第三幕『凶行』

「よし、死ね。供物に祈る間も無く死ね」


 それはいつも軽い声で話をするラースの声ではないように聞こえた。地獄の底から響くような声、と言うのはこんな声を指すのかも知れない。その声は、酷く僕の心を落ち着けた。


「おい、どうしてくれんだよ。お前らのくっだらねぇ喧嘩で俺たちのテーブルはゴミの山だぜ?おい、なぁ?しかもどうしてくれんだよ、俺のエリーになんて事してくれたんだオイ、答えろよクソカスどもが」


 足を二箇所ずつ撃たれた男たちが、何がどうなったのか、何故自分たちが撃たれているのか、と言う困惑の表情でラースを見上げている。自分たちの喧嘩に夢中だった男たちは、エリーと言うラースの地雷を踏んだのだ。テーブルの上から転がって汚されたエリーにラースが切れた。


「ぎ、ぎ、あぁ、や、止めてくれ!」

「ひぃいイテェ、痛ぇよぉ」

「おい、そんな汚ねぇ悲鳴が聞きたい訳じゃねぇんだよボケカスども。こう言う時に何て言ったら良いかママに教わんなかったのかぁ?え?」


 存分に痛めつけるようにして、手に持った銃で的確に急所を外して撃つ。男たちが訳が分からずに撃たれる恐怖と痛みに顔を歪め、泣きながら止めてくれと懇願する。その様の狂気に中てられ、酒場の中はしんと静まり返っていた。酔っ払って気分の良い僕一人が、その銃声と男たちの泣き叫ぶ声に聞き入っている。ざまぁみろ。


 とは言え、面倒事は御免だ。これ以上長居すると、この一帯の警備兵が出張ってくるかもしれない。残っていたエールを飲み干し、僕は汚れた絹布をエリーから外し、自分のマントでそれを拭う。エリーの頭蓋骨は布のおかげで大した汚れは付いていなかった。金色のカツラを整えて抱え、ラースの肩を掴む。

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