第38話 キノコの話

 秋、ですね。気温がぐっと低くなり、季節は晩秋に向かっております。

 この時期の味覚といえば、キノコ!

 キノコについて今回はお話をしたいと思います。


 私の実家は超田舎なので、田舎の素敵な美点があります。

 車で3分のところに、マツタケ山があるのです!

 うらやましいでしょう! 田舎は素敵。春はタケノコを近所のおばさんや親戚から山ほどもらえるし。

 私は横浜に住むまで、タケノコがあんなに高いとは知りませんでした。

 マツタケ、タケノコをアホのように食べていた子供時代を過ごせて本当に幸せです。


 さて、近所の方と取り合いですから、マツタケが出てくる時期は心理戦があちこちで展開されます。

 何気ない朝の挨拶、会話から、相手はもう山に行ったのか? と相手の動向を探ります。

「山、行ったけど全然やわ~、まだ早いわ~」 と近所のおばちゃんが言っているのは嘘なのか、本当なのか? 見極めます。

 山に行ったときも、戦いは続きます。

 子供の時に両親と一緒に、何度もマツタケを採りに行きました。やぶ蚊にさされないよう、首にタオル巻いて、軍手して。

 いつもおしゃべりする仲なのに山で知り合いと遭遇した際は、お互い何も言わずに通り過ぎます。

 マツタケがありそうな気配があるときは、山にいる他の人に気付かれないように音を決して出してはいけません。

 情報はひた隠し! 両親のそばにいた私は、スパイにでもなったようでドキドキしました。

 まだ小さいマツタケを発見した際は、2、3日後に採りに来ようと葉っぱをかぶせて隠しておきます。

 これがばれて、採られた時の悔しさといったら!

 でも、しょうがない。早いもの勝ち!


 この間主人が下船したのがちょうどシーズンでしたので、私と主人、私の父とで山へ行ってみました。

 主人は、元ハマっ子ですので(今は引っ越ししてスカっ子)もちろん、マツタケなんて今までほとんどお目にかかったことがない! 食べたこともない! ぜひ、採って食べてみたい! とわくわくして出かけました。

 しかし、収穫はゼロ。

 そうなのです。昔とちがって、山の環境が変わってしまいました。

 昔は燃料、肥料として山の葉っぱを近所の人が持ち帰ってたんですね。でも、今はそんなことする人はいないので、落ち葉はたまりにたまり、適度なマツタケ生育状況じゃなくなってしまったのです。

 残念です。でも仕方がない。

 せっかく来たので代わりに、ゴルフをする父のために、ゴルフ場から飛んできて点在しているゴルフボールを山ほど拾って帰りました。


 私が中学時代までは、豊富に採れていたのになあ。

 いつだったか、マトリョーシカのように10個ほどかわいく並んだマツタケ群を発見したときも! 発見したのは母ですが、あのときはさすがに胸が躍り、写真を撮って、仏壇の前に飾りました。

 焼きマツタケ、マツタケご飯、土瓶蒸し……。

 私が一番好きなのは土瓶蒸しですね。

 焼きマツタケが一番味わい深い食べ方なんでしょうが。

 家には火鉢があります。

炭火でマツタケを焼きながら、生姜醤油で熱燗とともにいただく――と、子供のころ祖父や父がやっていたのを主人と二人でしてみたかったのですが。それは叶わず。本当に残念です。


 ところで

「マツタケは匂いですぐ分かるからすぐに見つかる」

 と、祖父祖母、父母は口をそろえていうのですが。

 子供のときの私は分からなかったです。姉も同じ。

 山のにおいと、松の木のにおい。その中から、マツタケの匂いをかぎわけることができるの?

 私はできなかったです。大人になった今でも、無理だと思います。

 やっぱり、イマドキの人間だから、嗅覚が鈍ってしまったのでしょう。

 団塊世代の父母たちは、たくましく、強し。子供のころからひたすら競争してきた時代の人ですから、わたしや主人のような温室育ちとはちがって、もともとの身体能力が高いのでしょうね。戦時中を生きた祖父祖母なんてさらに高いのでしょうね。母は一歳の姉をおんぶして、急な山をマツタケを探し回り、何回も上り下りしたと申しております。しかも日がまだ上りきらぬ早朝に早起きして。

 すごい! 私には無理。


 マツタケに関する母の思い出として、一番記憶に残っている出来事があります。


 正夢、というのでしょうか。

 小学校1年生だった私に、朝起きて一番、母が開口しました。


「マツタケが、呼んでいる」


 例のマツタケ山の夢をみたそうなのです。明け方の薄暗い山の中、今までマツタケなど一度も採れなかったポイントで笠のひらいた大きなマツタケが一本、生えている。


『ハヤク、キテクレヨー。クサッチャウヨー』


 と、マツタケがしゃべったそうなのです。


「どうやろう。あんな場所、今まで生えたことなかったのに」


 姉と私は笑ってそんなに気にもかけなかったのですが、母は私と姉を学校に送り出すまでずっと考え込んでいました。

 学校から帰って遊んでいると、仕事から帰ってきた母が言いました。


「山、行くで」


 仕事中も気になって一日中、マツタケのことを考えていたそうなのです。

 えー、めんどくさい、と思いながら私もしぶしぶついていきました。

 私は全く信じていませんでした。

 山に入り、「そうそう夢ではこの木があって、こっちの方に……」とぶつぶつ言いながら奥にすすむ母に私はあきれながら後をついていきました。

 が。


「あったー!!」


 母の言葉に私は仰天しました。

 本当にあったのです。

 夢のとおりの場所に、夢のとおりの姿をした今にも腐りそうなほど成長しきった大きなマツタケが!


 ……おかあさん、すごい! 超能力者(エスパー)や!


 小学生の私はすごく興奮しました。

 そのころはまだ、ミスターマリックさんや聖人サイババさんなどがテレビによく映っていたときで、超能力者がもてはやされた時代です。


 おかあさん、すごいわ!


 母はもともと霊感が強くて、幽霊を何回も見たことのある人です。

 あのときに私の母に対する尊敬と憧れは最高潮に達しました。

 それでね、思ったんですよ。

 不思議なことはこの世に存在するんだなあ……と。


 こういう経験が、私の他作品 SKY WORLD に出てくる森の精霊、超能力少女ミナにあらわれています。(久々に、宣伝でましたよ。……と、いうとミナのモデルは私の母ということに)


 残念ながら、私には母の能力を引き継ぐことはできませんでした。

 長男や長女に私が子供のころに経験したような貴重な体験をさせることができなくて、本当に残念ですが。


 でも、子供たちをマツタケ山にはつれていってあげたいと思います。

 採集は難しいかもしれませんが、全く整備されていない本当の山の中を歩き回る体験なんて、大人になってもなかなかできることではありませんからね。






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