第150話 ジャイ子の出産2

 カンジダが去り、咳もおさまり、体力が回復してきた頃。

 陣痛が始まりました。

 このとき、予定日を一週間過ぎておりました。(私の子供たちは毎回40週以上、お腹に居座る)


 夕方、長男を保育所に迎えに行った際。なんだかお腹の張りに違和感を感じました。

 キタ!

 私は帰宅するなり、すぐにお風呂に入り食事を済ませました。初産で分娩所要時間が約三時間だった私は、今回はそれ以上に、早く産まれることを恐れたからです。一人目の横浜で産んだ時とは違い、今は田舎暮らし!

 病院まで車で約30分はかかります。


 本格的に生理痛のようなものを感じ始めたのは、夜9時過ぎでした。間隔を計ると、20分からたちまち15分へ。私はあせって病院に電話しました。

「初産のとき、早かったんですよね? どうしようかな。いきなり進むこともあるし……もう、来てください」

 看護師さんに言われ、母に付き添ってもらい、病院へ行くことにしました。(主人は乗船中)

 長男に『ママ、頑張って』と励まされ、仏壇で手を合わせてから母と車へ。

 車の中で陣痛間隔は10分に。5年ぶりの出産。こんなもんだったなあ。ああ、またあの地獄の苦しみか。

 もしかして急に陣痛が進んだらどうしよう、と心配していましたがそんなことはありませんでした。

 10時半頃、病院に到着し、陣痛室へ。持ってきた服に着替え、産褥ナプキンをつけ、ベッドに横になります。母は産まれるまでそばにいてくれるとのこと。

 陣痛室には私より先に二人の妊婦さんがいらっしゃいました。

 一人は一昨日から。もう一人は今日の朝から。二日前の妊婦さんは微弱陣痛だそうで。うめき声をあげてらっしゃいます。

「このまま生殺しは可哀想だから、陣痛促進剤を入れますね」と先生が話しているのが聞こえます。

 二日間! 苦しいやろうなあ。

 そんなことを考えていた私ですが、だんだんと陣痛が強くなってきました。

 よし、今回は大丈夫!

 私は、ひ、ひ、ふーを繰り返しました。前回は上手くできなかったいきみのがし。今回は反省して何回も練習しましたから! 助産師さんにも上手、と褒められてなんだかいい気分に。

 肛門を押さえると陣痛の苦しみが和らぐというのも分かっておりましたから、今回はゴルフボールを持参。陣痛が来るたびに、母にゴルフボールを肛門に押し付けてもらいました。こうするとやはりラクに。

 でも、ひ、ひ、ふーを上手く出来たとて、いきみたい苦しみはどんどん強くなってきます。

 ああ、早くいきませて。前回と同じでそればっかり考えておりました。

 看護実習生の方が一人、私についてくださいました。母と交代して、ゴルフボールを押し付けてくれます。呼吸法、上手ですよ、と言いながら腰をさすり、肛門を押さえてくれるのですが。


 ……弱い!


 いきなり初対面の私の肛門をそうグイグイ押せるものではないのでしょうが。

 あの、すみません、もっと強く……と何回もお願いしたのですが、やっぱり強さが足りない。もどかしい。……あー、もう!


「もっと強く!」


 とうとう私、実習生の方の手を持ち、強く押し付けてしまいました。(笑)


 ※実習生の皆さん、こういう時は遠慮せずグイグイ押してくださる方がありがたいです。


 どんどん陣痛はピークに近づいてきます。次の陣痛がくるのが怖くなってきます。

 陣痛の合間に助産師さん(男前系美人)が子宮口の開きを確認しに来られました。

 ちょうどその時にまた陣痛が来ました。

 あ、きた……。ベッドの手すりをにぎり、顔をしかめ、ラマーズ法を開始しようとした私に


「来そう?」


 と聞いてくださる助産師さん。頷く私に、すかさず助産師さんは指で私の肛門を。


「……どうですか?」



 ーーか・ん・ぺ・き・です! 姐さん!ーー


 この瞬間、陣痛の苦しみは七割減に!


 手の位置、角度、強さ、全てが完璧!


 押さえ方ひとつでこうも変わるのか!


 私は感動してお姐さまの顔を見つめました。


 カッコいい!

 これが匠の技! プロの助産師!


 ふ、と微笑んで去るお姐さまを私は尊敬の眼差しで見送りました。


 再び、次の陣痛は看護実習生さんと母が必死にゴルフボールで押さえてくださいますが、これが違う。やっぱり、プロとはほど遠い!


 陣痛はクライマックスに。

 ああ、せやった。こんなんやった。よく、こんなん前に耐えたな、ウチ。

 ああ、いきみたい。我慢できない。ごめん、赤ちゃん、ちょっとだけ……。

 どうにも我慢できなくて、私、とうとう少しいきんじゃいました!

 その瞬間。


 ぷち。


 風船が割れるような感触とともに、大量の生温かい羊水が流れ出すのが分かりました。(この時肛門を押さえていた母は、ブワッとした羊水の圧力を感じたと後に語りました)


「破水しました」


 実習生さんに告げると、素早く彼女は助産師さんに報告へ。

 それからすぐに助産師さんが来られて、母は退出。


「分娩室に移動しましょう」


 移動するベッドごと私を乗せて、助産師さんは部屋の壁のドアを開けて、そのまま分娩室へ。


 私は私より前に陣痛室にいた二人の妊婦さんを差し置いて、先に分娩室に行ったのです。

 この時、深夜0時直前でした。




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