第9話 歩み



 歩くたび、進むたび、消えていくものがあった。


 何も無くさないようにと、何も失わないようにと、そう思っていたのに。


 行くたびに、踏み出すたびに、失っていくものがあった。


 どれほど強く願おうとも、人一倍努力をしようとも、いつの間にかそれは手のひらからするりと抜け出し、落ちてゆく。


 悲しくはない。無くしてきたものがどんなものだったかを、忘れてしまっているから。


 苦しくはない。この道こそが正しいと信じて、今まで歩んできたのだから。


 それでも、寂しいと思ったことはあった。


 誰に理解をされることもなく、どこに寄る辺も持たず、ひたすらに歩みを止めることなく進み続けてきた。


 傷ついて、傷つけて、それでも進まなければならなかった。


 恨まれても、憎まれても、歩みを止めることは許されなかった。


 進み続けなければ、信じてきた道が途端に崩れてしまいそうで。振り返ってしまえば、後悔が四肢を縛りつけてしまいそうで、怖かったから。


 だからここまで歩き続けてきた。


 無くしてゆくものに気付きながら、失っていくことに慣れながら、傷つけることを良しとして、傷つくことを受け入れて、ここまで歩き続けてきた。


 その先に、私が願って止まずに、ひたすらに追い求めていた答えがあると、盲目なまでに信じて。


 私は今日も、この道を歩いてゆく。



 報われないと、分かっていても。


 私はこの道を歩いてゆく。


 歩き続けてゆく。


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心の欠片、果ての記憶 和菓子屋和歌 @wakawaka

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