第5話 相談
「ふーむ……乗り物と銃かえ?」
「ええ。 ……駄目ですかね?」
俺は現在、神様であるイーシアさんとウルに持ち込む物品について話し合っていた。今のところ生活用品や携行食品に服などの衣料品にテントや寝袋などのアウトドア用品に日用雑貨などの持ち込みは大丈夫ということで、あとで持ち込みたい物をリストアップして
しかし、俺が乗り物と銃を持ち込みたいと言ったらイーシアさんが渋い顔になったのだ。どうやら今までウルに転生したり連れて行いかれたりした日本人のなかで、乗り物や銃などの武器を持ち込んだ者はいないらしいのだ。
武器については地球からの持ち込みではなく、イーシアさんが作った指輪や剣、魔法石を神からの
そのため銃などと言うイレギュラーな武器を持ち込むことで、ウルの兵器体系がどのように変わるのか予想がつかないのだという。
乗り物については即却下された。
航空機や船舶は操縦・操船の知識がないので自動車を希望したのだが、自動車が存在しない異世界では車目立つ上に舗装されていない道が多く、軽自動車はおろか馬車でも渡れない橋が多数存在するらしいので必要性がないと言われてしまった。
もし車輛の持ち込みが許可されたら使えるかどうかはわからないが、戦車や装甲車などの戦闘車両を持って行こうと思っていただけにちょっとがっかりである。
「乗り物ついてですが、車が駄目ならバイクや自転車は駄目ですか? 馬が存在するのかはわかりませんけど、さすがに星を巡っての調査となると徒歩や動物に乗っての移動は酷な気がするんですが?」
「しかしのう……」
「自転車やバイクなら船にも乗せることが出来ると思いますし、橋もよほどボロボロでないかぎり落ちるということはないと思いますけど?」
「うーむ……そうじゃのう。
しかし、燃料はどうするのじゃ? ウルにはガソリンスタンドなど無いぞ?」
「最近のバイクには電気で動くものもありますし、やり方次第では太陽光発電での充電も可能だと思います。
もしくは、神様の力で燃料が永遠に無くならないという設定は出来ませんか?
ちなみに自転車に関しては職場のホームセンターで自転車売り場の担当として、自転車技士と自転車安全整備士の資格を取得しているので自転車が壊れても直せます」
「燃料が無くならないバイクか……」
「ええ。 イーシアさんや御神さんの力で出来ませんか?」
「出来んことはないが……どんなバイクを持って行こうと考えておるのじゃ?」
「そうですねえ……普通自動車やフォークリフトの運転免許なら持ってましたが、さすがに大型自動二輪の免許は持っていなかったので排気量の大きいバイクは乗れませんけど、原付程度なら乗れますね。
頑丈というところで言えばスーパーカブ辺りが理想ですね」
「うーむ、原付か……どう思う、御神?」
「そうですねえ……確か先輩の星では化石燃料の採掘技術や内燃機関の開発は?」
「まだないのじゃ」
「そうなると……でも、確かに広大な星を巡っての調査となると馬などでは効率が悪いですね」
(そうですよ、御神さん。
ファンタジーじゃ移動手段として馬がよく登場しますけど、馬の面倒を見るのって大変ってテレビで言ってましたよ。
飼葉を与えたり、お湯を飲ませたりマッサージしたり、蹄鉄を変えたりと大変なんですよ。
そんなことをしていたら、目的の現場に行くまで何日も掛かってしまいますよ)
「でしょう? ですからせめて、原付と自転車が欲しいのです」
「うーむ、しかしのう……」
「私にはイーシアさんみたいな力が無いのですし、一瞬で大陸から大陸へと移動する手段が無いので許可していただけませんか?」
「むう……あいわかった。
バイクと自転車の持ち込みを許可しよう。
ただし、持って行くのはそれぞれ1台ずつじゃ。
それで、良いなら許可しようぞ?」
「ありがとうございます。 1台ずつで充分です」
よかった。
これで、移動手段はなんとかなりそうだ。
あとは……
「銃なんですが、これは許可してもらうわけには……いけませんか?」
「銃のう……仮にわしが許可したとして、どのような銃を持って行こうと考えておるのじゃ?」
「そうですねぇ……拳銃に
「……お主はウルに戦争を起こしに行くのかえ?」
(あ、呆れてる顔をしている。
でも、しょうがないじゃん。
俺はガンマニアでミリターマニアですよ?
そんな人間が、異世界で呪文唱えて魔法を使うとか、魔法の剣で魔物や敵兵と渡り合う姿とか想像できますか?)
やっぱり、現代人の武器といえば銃だろう。
敵の魔導師が呪文唱えている間に弾丸を叩き込む。
大軍を前にして、重機関銃や迫撃砲、機関砲で弾幕を張って粉々にしたり、巨大な魔物や魔族をミサイルや対戦車ロケット砲で吹っ飛ばす!。
敵軍の大将を対物狙撃銃で狙撃して頭を体を木っ端微塵にする。
モエマスワー。
(……って、やばい。 本当に戦争しに行くみたいだ)
いや、これは
そう…………決して。
「イーシアさん、私は決してウルに戦争をしに行くわけではありません。
でも、ウルの住民と同じ土俵で命を懸けた戦いをするつもりはさらさらありません。
そういった戦いは地球からの転生者達にお任せしますよ。
私は彼らの騒動の現場まで行ったり、大陸や島を周って崩壊の予兆を調査をするのが貴女方から与えられた使命ですが、日本のような国で育った人間がいきなり
それだったら、銃を趣味としていた自分としては銃で身を守りたいというのは自然な考えではないでしょうか?」
「しかしのう……」
(うーん、まだ納得してないなあ、イーシアさん。
どうにかして銃を持っていく許可を取り付けたいけど、どうやって納得してもらうかな?)
とその時、歴史が動いた。
いやいやその時、助け舟が出た。
「良いのではないですか? 先輩?」
「御神……」
「孝司さんの言うことも一理あります。
今から孝司さんの体を作り変えて魔法や剣術を使えるようにしてもウルの住民とは歴然とした経験値の差があるため、万が一の危険がないとも限りません。
それでしたら孝司さんにとって知識と経験が豊富な銃器のほうが遥かに安全です。
それに転生者以外のウルの住民は銃や弾丸の存在を知りません。
これは孝司さんにとって一種のアドバンテージにもなりますし、開発技術も持ち合わせていないでしょうから短期間で銃器がコピーされる危険性もないと思われます」
(おおっ! そうですよ、御神さん!)
まさか御神さんから助け舟が出されるとは思ってもいなかった。
御神さんは地球の神様で銃の危険性を承知しているだろうから、当然反対されるとばかり思っていた。
そして御神さんはこうも付け加えた。
「それに私が見たところ……孝司さんは現時点で非常に強大な魔力の種を体内に宿してます。
地球では魔法が一切必要ないので種は芽吹いていませんが、ウルに行ったら確実に種が芽吹いて強力な魔法が使えるようになります。
魔法の知識さえない孝司さんが殲滅級の魔法をうっかり使うことの方こそ、ウルにとって危険なのではないでしょうか?」
(なに、魔力の種って? そんなもんが俺の体の中にあるの?)
聞き慣れない言葉に対して俺の頭の中は疑問符で一杯になる。
魔力の種とは一体何なのだろうか?
「やはり、御神も気付いておったか……」
しかもイーシアさんも知っていたってどういうことなのだろうか?
これは魔力の種について聞いておかないといけない。
「あの……魔力の種って何なのですか?」
「ん? ああ、『魔力の種』とは要するに人間の体の中にある魔力発現の元となるものでの。
これはウルだけではなく、地球や他の星の住民も持っているもので魔法が使える世界で初めて機能することが出来るシロモノなのじゃ。
で、魔力の種が強力であればあるほど比例して強力な魔法を発動できる。
因みに魔力の種が小さくとも修行次第では大きくすることも不可能ではない」
「なるほど。
しかし、私が強力な魔法を使えることのどこが危険なんですか?」
これに答えたのはイーシアさんではなく、御神さんだった。
「孝司さんはウルの住民ではないというのが一番の理由です。
地球からウルへ転生された人々はそのほぼ全てが赤ちゃんとして生まれて成長するため、ウルの風習や文化を理解し吸収して次第に大人になっていきます。 その過程で魔法や剣術を覚えたり使ったりする機会に恵まれることもあるのですが、孝司さんにはそういった経験がない上に強力な魔法が使える可能性が高いとなると……」
「ああ、分かりました。 そこまで言われれば何を言いたいのかよくわかります」
なるほど。
確かに魔法や剣の素人が知識や経験もなしに強力な魔法や業物の剣を使うとか、はっきり言って危険以外の何者でもない。
しかし、それで言えば俺も本物の銃に関しては完全に素人だ。
実銃を触る機会なんてあるとすれば自衛隊の駐屯地祭や米軍の基地開放の時くらいしかない。海外旅行も高校の時の修学旅行で行っただけで大人になってからは全く行ってないので、海外のシューティングレンジでも銃は撃っていない。
しかし、俺は敢えてそこには言及しない。
俺が実銃について素人であるとバレたら異世界で銃が撃てなくなってしまう恐れがあるからだ。
「でも、それならなおのこと銃で自分の身を守りたいのですが?」
「それでも先ほどお主が言ったような沢山の種類の銃が必要なのか?
ちと、多すぎるような気がしないでもないが?」
「当然ですよ。
異世界という私にとって全く未知の場所に行くのですから。
しかも、お定まりの魔族や魔物もいるようですし。
そんな種族がいる場所を含めて様々な場所を巡るとなれば、当然拳銃やライフルだけでは心許無いですよ」
「ふ~む……ま、良いじゃろう。
そういうことならば、銃の持ち込みを許可しよう」
(おおっ!!
やった!! やったよ!! イーシアさん折れたよ!?)
俺が内心喚起していると、イーシアさんはそんな俺の心を見透かしたようにこう言い放った。
「ただし、幾つか条件を出す。
これを飲めなければ銃の持ち込みは許可せん」
(え?
何、条件って?
まさか、フルオート機能が付いた銃はダメとかじゃないよね?)
ちなみに、イーシアさんが出した条件は以下のようなものだった……
一、使用する弾丸の薬莢は排莢後、一定時間が経過すると消滅することとする。
一、地雷は設置後、長期間放置された物については一定期間が経過すると消滅する。
一、時限信管付き擲弾・砲弾は発射後不発の場合、一定時間が経過すると消滅する。
一、劣化ウラン弾などの放射性物質を使用する弾丸の使用は一切禁止する。
一、戦車・戦艦・戦闘機などの大型兵器は持ち込まない。
一、細菌兵器・生物兵器・核兵器・クラスター兵器の使用は禁ずる。
一、武器の譲渡、貸与についてはその都度許可を求めること。
あと幾つか条件があったと思うのだが……まあ大体こんな感じだである。懸念していたフルオート火器や爆発物、各種携帯型対戦車火器や対空ミサイルに対する言及はなかった。
まあ、これらの条件を飲むことに異論はない。
ないのだが……一つ不満があるとすれば、野外で安全なシェルター代わりにしようと思っていた大型の装甲車を持ち込めなかった点だが、これはしょうがない。持ち込みたい銃や武器については型番や製造国を明記して御神さんに渡せば用意してくれるらしい。
「ところでイーシアさん」
「なんじゃ?」
「私も持ち込ませていただく物品について幾つかお願いしたいことがあるのですが、良いですかね?」
「もう銃や乗り物は許可したぞ。 それ以外で何かあるのかえ?」
「ええ。 今までに許可されたものについてちょっと……」
「うん?」
俺がお願いしたのは持ち込む物品の補給と耐久性についてだった。
弾薬や燃料などが枯渇してしまわないように定期的に補充をしてほしいことと、持っていく物品が壊れたり錆びたりしないようにしてほしいということをお願いした。
「なるほど。
確かにバイクや銃を持ち込んでも、直ぐに燃料や弾が無くなるのでは意味がないなのう」
「ええ。
食料はストレージ内に保存が可能と言われていましたので現地で調達して持ち歩くことも可能だと思いますが、化石燃料や銃が存在しない世界ではガソリン、銃弾などは皆無でしょうからせめて燃料と弾薬の補充だけでもお願いしたいのです」
「……ふむ。
よかろう、燃料や銃弾については自動的に補充されるようにしておこうぞ。
物品の耐久性についても絶対に破壊、故障や作動不良が発生しないようにしておく。
あとは……お主の体じゃな」
「え? カラダ?」
「そうじゃ。
言語の事についてはさっき話したが、お主は長期間ウルで調査を行うのじゃ。
当然、怪我や病気になることも考えられる。 そうならないようにお主の体を弄るのじゃ」
「それはありがたいですが……まさか私をサイボーグにするとか言いませんよね?」
(正直嫌だよ、サイボーグって)
俺は異世界に行くのであって、ネットの海に潜れるような体やロボット警官のような体にはなりたくないのだ。
「安心せい。
お主の免疫や筋力、骨などを弄って多少の病気や怪我にも耐えられるようにするだけじゃ。
別にお主の体を機械化しようというわけではない」
「そうですか。 ならお願いします」
「うむ。 ついでにお主の外見も弄って若くしてやろうぞ」
「はあ……?」
「今のままの外見では顔の濃い若干老けたオッサンじゃからな。
これでは異世界の若い
体の身体能力を上げるのなら、それ相応の若さを持ち合わせている方がなにかと都合も良いじゃろうからのう」
「はあ……」
まあ神様の力で若くしてくれるのならとてもありがたいのだが……
「じゃあついでに髪ももう少し黒くしてもらっていいですか?
