お茶と秘密の井戸と
中庭に入ると、メイドさんがしずしずとお茶の準備をし始める。
あちゃー、わかっちゃいたけど本格的過ぎるわ。
アフタヌーンティーですな。
3段のアフタヌーンセットに、お高そうなティーセット。
庶民なボクは、割らないようにするのに必死だ。
番茶とかのが安心する。あの重厚感あるヤツ。
縁側でほっこりしたい。
「…落ち着いたかい?」
「正直なこと言っていいかな?」
「どうぞ?」
「出来れば、冷たい飲み物が欲しかった。」
「じゃぁ、アイスティーを用意させよう。」
あるんかい!
メイドさんが頷いて、戻っていく。
あれだねー。
マクシミリアンくんとこはカラフルで、"スイス"なイメージの洋風。
マサチカんとこは、古風で日本な和風。
フェルナンドくんのここは、ガッツリ"イギリス"なイメージの英国風。
……個性が出ますな。国も王子も。
飄々としたマクシミリアンくんに、俺様マサチカ、マイペースなフェルナンドくん…。
引っ括めて、面倒臭い!
悪意がないだけに、面倒臭い!
いや、マサチカはあったけど。
「…アイスティーで御座います。」
メイドさんが丁寧においてくれる。
ストローつきで。
ありがたや、ありがたや。
「ありがとうー。」
一口飲んで、一息つく。染み渡るー。
足が棒のようだよー。
「…王子、お寛ぎ中に申し訳ありません。
急ぎのご用が御座いまして…。」
いきなりやって来た、執事みたいな人。
ロマンスグレーの紳士なおっさん。
ボクにも、申し訳無さそうな顔をする。
「仕方ないな。ごめんね、カリン。少しだけ待っていて。」
ボクは、フェルナンドくんと執事みたいな人を交互に見ながら、ちゅーちゅーしながら頷いた。
空いた手でお菓子を掴んで食べたり、直にフォークをケーキにぶっ刺して食べたりしながら。
あ、執事みたいな人がちょっと渋い顔した。
すんませーん。ちょっと小腹空いちゃってー、えへー☆
二人はボクを残して、中庭から出ていった。
正直、ちょっと暇だ。
フォークを行儀悪く口に加えたまま、ぐぃーんと首を巡らせて、お庭を観賞。
何かないかなー。でも、草とか花とか木とかしかないなー。
毎日見てたら、飽きちゃうなーって思いながら。
端と視線を止める。…今、何か見えたぞ。
ボクの内なるセンサーが誤作動じゃなきゃあれは……、井戸だ!
フォークを机に置き、棒になったはずの足で立つ。
ボクは真っ直ぐ、センサーに従った。
何か、小さい頃を思い出すなー。
『秘密の花園』って小説をドキドキしながら読んでた。
…申し訳ないが、内容は全く思い出せない。
何か、おうちの花園の中に、怪しい扉を見つけて入る話だっけ?
いけないことしてるみたいで、ドキドキしたのは覚えてる。
きっと、見つかったら怒られるなって気持ちがわかった。すごくわかった!
入った先で何があったかが重要なのに、肝心な部分が思い出せん。
帰ったら、掘り起こして読み直そう。
…中庭のど真ん中だろうか。
そこにひっそりと、隠しているかのように、古びた井戸があった。
まるで、忘れてくれといっているかのように。
……いや、ボクに忘れてくれとか、無茶だから。
「ラブリーキュートな井戸だー!」
待っていてと言われたのも忘れて、飛び込んだ。
「…ぐぇっ!」
まさかの着地点が近かった。
井戸の高さ分しかない。
何故だ!井戸って深いんじゃないのか!
鼻打ったぞ!今畜生!
「…カリン?こんな所で何をしているの?」
戻ってきたら、居なかったボクを探しに来たらしいフェルナンドくん。
「…うう。そこに井戸があったら、入らずにいられないのだ!
……でも、何でこんな浅いのさ?」
「…クスクス。カリンは本当に面白いね。
ごめんね?そこは昔、私が抜け出すときに使っていたんだ。
バレてしまって………、埋め立てられてしまった。」
淋しそうに笑う。
「王子も大変なんだね。」
「…そうかもね。」
ボクを立たせながら、ポツリと答える。
昼行灯みたいな性格だけど、昔は窮屈だったんだろうな。
「マクシミリアンくんもだけどさ?
フェルナンドくんは、戦争したくないんじゃない?本当は。」
協定とか言ってたし。
「うん。でも産まれた時から、戦争はあったしね。
私はただ、少しでも敵を減らしたいだけなのかもしれないよ?」
「平和になってほしいなら、平和にしたいって言っちゃダメなのかい?」
「その発想はなかったな。」
「ボクの世界は、いっぱい国がある。
ボクのいる国は今は戦争してないけど、昔はしてた、らしい。
でも、今でもどんちゃんしてる国はあるんだよ。
やりたい人がいる中、やりたくない人だっているのが当たり前なんじゃないのー?
人間なんだからさ、心まで縛られちゃ生きてて愉しくないと思うよぉー?
