花咲き乱れる『ウェルガーデン』
「おおおお?!」
井戸に入ったら、すぽーんっと投げ出された。
どすん、と落ちたが痛くない。
「あれ?うわぁぁぁぁぁ!」
周りは見渡す限り、花畑。
季節折々の花たちが咲き乱れている。
「綺麗だなぁ。」
そのまま座りこけていたら。
「…こんな所に女の子?花の精みたいだね。」
声に振り返ると、話し方まんまのふわふわな容姿の美形あんちゃんが、目を細めていた。
「…ここ、どこ?」
「ここは花井戸の国『ウェルガーデン』だよ、可愛らしいお嬢さん。
どちらからいらしたのかな?」
「どちら…と言われたら、"井戸異世界"とは別の異世界。
若しくは、《ウェルグランド》を経て《ウェルゴールド》からここに。」
あんちゃんは目をパチクリしてる。
「へぇ、異世界から。しかも、"敵井戸異世界"二つも経由してきたんだね。
でも、《ウェルグランド》は協定予定の場所だよ。」
「あ、その《ウェルグランド》に帰りたいんだけどどの"井戸"かな?」
キョロキョロ井戸を見渡す。
すると、ふわりと花の薫りと共に抱き締めら…れた?!
「あのー。」
「もうちょっといなよ。まさか、マクリミリアン王子のフィアンセだったりする?」
「その件なら、丁重にお断りした。」
「なら、いいじゃない。」
くそマイペースだな、このあんちゃん。
「マクリミリアンくんとこにゆーまんがいるから、帰りたいんだよ。」
「…ユーマン?それが、恋人?」
「そうじゃなくて、一緒に来た幼馴染みなんだ。」
何だか、声のトーンが下がったような?
「幼馴染み…ね。曖昧な関係だね。
私が忘れさせてあげよう。」
王子ってのは、どんだけ勝手なんだよ。
理解が出来ない生き物だなぁ。
「だが、断る!ボクは、こよなく井戸を愛している!」
「井戸が好きなの?じゃぁ、ここは天国みたいなんじゃないかな?」
聞いてねぇ!マイペースも大概にしやがれ!
「私はフェルナンド、この国の王子だよ。君は?」
「ボクは華凛だよ。」
「カリン、お花みたいな可愛い名前だね。」
「確かに華凛のかは、華の字だねー。」
「花の字?」
「漢字はこっちにはないんだねー。」
何か、世間話になってるよ。
「興味深いね。是非、君の世界の話を聞きたいな。
私の国を案内したいから話しながら行こうか。」
あくまで自分のペース崩さねぇな、あんちゃん。
仕方ないからついていってあげるとするか。
いやぁ、華凛さん優しいなぁ。
ボクが出てきた場所から、城下町までは目と鼻の先だった。
アーチにミニバラを絡ませたお洒落な入り口。
国を囲っているのは、生け垣。
イングリッシュガーデンとかの緑の壁ね。
国がまるで、一つの庭みたいになっていた。
………そうだね、見たことあるよ。
道が迷路になっている。これはボクの範疇外だ。
所々拓けた場所に花で飾ったお洒落なお店が立ち並ぶ。
普通に果物屋とか、八百屋とかなのにお洒落だ。
魚屋は、ちょっと色合いを落とした南国にあるような花をあしらっている。
高い建物は、奥に聳え立つお城くらいで、全てのお店や住宅が一階建て。
景観を意識した造りになっているみたいだね。
確かに生け垣越えたら、違和感過ぎる。
見覚えのある花から、見たことない花までいっぱい。
お店や住宅が庭園の一部のように溶け込んでる。
だけど、行き止まりは人んちみたいなんで行かないで最短コースをお願いしたい。
「ねぇ、カリン。君はどんな花が好き?」
「花?花ねぇ…。霞み草とかスプレー菊とか。」
「聞いたことないな。カリンの世界にある花かな?」
「名前はそうかもだけど…。」
ボクは周りを見渡した。あ、あった。
「菊は確かクリサンセマムで、スプレー菊は、スプレーマムって言うんだけど。
霞み草は何だったかな?…ああ!ジプソフィラだ!」
同じ白系統でひっそり咲いているのを指差す。
「ああ、このマムとジプソフィラなんだね。
カリンの世界は不思議な呼び方をするね。」
「正確には、ボクの住んでる国での呼び方だよ。」
「カリンはその国のお姫様なのかな?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「ボクはしがない一般人だよ。」
「そうなんだ、こんなに可愛いのに。」
全く理由になってねーぞ。
流してやってんだから、可愛い連呼すんじゃねー。
可愛げないのがあってんだわ。
「…しかし、この庭園迷宮はいつまで続くの。終着点はどこ。」
流石に歩き疲れた。花の香りにも酔いそうだ。
「もう少しで、私のお城だから頑張ってね。」
見上げたら、圧巻でしょーねー。
帰りはよじ登るしかねぇな、こりゃ。
同じ道を引き返すのは無理だわ。
周りが同じにしか見えなさ過ぎる。
これは、覚えられん。
金の次は花とは、インパクト強いなぁ。
花のがいーけどねー。
あれ?そういえば、井戸は?
