第6話 私のために争わないで

今回のタイトル。

なんのこっちゃ、とお思いでしょうが。


はい、主人が下船中である時の我が家の状況をあらわしております。

つまり、主人と息子の終わりのない戦いです。ーー


ーー始まりは、長男が生まれてから初めて主人が下船した時ですね。

息子が五、六か月に入ったころでしたでしょうか。

見知らぬおっちゃんがいきなり生活に入り込んで来たので、息子は号泣でした。泣き過ぎて、しばらく声がかすれておりました。

保育所でも先生から


「かなり、情緒不安定ですよ。ママをとられると思ってるのかな」


とのお言葉をいただきました。

主人が乗船して、事態は終焉いたしました。


そして、次の下船。

息子は十ヶ月でした。ハイハイが出来るようになっておりました。

またもや、しばらく声が枯れる程泣きました。主人の抱っこを全力で拒否しました。

保育所のお迎えを主人に頼んだときは、先生方が大ウケするほど、暴れて泣き喚いたそうです。

まるで、人さらいのようだったと、後日先生が教えてくださいました。

家では、主人が私の隣に座ろうものなら、ものすごい形相をしてハイスピードハイハイで私と主人の間に割り込んできました。


月日が経って、三度目の下船日。

息子は立って歩けるようになっておりました。

保育所に二人で迎えに行くと、出てきた息子は私たちを見て立ちつくしました。その時の息子の固まった表情。今でも覚えています。


『俺のいないうちに、勝手に浮気してんじゃねえよ』


と、そばにいた先生が息子の気持ちを代弁してくださいました。


夜。

私が息子の布団から主人の布団に移動しようとするのを息子は敏感に察知して、何度も起きては泣いて阻止しました。

朝、目覚めて私が隣におらず、主人のところにいることに気づいたものなら、狂おしいほどの声で泣き続けました。あまつさえ、私をぶちました。


……はい。ここで息子を産んだ母親なら必ず感じる陶酔感です。


ーー嗚呼(ああ)、ここまで深く男に愛されたことがあっただろうかーー!


主人がいないときの家は、息子と二人きりの濃密すぎる愛の巣でありました。

昼寝時、就寝時、手を吸いながらうっとりと私を見つめて眠りに落ちる息子を見ては、究極に若い男と同棲してるのと同じだな、としみじみ思ったものです。


それが……主人が下船したことによって生じる三角関係。ライバルへのむき出しの激しい嫉妬の感情。一人の女をめぐって繰り広げられる戦いの日々……!


いやあ、たまりませんなあ。

二人の男に愛されるヒロインのシチュエーション。醍醐味にもほどがあります。

少女漫画の世界、乙女の夢であります。


息子が主人と張り合う微笑ましい行動の数々は、おいおい紹介させていただこうと思います。


現在はそうでもありませんが、つい最近まで息子は、主人が下船すると告げたときは思いっきり嫌な顔をしてみせ、乗船すると分かったときは飛び上がって喜ぶほどの素直な丸出しの感情を披露してくれました。








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