第149話 ジャイ子の出産

 私は三人子供を産みましたが、長女であるジャイ子を産んだ時が一番苦しかった!


 それがいかなる理由なのか、これからお話したいと思います。


 ちなみにジャイ子は産むまで性別が分かりませんでした。

 なぜなら、ジャイ子を産んだ病院では。


『(ココはものすごく忙しくてそんなことに構ってられないから)普段の健診で胎児の性別に関する質問を受け付けておりません。八ヶ月のスクリーニング検査の際に臨床検査技師にお尋ねください(その一回を逃したら、もう産まれるときまで諦めてくださいね)』


 と言った内容の書類を、分娩予約した際に受け取りました。(確かに先生方はオニのような忙しさでしたので、こちらもそんな雰囲気を感じて聞く気が起こらないくらい)


 ジャイ子は男の子だと思っておりました。

 予定日は九月半ば。

 今年の夏も暑かったですが、その時も殺人的な夏と称された酷暑でありました。

 八月の半ばに差し掛かった時。

 長男が保育所から夏風邪をもらってきました。私は速攻、風邪をひきました。(ニンプというのはお腹の子供異物を攻撃しないように、免疫力が低下している)

 これが曲者でして。ある程度体調は戻りましたが、咳だけが居据わり続けました。

 コレが辛い。咳がひどく、夜中眠れない。お腹に力が入るので、尿漏れが頻繁に起こりますし、ジャイ子の頭の部分を圧迫するその部分の腹壁が痛い。(ジャイ子が産まれた時に頭の片側が凹んでいたのは、このときの私の咳のせいだと思う)

 寝不足の日々が続き、参ってしまい、私は病院で弱めの抗生剤をもらいました。


 ……コレがいけなかった。


 抗生剤はただでさえ、普段より弱っている妊娠中の私の体内の常在菌を殺してしまい。


 私は生まれて初めてカンジダを発症しました。


 誤解のないように言いますが、カンジダはSTDではありません。

 真夏の妊婦、もしくは長期間風邪を引き、抗生剤を飲み続けた方に起こりやすい(特に女子)病気!

 普段は息を潜めているカンジダ真菌が、膣内で天下を取るという状態です。


 痒い。猛烈な痒さです。

 経験がおありの方なら分かっていただけると思いますが、アレは気が狂わんばかりの痒さ。これだったら、咳を我慢してる方がまだ良かったよ!


 しかしそれに気付いたのが、なんと盆休みに突入しようかという日曜日。病院はお休み。(どうして、休みの時に限って人は病気になるのでしょうね)

 私は我慢出来ずに、休日診療の病院に電話しました。

 やはり妊婦、そして臨月でありますので当然お断りされます。

 耐えられない私は、分娩予定の病院(総合病院)に電話。

 救急外来さんにはもちろん、お断りされました。産婦人科の方にも電話を回してもらいましたが、あっさりと休み明けまでお待ちくださいと言われました。産道にカンジダ菌がいると、出産時に赤ちゃんに感染して、鵞口瘡等になる可能性があるらしくてですね。でも、産後に目薬を赤ちゃんに点せば心配無いですから。赤ちゃんがどうこうなる病気ではないですから、安心してくださいね、と。


 ……いやいや、そういうことじゃなくて。


 無理なんですけど。耐えられないんですけど。

 あと三日もこの状態なんて……!


 何回も水浴びしたり、冷やしたり、何とかして気を紛らわせようとしましたけど。無理です。

 痛さと痒さなら、痒さの方が我慢出来ないと言いますけど。

 どうかしら。

 ギックリ腰といい勝負でしたよ、確かに。

 ああ、もう私、精神に異常をきたしそう……!

 咳と痒さ、どちらか一方でもおさめてくだされば私、何でもします! お願い、神様!

 本気で祈り倒しました。


 藁にもすがる思いで、もう一度分娩予定の病院に電話をかけてみます。咳もひどくて、熱もあって……と涙声で、訴えてみましたけど。返事は同じ。

 もうどの病院でもいいから助けて欲しくて、違う病院にかけてみます。そちらの病院では、「自分のところの患者さんだったらすぐに来てもらうところやけど。……ごめんなさいね」との返事。責任問題ですね。分かります。


 ひーん、と泣きながら私はそれから三日間を耐え抜きました。主人と電話で話し、本当に子供のように泣きました。

 痒いし、咳も相変わらず止まらないし、咳ごとに失禁するし、赤ちゃんの頭に当たる腹壁が痛くてたまらない。


 ここが総合病院と個人病院の差だと思いました。長男を産んだ横浜の個人病院なら、すぐに私を受け入れてくれたでしょう。

 子供も私も命に別状はない。緊急を要する事はない。分かってはいます。でも、私にはつらすぎました。


 晴れて三日後の盆明け、私は診察までいつも二時間近く待たされるそこの病院ではなく、小さな婦人科の個人病院に飛び込みました。

 産科はもうされてませんが、八十代の女医の先生が出てきて、すぐに洗浄して、膣剤(抗真菌薬)を入れていただきました。


 ……たちまち、痒みはおさまりました。


 こんなに簡単に済むことだったの、私の苦しんだ、あの三日間なんだったの、という感じ。

 なんだかまた泣けてきました。……



 この経験で学んだことは。

 やはり、何かあった時手厚いケアをしてくれるのは個人病院であること。

 そして、あの時出血したと嘘でも言って病院に行っても良かったかな、ということですね。だって、あんなにすぐに済むことだったんですから。


 出産前に通り過ぎた受難。

 これがジャイ子出産の第一の試練でありました。







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