第169話 授乳
出産を終えた母へのご褒美と言えば。
空になったお腹でうつ伏せになれる幸せ。
そして。
なんといっても我が子への授乳のひとときではないかしら。
ふにゃふにゃの我が子をこわごわと胸に抱き、乳首を口元に近づけると。
何かのスイッチが入ったかのように、いきなり赤子は大きく口を開け、乳首に吸い付きます。(吸てつ反射)
三回目ですけれども、やっぱり全身で感動してしまいます。
吸い始めの勢いのいい時に乳首が口から離れて、シャアアア、と噴水のように子供の顔に降りかかる乳(射乳反射)に、うわあああ、と焦ったり。
飲んでる最中にぷいっ、と乳首から子供が顔を離し、こっちを何か言いたげに見上げたり、ニヤーと笑ったり。
コメントはまだエエよ、とこっちも笑ってしまいます。
お腹の底からなんともいえない幸福感のようなものが湧き上がってきて、満ち満ちて。
多幸感、てこういう感じかしら、と思ったりします。
一人目の長男を産んだ時は、授乳の際に胸の奥から乳首に向かってツーンと電気が走る痺れのようなものを感じましたが。
二人目以降は感じなかったなあ。あれは何故でしょう? 乳腺が開通したてだったからかな――
七年前。長男を産んだ病院で私はですね。
豊乳と貧乳の違いを容赦なしに見せつけられることになったのです。
同じ胸です。大きかろうが小さかろうが母乳の出は変わらない。本来の授乳という役割に差は無い。
けれども、ここで豊乳の真骨頂というものを私は思い知らされたのです。
たまたまですが、同じ入院中の産後ママさんたちが私以外みんな豊乳でしてね。
どれくらいのレベルかというと、おへそまで乳首届いちゃうんじゃないかというほどのたわわ過ぎて釣鐘状になってるレベルです。
授乳室で拝見した、そんなママさんたちの授乳法とは。
膝の上に赤子を乗せ、ヒョイと乳首を持ち上げて赤子の口に近づけるだけ。(すでに赤子の顔付近に乳首がある)
……なにその、
私なんて授乳クッション2段重ねて、前のめりになって胸を突き出して、子供の頭をつかんで胸に押し付けてやっと授乳が出来るものを!
あなたたちは、乳首持ち上げてるだけやないですか?!
この授乳方法の差というのは身体にかける負担がかなり違います。
生まれたての赤ちゃんには一日十回をはるかに超える授乳を行うものです。しかも一回、約二十分。この差は大きいですよ。
私が長男産後、ギックリ背中を起こしたのは授乳姿勢のせいです。病院で教わる方法は明らかに一般サイズの方向けの方法。
小胸でアレを忠実に行ってれば、そりゃああんな訳のわからない不自然な姿勢を一日、200分以上行っていればですよ。
誰だってギックリ背中起こすわ!
私と同じ希少サイズの女性にアドバイスを。
非常に気の毒ですが、このサイズの女性は他のサイズの女性より授乳でかかる身体の負担が五倍以上だということを覚悟しましょう。
添い寝で行う添い乳という素晴らしく楽な授乳方法があるのですが、残念ながら私サイズの女性にはおそらく不可能であることを申しておきます。
ギックリ背中を起こす事の方が恐ろしいですからね。こういう方は無理せずミルクを上手に活用していただければいいと思います。
または、お尻が深く沈み込むソファー椅子を手に入れるかですね。
二人目を産んだ時、私の実家には応接間にこういうソファーがありましてね。
そういう椅子に座るとすっごくラク!
泣けるほどラクでした。身体の負担が全然違う。大事ですよ。――
胸が大きくあるべきだという理由はですね。
見かけが美しいからではなく。
男性を惹きつけるためではなく。
本来の役割である授乳を赤子に効率よく行うためである、ということに尽きると思った私でした。
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