第9話 歩み
歩くたび、進むたび、消えていくものがあった。
何も無くさないようにと、何も失わないようにと、そう思っていたのに。
行くたびに、踏み出すたびに、失っていくものがあった。
どれほど強く願おうとも、人一倍努力をしようとも、いつの間にかそれは手のひらからするりと抜け出し、落ちてゆく。
悲しくはない。無くしてきたものがどんなものだったかを、忘れてしまっているから。
苦しくはない。この道こそが正しいと信じて、今まで歩んできたのだから。
それでも、寂しいと思ったことはあった。
誰に理解をされることもなく、どこに寄る辺も持たず、ひたすらに歩みを止めることなく進み続けてきた。
傷ついて、傷つけて、それでも進まなければならなかった。
恨まれても、憎まれても、歩みを止めることは許されなかった。
進み続けなければ、信じてきた道が途端に崩れてしまいそうで。振り返ってしまえば、後悔が四肢を縛りつけてしまいそうで、怖かったから。
だからここまで歩き続けてきた。
無くしてゆくものに気付きながら、失っていくことに慣れながら、傷つけることを良しとして、傷つくことを受け入れて、ここまで歩き続けてきた。
その先に、私が願って止まずに、ひたすらに追い求めていた答えがあると、盲目なまでに信じて。
私は今日も、この道を歩いてゆく。
報われないと、分かっていても。
私はこの道を歩いてゆく。
歩き続けてゆく。
心の欠片、果ての記憶 和菓子屋和歌 @wakawaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。心の欠片、果ての記憶の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます