第9話 十万円の彼女

 船で働いている女性は一般的にお金持ちです。


 なぜかというと、お金を使う機会がないからです。


 乗船して下船すると、もう季節が変わっている。→ 服をそんなに買う必要がありませんね。

 実家暮らしがほとんど→ 普段陸上にいないのに、マンション借りるのももったいないですしね。


 そして、船上にいる間の飲食は会社もち。

 その気になれば、乗船している間はゼロ円で生活ができるのです。


 しかし男性も同じかといえば、そうでもありません。

 男性は下船中にはじけて遊びにお金を使ってしまうことが多いからです。

(そうではなく、しっかり貯めこんでいらっしゃる男性もいますよ)


 私と主人の例を挙げます。


 結婚する前、主人の貯金額を聞いた私は耳を疑いました。

 私の貯金額の12分の1以下だったからです。


 ええ!?

 そっちの方が乗船期間が長いのに……!

 何に使ってしまったのかはわかりませんが、びっくりしました。


 ですので、我が家は財布は別々です。

(現在も私の方がまだ預金額は上かも……)



 ブランドや宝石に走ってしまう女性もおられましたが、船で仕事をしているほとんどの女性はしっかり貯めこむ方が多かったように思います。


 新入社員の時、10年以上勤務されてる大先輩のおねえさまがおっしゃった言葉が今でも忘れられません。


「(金を)何に使っていいか分からなかったから、とりあえずこの前マンションと車(外車)買ってみた」


 ひゃあああ! かあっこいい!

 超不景気だったあの時代にこのセリフ!


 わたしも言ってみたいものです。

 大先輩のおねえさまは、バブルの時代に入職されましたので……。(更に、その時代は乗船日数はめちゃくちゃで、下船できるのは月に1、2日だけの時もあったとか)

 バブル期にひたすら貯めこむ日々。

 ……いったい、どのくらい貯めこまれたのでしょうか。



 さて、私はお金持ちの女性というと、上記の先輩とは違う一人の女性の先輩を思い出します。


 A先輩としますね。

 A先輩も勤続十年の方でした。

 その当時は、恋人がおられなかったので彼氏募集中でした。

 後輩のBさん(男性。私には先輩)に、合コンをセッティングするよう依頼されました。

 Bさんのご友人たち(年下のイケメンぞろいだったそうです)相手の合コンにA先輩は気合十分で挑まれたそうです。


 しかし、同行したA先輩の同期のMさんというのが。

 魔性の女性でして。


 A先輩もMさんも美人なのですが、Mさんの方はとにかくどんなタイプの男性も惹きつけて落とすという天性の魅力の持ち主でした。

 当然、合コンの席の男性方はMさんばっかりをチヤホヤし始めたそうです。

 その状況を面白く思わないA先輩がついにキレました。


「なんだなんだ、てめえら! そんなにMりん(Mさん)の方がいいか!」


 A先輩は叫んで、おもむろに財布を出し、中から札束を取り出しました。

 出した札束をひらひらと掲げて、続けます。


「……ねえ、あたし今、ここに十万あるの。……この十万であたしになにしてくれる……!?」



 ***************


 ……後日、Bさんはそのご友人たちに


「お前はどんだけ楽しい職場で働いてんだ」


 と、言われたそうです。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る