第1章 内なる力の覚醒 後編


──北大路・ロゼイア──

「この辺、だよね…」

 ロゼイアは誰に問うでもなく独り呟く。どれ程走ったろうか。噴水広場から随分走った気がする。ロゼイアは息を整えながら周囲を確認するも悪魔の姿は見えない。まだ先か。しかし、このまま走って行けば町から出てしまうのではないか。だとすればそれが狙いか。いや、そもそも下級悪魔にそこまでの知能があるのか。

「誰かが操っている……?」

 いったい誰が。自分が狙われる道理は無いはずだ。何故なら──

「悪魔の気配…っ!!」

 ロゼイアは咄嗟に足に魔力を溜めて真横に跳ぶ。その瞬間そこにラビットが降り立つ。毎回毎回人を踏み潰そうとしやがって芸の無い奴め。何度目だ。ロゼイアはそう考えつつも距離をとって息を吐いて気合いをいれる。どうやら1体だけのようだ。もしかすれば何処かにまだ潜んでいる可能性もあるがとりあえず今は目の前のラビットを倒すことに専念しよう。

 ロゼイアは目の前のラビットに意識を集中させつつも周囲にも気を配る。感じた気配は一体だけのものでは無かったのだ。ならば他の悪魔も確実にいる。考えにくいがこのラビットは囮である可能性もあるのだ。だが、

──一撃で決める!!

 そう。一撃で仕止めれば良いだけである。ロゼイアはラビット目掛けて走って行き中ほどまで近づいたところで足に溜めた魔力を使って真っ直ぐ前に跳ぶ。左手を前に突き出し右手を引き絞ると右手に魔力を集中させる。ラビットの直前で左足を地面につけ着地するも勢いを殺しきれず数センチ地面を滑る。そして止まりかけたその瞬間によりいっそう右手に魔力を力をこめて右足を踏み込むと同時に右手の渾身の一撃で真上へ殴り上げる。家よりも高くあがったところで静かに霧散して消える。


「魔力を集中させる??」

 冥屋跡地から町へ向かう道中、打撃では悪魔を退治できないため自分も何か武器を持とうかと言ったロゼイアにガラハッドが魔力を集中させろと言ったのだ。

「あぁ。打撃でもその攻撃に魔力を込めれば悪魔相手にも有効だ。まぁ魔力に拘らなくても精霊術を纏えばそれも有効になる」

 魔力も使い方次第で自分より体の大きな物を吹っ飛ばしたり大きく跳躍したり大地を殴ったり蹴ったりで割ることも可能だと続けた。


「とりあえず1体っと。他には……」

 ロゼイアが辺りを見回すも現れるどころか気配すら感じない。

 いや微かだが感じる。だが姿は見えない。だとすれば考えられる場所は

「上!?」

 足に魔力を集中させて一気に後方に跳躍するとロゼイアが寸前まで立っていた場所に巨大な何かが硬質の音をたてて落ちてくる。土煙の中ロゼイアが見たものは箱形にまとまった頭胸部に5対の歩脚があり、このうち最も前端の1対が鉗脚かんきゃくとなる。触角は2対あるが、どちらもごく短い。それは正に蟹のそれであった。しかし異常に大きい。荷車程はあろうか。この蟹の名を「ジャイアントクラブ」という。中級悪魔である。鉗脚──ハサミによる切断と打撃攻撃に加え堅牢な甲羅に覆われており他の中級悪魔に比べ防御力攻撃力共に最高クラスであるが。蟹ゆえの特性として前後方向の動きは非常に遅い。しかし。他の中級悪魔達と比べ圧倒的に違いがあるのは、

「泡!?」

 そう。水属性の泡攻撃である。攻撃、といってもやはり泡なのでダメージは無いが火の魔法や精霊術の力が低下するばかりかクラブ自体が水属性を持っているため火属性の攻撃は効きにくい。つまり、火の精霊術の特性である破壊力は期待できないのである。しかしそんなことはロゼイアには関係ないのである。何故ならこれもまた冥屋跡地から町に向かう道中での話になるのだがロゼイアには精霊術の才能があまりないと言うことが判明した。

 精霊術の才能とはすなわち精霊の力を如何に引き出せるかというものである。普通は精霊術を駆使したところで大した攻撃にはならずほとんどが使用者の補助程度である。

 魔法、精霊術共に各属性には特性がある。基本的な特性は「地属性の硬化」「水属性の鎮静」「火属性の破壊」「風属性の増速」であるが、この他にも様々な特性がある。

 このクラブの泡攻撃は水属性。この泡が体に付着すると水の鎮静特性により他の属性の効果を鎮静、つまり軽減させてしまう。それをロゼイアが知るよしもないがロゼイアは足に魔力を僅かに集中させて泡を避けると同時にクラブの方へと飛び魔力を集中させた右手の拳で殴る。が、頑丈なクラブの甲羅には傷ひとつ付かない。

