第二部 ほんの少しの日常と新たな旅立ち

隠された日常

━━いつもの教室。


「ねぇ、聞いたぁ? 」


「ん? なに? 」


「あいつ、また全教科満点取ったって! 」


「マジで?! ナニソレ、もうバケモンじゃん」


「あたしらがバカみたいだよねー」


「いやいや、ここ、東大進学率90%だってば……」


少女たちの視線が前列窓際に集中する。

そこにはレンズの大きなメガネをした少女が背中を丸めて、カバーを付けた小冊子をこれでもかと近づけてみている。……否、埋めていた。



━━職員室内。


「……佐伯先生、実際どうなんです? 」


「どう、と言われますと? 」


「お宅のクラスの、その、ですよ」


「ああ、ですか? どうと言われましても……、わが校としては、、ですよね」


……、贅沢な話だとは思うんですが」


「そう、ですね。……ですから。変わるのでしょうけれど」


担任の佐伯は出席簿を徐に開き、ボールペンでコンコンと一ヶ所を叩いていた。



━━体育の時間。


「今日は走り高跳びだ。1mから! 」


体育教師に一人ずつ名前を呼ばれ、皆思惑様々に飛んでいく。


!おまえは2mな。行け! 」


一人だけ高さをいきなり倍にされる。

無言のまま歩き出す。通常ならば助走のために走る滑走路を、だ。飛ぶラインまで来ると、軽く蹴りだし、跳躍した。綺麗な上昇と回転で楽々飛び越え、しなやかに着地する。


「……いつも思うが、どんな身体能力してんだよ、おまえは」


と呼ばれた少女は、ちらりとこちらを向くだけでなにも言わない。メガネが太陽に反射して、表情も窺えなかった。


「何なの、あいつ。勉強も運動も完璧じゃん」


「あれでらなー」


「男子が褒めても何も言わないとか、なんじゃないのー? 」


悪意のこもったくすくす笑いが聞こえる。幻聴ではない。

……受け入れてもらえなかった者の、これが現実。

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井戸史上主義ラプソディー 姫宮未調 @idumi34

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