第十二幕『略奪』

 上空を滑空する竜の上からは、メーヴォのチビ助がワシの渡した特性小麦団子を上空から爆撃し、甲板に居た兵隊は目と鼻をやられて使い物にならなくなり、更に火をつけた爆竹が投下されると場の混乱は最高潮になった。小麦が粉塵爆発を起こして甲板は火の海。火に巻かれて逃げ惑う兵隊の何人かが海に飛び込んだ。竜が敵艦を旋回し、風の道が下に降ろされ、小麦爆弾の残り火を吹き払うと同時に船長が甲板に降り立つ。


「ヴィカーリオ海賊団がこの船を頂くぜ!海の供物にお祈りをしな!」


 雄叫びを上げた船長相手に、立ち向かおうとする兵隊は僅かやった。海賊船は海軍戦艦に横付けし、橋板を渡して一斉に襲いかかる。最近、ヴィカーリオ海賊団の船員全員に一丁ずつ魔法の弾が撃てる拳銃が支給された。弾数に限りはあるが、普通の銃よりよっぽど強い。撃ち放たれた弾丸一発に、兵隊の腕がまるまる一本吹き飛んでいった。


 ワシも自慢の獲物(戦闘用)と二人ばかりの部下を伴って、船の中を目指す。邪魔な兵隊は切り捨てて、そりゃあもう一直線に調理場へ。船の中ですれ違う海兵に違和感を感じ、トドメも刺さずに殴り倒して先へ進んだ。この違和感を船長はどう料理するか楽しみや。


 で、見つけた調理場は勿論無人。ワシと部下は手当たり次第に食材を持って来た麻袋に詰め込んだ。乾物が主だが、他に調味料の類も頂いてく。どうせこのままでは海のモズクになるのだ。ん?モクズか?


 同じく船内に入り込んだクラーガ隊が数人列を成して走って行きよるから、そろそろワシたちは撤収だ。


「料理長!見てください酒です!酒樽です!」

「っしゃあ!でかした!おい、クラーガ隊!そこのデカブツ一人こっちゃ来い!酒樽持ってけ!」

「うっす!」


 ぞろぞろと大量の食料を掻っ攫って甲板に上がると、すっかりそこは血の海になっていた。おお、皆殺しかい流石船長、残酷なお人やで。


「おい、そっちの救助艇を下ろせ。この船を沈めた証を海軍のヤツらに見せてやれ」


 お、そう言う調理法で行きよるか。


「船長、食糧確保完了や!酒もあったで!」

「よぉし、良くやった!」


 やがて甲板にクラーガ隊が戻って来て、ヴィカーリオ海賊団は殺戮と略奪の限りを尽くし船へ戻った。それはあっと言う間の出来事だった。程なく船底に仕掛けられた爆弾が爆発し、海軍の船は海の藻屑と消えた。


 船首に立って船が沈んでいく様子をずっと見ていたメーヴォのチビ助が、小さく「この船じゃなかったのか」と呟いたのがやけに耳に残った。コイツは気付いていたに違いない。この人はメーヴォの旦那で本当に間違いねぇんだなと、一人納得した。その横顔は十ほどの少年の目ではなく、血に染まった沼を湛えた狂人のそれだった。


 あの船は、海軍の訓練生を乗せた訓練帆船だった。海に飛び込んだ何人かが、下ろした救助艇に辿り着き、生還出来たかは神頼みや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る