真凛の底知れぬ愛の形

━卒業して2年。二人はまるで"恋人"以上に一緒にいた。


悠希は"悠葵密"(ゆうきひそか)のペンネームで小説家としてデビューし、真凛は"マーリン"の名前で悠希の小説の専属漫画家をしていた。

誰もが二人の趣味を知らなかった。……二人だけの秘密。

真凛は悠希の執筆に携わったが、悠希は真凛の作業しているところをみたことがない。


そんなある日……。


「……真凛? 」


悠希が我が目を疑う光景を目にした。……真凛の腕に抱かれる"赤ちゃん"を。


「……どういうことだ? 」


怒りにも似た憤りを悠希は感じた。

卒業する頃には両想いだった二人。許されないと分かっているからこそ、周りにはひた隠しにし、別々に暮らしている。……裏切られたと感じても仕方がない。真凛から悠希を求めたのに。


「私の"子ども"よ」


「父親は誰だ?! 」


変わらぬ笑顔に思わず声を荒げる。


「……そんな人、いないわ」


その言葉を発した真凛の声は、酷く冷たかった。


「だったら何で子どもがいるんだよ?! 」


「……知りたい? 」


「当たり前だろ?! 」


真凛によく似た子どもを睨み付けながら。


「……悠希、あなたも"同じように"作るのよ」


悠希は身震いした。いつもの笑顔なのに……真凛の瞳は、笑っていなかったのだから。


「私たちが"家族"になるために、ね? 」



◇◆◇◆◇◆◇◆



悠希は連れられるがままに、真凛の自宅に。……彼女はこのとき、初めて地下室があることを知った。


「……ここは一体? 」


真凛は答えず、誘(いざな)うだけ。


「入って? 」


階段を降りた先の扉を開き、促す。


「う……」


中は真っ暗だが、入らないわけには行かず、一歩踏みいった瞬間、目眩を起こした。……そして、そのまま意識は濁流に飲まれた。


「……ごめんなさいね? あなたは……だから、…………なのよ」


肝心な部分を聞き取れないまま、意識を手放した。




……目覚めると、悠希は真凛の部屋にいた。


「あれ? ここは……」


地下室にいったはずなのに。


「あら、おはよう」


扉を開けて、変わらない笑顔で入ってくる真凛。


「……何があった? 」


「え? 何? 」


何事もなかったように。




……それから更に2年後。同じように誘われるがままについていくと、また真凛の部屋にいた。……違っていたのは、寝ている自分の隣に、"子ども"がいたこと。自分に"よく似た"……。


「え……? 」


「"おめでとう"、悠希。あなたの"子ども"よ」


隣で笑う恋人。その笑顔に何か底知れぬものを感じずにはいられなかった。……けれど、それでも尚、悠希は真凛を愛する気持ちを捨ててまでも、彼女から離れようとは思わなかった。


……真凛の笑顔には、恐怖と共に何故か哀しみを感じていたから。何かに苦しんでいるような、そんな哀しみを。自分がいることで和らぐのならば傍に居続けたい、そう思ったのだ。


悠希は知らない。"華凛"と"悠真"がどこからきたのかを。


「……この子たちが大きくなって結婚したら私たち、"本当"の家族になれるの。大丈夫、きっと二人は"恋"をするわ。だって、"私たち"の子どもなんだから」



番外編『プラトニック・ラブ・リリィ』了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る