本刀であれば一本のところを耐久性強化の為に二本で固定され、しかも螺子留めになっている上に、鞘は銅製で旧陸軍国防色に塗装されており、先端には馬蹄型石突が装備されて外観はサーベルの鞘に近い。


 刀身から柄までを含めた全長は約96cm程で、日本刀としては非常に頑丈かつ近代の接近戦における実戦でまさに人を殺すために作られた軍刀なのだ。


 因みに、アゼレアが持つ九八式軍刀の柄は本来の日本刀と同じ作りであり、金属による一体成型ではなく、目釘も一本であり螺子留めではない。


 そんな恐るべき軍刀で自分を包囲しているゴブリン共を駆逐するカルロッタはまさに鬼神の如き振る舞いで次々と魔物を血祭りに上げ、彼女が軍刀を振るう度にゴブリンの血や斬り落とされた腕や頭部が宙を舞う。


 そんな鬼神のような彼女の所業を見たゴブリンのリーダーはカルロッタを排除するのを諦めたのか、包囲の輪を解いてアゼレアや他の冒険者たちに向かうように指示を出す。


 リーダーの指示に従い、カルロッタを置いてゴブリン達は逃げるかの如くアゼレアたちに殺到するが、彼女はそんなこと意に介した風ではなく、追撃して魔物の背中へ斬りつける。


 しかし、ここでゴブリン達は進退窮まった。魔物らが標的にしたのはその殆どが魔物討伐を得意とする者達で構成された集団であった。


 彼らは冷静にそしてシステマチックにゴブリン達を制圧していく。

 巨大な戦斧で一度に10匹近くを薙ぎ払う者、常人では構えるのも難儀しそうな大きな槍でまるで串焼きを作るかの如く数匹まとめて串刺しにする者、頑丈な鎧を着込みモグラ叩きの要領でゴブリンの頭をメイスで叩き割る物、普通の馬の倍近くありそうな軍馬で広場を駆けゴブリンを蹴散らす者、毒を塗った剣で切りかかる者などあちこちで多種多様な攻撃が繰り出されその数を減らしていくゴブリン達。


 撤退しようにもカルロッタが後方で猛威を振るっている為、退がるに退がれない状態に陥っている。



「フンッ!」



 カルロッタ同様、アゼレアも九八式軍刀を振るって次々とゴブリン共を血祭りに上げていた。しかし、カルロッタが軍刀だけで戦っているのと違い、彼女は徒手も用いてゴブリン共を始末する。


 背後からジャンプして襲い掛かって来たゴブリンに籠手を嵌めた手を使い裏拳で顔面殴ると同時に衝撃で頭部が破裂する。足元を狙って来ればブーツを履いた足で蹴ったり踏み潰す。人間では不可能なパワーで腹を蹴られ上半身と下半身が泣き別れる。


 まるで巨大な岩でも降って来たのか、全身をすり潰されるようにペシャンコになる個体もいれば、軍刀を持っていない方の手から繰り出される手刀で頭を飛ばされたり潰されたり、正面から飛びかかって来たゴブリンに対し自らぶつかるようにしてタックルをすれば、戦車でも激突したかの如くゴブリンが押し潰されたりと人間には不可能な異能の戦いがそこにはあった。


 軍刀を口に突き入れられ、刀身を延髄から外へ貫通させられたゴブリンが“ビクンビクンッ!!”と痙攣するのを見てアゼレアは溜息をつく。



「何だかつまらないわね……」



 あれからずうっと群がるゴブリン共を駆除していたが、周囲を見ると他の者達も大した被害を受けることなく順調に駆逐して回っている。彼女の周りには様々な死に様を晒したゴブリン共の遺骸で溢れかえっていた。



「さてと……」



 ゴブリンに突き刺したままの軍刀を振るい顔面の上半分を切り裂き、残りの獲物を探そうと思って周囲を見回していたところ、突如として燃え盛る大木の向こう側から“ドォォォンッ!!”という爆発音と振動が伝わって来た。



