第8話 寸劇
私は保育園から小学校低学年ぐらいまで、ひとりで即興の寸劇をするのが好きでした。
祖父母の部屋の布団上が舞台です。
脚本、登場人物、全て私。
観客もいない中、ただその世界に入りこんでおりました。
もちろん、近所のお兄ちゃんお姉ちゃんと缶蹴りやだるまさんが転んだとか、そういう外遊びもしておりましたよ!
おばあちゃんが、
「あー、お姉ちゃんと比べてラクな子やわ」
と、良く言ってたのを覚えています。
そりゃあ、ラクでしょう。
ひとりで勝手に遊んでくれるのですから!
……というわけで、私の長男はどうかと思い、四歳になって寸劇に誘致しました。
うまくいけばこの子も私の血をひいてるし、そうなってくれるかも、と。
試してみた結果、私の息子にはその|ケ(・)が無いことが分かりました。
舞台を整えてやればなんとかできますが、一から世界や話を作るなんてことは出来ないようです。あと、一役しか出来ないようです。
最近はよく、仮面ライダーになりきって、バスタオルと格闘はしていますが。
(攻撃モードは片手でバスタオルを持ちぶらさげて、もう片方の手、脚でパンチ&キック。やられモードの時は、タオルを身体に巻きつけ、くそお! この野郎! と床を転がる)
まあ、それを延々とやっているのでラクにはなりました。
さて、しばらく寸劇に二人でハマって毎晩続けていたことがありました。
寝る前に布団の上で、半時間くらいの上演です。
〜キャスト〜
親分(息子)
さかな(私)
江戸っ子口調の魚。おやびんに命を助けられてから、舎弟になった。
かめ(私)
鉄火肌の妙齢の亀。親分のことを、ダンナ、と呼ぶ。
くじら(私)
スローな話し方の鯨。すぐ眠くなってしまう。
その回のゲスト(私)
ーー毎回、親分と共にさかなとかめがくじらに乗り、いろんな島に行くという設定です。
何が難しいかというと、三役を演じながら息子を誘導するということでしょう。
息子は、カエル島がお気に入りのようで毎回その島へ行きたがる訳ですが、私は飽きた……いえいえ、ネタが尽きました。ですので、
さかな
「おやびん! 嵐がやってきましたぜ!」
かめ
「ダンナ、これじゃ無理だよ。近くの島へ行くようくじらボーヤに言ってやってよ」
等、誘導するわけです。
また、息子はちっとも展開を考えず、ひたすら同じ場所で平坦な言動を繰り返しますので、新たな展開をうむタネをこちらが蒔いてやらねばなりません。
さかな
「うおっ! おやびん、山火事ですぜ! てえへんだっ!」
かめ
「ねえ、ダンナ。さっきからあたいたちのことみてる奴がいるよ。誰なんだろねえ?」
等々。
寸劇が盛り上がり、なかなか終了しようとしない時は鯨が寝たという設定で強制終了です。
私も疲れてますのでね。
ちなみに息子はさかながお気に入りで、
「おいっ、さかな、お前俺と来いっ!」
と、どこへ行くにもさかなを連れて行きました。
たまに混乱したらしく、保育園に迎えに行った折、親分モードで私にぞんざいな口を聞いてしまい先生に怒られてしまったこともありました。
そんなこんなで就寝前のひとときを楽しんでおりましたが、そのうち主人が下船いたしました。
主人は、私たちがあまりにもインドア過ぎるとこぼしておりました。
それからしばらくたって、ある日のこと。就寝時間になって、いつものように寸劇を始めようと言い出した息子でしたが、私は用事があり、代わりを主人に頼みました。
主人はOKしました。が、その出来がこれです。
親分
「今日も、カエル島へ行くぞ! お前は誰だ」
主人
「……俺は櫓(ろ)だ」
親分
「(素に戻って)ろ? ろ、て何?」
主人
「……こんなやつ。舟を漕ぐやつ(ジェスチャーしながら)」
親分
「(ふーん)……じゃあ、出発するぞ!」
主人
「おー(超棒読み)」
親分
「ろ。(私とのテンションの差にとまどいを覚えながら)くじらを呼びに行け!」
主人
「おー。(海へと漕ぎ出す)……あ、舟ないと沈むかな。……あ、沈んだ」
親分
「……(どうしていいか分からない顔)」
……まさかこれで終了?
ーー失望しました。
失望しました……‼︎
この男の想像力の乏しさと適応力の無さに失望しました。
何故、編み出したのがそのキャラなのか。
そもそも、なんのために寸劇をするのか分かっているのか。
どうしてもっと想像の翼を広げられないのか……!(by 花子とアン)
なろう界のパパさんがたはどう思いますか、これ。このクオリティの低さ。
あー、この人には無理なんだな、と思いました。
でも、そのくせ、一人でひたすら寸劇やってるときもあるんですよ、この人は。
私が書いてるSKY WORLDという作品に、キルケゴール(オヤジ)とシアン(美女)という人物が出てくるのですが(宣伝になりますかね?)、この二人を一人二役で布団の中でいきいきと演じてます。(二人は愛人関係のようなモノ)
……まあ、18禁内容です。
主人が私の作品を読んで楽しんでくれているのはありがたいです。嬉しくもありますが。
いい加減あきれて、
「そんなんやったら、二次創作で書いてR18で投稿してくれたらいいやん」
と、私は言いました。
主人の作品に興味持った人が、本筋の私の話にも興味を持ってくれるかもしれませんしね。
主人はいいました。
「いや、やめとく。……俺の方が大人気になったらどうするよ」
……うーん、そうかもしれぬー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます