予想斜め上過ぎる現実

…すぽーん、と投げ出された。

おかしいな、ヤツらは這い上がってきたのに。


「いやぁ、"初めて"飛び込んだよ。こっちのが断然早いね。」


あ?今なんて…。


「通常は、慎重に入るものだからな。

飛び込むような無鉄砲な真似はしない。

だかしかし、今は一刻を争うのだから、最善の手段と言えよう。」


…際ですか。

投げ出されたままの態勢で、首を廻らす。

少し遠くに…、教科書で見たような作りの場所が見えた。


「…日◯江戸村?」


しかも、遠いのにキラキラしている。


「なんだ?に?」


「何でもないよ。あれで間違い無さそうだな。何か光ってるな。」


「そうだね。特にお城は全部金色なんだよ。」


よく知ってんな…。てか、趣味悪くねぇか?




……城門まで警戒しながら来たが、人の気配すらしない。

中がざわざわしてるな、なんだ?


「…あれれれれ?国民たちが楽しそうに笑っているよ。」


何がおかしいんだ?


「不思議ですね。マサチカ王子に怯えて、会話すら聞こえないほどに緊迫していたはず…。」


…え?マサチカってそんなにヤバかったの?

単純って短気ってことかよ?!

華凛は大丈夫か?!


「華凛!華凛!」


俺は危険も省みず、叫んだ。


「あ、ユーマン!まだ状況わからないんだからダメだよ!」


アンジェが溜め息をつきながら俺を庇う態勢を取る。


「…あ、あのぉ?」


一人の大人しそうな少年が、おずおずと話し掛けてきた。

後ろには、同い年くらいの少女もいる。


「どうしたのかな?」


マクシミリアンがニコニコ対応した。

こいつ、相手に警戒されないタイプなんだよな…。



「えっと、『ウェルグランド』のマクシミリアン王子とお見受け致します。」


「うん、そうだよ。」


「今しがたそちらの方が、"カリン"さんを呼んでいらしたように思って…。」


「あんた!華凛を知ってるのか?」


「あ、はい。あれ?お顔立ちから察するに、カリンさんの同郷の方でしょうか?

すみません、おいらはチヨヒコっていいます。彼女はオハナです。」


「へぇ、チヨヒコとオハナって言うんだ。二人ともカリンを知ってるんだね。」


オハナと呼ばれた女の子は頷いていた。


「マクシミリアン、割り込むなよ!」


「先に話し始めたのは俺じゃないか。

そうカリカリするなよ。慌てたって状況は変わらない。」


「う…。」


「カリンさんから、お話は伺っています。」


カリンは何を?


「マクシミリアン王子。言い訳にしかなりませんが、こちらの国民は"禁忌の償還魔法"を使っていることを知りませんでした。

カリンさんはたまたま出会ったおいらに、そのお話をしてくれました。

おいらも呪術師を目指す端くれです。

…聞いたときは、正直ショックでした。

でも、カリンさんは話すだけでなく、無茶苦茶ですけど払拭までしてくれたんです。」


…アイツは何したんだ?


「今のこの状況、カリンさんが作って行ったんですよ?

マサチカ王子を叱咤激励して、考えを改めさせたんです!」


「流石はカリンだね。」


…要は、口だけで勝った?!


「…カリンさんはすごいです。風のように現れて、風のように去って行かれました。」


……ん?"去って"…?


「まさか……華凛はもうこの国にいない?!」


「はい、マサチカ王子から逃げていきました。」


…マサチカ、一発殴りに行きてぇな。

マクシミリアンが俺の顔を見て頷いた。


「アリガ師範が…そちらのバイザーさんを負傷させてしまったんですよね。」


あのローブ、アリガって言うのか。


「うん、バイザーは安静状態だ。」


「もう二度とこんなことはないと思いますが、師範が申し訳ありません。

…師範はただの術の探求者だったんです。

それに目をつけられたために、カイヅカ大将に同行を強要されたと聞きました。

本人ももう二度と使いたくないと、引きこもってしまいました。

代わりに謝罪させて頂きます。申し訳ありませんでした。

本当は、師範自ら出向くべきなのでしょうけれど。」


深々と頭を下げられた。


「…そっか、俺はいいよ。バイザーに君の気持ちは伝えておくね。」


…囚人みたいなヤツは、震えていた。

本当は、アリガもローブの下で震えていたんだな…。

アンジェと目が合った。

仕方ないなって顔してる。

こんな子どもに真剣に言われたら、誰だって許さないわけにいかない。

相手も人間だってことだ。

バイザーは生きている。憤りをぶつけるべきじゃない。


「ありがとうございます。」


俺は少しもやもやが晴れ、落ち着いて周りを見渡した。

……………ん?

