第151話 ジャイ子の出産3
分娩室に行ってからが早かった!
先生とあと二人の助産師さんも私の元へわらわらと集合。
どうやら破水してから私は一気に進んだようです。
バタバタバタ、と皆さんがみんな、それぞれの動きを見せ、素晴らしいチームワーク!
あっという間に、私は分娩台に乗せられ(今回は脚カバーなし。そんなに切羽詰まっていたのでしょうか?)
私のパジャマをはだけさせたかと思うとお腹に消毒薬がぶちまけられ、その上に照明がセット。なんだなんだ、緊急手術するみたいな感じだな。目を白黒させながら、限界の私は傍の男前系美人助産師さんに聞きました。
「いきんでもいいですか?」
「いきんじゃだめ」
まだ!?
もう焦らさないでくださいよ。
ふー、ふー、と必死にいきみたいのを我慢して息を吐きます。
ああ、いきみたい、いきみたい、いきみたい!
「ちょっと赤ちゃん苦しそうなんで。酸素入れますね」
別の助産師さんが私の口に酸素マスクを。
お、おう、初めての経験。
「しっかり息吐いて、お腹に力入れないでくださいね」
頷きながら私は一生懸命、マスクの中で呼吸します。
も、もういきませてくれてもええんじゃないですか?
「も、もう、いきんでもいいですか?」
「いきまなくていい。いきんじゃうと、余計なところに負担かかっちゃうから」
ええええ! ま、まだ引っ張るう……?
前回は今ぐらいでいきませてもらえたような気がするんですが。
私は絶望しました。
いきみたいと全身が悲鳴で訴えるのを根性で無視し、通り過ぎるのを待ちます。
ああ、早くお願い、いきませて。
一体いつになったらGOサインを出してくれはるんですか?
私、懇願の思いで三回目を聞いちゃいました!
「い、いきんで、も……」
「いきまんでもエエから!」
うわーん、怒られた! (出産時、ほとんどの妊婦さんは助産師さんに怒られます)
いきんじゃえばラクになるのに。いきんでしまえば終わるのにっ。
助産師さんと実習生さんが私の脚の間を覗き込み、二人の手で四方向に出口を開いてくださいます。こうしてもらうと少しラクでした。(それより、私のあそこ、今そんなに大きく開いてるんだ、という事実にびっくり)
「ふー、ふー、お腹の力抜いて」
難しいこと言いますね!
いきみたいのを我慢するあまり緊張している腹筋に意識を集中させます。
ふ、と凹ませるように力を抜きます。こ、こんな感じ?
「そう! 頭、見えてきたよ!」
えええええ!? ウソォ?
わ、わたし、まだ一回もいきんでませんけどモォォォォ?
(あとで調べると、経産婦の中には子宮の収縮だけで出てくる場合があるそうな。それが一番体に負担をかけない出産で良いことは間違いないんでしょうが……)
助産師さんが先生と交代。
先生が実習生さんに指導しながら(切開もしてくださったと思う)子供を取り出します。
ずるり、という感じ。
「……おお、立派やな」
先生が思わずつぶやかれます。
しばらくして、産声が聞こえました。
あれ、なんか長男よりも優しい泣き声やな。
ふあああ、ふあああ、とネコのような。
助産師さんが赤ちゃんを受け取り、ベッドの方へと連れて行きます。
体重、頭囲、胸囲、身長を測っている間、私の脚の間では先生が実習生さんに胎盤の搬出を指導中。
胎盤……前に見たし、もうエエか。
時計を見ます。0時7分。
分娩室に移動してから約10分か。上等やな。
「うん、10点満点(アプガー指数)体重3432g」
「どや、胸囲?」
「頭よりでかい」
「せやろ、そう思たわ」
「立派な女の子や」
助産師さんと先生の会話に私は、は、としました。
「女の子やったんですか?」
「なんや、知らんかったん?」
ええ。だって、たった一回のチャンスである八ヶ月のスクリーニング検査のとき、技師さんに分からない、て言われたんです。
「男の子やと、思ってました」
お腹が前に突き出ていたもんで、みんなから男の子に間違いないと言われ、てっきり私もそうかと。
お、女の子の名前、考えてへん!
助産師さんが赤ちゃんを連れてきてくれました。このとき私は初めてカンガルーケアというものを体験しました。胸の上に置かれて乳首に吸い付く我が子を見て、私は。
あ、あれ。
か、可愛くない……。
長男の時とはほど遠い。お、女の子やのに。
なんか想像していた顔では……。
軽く失望しました。(ごめん、ジャイ子! 今は可愛くなったよ!)
でも、身体は綺麗なピンク色! 長男は青かったのですが。負担をかけることなく上手に産めたようです。
胎盤を取り出した後は、先生がチクチクと縫合を始めておられました。素早い、上手!
「破水してから早かったな」
時計を確認して先生がおっしゃいます。
ええ、私もそう思います。
「おめでとうございます」
皆さんが口々に言ってくださる中、私はやっと終わったと感じたのでした。
「ありがとうございます」
果たして。ジャイ子の出産は分娩所要時間約三時間十五分でありました。
しかも、いきむことなく産まれてしまったという奇特な出産になってしまったのでありました。
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