第六幕『海賊船長と副船長』
翌日の空はどんよりとした曇り空だった。今にも雨が降りそうな空の下、甲板で一人愛しのエリーの髪を綺麗に梳いていた。爆弾魔とのこの巡り合わせ、エリーの導きに違いない。美しい並びの歯にキスをし、優しく絹布で覆って腰へ下げる。昼飯にウチの料理長が景気付けにと作ってくれたバジル味の揚げ魚のゲップを一つ落とすと、突然後ろからど突かれた。
「いってぇな!」
「品がない」
眉間に皺を寄せて渋い顔をして後ろに立っていたのは副船長のエトワールだった。上等なコートに身を包んだ綺麗好きでお上品な雰囲気の男。手入れの行き届いたツヤツヤの長い髪を潮風に靡かせている。
「海賊相手に下品だ上品だとか、無粋だと思わねぇか?」
「無粋で結構。まったく、無茶な作戦を立ててくれましたね」
渋い顔の原因はそれか。確かに爆弾魔奪取の作戦は中々に危険を伴う作戦だった。
「俺の頭が冴え渡ってる感じの良い作戦だろ?」
「此方の労力と危険度を考えると、ちっとも良い作戦じゃありませんよ」
無茶ばかり言う、とエトワールは本人を前に堂々と愚痴を零す。困った副船長様だ。此処で言い合いをしていても作戦は変わらないし、変える気もない。
よし行くか、と気合いを入れたその背中を、エトワールがダメ押しに一発平手を入れた。イテェ!
「ヘマしないで下さいよ」
「へぇーへぇ!供物に祈りな!」
有難い厄落としの一発を背に、船から下りて港へ足を運べば、港中が噂の爆弾魔の公開処刑に沸き立っている。ついにあの殺人鬼が捕まった。これで安心して寝れるとか何とか。そんな人々の会話を耳に掠めながら、情報屋レヴの集めて来た爆弾魔に関する話を思い返す。
爆弾魔の最初の餌食になったのは、実の父親だったらしい。表の顔で惜しい人を亡くしたと嘆いていたその実、親殺しをやってのけた恐ろしい顔を持っていた。次々に殺されていったのは、殺人鬼の周辺の人間たち。相当な私念があったのだろう。真面目そうなやつだったのに、と。街の人々は真面目な青年が豹変したとでも言うように噂を口にしていた。
そう言う一見真面目そうなヤツほど、奥底に黒くドロドロしたものを抱え込んでいるってもんだ。良い子を演じる裏で、あの爆弾魔は黒い殺意を溜め込んでいたに違いない。その殺意に似た何かを知っている。
ギラギラと生きる事にしがみ付こうとするあの瞳を思い出す。真っ黒な汚泥を底に沈めて抱え込んでいるような、畏怖すら感じる力強い瞳。腰に下げた頭蓋の眼孔でかつて輝いていた力強い瞳を思い出させるアレを、是非とも手に入れたい。俺は静かに決意を新たに砦への裏道へ忍び込んだ。
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