やりたくないものをやり続ける意味ってあるのかなぁー?」
「…君は正直で、素直なんだね。」
「良く言えばそうだけど、あまり歓迎はされないタイプだよ?」
「頭の固い人にはそうだろうね。」
ボクは物をはっきり言い過ぎる人間だ。
だから嫌煙されて、友だちも出来ない。
自分でもわかってはいるけど、だからって無理してまでも、相手に合わせて何になる?
「全てやりたいように出来るわけはないさ。
でも頭で考えて諦めていたら、前には進めないだろ?
取り敢えず、言い分だけは吐き出してみることも必要なんじゃないかな?
それが自分にとって、最悪を招いたとしても自己責任だ。
言って、行動して、砕けたのなら仕方ない。
やる前から、ダメだって言ってるよりはマシだよ。
……そうやってボクは砕けても、めげても、這い上がってきた!」
…胸を張るようなことじゃないんだけどね。
「…君は、強いんだね。」
「いいや?強くなんかないさ。
強さ何か後から評価でついてくるだけであって、関係ない。
ボクは立場こそ、弱い一般人で、親に扶養されている。何もすごいことはない。
端から見れば、ただのワガママに過ぎないんだよ。」
何をビックリすることがある。
ボクは全くすごいものがない。
あるとすれば、この溢れんばかりの井戸愛なくらいだ。
あと、偏ったヲタク知識。
「…本当に飾らない人なんだね。そんな君が、キラキラして見えるよ。」
だーかーらー!何でそうなる!
「フェルナンドくんだって同じ人間じゃないか!
王子だからとか、ただの逃げ道だよ!
一人の人間としてたまに考えたって、バチは当たらんさ。
人間、なるようにしかならん。
だったら、当たって砕けろ、砕け散れ!
未来なんて誰にもわからない。
変わらないものばかり見ていたら、変わるときを見逃すぞ。」
「…すごい考え方だね。私には考え付かないことばかりだ。」
「他人と同じ考えなんかつまらないじゃないか。
既にフェルナンドくんは、フェルナンドくんの個性がある。
活かさなくてどうするのさ?」
「私の…個性?」
「そうだよ!そのくそマイペースな個性!
自分の考えを持ったら強みになるよ!
良い意味で人を振り回せばいいのさ!」
「くそマイペース…?褒めてるの?それは。」
「半分すごいけど、半分面倒臭い。」
「…ぷっ。あははははは!
本当に清々しいくらいはっきり言うね!
………………そんな君が好きだよ、カリン。」
「だが、断る!ボクが目下、愛して止まないのは"井戸"、そして"土管"などの"穴シリーズ"だ。
…気持ちは嬉しいのだけど、応える技量はない。
何せボクは、ボクのやりたいことしかしないから。」
「…うん。断られるってわかっていたよ。
でも、分かっていても、"言わなきゃ"って教えてくれたのは他の誰でもない、君だよ。」
あー、うん。ソウダッタネ。
「私は私らしく、カリンを諦めない。
ただのワガママだって、実になるかもしれないだろう?
"当たって砕けろ、砕け散れ。"…中々ファンキーな言葉だね。
本当に…君が傍で支えてくれたら最高なのに。
でも君は、1つ所に留まるような人じゃない。
マクシミリアン王子や、マサチカ王子の気持ちも同じなんだと思うよ。」
「悪い気はしないが、正直困るんだよね。
ボクと井戸たちの間に割って入るなんて!
一方通行なのは分かっているさ。
話し掛けたって、返事はない。
だからって、愛情は変わらないものさ。
ちびん時からずっと想い続けた。
今更方向転換なんかしない。
一途に、無機質な彼らを想い続けた結果!
ボクのボクによるボクのための世界!
そう、この世界に来たのだよ!ワトソンくん!」
「…私はフェルナンドだよ?」
「………そこは、『誰がワトソンだよ!』って言ってほしいんだな。
いつもユーマンが言ってくれるんだよ…。」
「…そう、覚えておくね。」
…何かトーン下がった。
「うん、次はツッコミを宜しくだよ!」
「あ、"ツッコミ"って言うの?」
「そうそう、ボクのはボケなんだよ。
ボケとツッコミっでコントが出来るわけなのさ。」
「"ボケ"と"ツッコミ"で"コント"が出来る?カリンの国は面白いね。」
「それを芸人って言うのさ。職業ならね。」
「そんな職業もあるのかい?自由なんだね。」
「だから!ボクが井戸を愛して止まなくても、それこそ自由なのさ!」
「じゃぁ、私がカリンを諦めないのも自由だね。」
…ソウキマシタカ。
「それにしてもカリンは井戸が好きだなんて、マニアックだよね。
それが個性なんだろうけど。」
………キラーン☆ミ
「…『マニアック』と言ったね?フェルナンドくん。」
「ん?言ったね?違うの?」
「確かに間違ってはいないけれど、ちょっと違うのだよ!
ここで、突然ですが!
ティーチャーカリンによる特別講座を開かせて頂こう!
題して『ヲタクとマニア』。」
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