もう一回見渡した。

…………………あれ?


「なぁ、チヨヒコ…。あの城、何か変じゃないか?

元々、あんなんだったのか?」


俺の視界に見えるマサチカの城のてっぺんを指差す。

その部分だけ、金色じゃない。

普通、瓦屋根とか…。


「ああ、あれは…。カリンさんがやりました。」


口だけじゃねー!

瓦屋根がしっかり剥げてるじゃねーか!


「…ユーマン、カリンは魔法か怪力の能力でもあるの?」


「んなわけねーだろ!井戸のこと以外では外に出ることすらしねーヤツだぞ?!」


体を鍛えたり、運動を悉く嫌うアイツにそんな力はないはずだってば!


「語弊があります!マサチカ王子を説教なさるために使った、使われてない砲台に魔法を埋め込んだのはおいらです。

使ったのがカリンさんです。」


「…おい、チヨヒコ。」


「は、はい…。」


「…アイツに危険なオモチャを与えるな。」


「…スミマセンデシタ。カリンサンノキハクニマケマシタ。

ユーマンサンカオコワイデス…。」


何か、最近同じこと言われたな…。

ちらりとマクシミリアンを見た。

あ、顔反らしやがった。


「…絶対それ、アイツが"入る"だろ。でっかい穴だし。」


「はい、二回入られましたよ。」


やっぱりかー!


「二回目で、"発射"されて…去られました。」


……まさかの、自ら弾になって飛んでった?!


「…カリン・シノノメ、侮りがたし。」


「マテマテマテ!多分、アイツは半分以上勢いだからな?!」


「素晴らしいではないか!年齢では計りきれない!」


「あれはでっかいイタヅラ好きのガキだぜ?!」


「子どもの発想と大人の発想を兼ね備えた、実に素晴らしい頭脳の持ち主ではないか!」


「…残念なことに、アイツは頭もくそ良いからな?」


ヤバい、アンジェが更に華凛を気に入ったぞ。


「彼女の頭のよさは、滲み出ていると思うよ。

如何に他人に理解してもらえるかって、考えていると思うな。」


…こっちは最初から過大評価だった。


「…やっぱり。言ってることは豪快なのに、説得力がすごいんですよね。

だから国民の大半は、カリンさんの話で持ちきりなんです。」


「…きっと天女様なんですよ。私たちのためにこの世界に来てくださったんです。

マサチカ王子に囚われていた私たちを安心させて下さいましたし。」


…"囚われていた"?


「幽閉されていたのかい?マサチカ王子に。」


「…はい。」


「マサチカ王子って変態なんだねぇ、へぇ…。」


笑顔がこえーよ…。


「…誰が変態だ!女なら誰でもたらし込むヤツに言われたくはない!」


…へ?

後ろから偉そうな声が…。

そんなまさか………。


…おいおい、普通にやってきたぞ?


「たらしとは心外だなぁ。」


コイツも緊張感無さすぎねぇか?

振り向いた先にいたのは…。


「あ、マサチカ王子…。」


だよな…。


「心外ですよ、私は口説かれておりません。」


「…口説かれたかったのか?」


「いや、全く。」


「アンちゃん、酷いなぁ。君はカッコいいからねー。」


酷いなんてからきし思ってねぇだろ。


「俺を無視して話を進めるな!うつけ共め!」


声だけはでかいな。


「おい、うちの華凛が世話になったらしいな。」


何か、強気で行けば勝てそうな気がする。


「うち…の?カリンは我が妻になる娘だ!

いづれ俺が手に入れる!邪魔立てするな!小僧!」


「あれれれれー?聞き捨てならないなぁ。

カリンは俺のお嫁さんになるんだよ。

君こそ、邪魔しないでほしいな。」


本人は一切、望んでねーぞ?


