真面目は損をする

一方、華凛が大脱走劇をしたとは知らない二人は…。



「…!マクシミリアン、バイザーは?!」


医務室から出てきたマクシミリアン。

あまり顔色はよくない。


「…一命は取り止めたが、暫くは安静だ。」


「そうだな。命あっての物種だし。」


鍛えていたからこそ、だよな。

俺だったら、死んでた…。


「…カリンは大丈夫だろうか。怖くて泣いていないだろうか。」


「アイツなら、泣くより文句浴びせてると思うぜ?」


「あちらにはマサチカ王子がいる。かなり強引な性格なんだ。」


「滅茶苦茶反抗して、口論になりそうだな。」


だけど、力なんてない。

最後まで気丈に………いやいや、アイツに限ってそんなことはない、はずだ。


「でも、こんな所でじっとしているわけにはいかない。

マクシミリアン、俺に武器の扱い方を教えてくれ。」


「そうだな。ユーマン、何か得意なものはないか?」


「本物は扱ったことはないけど、剣道はしていたから、細身の長剣あたりなら。」


「だったら、軍隊長を呼んでくる。待っていてくれ。」


俺は頷いた。

少しでも強くなって、助けに行くからな。

何とか、得意の口八丁手八丁で時間稼ぎしていてくれよ…。





「…初めまして。私は、アンジェリーナ。軍隊長をしている。」


まさかの軍隊長は、女性だった。

俺と変わらないくらいの身長、無愛想。

いや、寡黙って言うべきか?


「俺は…。」


「ユーマ・サオトメ。王子から話は伺っている。

異世界の剣術をたしなんでおられるとか。

基礎から指導する必要はないようだな。」


…マクシミリアン、覚えてるじゃねぇか。

食えないタヌキ王子だな、くそ。


「国独特の流派とかはないのか?」


「あるにはあるが、ユーマにそれが必要だとは思っていない。

要は"敵井戸"に対して及び腰にならないことを最低目標にしたいのだろう?」


「…ホント、食えない王子だよ。」


「ああ、王子は飄々としているようで、その実頭の回転がかなり早い。

…揚げ足を取られないようにな。」


ニヤリとする。

王子といい、アンジェリーナといい食えないヤツばかりだな。

バイザーがくそ真面目なのが救いだ。

…早い回復を願うよ、バイザー。


「宜しく頼むよ、アンジェリーナ。」


「アンジェでいい。宜しくな、ユーマ。」


俺たちはしっかりと握手した。

理解のあるヤツは多いに越した事はない。






「…ユーマ、中々称賛に値するな。

小さい頃から鍛練を欠かしていなかったのではないか?」


頬を紅潮させ、先程出会った時の印象を即効ぶち壊した軍隊長がそこにいる。

多分、華凛とある意味通じる何かを感じた。


「ああ、ちびんときからずっとやってるからな。

お眼鏡に敵ったのならなによりだ。」


「よし!もう一手合わせだ!」


うわー、嬉しそうにしちゃって。

ホントに似てるな、好きなものに異常に固執するとこが。


「聞くところによると、王子と同い年らしいな!」


「!そうだな!マクシミリアンが言ってた、よ!」


「15の割に筋がいい!王子はこちらには向かないから嬉しいぞ!」


「そりゃどーも!確か弓使ってたな!」


何故声がでかいかって?

そりゃ流れ的に手合わせしながらに決まってるだろ。

テンション上がると、口数が増えるらしい。


「アンジェ、ホントに戦うの好きだよな!」


「ああ!強くなっていくのは、ゾクゾクするぞ!

だが!まだ、バイザー殿には遠く及ばない!」


バイザーってやっぱ、王子の護衛も兼ねてたんだなー。


「じゃあ!早く元気になってもらって、手合わせしてもらいたいだろ!」


「そうだ!あのバイザー殿だ!すぐ回復なさる!

それまでは、ユーマ!おまえに相手してもらうぞ!」


「はいはい!体力の限界くらい考えてくれよ!」


流石に息の整え方は熟知してるけど、正直、きつくなってきた。

実際、小一時間この状態。無茶苦茶だろ。

興奮でなのか、鍛練の賜物なのかは謎だ。



「得物さえあれば、あとは実戦だけだな!」


やっと満足して休めた。

底無しじゃなくてよかったよ…。

実力は認めてもらえた。

後は、マサチカって王子への対策か。

華凛が苦手なタイプっぽいからなぁ。

忘れちゃいけないのが、あの金甲冑の男や"禁忌の償還魔法"を使ったローブ。

かなりの強敵になるだろう。


「なぁ、アンジェ。魔法使うヤツへの対処法ってあるのか?」


「…バイザー殿の件だな。短い詠唱には、私やユーマでは相手にならん。

しかし長い詠唱ならば、勝機はある。

代償を必要とするものは、自ずと魔力と長い詠唱によって威力を高めるものだ。

……詠唱中に攻撃をしかければいい。

だが前衛が妨害をするから、ソイツの気を引く者が必要になる。

連携が物を言うのさ。まぁ、それが成功すれば、術者返しが起こる。

運が悪ければ、ソイツは死ぬよ。」


…丑三つ参りか?


…まさに、生死を分かつレベルだな。

それでも俺は華凛を助けるためなら、いとわない覚悟をしなくちゃならない。





「…マサチカ対策?単純で勝つためには何でもするようなヤツだよ。」


すっごい短く、マサチカの性格だけ言われた。

もっとこう、対策になりそうなのはないものか。


「うーん…。まんま突っ込むしかねぇの?」


「と言うよりは、周りを崩した方が早いかな。」


確かに、あのときの二人のようなヤツらから潰していった方が早い。


「やっぱ、先制取るしかないか…。」


「…単純には、単純で良くないか?

変に策を練っても考えていないヤツの方が、反応速度が早いものだ。」


頭で考えるな?…華凛みたいだな。


「じゃあ、術者と前衛の担当だけ決めればいい?」


「そうだね。下手な戦略はいらないかもしれない。

そもそも、うちより小さい国だからね。

『ウェルゴールド』は。」


「しかし、問題なのは…。

《国内は無法地帯》であることです。」


へ?無法地帯?


「あー、そうだったね。だけど人数は割けないし、入り口は狭いから多数でも行けない。

攻撃範囲が変わる訳じゃないから、意外と三人でも行けそうだよ。」


ニコニコしているけど、腹のうちはわからない。


「大丈夫です。有事の際は、援軍として我がチームを潜ませて置きます故。」


「アンジェの場所は誰が担当するんだっけ?」


「クシュリナダが。」


「クスクスちゃん、強くなったもんねぇ。」


なんだ?この会話。

クシュリナダって人の愛称が、クスクスって…。

絶対、マクシミリアンだけだろ。


「…本人が聞いたら怒るので、その呼び名は推奨出来ません。」


「えー?可愛いじゃない。」


ほらな。


「…と、和んだところで、行こうか。」


和んだかは置いといて、善は急げだな。


「ああ、華凛を救いに行こう。」


「私も、カリン・シノノメに早く会いたいです。」



そして俺たちは、『ウエルグランド』を出発し、『ウェルゴールド』への"井戸"に飛び込んだ。

何が待ち構えているかわからない。

しかし金甲冑は少なくとも、再戦することになる。あの術者も。

行かないわけにはいかない。

少しでも早く、華凛を迎えに行かなくちゃならないんだから。



…既にすれ違っているなどとは思いもしない。

どこからともなく、『可哀想』と聞こえる。

しかし、彼らの耳には聞こえない。

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