終わらない話 第四話
フリーダがオモチャ箱へと帰って来たのは、それからもう数日経ったときのことでした。
バルルルルル……バルルルルルル……
ごうっと風が吹いて、オモチャ箱の蓋が開きました。
「おかりなさい、フリーダ」
「帰ってきてくれて嬉しいぜ、フリーダ」
「待っていたよ、フリーダ」
「ただいま、みんな」
かつて聞いたような優しい声でフリーダはオモチャ箱の住人にそう挨拶をしました。
「大丈夫でしたか?」
ステラがそう尋ねると、
「大丈夫だよ」
フリーダは応えました。
残念ながらステラにはまだフリーダの姿をちゃんと見ることはできません。ただ、目の前に彼女がいることと彼女がステラ自身よりも大きな体であることは何となく分かるようになっていました。
それに、その体の大きさはステラをちょうど縦に三回積み重ねたくらいの大きさだということも分かりました。そもそも、オモチャ箱の住人たちの中ではステラの体が一番小さいようなのでした。
バルルルルル……バルルルルル……
ベルッタベルッタの鳴き声は相変わらず響いています。
「今日は僕の番みたい」
そう言ったのはアルドでした。
「じゃあ、またね」
アルドの声は段々遠のいていて、やがて聞こえなくなりました。
■
「フリーダ、訊いても良いですか?」
「うん」
「ベルッタベルッタに呼ばれて、オモチャ箱から出て、」
「うん」
「その後は、一体どうしているんでしょうか。つまり、その、一体何を?」
「うーん」
ステラがフリーダにそう尋ねた時、ステラは怖気を感じてハッとしました。辺りを見回すと、住人たちが自分たちの会話を一時中断して、一斉にステラをじっと見ているのを感じました。しかし、どうやら彼らに敵意はないようでどこか好奇心を持って、あるいは興味津々に視線を向けているようなのでした。
「そうね」
珍しく、フリーダは口ごもりました。けれど、言いたくないというわけではなさそうでした。どうにかして言葉にしたいのだけれど、適切な言葉が頭から駆け足で逃げてしまっているような気配でいるようでした。
しばらく、フリーダはうーんと唸っていましたが、
「……分からないわ」
やがて、そう言いました。
「分からない……?」
「ええ」
ステラはもう詳しく尋ねたい思いで必死に質問したいことを頭の中から探しましたが、諦めました。フリーダ自身が知らないなら、いくら尋ねても無駄でしょうから。
他のみんなは知っているのかしら。
ステラは暗闇に視線を向けました。オモチャ箱のあちこちで住人たちが蠢いて、ステラとフリーダから距離を取っているようでした。
まるで誰も彼も、二人に関わりたく無いとでも言うように。
「嫌なことをさせられているとか、そういうわけじゃ決してないの」
フリーダは慌てた様子で言葉を紡ぎました。
「ただ……そうね、言葉がないの」
考えながら、あるいは噛んで含めるように言葉はステラを宥めつつ優しく響きました。
「ベルッタベルッタがやっていることを表せる適切な言葉を私は知らない。そもそも、そんな言葉は存在しないのかもしれない。いずれにせよ、貴女の番だってすぐに来ると思うわ」
バルルルルル……バルルルルルル……
ステラは遠くにベルッタベルッタの鳴き声を聞いたように思いました。もちろん、さっき鳴いたばかりなので、こんなにすぐに鳴き声が聞こえるわけはないと分かってはいました。
聞こえるはずのないその鳴き声にステラは思いを馳せます。それに、フリーダの言葉にも。ベルッタベルッタは恐ろしくはないというフリーダの言葉。
けれどやっぱり、ベルッタベルッタは恐ろしい存在に違いないとステラ自身は思ってしまうのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます