第8話 街

「すいませーん!」


「はーい!」


「すいません。 宿泊したいのですが」


「はいはい! ありがとうございます。

 宿泊期間は何日くらいを予定していますか?」


「そうですねえ……1週間ほどでお願いします」


「はい、わかりました。

 当宿の宿泊料金は前金制になりますが、よろしいですか?」


「はい、大丈夫です。 お幾らになりますか?」


「当宿は一泊当り銀貨五枚になります。

 一週間のご宿泊でしたら総額銀貨三十五枚になります」


「わかりました。 10、20、30と銀貨5枚っと……

 すいせん、確認してもらっていいですか?」


「は~い、失礼しますね。

 ……はい、確かに銀貨三十五枚ですね。 

 では、お客様の身分証と入国許可証の控えの提示をお願いします。

 あと宿泊台帳への記入をお願いしているのですが、お客様は文字の読み書きは出来ますか?」


「はい、大丈夫です。 日本語で記入すれば良いですか?」


「はい、ニホン語でお願いします。

 それではこちらの宿泊台帳の記入をお願いします」


「はい。 あとこれ、身分証と入国許可証です」


「それではあらためさせていただきますね。

 ……って、これ身分証ですか!? 

 私今まで色々なお客様の身分証を見てきましたけど、こんなの初めて見ましたよ!?」


「はあ……そうですか」


「ねえねえ、お客さん。

 この未分証どうやって作っているんですか? 

 これ、金属でも木でもない見たいですけど、何なんですかこれ!? 

 しかもこの身分証に描いてある絵の人物ってお客さんでしょう?

 どうやってこんな精巧な絵を板の中に描いたんですか?」


(ああ、やっぱり免許証に食いつかれた……)



 このままではあの時と同じように晒し者にされかねないので、早く部屋に行きたい。イーシアさんにお願いしてこの世界の身分証を用意してもらえれば良かった俺は心底後悔していた。






 ◇






――――3時間程前





「はい、次の方どうぞ」


「よろしくお願いします」



 ここはシグマ大帝国の帝都『ベルサ』。

 その南門の傍に設けられている入国審査所だ。

 そして幾つかある入国審査の窓口の一つに俺は立っていた。


 この世界に来て初めてギルドや冒険者という職業のことを教えてくれた冒険者クラン『流浪の風』の皆と仲良くお喋りをしていたら、いつの間にか俺の入国審査の順番が回って来たのである。


 最初、列に並んでいるときは2時間待ちと言われていた入国審査も、幾つかある窓口を新たに開放して実際よりも早く列が進んだらしい。



「名前を」


「榎本 孝司です。 姓が榎本で、名が孝司になります」


「ってことはタカシ エノモトと言うことだな。 身分証を出して」


「はい……」



 口髭を生やした厳ついおっちゃんである係官の指示に従い、免許証を提示するために地球で使っていた免許証のケースを取り出す。冒険者チームのリーダーであるセマからは自分の国から発行された身分証で充分だと言われていたが、こうやって本物の係官を前にすると非常に緊張する。


 この世界『ウル』の神様であるイーシアさんからは一般的な言語は日本語と英語と聞いていたにで会話に関しては問題ないとは思うが、文字はどうなのだろうか?


 お互いに日本語を話しているし、ここに来るまでに見た壁の張り紙も漢字、ひらがな、カタカナを使っていたから大丈夫だとは思うが、この世界に無い表現の言葉が免許証に記載してあったらどうしよう?



(まさか地球の発展途上国の役人のように、この人の個人的な気分次第で拘束されるとかないよね?)



 そんなことを考えながら免許証を目の前の厳つい係官のおっちゃんに恐る恐る提示した。



「ん。 どれどれ、って……おい! 何だ、この身分証は!?」


「え!? な、何か問題でも?」


(ひいっ!!何か、問題でもあったの!?

 ま、まずい……捕まる前に逃げるか!?)


「この身分証すげえな!!

 これ、どうやって作られているんだ?

 金属でも木でもねえし……凄い精密な絵が描かれているじゃねえか!

 この絵に描いたあるのってお前さんの顔か!?」


「え? ええ……そうですよ?」


「ほぉ~。

 俺はこの仕事を担当して様々な国の身分証や旅券を見てきたが、こんなもの見たの初めてだ!

 お前さん、どこの国の人間だ?」


「ええっとぉ……日本と言う国から来ました」


「ニホン? 聞かねえ国名だな……」


「そうですか?

 この大陸では、東のバラスト海と呼ばれている海の向こう側にあるのですが」


「……聞かんなあ」


「はあ、そうですか」


(まったくこのおっさんは。

 いきなりデカい声を上げて怒鳴るように話しかけてくるから、てっきり何か不味いことでもやらかしたのかと思って内心寿命が縮み上る思いだったぞ!)



