海賊寓話

面屋サキチ

第一話『海賊船長と殺人鬼』

第一幕『海賊船長の憂鬱』

 立ち寄った港町の鍛冶屋にそれを見せると、これは専門の者が見ないことには直せないと、至極端的に返答をもらった。


「魔法がかかってる代物はウチじゃどうにもならん。せめて火薬なんかを専門で見る人間がいないと直せんよ」

「くっそ、なんだよ面倒くせぇなぁ。折角この技術大国くんだりまで北上してきたんだぜ?」

「そうは言ってもなぁ旦那。こっちも技術者の確保に苦労してるんだ。国が工房からして手を回して技術隠匿さ」

「……ってこたぁ、この辺り一帯の鍛治屋だの武器屋じゃ結果は同じって事か?」


 返事の代わりに肩をすくめて見せた店主に、思わず頭を掻きながら悪態を吐く。右頭部の古い傷跡を小指が掠めてジワリと痛みが走る。ああ、嫌な気分だ。


 愛用の銃の調子が悪い。ついでに言うと船に積んである砲台もろくな手入れがされていなくて、此処のところ飛距離も命中率も悪い。砲台はともかく、愛用の銃はこの街ではどうにもならないと結果が出た。火薬の専門家で国軍に属していない、または監視下に無い者なんぞこの御時世、早々居るものではないと言う事だ。長らく冷戦が続くこの世界情勢の中、技術者の価値は計り知れない。


「仕方ないです船長。次の街までの航路を考えましょう」

「そう悠長に言ってられるか!この海域でようやく名前が知れ渡ってきたってところでよ?小蠅共を追い払う弾が無くて魔弾のラースが名乗れるか?」


 その二つ名も自称じゃないですか、と溜息混じりに呟いた男をギロリと睨んでやれば、船医マルトは大柄な身の丈に似合わず小さくなって肩をすくめる。デカい図体のくせに気が小さすぎる男だ。

 しかしマルトの言うことも間違いではない。この街で出来ることがないなら、早々に物資補給をして立ち去るべきだ。名前が通り始めたと言うことは、海軍に目を付けられ始めると言うことも意味する。出る杭は打たれるし、要らぬ新芽は早々に摘まれてしかるべきだ。どこぞの海洋国家程ではないが、この国も海賊に目を光らせている事は間違いない。


「チッキショウめ……」


 また悪態を吐いて、腰にぶら下げた絹布の隙間から愛しい頭蓋の金髪を撫で、少しだけ気を落ち着けた。

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