「さすがに堅いなぁ」

 クラブの甲羅に着地してからそれを足場にして跳躍し距離を取る。

「でも。大丈夫。きっと、できる!」

 ロゼイアは深呼吸をしてそう呟くと自分を奮い立たせる。

 クラブは器用にゆっくりと百八十度旋回してロゼイアの方を向く。毒々しい紫の巨体は月明かりをぬらりと反射し不気味に赤く光る眼球がロゼイアの姿を捉える。低級と中級悪魔は知能が低いがこのクラブはそれが顕著けんちょである。ロゼイアの方向を真っ直ぐ向いたところで横方向にしか動けないのだから意味がないではないのか。そちらの方がロゼイアには都合がいいのだが。

 そこで思考を中断しクラブに真っ直ぐ走り出す。クラブは右のハサミを振り上げて攻撃圏内に入るとハサミを振り下ろす。ハサミは町の地面に当たると硬質な音を立てる。地面には保護魔法がかかっているのか無傷だがそうでなければ確実にえぐれていただろう。ロゼイアはハサミをギリギリの所で真横に避け足に魔力を集中させて跳び上がる。右の拳に魔力をありったけ集中させると同時に地属性の精霊術も施す。確かにロゼイアに才能はないが使えない訳ではない。僅かでも効果があるのなら使うにこしたことはない。

 クラブは左のハサミを広げる。切断攻撃だ。空中のロゼイアはそのハサミに切断される前にハサミを蹴ってクラブの背中へと跳ぶ。ハサミがガシャン!と空中で音を立てるのを背にロゼイアは真っ直ぐ跳びそして、

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 右手の渾身の一撃を背中の甲羅へと加えると手首と肘の中程まで貫通する。それを力ずくで引き抜くとそこから霧状のものが吹き出しクラブもすぐに霧散する。

「はぁはぁ、うっ…」

 右手に痛みを感じ見てみると右手が僅かに紫に変色していた。が、すぐにそれは消えていき痛みも消えていく。

「なんだったの?」

 後でガラハッドかケイに聞いてみよう。それが懸命だろう。自分で考えても分からないのだ。それより他に悪魔はもういないだろうか。集中しても悪魔の気配は全く感じない。ならばもうここにいる理由もないので中央区の噴水広場に帰ろうときびすを返した時。

「へぇ。中級悪魔のジャイアントクラブを倒すとはなぁ。でも瘴気にやられたのにそれが消えたのはどういうこと?」

「っ!黒ローブ!!」

 声の方を向くとそこには黒ローブを羽織り、顔を隠した人が1人立っていた。声音から察するにロゼイアやガラハッドとそう歳も変わらぬであろう少年の声だ。ロゼイアが以前出会った黒ローブの男とは別の。少年は腰に提げた2本の湾刀──ククリを手に取ると逆手に持ち構える。

 その瞬間、ククリ使いの黒ローブはロゼイアの方へと走ってくる。その足にはライトグリーンの光、風の精霊術が──

「はやっ……」

 上体を後ろに反らすと目の前をククリの切っ先が横に薙ぐ。ロゼイアは地面を蹴って後ろに跳び手を地面について更に跳ぶ。それで距離をとると共に向き直る。

──まずいな。さっきので魔力結構使っちゃったし。

 倦怠感けんたいかんが体に残る。魔力を消費しすぎると体力もついでに消費してしまうのだ。圧倒的に劣勢である。噴水広場まで逃げるという手もあるのだが相手が風の精霊術を使うとなれば逃げきるのは難題だろう。だからといってこの状況で戦って勝てるとは思えない。ならば時間稼ぎしかないだろう。帰るのが遅ければガラハッドかケイが応援にくるはずである。それに丁度聞きたいこともあったのだ。

「あ、すごいすごい。流石は冥屋の騎士ってところか。少しは楽しめるかな」

「どうして僕を狙う。目的はなんなの?」

「いずれ分かるよ。いずれ、ね」

 言い終わらぬ内にククリ使いが突進してくる。右手の横薙ぎをしゃがんでかわすもすぐに左手の追撃がくる。

「くっ!!」

 咄嗟に真後ろに跳んで避けるがそれを見越していたククリ使いは前に跳んで距離を詰めようとする。

 が、次の瞬間ククリ使いとロゼイアの間に何かが飛来する。飛来したそのなにかは地面に突き刺さる。

 果たしてそれは針だった。針、といっても布を縫い付けるような小さな針ではない。筆と同じくらいの長さがあり地面に突き刺さっているのと反対側も尖っている。

 更に飛来する針をククリ使いは避けながら後退しロゼイアとの間に距離ができる。

「そこまでよ。貴方達何者?町をこんな風にしたのはどっちかしら?」

 声のする方を向くと屋根の上に女性が立っている。背中の中央ほどまで伸びた美しい黒髪が夜風を受けてそよいだ。右手には杖を持っており魔法使いであることが見て取れた。

「おねぇさん誰?邪魔するなら──殺すよ」

 ククリ使いの言葉を意に介さずロゼイアとククリ使いを交互に見る。右手に持った杖の周りには赤いオーラの様なものが渦巻いている。恐らく火系の魔法だろう。

「待ってくれ!!ネロ!」

 声と共にロゼイアの真横を一陣の風が吹き抜ける。風は緑色の光の残滓ざんしを残していた。ロゼイアがそれを認識した直後剣と剣がぶつかり合う様な金属音が目の前からする。はっとして前を見るとククリ使いと対峙するガラハッドがそこにいた。

「2対1か。部が悪いな……」

「3対1だ…!!ロゼイア!!」

 ガラハッドがククリを弾くのと同時にククリ使いの死角からロゼイアが出てくる。ロゼイアは拳を固く握り脇を閉め正拳突きをするがそれはかわされる。が、それを先読みしていたように魔法使いの女性――ネロの火系統魔法、「ファイアーボール」がククリ使いを襲う。それをもろにくらうも両手のククリを盾にする。が、そこそこのダメージがあったようでククリ使いのローブが燃え始めるとククリ使いはそれを脱ぎ捨てる。中から出て来たのはロゼイアの見立て通り、少年だった。金にも似たクリーム色の長い髪を首の後ろでくくっている。瞳はロゼイアと同じ黒。顔立ちは幼く声音で察した通りロゼイアと同じ年頃かと思われる。

「ちっ、そろそろ潮時かなぁ…」

「待てっ!!」

 ガラハッド達に背を向け駆けていくククリ使いをガラハッドが追いかけようとするがククリ使いはすぐに闇に消える。代わりに現れたのは3体の大きな影。

 果たしてそれは、中級悪魔「ハウンドウルフ」である。普通の狼より大きいがそれほど巨大と言うことはなく成人男性と同じほどの大きさである。

「まだいたのか……!!」

「違うわ、これはさっきのククリ使いが召喚したものよ!」

「なっ……!!」

 悪魔の召喚には代償が必要となる。その代償とは悪魔によっても様々であるがその多くは「魂」または「命」である。精霊術の使用にも代償が必要となる。上級悪魔を召喚し契約すれば人の一生の半分以上を消費する。上級悪魔を例としたがそれは中級悪魔であろうと大差は無い。

 それを平然とやってのけるククリ使いとは一体何者なのか。そしてそうまでして冥屋を狙う理由とは何なのか。そこまで考えた所でウルフが襲ってくる。

 1番先に襲ってきたウルフの爪を剣でガラハッドが防ぐと残りの2匹はガラハッドの脇をすり抜け、1体はガラハッドの後方のロゼイアを狙い、1体は屋根上のネロを狙って跳躍する。

「こっちは大丈夫!!」

 ネロはそう叫ぶと詠唱する。すると杖先から炎が吹き出す。火系統魔法「フレイム」である。

 それを顔面にくらったウルフはうめき声を上げながら地面に落下する。一方のロゼイアはウルフの爪を間一髪の所でかわす。

「こっちも、なんとか」

 ロゼイアもそう言うも実際のところ魔力はほとんど底を尽きている。その状態でウルフに勝てる筈がない。が、3対3であるならロゼイアが相手をするしかないだろう。ガラハッドもネロも自分の事で精一杯のようだ。ケイの援軍も期待は出来ない。

「どうしよう……」

 魔力が残り少ないので無駄使いは出来ない。1発で決めるしかない。

 迫り来る次の爪攻撃をもう1度避けて今度は右足で蹴る。それで吹っ飛び怯んだ所に右手の正拳をくらわす。そして倒れると同時に魔力を込めた右足で渾身の踵落としをしようとするも一瞬の差でかわされる。