それと肌荒れと髭の濃い部分もどうにかしてください。 冬の乾燥肌対策と紫外線対策も一緒に」
「何だかえらく注文が多いのう……まあ、良いか。
あんまり二枚目すぎると男どもの不評を買って目立つであろうから、中の上から上の下くらいの顔で明るく優しい親しみやすい雰囲気にして外見年齢を若くしといてやろう」
「ああ、それが良いですね。
それなら変なトラブルに巻き込まれなくてすみそうです」
「あとは……そうじゃ、わしからの特別サービスで精力超絶倫にしといてやろうぞ。
これでウルの女どもをヒイヒイ言わせてやれ」
(ちょ、ニヤニヤと下品な笑顔浮かべながら何変なサービスを勝手に追加してくれちゃってるの!?
ヒイヒイ言わせるとか、そんなの俺に必要ないですよ!!
もちろん女性とのベッドでのスポーツは大好きだけど、そんなドーピングいらないって!!)
突然告げられた自分の体の絶倫化について俺は反射的に拒否の言葉を口にしていた。
「んなのいりませんよ!
なにニヤニヤしながら俺の股間見てるんですかイーシアさん!?
……って、御神さんも赤くなって俺の股間見てないでなんとか言ってくださいよ!?」
「い、いえ。 その、凄いなあって思って……」
「いやいや、凄くもなんともないですから。
普通ですから、普通!
大体そんなことになったら、相手の女性が死んでしまいますよ!」
「ほう? 死んでしまうほど普段から激しいのかえ?」
「何言ってんですか、あんたは? 普段も糞もありませんよ!
普通ですよ、普通!」
まったく!
今まで真面目に話してきて何でいきなり下ネタに振るのだろうか、この神様は。
「冗談はいいですから、体いじるなら早くしてくださいよ。
まさか手術とかが必要とかって言い出しませんよね?」
「そんなこと言うわけなかろう。 もう体の改造は終わっておる」
「は? 終わってる?」
(うそぉ? 痛みも違和感も何にも感じなかったぞ?)
「あの……具体的には何処をどう改造したんですか?」
「まず、骨の硬さをチタン並みのにして筋力を5倍にして反応速度と瞬発力を3倍にした。
あとは、お主の注文通りに髭の後をなくして、体毛を薄くし肌荒れと乾燥肌を無くして肌に潤いを追加して紫外線対策を施した。 他には感染症や微生物、寄生虫対策にアレルギー・食中毒・毒物・劇物・呪術対策と自然治癒力と五感、環境適応力の大幅な向上じゃな。 それと魔法の感知能力と絶倫化じゃ」
「へえ、それは凄いって……だから絶倫はいいですって!」
「まあまあ、これはサービスじゃ。
恐らくお主はあとでわしに感謝する時が来ると思うぞ?」
「誰が絶倫になって感謝するんですか? 倦怠期の夫婦じゃあるまいし」
「まあ、今は黙って受け入れておけ」
もうこれ以上言っても仕方ないことだろうから、もういいだろう。
それにしても、本当に俺の体は変わってしまったのだろうか?
全然、違和感がない。
筋力が強くなったことも骨が固くなったことも全然わからない。
まあ神様が言ったことなら疑う余地はないし、大丈夫だろう。
(あ!? 顔を触ってみると肌がつるつるしてて、髭の跡がない!)
軍用コンパスに付属している鏡で顔を見るとちょっとハンサムになって若返ってるのが一目で分かった。見た感じは大学卒業した時くらいの雰囲気に近いから23歳程度だろうか?
「神様すげぇ!」である。
「よし!
