第174話 パンツの重要性

「なんで、パンツって履かなあかんの?」


 長男が聞いてきました。

 ズボン履くのに、下にわざわざもう一つ履かんでもええんちゃうの? ということですね。


 素朴な疑問です。

 私も長男ぐらいのときに、母に同じこと聞いたなあ。


「ああ、それはな。昔の人は着物着てて、パンツ履かへんかってん……」


 そして、私は母から聞いたとおりの話を今度は息子に話しました。


 昭和初期。

 デパート白木屋で起きた火災事故。

 逃げ遅れた人々は、ハシゴから降りて逃げなくてはならない状況になりました。

 真っ先に男性はハシゴから降りていきます。

 しかし、婦女子はなかなか、ハシゴに近づこうとしません。なぜか。


「パンツ履いてへんから、下の人にお尻丸見えやろ」


 風にあおられて下半身が露わになることは間違いないからです。


「手で押さえたらええのになあ?」


 側で聞いていた母が、過去に私に言ったことも忘れて、長男に同意を求めました。


「ハシゴ降りてんねんで? そんなん、無理に決まってるやん」

「あ、そうか」


「ええ〜! ☆☆、命懸かってるんやったら、ちん◯◯見られてもいいから逃げるで?」


 信じられないといった表情で叫ぶ長男。


「せや。命危なかったら、お尻丸出しでも逃げやなあかんねんで!」


 長男にそう言いながら、私はもしその場にいたらどうだったかなあ、と考えました。

 私も躊躇していたかも。


 阪神大震災のときにも。

 全裸で就寝する習慣だった女性が、建物の下敷きになり、救出にきた隊員の声に恥ずかしくて応えられず、夜間、自力で脱出した、という話を聞きましたが。


 そのときになってみなければ、どういう行動をとるか、私も分からないなあ。


 ワクチンがあれば助かる命、ではないですけど。

 悲劇的で気の毒ですが、パンツさえ履いていれば助かった命が当時、あったわけなんですよね。


 そう思うと、たかがパンツ。されどパンツだなあと思うのです。


 パンツ以外にもこの例のように、深刻な問題を防げたというアイテムがまだまだ気づかないだけでありそうですね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る