第168話 次男の出産3
先生と交代で主人が戻ってきました。
私の傍らにいる赤ちゃんを見下ろします。
「かわいいな」
産まれたばかりの子供を見るのは初めて、と言います。
カーテン越しに産声が聞こえてきたときにはやっぱり感動して目が潤んだね、と。そして、いきむときに怒られてたね、と。
別に主人が立ち会いをしても良かったかな、と思いました。自分のことに精一杯で主人が居てもいなくてもどうでも良かったというか。存在すら忘れていたかも。
(後で話すと、「最初で最後だから見てみたかったかも」と主人。「でも俺どこに居たらいいんだろうね。出るとこ見たいけど、脚のところは先生いるから邪魔になるし」確かにダンナさんてこのとき何処にいるんでしょうね?)
あ、そうや。
私は思い出しました。
「すみません、胎盤を見せてもらえますか?」
側で後片付けをされていた助産師さんに頼んでみました。陣痛の合間に、胎盤が見たかったら産後に言ってくださいね、と言ってくださったことを思い出したのです。
はい、と助産師さんがバットに乗せた胎盤を私たちの元へ持ってきてくださいました。
「助産院では食べさせてくれるところもあるんですよ」
説明しながら裏側もひっくり返して見せてくださいます。
主人が興味深そうに観察しています。
「見たいやろな、思て」
「うん、本当にレバーみたいだね」
主人が、ありがとう、お疲れ様、と頭を撫でてくれましたが。
おお、今までの出産ではコレはなかったな。これはエエな。
それから私はそのまま分娩台で爆睡しました。(なかなか大部屋が空かなかったのです)その間、主人はひたすら次男をスマホで撮影して、その動画を一生懸命編集し、私の家族等に産まれた報告をしようとしていたようですが。
しばらくして目覚めると私のスマホに母からメールが来ていました。おめでとうメールかと思いましたら。
『普通は一番に私に連絡するもんやろが!常識のない!』
何故か怒り顏の絵文字入り……どういう意味や?
「え? 産まれた報告、誰に送ったん?」
主人に聞くと、私の母と姉、自分の親に送ったとか。
『送った、って言うてるで』
母にメールを送ると
『来てない』
と、またお怒りのマーク。
主人に聞くと送信履歴はちゃんとあるようです。
子供が産まれてめでたい雰囲気は、一気に悪くなりました。
連絡を今か今かと待っていた私の両親ですが、なぜか私の姉から『産まれて良かったな』というメールが来て、それで出産を知ったとのこと。
だから、怒ってるのです。
普通に電話かけて報告するなり、メールで一言『産まれました』だけでいいものを。
子供を前にして舞い上がっていた主人は、いかにキレイな動画を送ろうかと躍起になっていたようです。
母のケイタイは古く、動画を受け付けられず、迷惑メール行きになってしまったのです。(後で事実が判明)
どよんとした顔をして、ため息をつく主人。――
……ああ、もう、みんな!
産んだばかりで疲労困憊してるウチに余計な気を遣わせんといておくれやす!
私は少しキレました。
子供産まれたばかりでめでたい時やねんで!
そんな顔せんといてよ!
ウチ、産んだばかりやのに疲れさせやんといて!
等々、言ったと思いますが、主人の浮かない顔は変わらず、漂う重たい空気。
私も気分が悪く、鬱々とした感じになります。さっきまでの達成感、爽快感、お祝いムードも消し飛んでしまいました。
イライラしました。
なんで、大仕事終えたウチが怒られやなあかんねん。 ウチは疲れて寝とったんじゃ。知るかいな!
助産師さんが来て、膀胱に尿があると子宮の収縮を妨げるので一度トイレに行きましょう、と言われ、えっちらおっちらとトイレに行きました。
トイレを済ませ、骨盤ベルトを主人に締めてもらいました。
お腹凹んだね、と主人が感嘆の声を。
赤ん坊が出たのでかなり凹みますが、まだ出産直後は子宮も大きさが戻らず、ぼよぼよとしたたるんだお腹をしているものです。
ええ、でも、今回はそのぼよぼよ具合が。
私はハラに触れて言いました。
「今までで一番、ハラがたるんでいるというか……なんか、腹壁の上の乗っかり具合が多いような……」
主人と顔を合わせました。
SHI・BO・U?
……とりあえず、二人でライザップのCM曲を歌いながら、回ってみました。
母からメールが来ておりまして『迷惑メールに入っとったわ』とのこと。
『◯◯ちゃん(主人)、気にしてるからあまり責めやんといたって』
と、メールに返事した後、主人の様子を見ましたが。
まだ浮かない顔して、ため息をついています。
気持ちは分かるけどな。
三回目の出産は、出産自体は(会陰が裂けた以外)今までで一番満足した出来でしたが。
産後は一番後味の悪い出産になったのでした。
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