 俺が心の中で悪態をついていると、隣の窓口から声がかけられた。



「どうした? いきなりデカい声あげて。 偽造旅券でも見つけたか?」



 どうやら、この厳ついおっちゃんが張り上げた声を聞いて隣の窓口の職員が気になって様子を見に来たようだ。



(おい、お前はまず自分の仕事をしろ!

 お前の列にも人が並んでいるだろうが!)


「いやいや、そんなちんけなもんじゃねえ。

 それより、もっと凄い物だ。

 これ、見てみろよ」


(いやいや、おっさん。 俺の免許証を見せびらかさないで!)


「うお! なんだこりゃ!?」


「なっ? すげえだろう?」


「こんな身分証初めて見たぞ!? これ、何で出来てるんだ?

 力入れると僅かに曲がるな……木で作られてるのか?」


「わからん……鉄や木じゃねえのは確かだ」


「この絵も凄いな。

 しかも、擦っても絵や文字が消えないとは……刻印でもないし、どうやって絵や文字を書いているんだ?」

 

「なんだ、なんだ?」


「どうしたんだ?」 


「何を騒いでいるの?」


 彼らの会話に耳を傾けていた別の窓口にいた職員の人達が続々と集まって来た。しかも、窓口の職員だけじゃなくて警備担当の兵士まで集まって来ている。

 

 見渡した限り男ばっかりだったからので、てっきり女性の職員はいないものだと思っていた。とその時、俺の肩をチョイチョイと叩く者がいたので何かと思い、振り向いてみると今ここで会いたくない人物が立っていた。


 

「ねえ、あの人たち一体何を騒いでいるの?」


(げっ、リリーちゃん!?)



 どうやら窓口での騒ぎを聞きつけて様子を見に来たようだ。



「ん~何なんだろうね?」


「あんた何かやらかしたの?」


「いや。

 ただ単に身分証を係官の人に言われた通りに提示しただけなんだけど……」


「じゃあ何であんなに大騒ぎしているの?」


「さあ?」



 言えない。

 職員の人たちが初めて見る免許証の作りに驚き、まるで新しい玩具を貰った子供みたいにはしゃぎながら回し見しているとは口が裂けても言えない。この娘に免許証の話したら、また余計な騒ぎになることが簡単に予想できるので絶対に言うわけにはいかないのだ。



「何か隠しているでしょう? あんた」


「な、何を?」


「ん~なんかさ?

 あんたと最初に会った時からどこか変だなあって、思っていたのよね?」


「は、はあ……」


「何をしにこの国に来たの?」


「いや。

 だからこの大陸に飛ばされて来たから、帰る方法を探すついでにのんびりと旅でもしようかなあと……」


「それはさっき聞いたからわかるんだけど。

 でも、その割にはエノッチって結構落ち着いているわよね?

 普通ならお金とか衣食住とかを心配していそうなものだと思うんだけど。

 それに会った時には気付かなかったけど……こうしてみていると着ている服や靴が妙に小奇麗よね?」


「え?」


「普通ならどこかがくたびれていたり汚れているものだと思うんだけど、それもないし。

 それに、あたしたちが列に並ぶ前にエノッチは既に列に並んでいたでしょう?」


「そうだけど」


「でも、あたしたちがこの国の南門を目指して歩いていた街道の土にはあんたが歩いていた靴の跡は無かったような気がするの。

 あんたは気付いていないかもしれないけれど、あんたの靴や靴の跡って今まで見たことがない形なのよね」


「はい……」


「勿論、あんたとは街道上ですれ違ってもいないし、ここまで来る途中に点在している宿場町でもあんたみたいな特徴的な格好の人は見ていないわ。 

 そして私たちの前を歩いていた姿も見ていないのよ。

 あんたはどうやってあの街道の列に並んだの?」


「それは……」



 まずい。

 この娘、ただの明るいだけが取り柄の若い冒険者だと思っていたけが、どうやら俺の見立てとは随分と違っていたようだ。


 さすがは冒険者。

 ファンタジー小説のようにただモンスターを狩ったり、迷宮の探索をしているだけとかじゃなさそうだ。きちんと他人の言動を見て自分なりに分析をしている。



(くそう! 早く入国審査終わらないかなあ?)



 このままだと俺がこの世界に来た目的や正体を白状させられかねない。

 というか、リリーがここにいる入国審査官や兵士達に今話していたことをそのまま口にされたら非常に不味いことになる



(とりあえず上手く話を誤魔化しておくしかないか……)



 上手い解決方法がないか思案していたとき、不意に声が掛かった。



「おう、すまなかったな! お前さんの入国審査は問題ない。

 これほど精巧な身分証なら偽造の心配もなさそうだからな。

 ほい、身分証!」



 先ほどから俺の身分証を同僚達に見せびらかしていた厳つい顔の審査官が免許証をいきなり俺に放り投げてきた。勿論、プラスチックで作られているカードタイプの免許証は投げるのに適していないため、失速して俺の手前に“カラン”と落ちてしまう。そして免許証を俺より早く取り上げたのは……他でもないリリーだった。



「ん? これ、エノッチの身分証?

