第三幕『交渉』
「確かにその情報なら、相応のリスクと等価になるだろうな。で、その薬ってのは飲むとどうなるんだ」
「ざっくり言えば姿が変わる。そこから先の被検体の状態を見て、友人へ報告せねばならないのだ」
「アンタのところの部下が飲んだって言ってたよな。彼らはどう言う症状で、どのくらいで姿が戻ったんだ?」
何処までの情報をニコラスが提供した上で、それでいて尚まだ交渉するのか。この人の真意が読めない。そんな交渉の場において、返ってきた答えが余りにも突拍子無くて俺の緊張の糸がフワッと緩んだ。
「ウチのところのは、一人が背に翼が生えた」
「は?」
「もう一人は何処かの文学よろしく毒虫になった。二人共に一週間ほどで元の姿に戻ったぞ」
思わず俺は眉間に手を当てて俯いてしまった。ちょっと頭が痛い。何だって?翼が生えた?毒虫になった?
「この二つを飲んで何に変化するか、そう言った情報はないのですか?」
頭を抱えた俺に変わって、横に座っていたメーヴォが口を挟んだ。コイツやる気だな絶対そうだ。
「そうだな、その二つの薬を飲んで、どう言った風に変化が出るのかは的確な情報は分からない。それの実験、経過観察を知りたい」
「ラース」
「やろうって言うんだろお前は!」
「分かってるじゃないか。この程度の条件で蝕の遺産情報が手に入るなら安いものだ」
「ならば、薬を飲む人物を指定したいのだが、構わないか」
ニコラスの一言に、メーヴォの顔が凍り付いた。まあそうだろうな。どうせメーヴォの事だから適当な水夫に任せてお宝を追えば良いと思っていたんだろう?そう世の中上手くいかねぇよな?
「魔弾のラース、蝕眼のメーヴォ。二人に頼む」
っすよねぇ!あぁぁ面倒くせぇ!助けて供物様!
「どうだ、二人はやる気があるか?」
やる気があるかないかで聞かれたら、なあ。
「心配するな鉄鳥。良いでしょう、やりましょう」
「言うと思ったぜ相棒。大旦那、引き受けようじゃねぇかこの一件」
「交渉成立だな」
珍しく口元に笑みを浮かべたニコラスに、俺は底知れぬ嫌な予感をもって大旦那と握手を交わした。
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