第二幕『ラースと言う男』
とは言え、美味いピカディージョ(牛肉のトマト煮込み)とエールで程ほどに気分も良くなっていたのも事実だ。今のエリザベート号に足りない装備はアレだ、次に金を掛けるなら何処の装備だ、武器庫の研究設備の強化をして欲しいとか、帆の修繕が先だ、とか。何を主体とする訳でもない話を繰り返し、僕が二杯目のエールを空けて水を飲み始めた頃だった。
ガチャン、と陶器が悲鳴を上げ、隣のテーブルで男が二人組み合う。酔ったチンピラ同士が絡んだ良くある喧嘩だ。ひゅぅ、とラースが口笛を吹いて、良いぞやれやれ、と野次を飛ばす。周りの喧騒など耳に届いていない酔っ払い二人は取っ組み合い、殴り合いの喧嘩を加熱させていく。
「……下らない」
眉をしかめた僕を他所に、ラースはゲラゲラと腹を抱えて笑っている。飯が不味くなるから他所でやって欲しいが、此処は海賊やチンピラが集う港の酒場だと言う事を忘れてはならない。つまりそれは、その喧嘩の飛び火がいつ此方に来るか分からないと言う事も含めての話だ。
男の一人が突き飛ばされ、僕たちのテーブルに吹き飛ばされて来た。再び盛大に陶器が悲鳴を上げ、何枚かの皿が床で大破して折角の料理がゴミと化した。それでも男たちは喧嘩を止めない。笑っていたラースの顔が固まっている。もう一人の男が追撃のために圧し掛かる。倒れたテーブルの向こうに、ラースが大事にいつも抱えている頭蓋骨を包んだ絹布が転がっていて、それはゴミと化した料理のソースを被っていた。
ほんの一瞬ラースから目を放した隙だった。銃声が四発、立て続けに酒場の中に響いた。男たちの汚い悲鳴が続く。
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