「…マサチカ王子、おもいっきり断られていたような。」


「煩い!一度断られたくらいで諦めていたら、男が廃るではないか!」


「それには同調するよ、マサチカ王子。」


…コイツら、ポジティブだな。


「カリン・シノノメ…。それまでに魅力的な女性なのか。

見習わなくてはならないな…。

果敢でいて魅了までするとは…。」


「…勘違いだ、アンジェ。アイツらがおかしい。」


「見た目も麗しいのだろう?!」


「か、可愛いのは認めるが…、井戸や穴にしか魅力を感じないヤツなんだって。」


…言い訳みたいで嫌だな。


「…だが、譲る気は毛頭ない!」


「俺も譲る気はないよ!」


「カリンを掛けて、いざ尋常に勝負を申し出る!」


「その勝負、受けないわけにはいかないね!」


……本人に確認とれよ、おまえら。


「まさに男の勝負だな!」


「本人をガン無視のな…。」


アイツ、絶対怒るよなー。


「…チヨヒコ、アイツはどっちに飛んでった?」


「あ、あちらの方です。」


「…アンジェ、あっちにはどこに繋がってる?」


「ふむ、《ウェルタウン》と《トイ・ウェル》と《ウェルガーデン》が代表だったと思われる。」


「滅茶苦茶個性的な名前だな。」


「王子も個性的だぞ。」


「個性的な王子は、既にそこにいるだろ。」


アンジェはちらりと二人を見てから、後ろを向いた。

いい性格してんな、あんたも。


…華凛は知らない。

自らの行動が、無益な戦いを減らした事に。

本当に矛先が自分に向いた事は分かっていない。




「…時にユーマンとやら。」


「俺は悠真だっつーの!」


「ユーマンとやら。」


あれか?!王子皆こんなか?!


「んだよ。」


「"うちのカリン"と言っていたが、どんな関係だ!」


「幼馴染みだよ、ちびんときからの。」


…面倒臭ぇよ、\ガーン/って顔止めろ。


「ちびから…見た目12くらいの現在までを見ていると…。」


…ほぅ?


「…マサチカ、てめぇも12くらいに見えてたのに言いやがったのか?」


「ま、負けるわけに……………モウシワケナイ、ユーマンカオガコワイゾ…。」


「くそっ、どいつもこいつもロリコンばっかりだな!」



「…王子。あの顔はどう怖いのですか?」


「あれはね…?底冷えするレベル?

いや、底知れぬものが見えたんだよ。」


「よくわかりませんが、"変態"は退治されてしまうわけですね?」


「…合ってるような、認めたくないような。

男って女性に比べて、卑猥の比率が高いんだよ?統計的に。

"たまたま"、対象年齢が幼くても許されて然るべきだと思うんだ。

マサチカ王子は21だけど、俺は15だし。

俺は無罪だよ、うん。」


何か後ろでとんでもない持論いい放った。


「…理由として適当でないと判断します。

王子は動揺を隠し通そうという腹積もりですか。」


「アンちゃぁん…、ご主人様をイヂメチャダメジャナイカ…。」


「正確には、私。『ウェルグランド』全軍団長でして、マクシミリアン王子のメイドではございません。」


何なんだよ、あのやり取り。


「王子ってヤツは、揃いも揃って食えねぇな…。」


「一筋縄ではいかないというのならば、な。」


と、同時に腹はたつが憎めない…。

そのドヤ顔は張り倒してぇけどな!


「…女にも甘いのか。」


「女は愛でてなんぼと言うではないか。」


「…間違っちゃいねぇけど、おまえらが言うと意味がズレてる気がするのは気のせいじゃねぇよな?」


俺が間違ってるとは思わない。

まだ、知らないことは多いのは認めるが。


「…ユーマン、おまえはまだ女を知らないからだ。」


なんだ、その憐れみの目は!


「くそ恥ずかしい言い方すんじゃねぇよ!」


「ユーマンは思春期真っ盛りなんだよ。」


てめぇも加わってんじゃねーよ!タメだろーが!


「ユーマンはこうみえて、俺と同い年だからね。」


「へぇ、俺と変わらないと思っていたぞ?」


しかも、急に上から目線になりやがった!

この変人どもがぁぁぁぁぁぁ!

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