第八幕『食事』

「おめぇらぁ!飯じゃー!」

「はぁい!」


 キラキラと目を輝かせて、メーヴォさんが船室の入り口に目をやる。東の方の赤い民族衣装を着たヴィカーリオ海賊団の料理長がその強面で仁王立ちしていた。


 料理人ジョンシュー。私たちは皆ジョンと呼ぶ料理人は、その強面も相まって到底料理人には見えず、さながら東の剣豪と言った風貌をしています。とは言え、彼の作る料理はとても美味しく、船員は皆彼に胃袋を掴まれていると言って間違いないのが現状です。

 それは新入りメーヴォさん(子供)も例外ではなく、その強面に驚いた初回以降はすっかり彼の料理の虜です。今も船長を置き去りに、さっさと食堂へ走って行ってしまいました。ションボリと項垂れる船長に、ジョンの部下が寸胴を運んで来ました。ドラゴンの巨体を維持する為、船長は人の五倍から食べる様になってしまって、鍋から直接食べている始末です。


「船長!ほら、これでも食ぅて元気だせって。昨日の内から下拵えしちょいたから、今日の海老スープは格別やで」

「んんー……美味いスープは良いけどなぁ。昨日から俺一人甲板で飯なのすげぇ寂しいんですけどぉ?」

「しゃーないやろ、その体じゃ中には入って行けんら?」


 こればっかりは仕方ないと、私もマストを降りて甲板から船内へ移動しようとすると、扉を開けたところでメーヴォさんと鉢合わせました。トレイに自分の分の食事を持った彼は、扉を開けられなくて困っていたようです。


「マルトさんありがと!」


 天使のような笑みを残し、メーヴォさんは船長の元に走って行きます。


「船長!僕も一緒に甲板で食べて良いですか?」


 いつもなら行儀が悪いから食堂で席に座って食べろと怒りそうなジョンも、この状況では言い出せなかったようだ。


「メーヴォ!お前イイコだな!」


 どうしてあんなに性格が歪んで……いや、もうこの話もよしましょう。今此処にいる一週間限定メーヴォさん(子供)には精一杯海賊生活を楽しんでもらいたい。きっとジョンも同じ考えだろう。仕方ねぇなぁと悪態を吐いたその口で、その晩の食事は全員が甲板での食事となったのだから、彼もこの船を愛しているのです。

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