ヲタクとマニア、そしてフェチ

「"マニア"が違うなら、"ヲタク"なのかい?」


「井戸以外ならそうだよ。」


「じゃぁ、井戸は"マニア"?」


「いやいや、ボクの場合、"フェチ"というのだよ。」


「また新しい言葉だね。"フェチ"ってどういう意味なのかな?」


わからないけど、興味津々みたいだね。


「三つを分かりやすく例えてみよう。

筋肉を鍛えてる人はいっぱいいるよね?」


「訓練で皆、鍛えてるね。」


「うん、すごく身近だから題材として最適だと思う。

これを、当てはめてみようか。

"筋肉マニア"、"筋肉ヲタク"、"筋肉フェチ"。

それぞれ意味合いが違うんだよ。」


フェルナンドくん、真剣に考えてる。

何故か、メイドさんが興味津々だ。


「…"マニア"は、軍人とは違うよね。カリンのさっきの説明なら。」


「うんうん。あれだよ、何か部位を細かく言えて更に、細かい説明まで出来ちゃう人だね。

んと、"上腕二頭筋"とか色々。」


ボクも詳しくない。そこら辺は、詳しい人に聞いてね!


「じゃぁ、"ヲタク"が実際、鍛えてる人なのかな?」


「そうそう、通常に鍛えるだけでは飽きたらず、極めたい若しくは極めた人かな。

胸ピクピクしてアピールしてたら、可能性は高い。」


間違っちゃいないだろうが、かなり偏ってるのは確かだよね。

仕方ないよ、ボクだもの。華凛。←

ヲタクってのは、大体が偏った知識から、持論を拡げていくタイプが多いってこと。

人に拠っては、他人の認識を吸収して新たな見解を築いたりする。

ヲタクには色々なタイプがいるわけだよ。

自分の世界に引きこもったり、意見を通い合わせたり。

時にはバトルして対立したり。


よくあるケースに、同じアニメの同じキャラクター推しの男女がいるとしよう。

こういうタイプは、大概カップルにはならない。

異例はあるかもしれないけど。

理由の一つに、推しキャラクター女の子の場合も男の子の場合でも、片方が異性キャラクターになるわけだから、"嫉妬の対象"にもなりうる。

よくあるケースは、友だちカップルになって進展しなくて別れるのもあるね。

だから、一番良い関係は"親友"とか"戦友"とかだね。

恋愛感情をそこに加えてしまったら、世界観が正直、崩れてしまう可能性が高い。

まぁ、可能性の話だから、上手くいかないってことでもないけど。


ボクは、全く同じタイプの人とは絶対合わないと思うんだ。


同じ趣味がいいとは言うけど、理解があればいいと思うんだ。

同じ趣味といえば、どっかの不具合オンパレードなのに課金制やめないオンラインゲームで、キャラクター同士で結婚して、リアルでも結婚した話。あるあるだよねー。

ま、ゆーまんみたいに呆れても、否定しないのが一番いーよねー。

あ…いや、ボクがゆーまんを好きだとか言う意味じゃないからね?!

あくまで理想の話なんだからね?!

そもそもボクは、井戸をこよなく愛してるからね!


…わかっているさ、恋愛とは別物だってことくらいは。


そんなことはいいのさ。


「しかし、ごめん。筋肉好きじゃないから詳しくは語れない。

まぁ、フェチはフェチズムの略なんだけど…、ボクみたいにまっしぐらな人だと思えばいいよ。ざっくりだけど。」


「じゃあ、カリンの好きなタイプは、どんな人なのかな?」


ヲイヲイ…、いくらボクでも意図くらいわかるぞ。


「理想とタイプは似て非なるものなのだよ、フェルナンドくん。」


「…私はカリンみたいな女の子が好きなんだけど、そう簡単には行かないか。」


「ふ、ボクは恋愛を主とした考え方は理想論でしか語らないからね。

必ずしも、その理想論に当てはまる人が好きだとは限らないのさ。

ボクの見識だけで語ってしまえば、大概の人が当てはまる恐れがある。

…正直、面倒臭いことになるから語らないで置きたいのさ。」


「ふふ、上手く逃げられちゃったな。」


「…フェルナンドくん含め、約3名に何故か気に入られたからね。

井戸愛を全面に出しても、押してくるのは困るのさ。

ボクが恋愛に興味がないといったら、嘘になるが、井戸愛と釣り合いが取れなくなるのは嫌だ。


恋は盲目とはよくいったもんだ。

ボクは突進するタイプだから、バランスが取れなくなるのは嫌なんだよ。

恋愛ほど不確定要素の高いものは、予測がしにくい。


ボクは、確実に答えが導き出せること以外はあまりしたくないんだ。

分かってくれるかな。要するに……苦手なんだよ。

答えの範囲が広すぎる分野は、100%の確証がないからね。

矛盾してたって、正解は人一人一人違うんだからさ。」


変な言い回しだったかな?

フェルナンドくん、黙っちゃったよ。


ふいに、メイドさんがパチパチと拍手した。


「…素敵な弁論をありがとうございます、カリン様。

中々に興味深い見識に御座います。」


へ?え?何それ?


「我が国の確固たる意思表示をゆるされているのは、上位貴族以上の方々や、王子などの王家の方々のみとされています。」


だから、物珍しい感じか。


「カリン様のような、制限を制限と捉えない考え方が新鮮なのですよ。」


「…いや、ボクはただ持論を述べているだけなんだよ。

言うだけはタダってゆーじゃない。」


フェルナンドくんが何か笑った?


「…それすらも、暗黙の了解で口にすることも憚られるような国だってことだよ。

目上に対しての礼儀の一環、みたいなものかな。

敬意を表すことは、自分より上位に逆らわないことなんだ。」


「……習慣や制度は国に拠っても、育った環境に因っても、如何様にも変化する。

ボクは余所から来たから、この国に縛られてないだけ。

ボクの生まれ育った場所にだって、少なからず制度はあるよ。

だからって、言いたいことも話せなかったら、心が壊れちゃうじゃない…。」


二人は顔を見合わせている。


「…考える自由さえも奪われたら、ただの人形だ。

生きている意味さえもないじゃないか。

権威者だけの自由で確立し続けたら、会話の通じない動物扱いの王国になり果てる…。」


あれ?フェルナンドくんは困った顔をしてるけど、メイドさんが近いな…。


「…カリン様は、未知の異世界からお越しだとか。」


「…あ、うん。」


「まるで、自分のことのように真剣に考えて下さるのですね。」


「あ、当たり前じゃない!人生、一期一会だ!皆、生きてるんだから!」


…少し遠くから、足音が響く。

二人の表情が強張った…、まさか…。


ゆっくりと中庭の扉が開く。

開けたのは、さっきのナイスミドルな執事さん。

足音が扉の前で止まる。

…そこにいたのは、フェルナンドくんをおじさんにしたような少し恰幅のいい、"王様"に見えた。

いや、分かりやすく言うなら、この人は"フェルナンドくんのお父さん"以外思い浮かばない。

"見えた"じゃなく、"王様"なんだろうな。

静かにボクを見下ろすように見る。


「…そなたが、"井戸異世界"以外の"異世界"から来た娘か。」


…確かに、声を発することさえ、憚られるくらいの威厳オーラぷんぷんだ。

だからって、答えなければ信念に反する。


「…そうだよ、"おじさん"。ボクは"東雲華凛"。お会い出来て光栄だ、"フェルナンドくんのお父さん"。」


冷や汗が出そうな威圧感が押し寄せる。

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