第九話『海賊カレーと幽霊の晩餐』

第一幕『金曜』

 ヴィカーリオ海賊団では、毎週金曜日の夕食はカレーと決まっている。乾燥させておいた肉を茹でて戻して作るビーフやポークのカレー。時々チキンカレーだったり。肉のストックがないと海鮮カレーになる。どれも僕好みにスパイスが効いていて、こっそりこの金曜を楽しみにしている。ヴィカーリオ海賊団に入って本当に良かったと思える事の一つは、料理人ジョンと出会えた事で間違いない。


 彼の作る料理は兎に角美味い。全てが保存食である乾物などから作られているとは思えぬ程の口当たり。香辛料や東の方の調味料を使った料理のレパートリーはとんでもなく多く、なかなか同じ食事が並ぶ事はない。船員からのリクエストは受け付けているものの、食材が揃わない時はなかなか希望通りのメニューになる事はない。港に停泊している間はそのリクエストが良く通るので、船員の中には港に着いても船の中にいる者が少なくない。


 その週の金曜も、皆が待ちかねたカレーの日だった。


 食堂には炊き上げられた白米と、焼き上げられたナンと言う薄べったいパンとカレーの鍋が並べられ、好きなだけ取って食べるビュッフェ形式が取られている。僕は白米を皿によそってカレーをたっぷりかけて席に着いた。皆口々に「いただきます」と挨拶してから食事をとる。それはジョンの生まれた国の風習らしいが、今ではヴィカーリオの食事前の挨拶みたいになっていた。


 食材の命を、いただきます。


「いただきます」


 手を合わせてそう言って、スプーンを取ってカレーを口に運ぶ。白米は少な目。カレーに泳ぐくらいで良い。今日のカレーは細かく刻まれたビーフのカレー。舌を刺すような刺激、香辛料の香るカレーは本当に美味しい。

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