第66話 一言

最近、現役船乗りさんからコメントをいただいて舞い上がっている私です。

 そのせいではありませんが、今回は真面目に語ろうと思います。(どうしちゃったの、私?)


 日本の船乗りさんを代表して。この私が。 

 日本全国の船乗りさんの気持ちを少し代弁しようかと。



 ……とりあえず、ですね。日本の現状を語るところから始めさせていただきますとね。



 私が、初対面の人に主人の職業を聞かれるとしますよね。


『船乗りです』


 と、私は答えます。

 すると必ず返ってくる返事は――


『マグロ漁船?』




 NOーーーー!!



 ……もうね、ため息ついてあきれかえってあげくに悲しくなっちゃいますよ!

 この日本人の船乗りに対する認識の低さ! 信じられない!


 船乗り=マグロ漁船(漁師)、しか思い浮かばない視野の狭さ!

 テレビでマグロ漁船の番組ばかりがとりあげられるせいもあるかと思いますけどね。(貨物船の番組なんてない。あとは豪華客船とか)

 もちろん、漁師さんの仕事が素晴らしいのは皆さんもご存じのとおりですがね。漁師さんがいなかったら美味しいお魚がたべられなくなっちゃいますから。


 貨物船。

 日本国内の輸送量の4割を担う存在。

 どれだけ大事な職業なのか皆さん、まるでご存じない!


 運搬、補給、運輸の要といえば皆さん、トラックを思い浮かべられますでしょうがね。(巷を日夜、一生懸命走り回っている運転手さんの姿が印象的ですからね)

 しかし、所詮。

 運ぶ量は少量。短距離。

 長距離を大量に運ぶのは、『船』なのです。

 石油も天然ガスもセメントも。

 そして陸に着いてから運ぶためのトラックを運ぶのも、『船』なのです

 災害が起きた時にも、救援物資を大量に運ぶ役目を果たすのは、『船』!


 専門学校時代、教官が語ってくれました。


 ――イギリスではな、両親が子供に小さいころから食卓で話し聞かせるんだぞ。……『このテーブルにある、オレンジやパンの材料の小麦粉やその他いろいろなもの。これは船乗りさんが全部運んできてくれたんだよ。船乗りさんがいなかったら、ほとんどのものは食べられなくなっちゃうんだよ』……そうして、子供に船乗りさんへの感謝の念を植え付けるんだぞ。――



 ええ、そうでしょうね。イギリスは海で囲まれた島国ですから。


 ……いや?


 日本も島国ですけど?


 食料自給率超低い国のくせしてなんだ、この温度差!?


 そう。

 日本人は船員に対する感謝の気持ちが圧倒的に足りない。足りないのです。


 外国では船員さんはものすごく大切にされるのですよ!

 日本だと貨物船は三か月勤務、休暇一か月(それぞれ多少前後しますよ)が一般的ですが、いくつかの外国では乗船期間は四か月以下、休暇は乗船期間と同等の期間を与えると決まっているらしいです。またいくつかの外国の船乗りさんには税金免除、もしくは減税の制度があります。(ウ、ウラヤマシイ)


 特にアメリカなんかではすごく船員は優遇されてるらしいですよ。

 アメリカはいつ戦争が起きるか分からない国です。

 有事又は非常事態の際の補給路確保は大事。船は命綱。物資の輸送要員は確保しとかなきゃ。


 

 アメリカでは船員さんを国の宝として大事に大事に育てるらしいです。

 だからですね。船内の居住区のレベルなんて日本とは比べものにならないらしいとか。

 船内にはミニバーとか(作るのは船員さん自身ですが)、トレーニングルームとかあったり。

 個人の個室なんて。日本と比べると信じられないほど素敵な部屋だとか……と聞きます。 


 国から船乗りさんに対する姿勢が違うわけなんですね。


 皆さん貨物船と言いますと、外航(国外に行く船)をメインに思い浮かばれると思いますが。

 ええ、大事。油とか、小麦粉とか、石油とか、パルプとか……。

 外国からの輸入品を運んでくれる花形です。

 一方、内航(国内を廻る船)は一歩ひいてサブキャラ的な存在でみられがちです。

 しかし、たとえばですよ。

 この内航の日本全国の船員さんが全員、ストライキ起こしちゃったらどうなると思います?(昔、何回かしたんですけどね)


 日本全国、ストップですよ。

 流通、回らないですから。

 皆さん想像がつかないかもしれませんが、石油も車も来ないし、大混乱ですよ。


 日本はもっと船員さんに敬意を表すべきなのではないかなあと思います。


 休暇は一年に三か月。(そんなにないときもある)

 約三か月間(半年、なんてこともザラ)船に乗りっぱなし。休日なしの連続勤務。

 生活は不規則、娯楽も女っ気もなし、酒と煙草と飯とゲームが日々の楽しみ。

 空気の悪い中で命を削るように働いて、やっと下船したかと思えば。


 久しぶりに会った子供は、自分を見知らぬ他人として全拒否!

 ゆっくりとゴロゴロ、ゴロゴロしたいのに、家にいるのを邪魔者扱いされ。

 妻のセリフは冷たく。


『次の乗船日は、いつ?』



 NOーーーー!!


 酷い! 酷過ぎる!

 むくわれない! 切ない! 大事にされてない!(←私が言うな)


 ――そんな状況の中、日本の船乗りさんは私たちのために日夜ストレスを爆弾のように溜め込みながら働いてくれているのです。

(陸上のブラック企業がどうとか社畜とか巷で話題ですけど。……どうせ、お前ら夜には家に帰れるんだろ? 甘えんな、コラ)



 日本政府はもっと船員を優遇するべきです!(船員の所得税等の軽減制度を創設しましょう)


 そして国民はもっと船員さんに感謝するべき! (船員勤労感謝の祝日できないかなあ)


 ヒエラルキーのトップはパイロットではなく、船員さん!


 次のNHK連続朝ドラの主人公は船乗りで!(今、貨物船の女船長さんだって実際いるし。育休をとってしっかり復帰されてますから)


 モテる男の職業、結婚したい男の職業、第一位、「船乗り」!(フィリピン人の船乗りさんはそんな感じ。超高給取り。豪邸に住んでメイドさんを雇って。何年か働いてお金貯めたらレストランのオーナーになったりだとか) 


 船乗りの皆さんはスゴイ! 頑張ってらっしゃる! 


 皆さん、船乗りさんにもっと感謝しましょうね!







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る