第四幕『師弟』

「よう!起きたのか」


 声を掛けられて振り返れば、アレだけ飲んだにも関わらず変わらぬ緩い顔をしたラースが手を振っていた。その横に初老の男が控えている。


「折角だ、メーヴォ。紹介するぜ、例の商船のジェイソン船長だ。俺が海賊始めた頃から世話になってんだ」

「よろしく、クラーガ殿」


 老人特有の達観したような笑顔で、ジェイソンはこちらに手を差し出した。


「よろしくお願いします」


 その手を取り、言葉を交わす。狡賢く生きる事に長けたジェイソンの眼はラースのそれに似ている。のらりくらりと、しかし狡猾に生き延びようとする者の風格を感じる。なるほど、ラースが信用するに足る人物のようだ。


「立ち話もなんだ。場所を移すか」


 ラースの合図で、僕たちは居住区を抜けた。家々が立ち並ぶ居住区の奥にはかなりの農地が広がっていた。コチラの農地では春蒔き小麦が穂を伸ばしている。片や小麦かと思えば、アチラではトウモロコシが実をつけているから、限られた土地で多様な作物を作る事で豊かさを得ているようだ。そうだ、もう一年経つんだ。


 農地の片隅、海に面した柵の近くに陣取って、三人並んで腰を下ろす。どうだ?と勧められた酒を断ると、そう言うと思ったとラースが差し出した冷たい紅茶の入った瓶を受け取った。


「さぁて、どっから話すか?」

「ヴィカーリオ海賊団の成り立ちを話してくれ。そうすれば、自ずとこの場所やジェイソン船長の話も出るだろう?」

「そうだな、流石メーヴォ。二日酔いの頭も冴えてるな」

「そこまで酔っちゃあ居ない」

 そんな僕らの会話に、ジェイソン船長が声を殺してくっくと笑った。

「坊主は良い相棒を見つけたな」

「へっへっへ……見付けたのは偶然だけどな、今じゃ無くちゃならない相棒よ」


 改めてそんな紹介をされるとむず痒くなる。


「じゃあ、改めて聞かせてもらおうか?ラース船長の半生ってヤツを」

「大きく振るなってオッちゃん」


 そう会話を交わすジェイソンとラースは、何処か親子のような、師弟のような。そんな雰囲気を持っていた。

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