 ……って、なにこれ!? これが身分証なの!?」


「ああ、もう! 早くこっちに返してよ!!」


「ちょっと何よ!? 

 あの人達にも見せたんだから、あたしにも見せてくれてもいいじゃない!」


「いや、あの人達は仕事で見ているんだよ。

 何で君に見せないといけないの!?」


「いいじゃない。 減るもんじゃあるまいし」


「減るんだよ、時間が!

 暗くなる前に宿泊先を探したいんだから、早く免許証を返して!」

 

「いいじゃん。 あんたと私の仲でしょう?」


「いったい、どういう仲なの?」


「え? そりゃあ、一晩激しく組んず解れつした仲で……」


「変な言い方はやめて!

 大体、君とは1時間くらい前に知り合ったばかりじゃないか」


「…………そうだっけ?」


「そうよ! と言うか、人前で変な言い方はやめて!

 変な誤解されたらどうするの?」


「私は構わないわよ?  なんなら……その変な誤解をされたい?」



 と言って俺の腕に惜しげも無く胸を押し付けてながら耳元で話しかけて来るリリー。胸を押し付けて来ると言うといやらしい響きで個人的には唆るのだが、現実には俺が来ている厚手のダッフルコートとリリーが着ている硬い革鎧のお陰でゴツゴツした感触しか伝わって来ない。


 まあ、リリーの胸のサイズにも問題があるのだが……しかしだ。

 さっきまで悪ふざけしていた年下の女の子が急にオンナの顔で見つめて来ればドキッとしない男はいないだろう?

 それが例え胸の小さい女の子であったとしてもだ。



「え……!」


「だからさ……シタくないの?」


「あ、いや〜その……」


「私は好きだよ?」


「へ?」


「いやらしいこと……」


(おおう! まずい、下半身が疼き始めた……!)


「ぷ……あはははは!

 もう、なに本気になろうとしてくれてんのよ! エノッチったら!」


(え〜なにこれ? もしかして……からかわれていたの俺?)



 突然表情を切り替えて爆笑しながら俺の肩をバンバンと叩いてくるリリーに対して、俺は今ものすごい惚けた顔をしていたと思う。はっきり言って安心半分、落胆半分といった所なのだが、股間だけ悲嘆に暮れているような状況で……なんだかまるで狐に化かされた気分だ。



「でもさあ、本当にエノッチってどこの国の人間なの?

 その上等な服といい、この身分証といい……まるで別の世界の人間みたい」


「え?」


(まずい。 今度は本当にまずい!

 おいリリー、審査官の前で変なこと言うなよ!)


「ねえ、エノッチ。 もしかして、エノッチって本当は……」


「だああああああっー!! いい加減にしろ、このクソガキャ!!

 今すぐその口閉じないとそのドタマ吹っ飛ばすぞ!? ゴラァ!!」



 もうこういう時はわざとキレるしかない。

 でもって追い返すしかないだろう。



「ひっ!?」


「大体さっきから何なんだお前は!? お前の入国審査はまだだろうが!

 後がつかえてんだから、俺の免許証をさっさと返しやがれ!

 それとも本当にアタマ吹き飛ばされたいのか!?」



 この時俺は無意識に太腿に装着していた拳銃が入っているホルスターに手を掛けていた。勿論、拳銃の薬室には弾が装填されていないからただの脅しなのだが、果たしてこの世界の人間に対して拳銃が入っているホルスターに手を掛ける行為が威嚇に当たるとは思えないが、何かをやらかしそうだという意思は充分伝わっていることだろう。



「ご、ごめんなさい!」


「分かればいいんだ。 免許証を返してさっさと戻れ!」


「……はい」



 さすがに俺がキレたことを知ってリリーは俺に免許証を返してトボトボと審査場を出て行く。肩を落としたリリーの後ろ姿からは何かに打ちひしがれたような何とも言えない雰囲気が漂っていた。



「お前さんも大変だな……」


「え? ええ、まあ……」



 先ほどから俺とリリーのやり取りを見ていた審査官の厳ついおっちゃんが話しかけてきた。その顔には子供の喧嘩を見守っている時の大人のような柔らかい表情が浮かんでいる。



「まあ、あのくらいの娘は背伸びをしたい年頃だからな。

 その割には人一倍寂しがりの上に照れ屋でわざと馴れ馴れしい態度で他人と接しようとするから、初対面の人間には誤解されやすいんだよ。

 それでも時と場所はきちんと弁えんといかんからな。

 お前さんがあの時怒鳴らなければ俺が『いい加減にしろ!』と怒鳴っていただろうから、お前さんが気に病む必要はねえよ。

 あの娘もああやって成長していくんだ」


「はあ……そうなんですか?」


「そういうことだ。 俺にも娘がいるから、よくわかる。

 ただ、あの娘も悪気があってやってるんじゃねえ。

 若さゆえの突っ走りって奴さ。 

 だからつい相手が嫌がることについて深く掘り下げようとしちまうのさ。

 あとは悪くは思わないでおいてあげればいい」


「わかりました」


「お前さんはまだ若いからな。

 もう少し年取ると、ああいう娘ッ子の態度にも余裕を持って接することが出来るようになるさ。

 そりゃあそうとお前さん歳は幾つだ?」


「35です」


「三十五歳かよ……そのナリでか?

 お前さん、結構若作りなんだな……」


「悪かったですね」


「いや、別に貶しているわけじゃねえよ。 褒めてんのさ。 

 それにしても、三十五でその若さとは羨ましいねぇ」


(おっちゃん、明後日の方向見ながら郷愁に浸らないでよ。

 目尻にホロリと涙が光ってるし……)


「ところで、もう入国審査は終了ですか?」


「いいや。 まだ真偽判定と荷物検査が残っている」


(ん? 真偽判定とな?)


「あの……真偽判定とは何ですか?」


「審議判定とは俺たち審査官の質問に対して嘘をついていないかどうかを魔道具を使用して判別することだ。

 例えば殺害や犯罪の有無、出身国に差異がないかとかだな」


「へえ。 どうやって行うんですか?」


「ほら、そこにガラスの板があるだろ?

 そこに手を置いて質問に答えるんだよ。

 全ての質問に『はい』で答えてもらって本当なら緑に、嘘なら赤く光るようになっている」


「なるほど」


(要するに、地球で言う嘘発見器みたいな装置か)



 しかし、地球の嘘発見器が脈拍や心拍数、脳波などの変化を基に測定していたのに対して異世界版の嘘発見器はどのようにして嘘を判定するのだろう?



「すみません。 これ、どうやって嘘を見破るんですか?」


「俺も詳しい仕組みは知らないんだが、作った所の説明では体内の魔力の変化を測定して判別するらしいな。 何でも魔力と精神は密接な繋がりを持っているらしく、嘘をつくとほんの僅かだが魔力の動きがあるらしい。 で、この魔道具か手から伝わってくる魔力の動きを逐一ガラスに映し出していて嘘をついた時の魔力に反応して赤く光るらしい」


「へえ」


「判定確立としては製造元の言葉を信じるのなら、ほぼ十割に近い数値らしいぞ? 

 ま、今までは俺たち複数の審査官が相手の顔を見ながら質問して目の動きや汗、呼吸の速さやなどの挙動をつぶさに観察して判別していたんだ。 

 それに比べれば信頼性も入国審査の速さも格段に上がっているし、今まで大した問題も起きてないから大丈夫だと思うがな?」


「なるほど」



 確かに人間対人間なら個人の好き嫌いや先入観で見てしまいがちな問題も、魔道具と言う機械を通せばそんなことはないだろうな。



(しかし、これ本当に大丈夫なのかね?

 何か、嘘を巧みに躱すコツとかありそうな気がしないでもないのだが……)

 

「じゃ、後が支えているしさっさとやってしまうか。 

 そんなに心配な顔しなくても大丈夫だよ。

 問題が無ければ、手荷物検査に移ってすぐ終了だからな」


「はい」


(うーん、それが心配なんだよなあ……

 『どこから来た?』っていう質問で日本と答えてウルに存在しない国=嘘と判定されて赤く光ったりとかしたらどうしよう?)


「じゃあ、そこのガラス板の上に左右どちらか片方の手を置いてくれ。

 先に言っておくが、押さえつけて壊さないようにな。

 もし壊したら弁償だからな。

 弁償できなかったら……拘束して裁判の上、強制労働の刑が待っているからくれぐれも壊すなよ?」


「わかりましたよ」


(こえ~! 壊して弁償できなかったら強制労働とか怖すぎるだろ。

 もし、あんたら審査官が壊したら一体どうなるのかねえ……)



 そう思いながら俺は、机の上設置してある木製の箱に載った分厚く大きいガラス板の上に左手を置く。多分、このガラス板に彫り込まれている丸い線の内側に手を置いて測定するのだろう。手が大きい種族にも対応している為だろうか?手を置く部分の丸い線の範囲が結構大きい。


「よし、載せたな? じゃあ、質問を行うぞ?

