まずはお友だちから

「初めまして。私、東雲真凛と申します。」


魅力的に見える笑顔。人にどう見えているかも計算済み。彼女にも真凛は綺麗に見える……はずだった。


「……ああ、知ってるよ。あんた、有名人だからね。あたしは、"早乙女さおとめ悠希ゆうき"。で、何の用かな?」


無表情を崩さず、真っ直ぐ見つめ返される。真凛の方が冷静さを欠きそうだ。興味がないかのように、変わらない表情。


「私、あなたとお友だちになりたいのです。」


それは半分本当で、半分嘘。でも、誰もが知らないことだからそう言わざる得ない。


「構わないけど?"東雲"さん。しっかし、物好きだな。面白半分なら、やめてくれよ?……それでなくとも、周りの視線が痛いんだよ。あんた、どんだけ人気者か分かってる?」


……重々わかっているつもりだった。誰もが羨望の眼差しを贈ってくる快感は言い知れない。だから、それを利用した。けれど、"悠希"には通用しない。


「……困りましたわね。私は、本当にあなたとお友だちになりたいのです。"悠希"さんと。だから、私のことも"真凛"とお呼びください。」


周りと反応が違うからと諦めるつもりはない。寧ろ、落とし甲斐がある。この恋は本物なのだから。


◇◆◇◆◇◆◇


周りの少女たちは面白くないらしい。それほどまでに、"真凛"の存在は大きい。


「真凛様が何故……。」


「き、きっとお優しいから!そうですわ!」


無理矢理納得しようとする者。


「気に食わないですわ……。私が取り入る隙がないじゃありませんの。」


「お、落ち着いてください。チャンスはあるはずですわ!」


真凛と仲良くなれば、自分の家も格が上がる。それを迂闊に出来ない現状に苛立ちを隠せない者がいた。真凛はそんな者に興味はない。きっと求めれば、嫌でも受け入れる。そんなことでは、は手に入らない。


"お金"よりも"愛"を求める真凛にとって、"お金"や"地位"なんて些細なことだった。きっと"悠希"ならば、"そんなもの"はいらない。


真凛の思考は、"女性"しか好きになれない自分を受け入れてくれるかどうか、それだけに支配されていた。


「悠希さん、近くに美味しいクレープ屋さんが出来たみたいですの。ご一緒していただけませんこと?」


「うーん……。クレープくらいなら高くないし、いいよ。」


高いお店では、真凛が払う話に自ずとなってしまう。それでは、嫌煙されて上手くいかない。まずは、どちら側でも問題ない場所からに誘う計画。


彼女が人を避けているわけではないことが分かっただけでも成果はあった。


◇◆◇◆◇◆◇


「あらやだ、悠希さん。頬っぺたにクリームが♪」


指で掬い、ぺろり。


「言ってくれたら自分でやるって。恥ずかしいことしてんなよ、。」


困った顔を見せられて、名前を呼ばれて、真凛は幸せを感じていた。まるで、カップルのような自分たちの行動にほくそ笑む。


「クスクス。いいじゃありませんか。」


本当にこの人が好きだと思う。永遠にこの幸せを噛み締めていたい。彼女を手離すくらいなら、死んだ方がマシなほどに好きになっていた。


出会って、まだ数週間。クールなのに、可愛い悠希。ギャップ萌えと言うのだろうか。


「ねぇ、悠希さん?悠希さんは恋愛とか興味ありませんの?」


私を好きになって。

真っ向から言えるはずもなくて。


「はぁ?いきなりガールズトークかよ。あたしは興味ないんだが……。真凛はいんの?」


あなただと言えないもどかしさ。


「女の園で生きてきましたもの……。でも、興味くらいあってもいいじゃないですか。」


むくれたふりをする。


「まぁ、真凛は女の子らしい女の子だしな。"社交界"とかで、知り合ったりとかはねぇの?」


……あんな場所は下心しかない、狼の皮を被った犬たちばかり。


「"社交界"は"社交辞令"の宝庫なんですの!表面だけの付き合いに興味はありませんわ。」


「うわー……、辛辣だなー。可哀想に。」


真凛はに興味がないのだから、可哀想も何もないのだ。

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