「これは?」



 最近似たような音を聞いたことがある。

 確かこれは孝司がオーガを『ミサイル』という兵器で吹き飛ばした時の音と似ていた。



「ということは、あの重い質量を伴う足音の持ち主が孝司のミサイルで撃破されたのかしらね?」



 もしそうならば、孝司に迫っていた脅威はほぼ無くなったと言っても良いだろう。

 森の中には新たなゴブリンの足音のほうは聞こえない。

 しかし、ゴブリンの足音とは別の複数の足音が聞こえる。



「ふーん……」



 この足音は人間種または亜人種のものだろう。

 獣人達の足音であれば、もう少し軽やかで力強い。

 そして、よく見ると戦闘直前に見えていた木の陰からこちらを見ていた者の姿が無いことに気付く。



「成程ね」



 既に状況は戦闘から残敵の掃討へと変化している。

 周囲には大型の魔物の足音も聞こえない。


 カルロッタに至っては未だに生きているゴブリンを探しては斬り捨てていた。

 その顔は上気しており、恍惚の表情を浮かべっぱなしで彼女が向かう先に居た冒険者や魔法使いは彼女の狂気に巻き込まれまいと逃げ出す始末である。



「スミス、私はちょっとだけここから離れるけどいいかしら?」


「そりゃ構わんが……どうかしたのか?」


「ええ。 ちょっと後片付けを……ね」


「……分かった。 気を付けるんだぞ?」


「フフッ! もちろんよ」



 そう言ってアゼレアは街道路を挟んで向かい側の森の中へと姿を消して行った。



「魔物だか誰だか知らんが、アレに目を付けられた以上、五体満足には死ねんだろうなあ……」



 スミスのその言葉には、これからあのバケモノに相対しなければいけない者への一種の同情が篭っていた。






 ◇






「何ぃ!? 全滅だと!?」



 森の中に声が煩くない程度の大きさに響く。



「は、はい。 ゴブリン、オーガ共にその全てが討ち取られてしまった次第です……」


「何ということだ。 では“ドゥーチェ”はどうなった!?」


「はっ!

 “ドゥーチェ”は当初天幕の中に隠れていた模様ですが、オークの出現と共に姿を現しました」


「では!?」


「それが戦闘時、見たこともない武器でゴブリンを蹴散らしていた男と共に天幕から現れ、最初はオーク相手に苦戦していた模様ですが、その男の持つ筒状の武器によって一瞬で鎧ごとオークが爆殺されました」


「なっ……!?」



 信じられなかった。

 何人もの野戦猟兵を犠牲にして漸く捕獲できた魔物がこうも易々と倒されるなど指揮官の予想の範囲外である。



「まさか、敵にそこまで腕の立つ魔術師が居たとはな。 正直驚いたよ」



 そう言うのは今回の作戦でオーガを制御下に置いていた魔獣使いであった。

 今回の作戦は自分たちの関与を匂わせないために、オークに“ドゥーチェ”の匂いが染みついたものを嗅がせてその匂いの持ち主を襲うように仕向けている。


 もちろん、その過程で邪魔する者は徹底的に排除するように命令していたのだが、まさかオークを討ち倒せるほどの腕を持つ魔術師が居るとは夢にも思わなかった。


 無論、何人かの魔術師が共同でオークを撃破するかもしれないという予想はあったので、魔鉱石を用いたオーク用に作られた金属鎧と兜を用意していたが、まさかその鎧ごとオークを吹き飛ばすとは予想外だ。



「その男の顔は覚えているか?」


「はい」


「では帰還後、専門の絵師に模写させよう。

 今後の為にも、その筒の詳細を知っておく必要がある」


「分かりました」


「この後は如何なさいますか?」



 兵の一人が指揮官に尋ねる。



「それは……」


「もちろん撤退だ。

 作戦開始時に言ったように我々の姿を見られたり、捕まるわけにはいかん」



 返答に詰まる指揮官の代わりに、同行していた魔獣使いが代わりに答える。



「……撤退だ」



 指揮官が告げると同時、兵達は静かに撤退の準備を始める。

 撤退の準備は数分と掛からずに完了し、彼らは無言で元来た道を辿ってこの森を抜けるのだ。



「出発」



 指揮官が静かに指示を出すと、彼らは一言も発さずに早歩きで出発する。

 早く走り出すと静かな森の中に装備がガチャガチャと当たる音が響くので敢えて早歩きで進む。



「今回の件、上にはどのように報告するのですか?」


「あるがままに報告するさ。

 こういうことは小細工すると逆に我々が怪しまれるからな」


「それにしてもオークが討たれるとは予想外でした……」


「全くだ。

 あれくらいの大きさ、しかも対魔鎧を着た個体が簡単に殺られるとは思えんのだがなあ」


「部下が報告してきた筒とそれを持っていた者を調べる必要がありますな」


「だな。

 監視役の者達の証言を齟齬なく集めて絵として模写して上に報告すれば多少の溜飲は下がるだろう。

 ま、俺も貴官もその部下達も二度とこういった命令は来なくなるだろうけどな?」


「本官としては、このような祖国を裏切るような作戦には二度と御免被りますな」


「まったく、俺もだ」



 とその時だった、先頭を進んでいた兵が一瞬前から押されたように浮いたと思ったら背中から剣が生えている姿が目に飛び込んできた。



『!?』



 まさかの事態に指揮官以下全員に緊張が走る。

 既に全員が剣を抜き放ち警戒態勢をとり、中には弩弓を構えている兵もいた。



「何事だ!?」


「まさかとは思ったけれど、やはり誰かがあの魔物達を嗾けていたのね?」



 ズルズルと地面に兵士が倒れ伏すと、その先には見慣れない剣を持った女の魔族が立っていた。



「魔族? 貴様、一体何者だ!?」


「普通、人に名前を尋ねるときはそちらから名乗るべきよ?

 とは言っても、あなた達のような者が自ら名乗ることはしないでしょうね。

 ウィルティア公国軍野戦猟兵の皆さん」


『なっ!!』



 自分達の正体を言い当てられて僅かに動揺する兵士達。

 無理もないことだろう。


 ウィルティア公国軍野戦猟兵と言えば、その存在が殆ど公開されていない部隊であり、軍務大臣直属の実働部隊だ。それを目の前の女魔族はこちらの存在を一発で見抜いた。



「貴様、一体誰だ? 冒険者や盗賊の類ではあるまい?」


「これは失礼したわ。

 私は魔王軍北部方面軍所属のアゼレア・クローチェという者よ。

 因みに階級は少佐よ。 よろしくね」



 そう言って自分の身分証を掲げるアゼレア。

 彼らは驚いた顔でアゼレアを見つめていた。



「魔王軍だと!? なぜ魔王軍の将校がここに居る?」


「別に理由なんてないわ。

 偶々、あの広場に居たら私と仲間が魔物に襲われただけ。

 ただそれだけよ」


「そうか」



 指揮官が目配せすると弩弓を持った兵士たちが前に出る。

 いつの間に動いていたのか、アゼレアから見て正面と左側にそれぞれ五人ずつ兵士が展開してボウガンを構えている。しかもよく見ると彼女の頭上の木の上にも弩弓を構えている兵士が三人いた。


 この布陣は同士討ちを避けるためと、万が一地面に伏せて矢を避けられても確実に相手を射殺すための配置だ。しかも音もなく展開できるところを見ると、余程連度が高いのだろう。