 今から行う質問に対して全て『はい』で答えるように」


「はい」





――――「あなたの名前は、タカシ エノモトですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたの年齢は、三十五歳ですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたの性別は、男ですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたの出身国は、ニホンですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたは現在、結婚していますか?」

    「はい」→赤


――――「あなたは現在、ギルドに加入していますか?」

    「はい」→赤


――――「あなたが提示した、身分証は本物ですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたは現在、無職ですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたは、旅人ですか?」

    「はい……」→緑


――――「あなたが我が国に入国したのは、旅のためですか?」

    「はい」→緑


――――「あなたは現在、武器を携帯していますか?」

    「はい……」→緑


――――「あなたは魔薬等を含む、禁制品の薬物を所持していますか?」

    「はい」→赤


――――「あなたは今まで、誰かを殺害したことはありますか?」

    「はい」→赤

 

――――「あなたは以前、我が国を含むどこかの国で犯罪を犯し、拘束や裁判、処罰、国外退去などの処分等を受けたことがありますか?」

    「はい」→赤





「うん…………よし! まあ、良いだろう……問題無しだ。 

 以上で入国審査は終わりだ。 あとは手荷物の検査で終了だ。

 それが終わったら、担当の職員から入国許可証を貰って入国できるぞ」


「ありがとうございました」


(いや~。

 地球でも嘘発見器での検査なんて受けたことがなかったから、ものすごくドキドキしたよ)



 まさか異世界で人生初の嘘発見器で検査されるなんて夢にも思わなかった。



「おう。 じゃあ、向こうに行って荷物の検査を受けてくれ」



 審査官にそう言われて俺は指で指し示めされた方に向かって歩いて行く。そこではバッグの中身を調べるだけでボディチェックはスルーで、懸念していた手榴弾とAK-74のマガジンについて「これは何だ?」と質問されたが、リリーが言っていた宿場町で半分騙されて購入した置物だと言っておいた。


 係官からは「なぜ捨てないのか?」と質問されたが、知り合いに押し付けて売るためと言ったら微妙な顔をしつつもそのまま手荷物検査は終了した。あとショルダーバッグの出来を気に入ったのか、別の係官が検査中にバッグを「個人的に売ってくれないか?」と言ってきたのは余談だ。


 そのあとは入国審査場出口の手前に設けられた窓口で許可証を貰った。

 この時、俺は許可証がB5サイズくらいの藁半紙で出来ていることに驚いた。


 てっきり、ファンタジーにありがちな羊皮紙のような紙で出てくるものと思っていたのだが、発行される過程を窓口越しに観察していたところ、どうやら謄写版……いわゆるガリ版と同じ要領で印刷しているようで、印刷するときに使うローラーの代わりにパスタの生地を伸ばすときに使う麺棒のようなもので謄写していたが……


 入国許可証の文字には『漢字』と『ひらがな』と『カタカナ』が使われていて滞在期間も記載してあり、全体のデザインとしては日本の一般的な賞状に近いだろう。


 係官からは「身分証と共に携帯しておくこと。 紛失したら直ちに最寄りの警備所や巡回中の兵士に届け出るように」と言われた。他にも滞在期間を満了し出国する際には門で返却するようにともしつこく言われた。因みにショルダーバッグを売ってくれと言ってきた職員に「旅人向けの何処か良い宿泊先はないか?」と聞いたところ……



「それなら、東区の宿『金の斧』に泊まればいい。

 一泊当たり銀貨五枚と若干高いが従業員の教育もしっかりしているし、食事も美味い。

 建物も比較的綺麗だから、君のような身なりの良い人間には良い宿だと思うぞ?

 ま、宿泊料が高いと思うのなら他の宿を探せばいいさ。

 この帝都ベルサには宿屋は沢山あるから、財布と相談して決めればいい。

 もし分からないのなら、近くの警備所で尋ねれば兵士が教えてくれるよ」


「分かりました。 ありがとうございます」


「ああ。 ようこそ、帝都ベルサへ!」


(ようこそなんて、まるでアミューズメントパークみたいだな)


 でも、言われるかどうかで街に入るテンションが違ってくる。

 そんなことを思いながら俺は入国審査場を後にした。






 ◇





 

――――扉を開けるとそこは異世界だった。





 最初、俺が異世界の街に入って初めて頭に浮かんだ感想だ。

 今までは農道だ門だ建物の中だといまいち異世界ファンタジーの雰囲気を味わいにくい場所ばっかりでさすがに気分が乗っていなかったのだが……この帝都ベルサに足を踏み入れてそんな気分は何処かに吹き飛んで行ってしまった。


 まず目につくのは沢山の人、人、人の群れ。

 さすが帝都を名乗るだけあって人の数がすごく多い上に様々な人種や種族を見ることが出来る。


 人間なら白人風、東洋風やラテン風。

 獣人は猫耳を始め犬、狐、虎や狼系。

 よく見るとエルフもいるが、さすがに下半身が蛇だったり、背中や尻に羽や尻尾が生えている種族は自分の目に見える範囲にはいなかった。


 そして肌に伝わって来るこの活気!

