第十二幕『挑発』

 ざわつく偽金獅子たちを他所に、回転した惰性にくるりと長い髪を翻し、正面に構える。右手のヴィーボスカラートでピシャリと床を叩き、ボッボッと小さな爆発をいくつも起こし、敵を威嚇する。


「アナタたちの攻撃ってのはそんなモノなの?この海域の海賊ってのは貧弱なのね。魔法生物のひとつも飼ってないなんて可哀想だわ」


 敵の神経を逆なでするように言葉を紡ぐ。こう言う相手にはまず冷静さを欠かせる事が有効だ。


「さあ、大人しくアタシにその宝石たちと、ヴァレンタイン様を返してくださる?」

「ヴァレンタイン……さっき捕まえた宝石商人か?……てめぇら仲間だったってのか」


 飛び道具が聞かないと分かってか、手下の男たちが後ずさって偽金獅子の後ろに隠れる。情けない奴らだ。


「てめぇ、舐めた真似すると、この屋敷を吹き飛ばしてやるぞ!人質もろともぺしゃんこだぞ!」

「ふぅん。やって御覧なさい」

「なんっ……本気で言ってんのか」

「テメェも本気ならさっさとやってみろって言ってんのよ!この玉無しが!」


 言葉を崩して威嚇する。かぁーっと顔を赤くした偽金獅子がやってやるぞこのぉ!と叫んで起爆スイッチらしきを押した。ホールの外で爆破音が一つ。その後に続く音は無かった。


「……なんでだ、何で爆破しないんだ」


 偽金獅子の余りの動揺ぶりに、コレには流石の僕も演技を忘れかけた。


「あっははは!玉無しの上に弾もなかったってのか、おっかしいわ!」

「てめぇ……」

「あんなに火薬の臭いをプンプンさせてればすぐに分かるわ。起爆装置は細工させてもらったわ。で、アナタの言ってる弾丸は、この子らでしょう?」


 素早く取り出した爆弾をヴィーボスカラートで着火して、未だ破られていないケースに向かって放つ。飛んでくる爆弾に萎縮した周囲に居た手下たちが一斉にその場を明け渡し、コン、と音を立ててケースに当たると同時に爆弾が爆発する。


「お行き!」


 大きく袖を振って、中に隠れていたファイアーバードの雛たちを飛ばせる。爆破して割れたケースの中から、雛たちが宝石を咥えて飛び立つ。蒼石、緑石、金剛石、黄石、そして赤石。五羽の雛たちがそれらを持って一斉に戻ってくる様は中々絵になった。


「良くやったわね」


 懐から火薬袋を出して火薬を雛に食べさせつつ、取ってきた石を火薬袋に滑り込ませる。


「きっさまぁ……魔物使いの類だってのか」

「本当に馬鹿な男ね。大方適当な魔獣商人から買って、その後ろくに餌もやらないでいたんでしょう?そんなのあっと言う間に乗り換えられて当然よ」


 すっかり僕に懐いたファイアーバードたちを撫でながら偽金獅子を一瞥すれば、真っ赤な顔のまま怒りに震えていた。いい仕上がり具合だ。


「ヴァレンタイン様は何処?さっさと教えてくださらない?」

「てめぇら、あのアマやっちまえ!」

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