「くそっ!」

 硬直したところにウルフの頭突きを腹にくらって吹っ飛び壁にぶつかる。

「ロゼイア!!」

 ガラハッドがロゼイアに駆け寄ろうとするがそれをウルフが阻む。

「邪魔だ……っ」

 剣を中段に構え横に薙ぐが伏せて避けられる。すぐに切り返し叩き落とすように垂直に切り下ろすも股の間を潜られ避けられる。

 1つ奥の細道ではネロのものと思われる魔法による音が聞こえる。

「くっ!こんのっ!!」

 ガラハッドは踵を返して応戦する。

 ロゼイアは暫く呻いていたが目前にウルフが迫る。

 ぐるるるるるる

 と腹に響くような低い唸り声を上げ今まさにロゼイアに襲いかかろうとしたとき。

「死、神…?」

 ロゼイアとウルフの間にボロボロのローブに身を包み右手に大鎌をもった何かが現れる。その姿はまさに死神を思わせる典型的な出で立ち。ウルフは動きを止めている。と言うよりも動きが止まっていると言った方が正しいだろう。飛び上がったその瞬間で固まっているのだ。

 一体どうしたというのだろう。ロゼイアがそう思っていると、

『汝に、力を──』

 恐らく死神の声か。少し低い、男の声だ。しかし何故だろうか。その声を、ロゼイアは知っている。知っているどころか聞きなれた気さえもするのだ。そう思った瞬間に世界は再び動き始める。

「力…?」

 世界が時を進めたのに一瞬遅れてロゼイアを光が包む。精霊術のものではない光だ。その光はロゼイアを中心として広がっていき、その光にウルフは怯む。

 光が収縮したとき、光の中から出て来たのは大鎌を持ったロゼイアであった。

「なに、これ?力が湧いてくる」

 不思議なことに魔力が僅かに回復している。右手には先程死神が持っていたような大鎌がいつの間にか握られている。更に魔力の消費による倦怠感もなくなっている。

 怯んでいたウルフは首を振って飛びかかってくる。それを大鎌で防いで受け流し壁にぶつける。そして距離をとるために跳躍する。

「体が軽い……」

 ブンブンと大鎌を振り、構える。大鎌、否、ロゼイアは武器と言われる類のものを扱ったことはないが何故かその大鎌は重量もほとんど感じられず手に吸い付くように馴染み、その大鎌の扱い方を熟知でもしたかのように分かる。走ってきたウルフをまたも大鎌で受けとめ弾き返して蹴り上げる。空中で身動きがとれなくなったところを両手に持った大鎌を上半身を右に大きく捻って振りかぶり、その回転で両断する。

 咆哮と共にウルフが霧散し消えていった。

「なんだったんだろう…?」

「恐らく、修羅しゅらでしょうね」

「修羅…?」

 戦いを終え、一部始終を見ていたネロがロゼイアに歩み寄りながら答える。修羅、という言葉をロゼイアは聞いたことが無かった。

「えぇ、修羅。簡単に言えば内なる己、もう1人の自分の力の事よ」

 ネロ曰く修羅を平たく言えば個々の特殊能力や超能力等とも言われる力で己の心を具現化し力とする事であるらしい。個人によっても大分違いがあるらしくロゼイアのように武器として具現化するものもあれば何らかの形で力として具現化するものもあるのだとか。ネロが先ほど使っていた針も修羅であるらしい。

「内なる己の力……」

 だとすれば先程見た死神が内なるロゼイアの姿なのだろうか。死神。死を司る神の総称。死を与える闇の存在。それがもう1人の自分であるとは到底思えなかった。

「すごい力だよ。誰でも扱える訳じゃない」

 そこに戦闘を終えたガラハッドも合流する。ちょうどその頃教会の方から一筋の光が空に向かって伸びていきそれはドーム型に広がると町全体へ広がっていく。それは普段パーシヴァル達が施している保護魔法だ。

「とりあえずケイ達と合流しよう。状況の整理もしたい」

 そういうと3人は教会へと歩いていく。


──翌日──

昼過ぎ、教会内の礼拝堂の広間にガラハッド、ケイ、ロゼイア、ネロ、パーシヴァル、ランスロットが3人ずつに分かれ向かい合うようにして座り話し合っていた。

「そう。つまり現段階では敵は3人ということね」

 1人目は、ロゼイアを術式によりラビットに襲わせ町全体に術を掛けて町民そして町に被害が出ないようにした術者。朝に町全体を手分けして被害状況を確認したが目立った被害はなく、町民にも怪我人などはいない。それどころか町民たちはみな、ある時からの記憶がなく気が付いたら朝だったというのだ。それが本当だとするならば町民全体に催眠魔法をかけたことになる。術者はそれほどの実力者でパーシヴァル相手にも余裕綽々よゆうしゃくしゃくと闘っていたという。この2人を同一の術者と考えてもいいだろう。

 2人目は、ガラハッドの前に現れた大剣使い。しかもこの大剣使いもかなりの実力者であり、国一番の騎士とも目されるランスロットに中級悪魔を従わせていたとはいえ手傷を追わせている。いくら愛用の細剣を使っていなかったとはいえランスロット程の実力ならば中級悪魔程度一撃で切り伏せることができる。

 そして3人目は、ロゼイアと対峙したククリ使いの少年。実力の程は未だに未知数であり少なくともガラハッドと同等かそれ以上の実力の持ち主であると見える。

「……とりあえず敵という表現をしたけど結局のところどうなの?奴等の狙いはロゼイアなのか冥屋なのか」

 ネロの問いかけにはケイが答える。

「ロゼイアさんが狙われているのは確定ですね。冥屋の方は、そうですね。ロゼイアさんが加入したから狙われ始めた、という線もありますからね」

「ロゼイアと冥屋両方を狙っていると考えたら良いだろうな。ロゼイア一人のために町全体を術にかけるなんて規模が違いすぎるだろう」

 ケイの考えを否定するようにガラハッドが発言する。そう。ロゼイア1人を狙うのであれば町で待ち伏せなどしなくとも冥屋跡地や町へ向かう道中でも襲撃出来ていたはずである。

「そこも気になってるのよね。ロゼイアを殺そうとしていた連中のわりに町や町民に被害が出ないように計らったりと行動に不明な点が多いのよ」

 ネロの言葉に皆が考え込む。確かに人の命を狙うような者達が町の被害の事まで考えるものだろうか。

「もしくは、ロゼイアが狙われるだけの悪事をした、とか?」

 ガラハッドの言葉に皆がロゼイアを見る。 が、それを否定したのは思わぬ人物だった。

「そうは、見えないがな」

 そう言ったのはランスロットだった。その言葉にガラハッドは笑いながら

「冗談だ。俺も本気では言ってないよ」

 そう言いながらロゼイア以外の皆で笑う。

「現状では分からないことが多すぎるわね」

「あぁ。とりあえず情報収集も兼ねて近隣の町村を尋ねてみようと思っている」

 ガラハッドがそう言うとパーシヴァルが何かを思いつき教会の掲示板の方へと歩いていき紙を1枚取ってくる。それをガラハッドに差し出す。

「そういえばベクツール村から依頼が来てるわよ。ついでに済ませて来たら?」

 差し出された紙は依頼状だった。依頼場所はベクツール村であり、依頼主は村の村長であるフリジット・ベクツールである。肝心の依頼内容はと言うと湖の異変調査との事である。この程度ならわざわざガラハッド達が受注せずとも町の自警団や調査団が依頼をこなしてくれる筈であるがどうせ情報収集で村へと赴くならそのついでにこなしてしまうのも悪くはないだろうし何より発注日が1日前、ロゼイアがラビットに襲われ、町に術が掛けられ悪魔が現れたその日である。因果関係があるのかは不明だが何かの手がかりとなる可能性もあるだろう。

「あぁ、分かった」

 ガラハッドは頷くと立ち上がる。そして1度伸びをする。

「さて。そろそろ行こうか」

「そうですね」

「うん」

 ケイとロゼイアの方へ声をかけて剣をとる。

 ガラハッドの言葉にケイとロゼイアが頷いて立ち上がりケイは銃のホルスターを腰に装着すると教会の出口に歩いていく。

「気を付けろよ、3人とも」

 ランスロットの心配そうな言葉にガラハッドは立ち止まり振り返ると

「心配ないよ」

 それだけ言って手をあげてまた出口に向かって歩き始めた。

「待って、ロゼイア」

 ロゼイアを呼び止めたパーシヴァルは皆で座っていた机の隣の机の上から籠手こてを取りロゼイアへ駆け寄って籠手を渡す。

「これは?」

「私からの餞別せんべつよ。これから悪魔達と闘うなら必要になるだろうと思って。術が掛けてあるから昨夜みたいに魔力をめずとも少しの魔力で悪魔を倒せる筈よ」

 パーシヴァルがそう告げるとロゼイアは籠手をまじまじと見た後装着し短く礼を言う。

 そして教会の出口に向かい歩みを進める。

「気を付けろよ。本当に…」

 そのずっと後ろ。ランスロットは誰にも聞こえないほどの声でそうささやいた。

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