 大通りの両脇には所々に露店があり、露天商や商店の呼び込みが耳に入ってくる。


 東京の渋谷のようなただ単に人が多いだけではなく、アメ横のような活気と祭の時の活気が合わさったような、妙にワクワクさせてくれる活気が俺の全身を包み込んで来る。



「なんか既に異世界に来ているのに、今初めて異世界に来たという実感があるな……」



 そんな事を思いつつ、まずは教えてもらった宿を探すために東区を目指そうと思う。物陰でタブレットPCの地図で所在地を検索すると『金の斧』という宿は確かに帝都東区にあるようで、先ずは現在地である南門から東へと向かう大通りをそのまま道に沿って進んで行けば良いようだ。


 因みにこの帝都ベルサを上空から見た状態だが、まず中央部よりやや北側が王宮とそれを取り囲む城壁で構成されており、城壁の周囲に官庁街と思しき大きな建物が存在し、その大きな建物からちょっと離れた所に大きな屋敷が何軒も建ち並んでいる。


 恐らく、この大きな屋敷は貴族達の邸宅なのだろう。

 その屋敷街から大通りを挟んで大小様々な建物がビッシリと建っているのが確認出来る。当たり前だが、ソーラーパネルを設置している建物は一つも無い。


 このまま南門から北上して幾つかの大通りを抜ければ王宮に着くようだが、あいにくと今はそんな時間はないので、観光と調査は後にして先ずは宿へと向かうとしよう。






 ◇





――――歩き初めて10分





「それにしても立派な街だなあ……」



 実際に歩いてみて俺は自分思い描く異世界の街という定義と現実の異世界との街のギャップに驚いていた。側から見ればキョロキョロと街を見回すお上りさんの状態に見えることだろう。


 実は、この街……臭くないのだ。

 中世の街というと個人的な偏見になってしまうのだが、てっきり地球のそれと同じように汚物を窓から捨てていて街中が物凄いことになっていると勝手に決め付けていたのだ。


 しかし、こうやって見ると街中には捨てられている汚物は全く確認できない。幾つかのゴミが落ちているのは分かるが、汚物が全くないどころか馬や家畜の糞尿も極僅かで、街中が清潔に保たれている。まあ、すれ違う人の中には香水臭かったり、鼻が落ちそうなほど臭くて酸っぱい匂いを漂わせている人もいたが……


 そして歩いてみて初めて気付いたのだが、まず道幅が広い。

 建物と建物の間には人間ひとりがようやく通れるような路地がある一方、大通りは幅6メートル前後あり、街の外の街道が土道だったのに対して市街地の道路は石畳だ。


 建物に関しては石造りに煉瓦造り、木造と漆喰のようなもので建てられた商家や民家が混在しており、平家から3階建ての建物まで殆どが瓦葺きになっている上にちゃんと雨樋まで設置されているし、門の外から双眼鏡で確認していたガラス窓もちゃんと嵌まっている。


 しかし、建物に近付いて確認してみると窓に使われているガラスは地球で使われている一般的な物と違い、俗に言う昔ながらの『ゆらゆらガラス』で僅かに気泡が混じっているガラスも幾つかある。

 はっきり言って、これが神様であるイーシアさんの言っていた『地球で言うところの中世レベル』の街なのだろうか?


 なんだか、とあるヨーロッパの街並みと言われても不思議ではないような気がする。唯一の違いがあるとすれば住民のファンタジーちっくな服装と看板や標識に張り紙など、殆ど全てに日本語が使われていることだけのような気がしてくる。

 


(まあ、そのお陰で書いてある内容が分かるから良いけどね。

 それにしても、こうやってずっと歩き続けていると……)


「腹が減った……」


(よし。 店を探そう!)


 どこかの孤独のサラリーマンではないが、思い出してみると朝家を出て以降食事をしていないことを思い出した。



(そりゃあ腹も減るはずだわ)


「まずは……何を食べたいかだ」



 今いるこの国の現在の季節は冬。

 風が吹くとコートを着ていても寒い。

 ならば温かいものを腹に入れたいと思うのは自然な考えだ。



「温かい食べ物、温かい食べ物っと……お?」



 あれは……



「焼きトウモロコシ?」



 そう。

 俺が見つけたのは、露店で売られている焼きトウモロコシのような食べ物。ような食べ物と思ったのはあれが本当にトウモロコシかどうかわからないからである。


 焼き台の上で赤々と燃える炭火で転がしながら満遍なく焼かれており、良い匂いがこちらまで漂って来ろが、随分と美味そうだ。子供から大人まで、数人が美味しそうに笑顔でトウモロコシを頬張っている。



「美味そう……」


「そこのお兄さん。 お腹減ってるの?」


「え?」


(誰だ?)



 振り返るとそこにいたのはメイド服を着た女の子だった。



(……って、メイド服ぅ!?)



 まさかこんなにも早くメイド服と遭遇するとは……てっきり貴族の屋敷とかに調査に行ってその時にメイド服を見るものとばっかり思っていたのだが、まさか異世界に来て早々にメイド服を見ることになろうとは!

