第二幕『船長と情報屋』

 必要な物資を買い付けに回り、手下の水夫たちに荷物を預けて船に戻らせて、俺たちは酒場で遅い昼食を取る。この店の海老のアヒージョ(海老のガーリックオイル煮込み)はなかなか美味かった。プリプリの海老に香ばしいガーリックオイルでエールが進む味だ。

 さぁてこの後どうしたもんか。


 この一帯の海域でようやく名を挙げ始めた海賊、魔弾のラース率いるヴィカーリオ海賊団。その団長であるラース様が、その二つ名とも言われる魔弾が撃てなくなったなどと、こんな事態に陥って良いはずがない!何処かにモグリの技術者が居るとか、どうにかしてその手の類の情報を集めるしかない。ウチの船員きっての情報通がどんなネタを仕入れてくるか、もはや神頼みにも等しい。


 深い溜息をこれ見よがしに吐き出して、テーブルに置いた愛しき骸骨の頭を撫でる。酒場の明かりに金色の髪がきらきら輝く。導いてくれよなぁ?俺の愛しのエリー。

 酒場の扉が静かに開閉し、そこを人が通ったと誰も気付かぬ間に、俺たちの囲むテーブルに一人の男が着席した。


「お頭、エリーを仕舞って下さい。海軍が来ます」


 影が囁くように小さな声で、しかし逼迫した声色で男は、少年は囁いた。俺はそっとエリーを絹布で包んでテーブルの下に隠す。

 途端、酒場の外で民衆が好奇の目を向け、何事かと声を上げる。民衆の視線のその先で、絢爛豪華な制服に身を包んだ国軍将校御一行が列を成して闊歩して行く。それに続くのはどうやら海軍の兵隊のようで、彼らは鉄製の檻を担いでいた。檻の中にいるのが珍獣なら良かったのだが、それはどう見ても成人男性と言った具合で、つまり罪人が引っ立てられたのだ。


「……あーあ、可哀想にねぇ」


 明日は我が身とも知れぬ男の姿に、哀れみのような皮肉のような溜息が出る。後手に縛られ、檻の中央から吊るされ膝立ちで揺られている男はまだ若い。相当な抵抗をしたのだろう。そこそこのハンサム顔は殴られてボコボコだし衣服も泥まみれ血まみれ。檻の後ろに続く隊列では何人かの兵隊が肩に担がれたり、如何にもアレな袋を抱えている者たちも居る。


「アレは相当反撃したな。に、さん……五人くらいは返り討ちにあってるんじゃねぇか?抵抗空しく、お縄ってか」

「他人事みたい言っていられませんよお頭。彼はこの一帯で連続殺人をしていた者らしいですが……」

「あぁ?何だ同業者じゃねぇの」

「彼、爆弾魔の異名を持つ火器の専門家で技術者、特に火薬については右に出る者が居なかったとか」

「馬っ鹿野郎!何でそれを早く言わねぇんだよ!」

「大丈夫です、情報はあらかじめ集めて来ました」

「よし、でかした!早速作戦会議だ」


 また始まった、と頭を抱えた船医マルトを無視して、俺はエールを片手に魔族の少年、情報屋レヴと共に酒場の奥の席へと移動した。

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