あとはお主がウルに持っていく物をリスト化し、御神がそれを用意して手続きを終えれば完了じゃな。
お主は隣の部屋に移ってリストを作るがよい。
わしの私物のパソコンとプリンターがあるから、それを使って持っていきたい物を見繕って、リスト化するのじゃ。
ただし、怪しいサイトなどは見るなよ?
リストをプリンターで出力し終わったら、ここに戻ってこい」
「わかりました。 じゃあ、パソコンお借りします」
「うむ」
俺はイーシアさんから指示を受けると隣のあの雷親父が息子をよく叱っている部屋へと移動した。そこにはテーブルがあり、その上にノートパソコンとプリンター複合機が乗っているが、これらを利用してリストを作れということだろう。
(それにしてもこの家は上下水道やガス、電気にネット回線や電話回線の接続や維持はどうしているのだろう?)
そんなことを考えながら俺はパソコンとプリンターの電源を入れる。
パソコンを起動すると直ぐに俺はインターネットで異世界に持っていく予定の物品の型番や製造国の検索を始める。
一度異世界に行ったら最後、やり直しは効かないため何時になく真剣に検索する。日本語や英語、時にはロシア語やポーランドごなどを打ち込んで目を皿のようにして検索していく。
そしてそれをリスト化して行く作業を繰り返す。
結局、作業は3時間半くらいかかったが作業を終了した俺が居間に戻ったとき、俺を待っていた神様2柱は嫌な顔一つせず、俺がリストの束を御神さんに渡すと御神さんはそのまま部屋を出て行った。
恐らくリストに載っている物品を用意しに出て行ったのだと思うが、よくよく考えるとあれだけの品をどうやって用意するのだろうと不思議に思った。
まあ、相手は神様だから人間が作った物なんてすぐに取り揃えられると思うけど、型番とかメーカー名とか果たして分かるのだろうか?
その後、御神さんが戻って来るまでの間、イーシアさんと他愛もない世間話をしたり、ウルの現状を聞いたりしていたが、御神さんが居間に戻ってきたのはそれから1時間後くらいであった。
◇
「先輩、用意が整いました」
「おお、そうか。 ご苦労じゃったのう、御神」
「ありがとうございました。 御神さん」
「いえいえ。
じゃあ孝司さん、
「はい?」
「だって孝司さん、
「え? 駄目ですか?」
「駄目に決まっておろう! 荒野や森の中に降りるならともかく、お主が降りるのはウルでも有数の規模を誇る大国の首都の近くじゃぞ?
そんなまだら模様の戦闘服など、街中で目立ちまくってしまうに決まっておる!
目立たないように私服に着替えるのじゃ」
「でも、私服って言ったって向こうでは結局目立ってしまうと思うのですが?」
「
向こうは今の日本と同じ冬じゃから、寒くない格好に着替えるのじゃぞ!」
「はいはい。 わかりましたよ……」
「孝司さんの私服は自宅にあった物を全部ストレージ内に入れてあります。
ストレージは『開け』と念じれば扉が出現しますので、その中に手を入れて出したい物を思い浮かべると該当するものが取り出せます。
もし、ストレージ内に該当物が無い場合は取り出せませんので注意してください。
『閉じれ』と念じるとストレージの扉は閉まりますが、腕や体が入ったままではストレージの扉は閉まりません」
「取り出す物が大きかったり重かったりした場合はどうするのですか?」
「その場合は手では取り出せませんのでストレージに手を入れたまま『出てこい』と念じれば自動的に現実空間に出現する仕組みになっています。
逆にストレージ内に戻す場合には、触れたまま『戻れ』や『仕舞え』とか念じるとストレージに収納されます。
ストレージの収納能力は最大500トンまでなので、それを超えると自動的に収納できなくなります。
それと容器に入っていない液体や気体、生き物は収納できません」
「わかりました。 じゃあ、ちょっと着替えてきます。
それと一緒に装備も出してきますけど、大丈夫ですか?」
「おお、大丈夫じゃぞ。
焦る必要はないからきちんと準備して来れば良い。
間違っても戦闘服や奇抜な格好をするではないぞ?」
「わかりましたよ。 じゃあ、着替えてきます」
そう言って俺は先ほど武器のリストを作っていた部屋に戻った。
まあ、服については外出する時の格好でほぼ大丈夫だろう。
問題はどの銃やナイフ、弾薬などの装備をストレージから出すのかが迷う。
(武器弾薬は選り取り見取り。 一番最初はどの銃を装備しようかな?)
俺は先ほど作ったリストを思い出しながら隣の部屋へと向かって行った。
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