 と言うか、この娘だれなのだろうか?



「ん? 君は、誰?」


「え? あ、ごめんなさい。

 お兄さんが焼きモロコシをよだれ垂らしそうな勢いで見ていたから、お腹減ってるのかなあって思って声掛けちゃいました」


「はあ……っていうか、君は?」


「あ、私はシア。 肉屋の娘なんだけど、今呼び込みしてて……」


「呼び込み?」


「そう! 私の家、肉屋してるんだけど副業でお肉専門の食事処も営業しているの。

 で、私は家の手伝いでお腹を空かせた人をお店に案内してるってわけ」

 

「なるほどね。 と言うことは、美味しいお肉を食べられるのかな?」


「そうよ!

 うちのお店は牛、豚、鳥って色んな種類を扱っているんだけど、一番のお勧めは特産のベルサ牛をつかったビフテキかな?」

 

「ベルサ牛?」


「そうよ! この帝都特産の牛肉なの。

 皇帝陛下だって食されている美味しいお肉なのよ!」


(ほう? それは美味そうだな)



 まさか異世界でいきなり牛肉を食べられるとは思わなかったが、これは是非とも食しておきたい。



「じゃあ、君の所で御馳走になろうかな。 肉料理の金額は高いの?」


「ありがとう!

 お兄さん変わった服着てるけど、身なりも良いし声掛けて正解だったわ!

 でも、安心して。

 うちの店は肉屋直営だから、他のお店ほど高くはないのよ」


「そうか……じゃあ、早速君のお店まで案内してくれる?」


「もちろんよ!

 あ、私の名前はさっき言った通り、シアって言うの。 よろしくね!」


「俺の名前は孝司だ。 よろしく」


「タカシさんね。 じゃあ、さっそく案内するわ!」



 シアに案内されて歩くこと約2分くらいの場所に件の食事処はあった。

 確かに肉屋直営らしく、食事処の隣には肉屋がある。

 建物の造りとしては2階建ての石造りで、店内は結構広そうだ。

 出入り口から見た限りだと入口のすぐ左に会計があり、右側にテーブル席で奥に厨房とカウンター席があるようだ。


 「ちょっと待っててね」と言って、先にシアが店に入って行く。

 そして直ぐに出て来て「良かった。 ちょうど一人分の席が空いてるわ。 こっちよ、入ってきて」と言って俺を手を引いて店内へと誘い、奥のカウンター席に俺を座らせるとシアは直ぐにメニューを持って来た。


「お勧めはさっき言ったベルサ牛のビフテキだけど、他にも色んな料理があるから分からなかったら聞いて。

 タカシさんはどんな料理が食べたいの?」


「そうだなあ……ずっと外にいて体が冷えているから、温まれる料理が良いな」


「じゃあ、このベルサ牛と野菜の煮込みスープなんてどう?

 たっぷりの葡萄酒でお肉と野菜を朝から煮込んでさらに茶色いスープを入れて夕方まで煮込むの。

 寒い季節にお客さんが夜にお酒と一緒によく注文する料理なんだけど、多分そろそろ出来てくるはずだわ。 このスープにパンを浸けて食べると、美味しいのよ!

 一皿銀貨一枚と銅貨五枚で、パンは銅貨五枚するんだけど大丈夫?」


「ああ、金額は大丈夫だよ。

 じゃあその煮込みスープとパンをお願いしようかな」


「まいどあり~! あ、あとお酒はどうする?」


「酒は遠慮しておくよ。

 今酔っ払ったら、宿にたどり着けなくなるからね。

 因みに水は有料?」


「そうよ」


「じゃあさっき言った通り、煮込みスープとパンをお願いするよ」


「は~い! じゃあ、注文してくるわね」


「ああ」



 シアが料理の注文のために厨房に行っている間に軽く店内を見回してみる。店内はテーブル席、カウンター席ともにほぼ満員に近い状態で客席の間をシアと同じメイド服の格好をした給仕の女の子達が忙しそうに料理を運んだり、食器を下げたりしている。


 カウンターでは男の給仕が後ろの棚に設置してある酒樽から異世界の料理屋に付き物のエールや葡萄酒を木の杯に注いで給仕の女の子に渡している。料理を食べている客層も様々で、人間に獣人と種族は雑多だが、皆美味しそうに笑顔で肉料理に舌鼓を打っている。



「は~い。 お待たせ!」


「おお。 ありがとう」



 そうこうしているうちにシアが料理を持って来た。

 俺の前にコトリと置かれた肉料理。

 こげ茶色の底が浅い壺の蓋を開けると、湯気と共にグツグツとした音が聞こえてきてアツアツなのが一目で分かる。


 料理の見た目は地球で言うビーフシチューそのもので実に美味しそうだ。金属製のスプーンで具を掬うと、ゴロゴロとした大きな牛肉がジャガイモや人参、玉葱などの野菜と共にたっぷりと入っている。



(ボリュームあるなあ……!)


「じゃあ、いただきま~す♪」


「はい。 召し上がれ」


「うん……美味い!

 この牛肉、脂身が少なくてさっぱりした味わいで如何にも肉の味が濃くてとても美味しいね!」

 

「ありがとう。 そう言ってもらって私も嬉しいわ!」

 

「いや、本当に美味いよこれ。 こりゃあ体が温まるよ」


「そう。 これで私も安心して仕事に戻れるわ」


「ああ、そうか。 お客さんの呼び込みしてたんだっけ?

 ここまでありがとう。

 俺はいいから、仕事に戻ってもらって大丈夫だよ」


「うん。 じゃあ、ごゆっくり~」


「ありがとね!」



 そう言って去って行くシアを見送った後、俺は異世界版ビーフシチューをガッツくようにして食べた。朝飯を除けば口に入れたのはお茶と水だけなので、腹も減るわけである。


 ビーフシチューの味は高級レストランで供されるような上品な味ではなく、近所の洋食屋で食べるような温かく懐かしい味に赤身の多い牛肉の味がドーン!とパンチを利かせている。


 パンはドイツの軍用パンであるコミスブロートのような中身がみっちり詰まったパンで、サイズが大きくて素朴な味で噛めば噛むほど味わい深くなり、非常に食べ応えがある。



「ふう……美味かった」


(いやあ、やっと食事ができた!)



 他人に見つからないようにストレージから烏龍茶のペットボトルを取り出して喉を潤し一息つく。食事をしたことで精神的に余裕が出来たのか、俺はリラックスして今の現状を分析し始める。

 


(現状、今すべきことは宿を取って体を休めることだ)



 まあ今日のところはこれで良いのだが、問題は明日からだ。



(先ずは使える武器の拡充だな)



 これは外せないだろう。

 今のところ使える状態の武器は自動小銃と短機関銃と拳銃に手榴弾だけだ。少なくとも、あと散弾銃と機関銃、狙撃銃とロケット砲などの対戦車火器くらいは使えるようにしておかなければいけない。 



(まあ、これに関してはこれから泊まる予定の宿の部屋で行えば問題ないか。 あとは……)


「転生者の捜索とギルドか……」



 そう、こちらの方が本業だ。

 今日は疲れたからモバイル端末での転生者の検索はしないが、明日からは別だ。イーシアさんが異世界への降下場所をあの帝都ベルサに近い農道にしたのは、恐らくこの街に転生者がいるからだと思う。


 間違っても適当に降下場所を選んだとは思いたくない。

 もしこの街に日本からの転生者がいるとして、どうやって接触ないし調査をするかだが、これも悩みどころだ。



(あっちは見た目は完全に異世界人で、こちらは純粋な日本人の外見だからな)



 こちらが意識していなくても、近づいた段階で俺の存在に気付く可能性もある。問題は向こうが襲ってくる可能性だが……どうだろうか?


 もし襲ってくるとしたら狙いは俺が持っている武器目当てだろうから自衛するのはやぶさかではないのだが、それでも中身が同じ日本人を撃つというのは躊躇われる……

 


(まあ、このへんは後の課題だな)

 

「あとは……」


(ギルドだな)



 この世界に来たばかりの時に出会った冒険者クランのリーダーであるセマから聞いた限りでは、通常の滞在期間が1か月なのに対し、ギルドに登録しておくと3か月に伸びると教えられた。

 場合によっては、最大1年延長できるとも……



「やっぱり……ギルドに行って話を聞くしかないかなあ?」





――――『異世界に来たらまずはギルドに行く』





 異世界トリップのテンプレだが、あの免許証のときのような面倒事が無くなるのなら登録した方が良いだろう。



(さすがに出入国毎にあんなことになると非常に困るしねぇ)



 それならギルドが発行する身分証で出入国の手続きをしたほうが安全だろう。少なくとも、これからこのバレット大陸に存在する国々を巡ってこの世界の崩壊の予兆を調査しなければいけないのだから……



「よくよく考えてみると、本当に面倒臭いことに巻き込まれてしまったなあ……」


(まあ、しょうがないか)


「さて、暗くなる前に宿に辿り着かないと。 

 例の『金の斧』の部屋が実は満室でした……とも限らないからなあ」



 そう言って俺は席を立ち、銃と持ち物の確認をして出入り口の脇にある会計に向かう。シアの言っていた通り、金額はビーフシチューが銀貨1枚と銅貨5枚、パンは銅貨5枚の合計銀貨2枚の金額だった。



「御馳走様でした」



 店を出てシアが客引きをしているであろう方角の通りに向かってお礼を言うと、俺は宿を目指してまた歩き出した。



「ああ、早く宿を取って銃を弄ってぐっすりと眠りたい」

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