 彼ら野戦猟兵の実力を垣間見た気がした。



「あら、私を殺す気なの?」


「当然だ。

 我々の部隊ことを知っているということは、我々がどんな任務を負い、その過程で我々を目撃した者達がどうなるのか軍人である貴官が知らぬ訳はないだろう?」


「確かにね。

 もう名前も所属も名乗ってしまったし、今更逃げても後から追われて殺されるだけだろうし」


「そういうことだ。

 貴官とその家族には申し訳ないが、貴官にはここで行方不明になってもらう」



 そう言って指揮官が合図を出すと兵士達は躊躇なく弩弓の引き金を引く。

 撃ち出された矢は真っ直ぐに飛翔し、アゼレアの頭部、胸部に命中すると思われた。

 しかし…………



「何ぃ!?」



 矢が彼女に突き刺さったと思った瞬間、アゼレアの立っていた空間が虹色に歪み、矢がアゼレアの体を貫通して地面や木に突き刺さる。



「幻覚魔法!!」



 一斉に兵士達が周囲を警戒するが、相手が幻覚魔法を使うとは予想外だった。

 幻覚魔法は中級レベルの魔法とはいえ、近距離であれば見破ることも可能な魔法だ。


 しかも、彼らは対魔法装備を幾つも装備しており、今回の”ドゥーチェ”暗殺作戦は目標が幻覚魔法で変装している可能性も考慮して専用の対魔法装備を施していた。


 しかしその対魔法装備が効かないほどの強力な幻覚魔法。

 相手はかなりの手練れであるとこの時、全員が認識するに至る。



「油断するな! どこかにいるはずだ!

 総員、周囲の警戒を怠るなよ! 弓兵は見つけ次第、射殺せ!」



 指揮官は接近戦では殆ど無力な魔獣使いを部下と共に守りながら指示を飛ばす。

 とその時、周囲に誰もいないのに全員の耳に声が響いた。



『フフッ! 御免なさいね。

 最初、あなた達と出会ったときに淫魔族特有の魅了の魔法を掛けさせてもらってたの。

 あなた達はいつの間にか私に“酔って”何もない空間に『妄想』で作り出した私の姿を視ていたのよ?』


「……何だと?」



 相手はただ者ではない。

 単なる幻覚魔法ならともかく、個々人の脳に作用して幻覚ではなく、妄想で己の姿を現出させる技など聞いたこともない。


 野戦猟兵は魔術師とも戦うことを想定して専門の訓練と魔術に関する知識の教育を受けているが、人間と魔族では魔術の体系が違うのか、このような真似をされてはさすがに対応のしようがない。



「ガッ!?」



 短い悲鳴が聞こえた直後、気の上に居た弓兵三人が落下してきた。

 いずれも首が切断されており、頭部と体が別々に落ちてくる。



『さてと、重要な情報は隊長であるあなたと後ろの魔獣使いの彼に聞いて残りは皆殺しかしらね。

 私が何も考えずにわざわざ自分の身分を晒したと思って?

 相手が何者かも知らずに死んでいくのが可哀想だから、自己紹介したのよ!』

 


 そう声が響いた直後、指揮官から見て右側から何かがもの凄い速度で接近して来た。

 それは、先ほど幻覚魔法の妄想により見せられた女魔族本人であり、ソレは姿勢を低くして腰に吊っていた剣を抜いて突撃して来たのだ!



「……弓兵!! 迎撃しろぉ!!」



 既に二射目の矢を番えていた弓兵達は避けられないように絶妙な時間差でボウガンを発射する。

 しかし、それらは空しくも切り落とされたり、左手で掴まれて投げ返されてきた。



「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



 目にも留まらぬ速さで投げ返された矢が十人いた弓兵の内の一人に命中し、首に突き刺さった矢によって弓兵は地面を転げまわるが、やがて動かなくなる。



「三射目放て!!」



 しかし、これも矢を切り落とされたり、投げ返されたりしてまた一人弓兵が絶命する。

 そして女魔族と彼我の距離が10mを切ったその時、女魔族の双眸が赤金色に妖しく光った。

 直後…………



「ぐわあぁぁぁぁーーーーッ!!!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!???」


「アアアアアアァァァァァァッ!!!!!!」



 静かで暗く深い森の中で屈強な男達の恐怖に慄く悲鳴と断末魔、肉や骨を切り裂き砕ける音が響き渡る。

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