第36話 下着2

パットなしのブラなんて私には考えられません。

ブラジャーというのは盛るものと思っておりました。

そう、ブラジャーの存在意義というのは、ポッチを目立たなくする、寄せて上げる、盛る。

この3つで間違いないと私は思っておりましたのに。それなのに。

何年か前に出ましたよね。


豊乳のひとのためのブラ。


なんと爆発的大ヒット。


――小胸に見せる、ブラ、ですってよ。――




――ふざけるなああああ!

どこまで豊かな胸の人にやさしい世の中になる気じゃ、こらあああ!


豊乳は豊乳のままで居れ! 


~~ありのー、ままでー~~♪ by エルサ

で、ええやろが!――




『胸が大きいとブラにバストがおさまりきらなくて不安定』


え、なんですか、それ。あふれだしてるってことですか。いや、それブラする意味ないんじゃないですか。こっちはカポカポでブラが不安定だよ!


『えー、だって、キャミソールとか胸がでかいと似合わないよね♪ エッチくさくなって』


エッチくさくて上等じゃないですか!


『視線を感じるのがいや~』


その視線が欲しくてたまらない女もおるんじゃ!


……なんか、わかんないです。豊乳の女性の気持ち。

そんなら、美容整形で脂肪吸引のように胸を小さくしてもらえればいいのに。ねえ?……ブツブツ。


私が豊乳なら……夏なら水着で街中歩いてもいいや。

いえいえ、冬も含めて年中キャンギャルのような恰好をして過ごしてやりますよ! 腕とか、ハラとか、脚とかを出してな!(三十路過ぎではキツイ?……)

みんなー! あたしを見てー! ヤッホー! ってね!

ああ、楽しそう……。


そんなに楽しそうなのに。本当に豊乳の人ってなに考えてんのかわかんないなあ。わからんです。


――また、前置きが長くなってしまいましたね。

そうです、今回は補正下着。

それについてのお話でした。


あれは、ネズミ商法が多いです。例にもれず、私はそれにひっかかりました。

船に乗っておりましたとき職場の先輩に一人、おられてですね。目をつけられてしまったのです。


乗船中のある日、先輩後輩とともにみんなで夕食を食べているときです。食堂のTVでは豊胸手術をとりあげた番組が流れておりました。


「いいなあ。私もしてみようかなあ」


映像を見てため息をつき、つぶやいた私。

キラン!

その時、先輩の目が光りました。


次の下船中。

その先輩から、遊びに来いメールがしつこい、しつこい。

たまたま先輩が住んでいる近くの友人のところへ遊びに行ったおり、メールが入って呼び出されました。

まあ、話きくだけだったら、とすぐ帰るつもりで行ってしまったのが運のつき。

(みなさん、こういうのは行かないのが一番ですからね。行ってしまったら終わり、なのです。気をつけてください)


サロン、に招待されました。

一見、普通の一軒家。

花柄レースカーテン、花柄テーブルクロス、花柄絨毯。ブリブリラブリーなものがいっぱいの客間に通され、紅茶とお菓子が出てきました。先輩と何人かのおばさ……おねえさんが出てきて普通に世間話が始まりました。

そのまま時間が経過。

……下着の話は? 疑問に思いながら、早く終わらないかな、と思う私。

そして、事態は急変。

いきなり、おねえさんたちが騒ぎ出しました。


「先生が帰りました」「先生が帰ってきたわよ」


先生? きょとんとする私。

どうやら、その先生という方のお帰りを待つために今まで世間話をしていたようです。

そして部屋のドアが開きました。

その方、登場――。


「先生!」「先生!」


口々に起立し、叫ぶおねえさんたち。(本当です)

え? なになに?

びっくりする私。

うろたえる私の前に、『先生』が立ちました。


「こんにちは」


笑顔で私に挨拶するおばさま。

いえ、ふつーのおばさまでしたが、実際のお年より生き生きと若く見えたかもしれません。


「さ、行きましょうか」


『先生』に促され、私は二階へと案内されました。


「どの部屋にします?」


おねえさんの質問に


「ピンクの部屋で」


そう答える先生。


ピンクの部屋!?

