第170話 起こさずに済む怒り

数年前、母が子供を見てくれるというので姉と一緒に劇団四季の「美女と野獣」を観に行ったことがあります。


 開演して、五分後。

 観客席の私は涙を流しました。(←早いよ!)


 さわりの、王子が野獣になってしまったシーン。

 そのときの迫力にすでに感動してしまって。


 育児に日々追われる生活、私は娯楽にすごく飢えていたのでしょう。

 疲れていると、芸術というのは心に染みます。

 舞台芸術って素晴らしいなあ。俳優さん、照明さん、音響さん、大道具さん……etc。絶対に無くなってはいけない大切なお仕事だと思います。


 産後のホルモンバランスの関係か、または育児疲れのためか。その時期は、身近にありふれたいろんな物事に感動した覚えがあります。


 洗濯機、乾燥機、掃除機。

 ああ、なんてスゴイんやろ。昔は家事が大変やったのに、こんなに楽になって。大昔のおかあさんは苦労しはったなあ、とか。


 一人子供産んで世話するだけで大変やのに、犬や猫は5匹も6匹も産んでエライなあ、とか。


 ツバメさんなんか休みなく一日中飛び回って育児して……と、ホロリ。


 挙句の果てには冷蔵庫の卵を見て。


 ニワトリさんは痛い思いして毎日卵産んで、ああ、なんてエライんやろう! と涙ぐんだり。


 育児は本当に大変なお仕事。

 もし、「お金あげるから育児と家事たった一人でしばらく全部こなす」のと、「いつも通り仕事に行く」のと、どちらか選べと言われたら後者を選ばれる方が多いのではないでしょうか。


 私は専門学校に行ってるときに出産しましたから、子供を保育園に預けてそのまま通学しておりました。

 それも大変でしたけど、私に言わせれば、専業主婦の方がはるかに地獄。

 個人的な意見ですが、私はこの世で一番大変な仕事は子供のいる専業主婦だと思います。(実家暮らしの専業主婦を除く)

 どんなに忙しいキャリアウーマンでも、コーヒー飲む時間くらいはあるだろうし、食事は短時間でも自分の食事に集中して食べることができますよね。


 できないんですよ、それが、専業主婦だと! (特に生まれたばっかりの子供がいると)

 産後うつになってしまうママさんがおられますが、分かります。

 私は学校に行ってましたから助かりました。言葉は悪いですが、逃げ場がありました。

 もし、私が学校に行っておらず、主人の乗船中、子供と自分の二人だけの専業主婦生活を送っていたならば、100%うつになっていた自信があります。怖いけど、子供を虐待していた可能性もなきにしもあらず。


 学校の昼休み、ゆっくり集中してお弁当を食べることができる幸せ、通学途中電車を待つ駅で缶コーヒーをゆっくりのむことができる幸せ。私はうれしくて涙がでました。

 今、専業主婦を目指す女子の皆さんが増えておられるようですので、個人的な意見を一言いわせていただきます。


 何故、そんな地獄へのいばらの道をあえて進もうとするのか。

 子供が生まれたら一番大変な職業ですぞ! 逃げ道をなくすようなことはしてはいけません!

 

 昔のように、大家族ならまだしも、核家族が基本の現代。

 自分の心の健康のためにも、パート主婦にしておきましょう。(あ、でもベビーシッターさんを雇う余裕のある旦那様をゲットすれば問題ないのか)


 ダンナさんが育児や家事に協力的ではなく、フラストレーションがたまる奥様がよくいらっしゃいますが、分かります。

 私も、主人の下船中に度々そんな思いを。


 たとえば、子供が昼寝しているとき。

 子供と私、二人で昼寝している時間に主人はゲーム三昧。

 一緒に昼寝してるからいいだろうと、思われますでしょうが。


 子供が寝ているときは、やっと解放されて自分の時を楽しむことのできるゴールデンタイムな訳ですよ。

 その貴重なゴールデンタイムを子供と同じように寝てしまったのは悔しいですが、(だって、疲れてるんですもん! つい一緒に寝てしまうでしょうが!)そのゴールデンタイムを、主人は一人でのうのうと堪能していやがるわけですよ。

 ……わかりますかね? この悔しさ。

 子供と昼寝している時間イコール自分の時間ではなく、子供と共有してしまった時間、子供のために費やしてしまった時間なわけです。


 そうなのです。

 今回のテーマ。主人が居なければ起こさずに済む怒り。

 旦那が乗船中はこういうイライラを起こさずに済むのです。

 家事育児を手伝ってくれそうな存在がいないのだから、そもそもイライラの発生しようがないのです。

 そういうものだと割り切って、家事育児ができますからね。

 旦那さんがいないママは大変でしょうけど、こういう感情を起こさなくてもよいという点がありますね。

 ママ友に「船乗りのヨメはそれがいいよね」と言われたことがあります。



 船乗りのヨメというのは、旦那に期待する機会がない分、期待を裏切られたときの失望や怒りを感じる回数が他の奥様より少なくて済む、というのが今回の話でありました。




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