第四幕『変化』
落ちこぼれとは言え魔族の端くれであるぼくは、ヴィカーリオ海賊団で情報収集を主に仕事にしています。
ぼくの存在は人間には知覚しにくいようで、存在感が無いと言われますが、情報収集にはうってつけなので重宝しています。お頭のラースさんだけは的確にぼくのことを見つけてくれるので、今はヴィカーリオ海賊団がぼくのホームです。ぼくの名前はレヴニード。仲間たちからはレヴと呼ばれています。よろしくお願いします。
さて、話を戻します。場所は移動したほうが良い、と言うニコラスさんの意見でヴィカーリオの船、エリザベート号に海神の大旦那が一人乗り込んで来ました。先に酒場で話は済んでいて、姿が変わる代物なのでホームで飲んだ方が良いと言う話になったようです。時間差を付けて船へ帰ったぼくに、ニコラスさんが「遅かったな」と言ったのには驚きました。ぼくを知覚した上に、後を尾行ていた事がばれていたようです。恐ろしい人だ。
船員の皆も遠巻きに、甲板の中央に置かれた樽を囲んでいるお頭たちに注目しています。樽の上には小さな小瓶。飲むのお頭とメーヴォさん。
「じゃあ、僕はこっちのCのタグの付いた瓶で」
「なら俺はDの方だな」
宝に相当する試薬の被検、命に関わる事は無いとニコラスさんから説明があったとは言え、皆固唾を呑んで見守っています。
「供物へのお祈りは済ませたか?……いっせぇの!」
お頭の掛け声で、二人が瓶を仰いだ。一息に飲んだ二人が同じタイミングで樽の上に瓶を置いた音が、甲板に響きます。
ヒュン、と空気の震える音がして、メーヴォさんの使い魔鉄鳥さんが飛び立った次の瞬間。
「いっ、いたたたっ!うぅぅうぐあああっ!」
「……あっ……あがっ、うっぐ」
きっと本人たちは何が起こっているか見えていないだろうけれど、ぼくたちは世界の終わりを垣間見た気がしました。
最初に声をあげたメーヴォさんは自身の肩を抱くように体を抱えて蹲ってしまった。その身体が、バキバキと音を立てています。
次に声にならない声をあげたお頭の背が、やはりバキバキと骨の鳴る音と共に盛り上がっていきます。ぐにゃりとシャツも一緒に歪んで隆起していく様は只管に恐ろしかった。百戦錬磨の海賊たちも、目の前で起こっている事象に青い顔をしています。声無き声を上げているであろう鉄鳥さんもピカピカと点滅しています。
二人の苦痛の声が港に響き渡るのを、ただ呆然と見続けるしか出来ませんでした。
お頭の声が途切れ、痛みのあまりかメーヴォさんが倒れてぺしゃんこに潰れてしまって、長い時間のように感じた数分が終わり、ぼくたちはそこに信じられないものを見ました。
「……ぬぁんだこりゃあ!」
緑色の鬣、緑色の鱗、白い蛇腹、真っ赤な瞳、鋭い牙が並ぶ大きな口、爪のある手足、鱗に覆われた太い尻尾、大きな爪のある翼。着ていた衣服まで取り込んで、お頭はDの意味する、つまりドラゴンになってしまったのです!
「ふむ、やはりドラゴンのDだったか」
「おい大旦那!やはりって事は予想付いてたって事じゃねぇか!」
手元の手帳に何やら書き込んでいるニコラスさんに文句を言う船長は、ゆうに三メートルはありそうな小型のドラゴンです。ニコラスさんもかなりの長身ですが、横に並んだ船長のせいで小さく見えるくらいです。
「ふむ、声はそのままに話せるのだな。あと意識や記憶もしっかりしている、と」
「話聞いてくれる大旦那?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます