第五幕『勧誘』
「お前の火薬に対する知識と技術が欲しい。砲撃手と銃砲の整備士としてな」
その言葉にぴくりと男の眉根が反応する。生存への道と最も興味のある事を同時に突きつけられれば、嫌が応にも反応してしまうものだ。
「……今すぐ此処から出してくれるのか?」
返って来た言葉に思わず言葉が詰まった。
「あ、あー……今すぐは、無理だ」
今はあくまで偵察に来ただけだからな、と告げると、男はまた不審そうに眉根を寄せた。
「ああー待て待て。話を聞け。お前さんの夢は何だ?爆弾で街を壊すのか?それとも国に背いて自由に生きる事か?」
あまり不振がられて兵士を呼ばれても困る。何とか話題を逸らし此方に興味を抱かせようと口を開く。
「夢が何であるにしろ、俺のところに来れば叶うかも知れねぇぜ?海賊は自由に生きようとする者を歓迎するんだ」
不審そうな顔はそのままだが、男はほんの少し目を細めた。何かに思いを馳せる顔だ。ほんの少しだけ殺人鬼の顔に、人らしい夢や希望を語る明るい光を垣間見た。
「…………僕の夢はな、人工生成出来る燃える水と、爆発する魔法の水を手に入れる事だ」
「ヒュゥ、スゲェじゃん」
なかなかの野心の持ち主と見た。技術者らしい未知の物を求める夢。竜の体液でもなく人工生成出来る魔法の水なんて聞いた事がない。相当なお宝じゃねぇか!
「……おい、今僕を助け出すのが無理なら一度退け。そろそろ巡回が来るぞ」
「マジでか。おっし、供物にお祈りして明日を待ってな」
じっと此方を見つめる目は何処までも力強く、生きる力に溢れている。この状況にありながら自分は死なないと信じきっている愚か者の目だ。これだけの逸材は早々にないぞ。絶対にモノにしてやる。
ガコン、と石煉瓦を元に戻して程なく、巡回の兵士の「異常なーし!」と言う暢気な声が牢屋に響いた。
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