(フーゾクかよ、というツッコミはなしで)


そしてピンクの部屋に私は通されました。(別にピンク色じゃなかったですよ)


そしてそこからは……。

ええ、お察しのとおり。

私は、先生とおねえさんのペアによる暗示にかけられていきました。


特許をとった素晴らしい糸で生地を作っている。姿勢も良くなる。何キロ痩せる。でも、胸はサイズアップ。若い子はどんどん胸が大きくなるから、下着もサイズがすぐ変わる。……等々。

メジャーでスリーサイズを測られました。


「まあ、『先生』とサイズが同じよ!」

「うらやましい!」


アンダーバストとウエストが『先生』と同じだったようで。

いいなあ、と傍らの先輩にも言われ。

なんか知りませんが、うらやましがられる私。


自分では無意識だったのですが、確実にこの時にはもう。

私は雰囲気にのまれ、着々と暗示にかかっていたのです。


とりあえず、試着。鏡の前に立ってみます。


「まあ! 素敵! モデルみたい!」


と、賞賛の嵐。

今になって思うとね、あの姿見はマジックミラーかなんかじゃなかったのかな、と思います。

たしかに、スタイル良く見える。

細く見える鏡だったのでしょうかね。


「〇〇さん」


じっと私の目を見つめる先生。


「あなたはね、本当はEカップなの」


……何度も言いますが、わ・た・し・の・胸・はA'(AA)サ・イ・ズ・で・す。


「今はそう見えないだけなの。損をしているの」


えー、びー、しー、でぃー、いー……。


わ・た・し・の・胸・はA'(AA)サ・イ・ズ・で・す。


「私と同じ。Eカップなのよ」


――――――――――



「先生!!」


チーン!!

はい、お買い上げ!


――こうして私はブラジャー、ボディースーツ、ガードルを2セットずつ、ショーツを四枚買ったのです。

お値段、なんと〇十万円!!

高すぎるやろ! 

でもですね、このときはそれが高い、と感じないんですよね。オソロシイ。

ショーツなんてね、安価な量販店で三枚一セットで売ってるような、おかあさんがたが好んで履く大きめコットンのぱんつと同じなのに、なんと一枚三千円!(そこでおかしいと気付け、私!)


オーイオイオイ……(泣)

〇十万円なんて、店の家賃半年分だぜ。もったいない。

でもそのときはそれが高い、と思わなかったんですよね。……うーん。


でも、若いときにね、こういう失敗を一度くらいはしでかしておいた方がね、うん。

年とってからしでかすよりかはね♪ うん、勉強になっていいんじゃないでしょうか。(と、言い訳)


さて、この補正下着、毎日私は着用しましたよー。

キツイのが、ボディースーツ! 骨が入っていて、痛い。西欧の貴婦人はよく我慢してましたわ、あれ!

昔はクジラの骨でつくって窒息した人もいたという。

触ってみると硬い。シャキーン! サイボーグのような上半身に変身。し、締めつけられてます、私。

ワイヤーが痛い。息苦しい。身体をひねると、変なところがぴき、と筋を違えます。か、身体が曲げられない。

頑張って、背中の肉、腹の肉、をカップに寄せ集めてから装着しましたよ。Eカップを目指してね♪

でもね、私はもっと根本的なことに気付くべきだったんです。


そのとき、私には元々、肉がなかったんです。

骨が太いんで脚は細く見えないんですが。体重はやや痩せと痩せすぎの間にありました。

痩せの大食いの家系でしてね。いくら食べてもそのときは太らなかったんです。(今は違いますよ)

上半身はあばらが見えていました。


寄せ集める肉がないじゃねえか! 

そう、必死にカップに寄せ集めて胸をつくるそのお肉がない!

カップは相変わらずかぽかぽ!

でもね、皮膚のすぐ下の薄い脂肪が日々移動して胸になるんだーというのを信じてせっせと毎日装着しておりました。


洗濯はもちろん手洗い。おしゃれ着洗い洗剤で。

毎日毎日、手洗いしてタオルで水気とって大切に大切に扱っておりました。


――そんな日々がしばらく過ぎたある日のことです。

姉が私を見て、ふと言ったんです。


「おしり、4つになってるで」


……え?



――次回に続きます。










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