キョロキョロ見渡した。
あ………、拓けた場所にオブジェのようにあるアレ。
花と蔦でデコレーションされまくったアレ。
井戸なんじゃね?
うわー、でっかい桶か何かだと思ってたわ。
「ちょっとちょっと、フェルナンドくん。」
「なんだい?カリン。」
「この国の井戸って飾りなの?」
「ある意味飾りだね。店間移動は出来るけど、あまり使われてないね。」
可哀想に。宝の持ち腐れとはこのことだわ。
「…この国の井戸の存在意義を問いたいわ。」
「全てはアートなんだよ。」
身も蓋もねぇな。
「外見だけ繕っても、中身が伴わなければ意味ないんじゃないの?
"井戸"を銘打ってるってのに。」
「これは手厳しいなぁ。そんなこと考えたことなかったよ。」
「ボクの世界の井戸は、もう使われてるとこが少ないんだ。
地下水を組む道具として作られたから、生活形態が変わると共に、置き去りにされてる。
この世界では、まだまだ使えるんだ。
使えるものは使い古すことが大事なんじゃないかな。」
何だろう。すげぇ、見られてる。
「…カリンは、本当に井戸が好きなんだね。
用途は違えど、井戸は井戸か。
認識から変えていくのに早くも遅くもないかもしれない。
確かにそのままにしていては、ただ朽ちていくだけになってしまうからね。」
目を細めて嬉しそうに笑う。
悪い人ではないんだろうな。
「君は変わった人だよね。直球なのに嫌みがない。
清々しい気分だよ。ただ流れに身を任せて生きている私には眩しいくらいだ。」
ちょっと、言葉はわかるけどなにいってるかわかんないです。
…ああ、そうか。フェルナンドくんは天然なんだ。
「"変わってる"や"面白い"は、誉め言葉だ。
変に"可愛い"とか言われるより、分かりやすい。」
「可愛いって言われるのが嫌なの?
本当に可愛いのに、勿体無い。」
「そんな曖昧な言葉は好きになれないだけだよ。」
何か笑われてないか?
「そうだね、君は面白いし興味深い。
この国にはない刺激を与えてくれる。」
言ってる割には、マイペース続行中じゃね?
「そう言われるのは嬉しいけど、ボクはボクの道をただ突き進んでるだけのちっぽけな一般人なんだよ。」
「…自分を飾らないから、見た目に拘りがないんだね。
君の言った通り、外観を飾ることばかりこの国は考えている。」
同じような景色に飽き掛けた頃、やっと城門アーチが見えてきた。
やっと終わるー!
ここまで辿り着くのに、かれこれ三時間。
因みに、聳え立つお城は庭園のど真ん中にあるらしい。
確かに日本だって、歩いて縦断しようものなら元気でかなり体力ある人でも、最低1ヶ月以上だって聞く。
正直国としては、3国とも小さいとは思うけど、日常あんま歩かない人にいきなり三時間歩かせるのはどうよ?
いや、若いつもりだけどさ。
若さだけでは補えないもんってあるわけよ。
ゆーまんなら、スポーツ得意だから意外となんとかなりそうだ。
対してボクは、井戸だけじゃなく、アニメとかコスプレとかそっち方向のヲタクなわけで。
ざっくり言えば、がっつりインドアっす。
深夜アニメ見て、学校に遅刻ギリギリで授業中ガン寝する生活。
だから、三時間はしんどい。
「…フェルナンドくん、城門アーチからお城までどれくらいなのかな?
何か周りを移動しているようだけど。」
「"井戸異世界"地帯から入ると、真逆の位置になるからね。
半周回らないと、入り口に行けないんだ。」
お城無駄にでかいから、端がなっかなか見えてこないんだけどー。
端も見えてから到着までが長い。
二回何とか角を曲がる。
「ここからはもう真っ直ぐで、右手に扉が見えるからね。」
うん、真っ直ぐな割に全く輪郭すら見えないね。
…どれくらい歩いたろう。
何とかぼんやり、柱みたいのが見えてきた。
正直、休みたい。でも、どこも座る場所がない。
国民さんやフェルナンドくんは慣れてるかもしれないけど、きついわ!しんどいわ!
「さぁ、見えてきたよ。」
言葉の五分後、やっと扉の前に来た。
終わるー!から、一時間。
結局、四時間歩かされたよ。
軽くハイキングになったじゃないか。
汗だくだよ、まったく!
…フェルナンドくんは、何故涼しい顔してんのかな。ちょっとムカつくぞ☆
扉が開いて、中に入ると涼しい。
しかし、どこにも冷房機器は見当たらない。
お城は真っ白で、天然の蔦で覆われている。
中の石か何かで冷えてるんだろうか。
中は、点在する花瓶に花が飾られているだけでシンプルな造りだ。
まぁ、ここまでデコったら悪趣味だよねー。
「さぁ、中庭でティータイムにしようか。カリン、疲れているみたいだしね。」
正直、そうしてくれると有難い。
「うん、喉渇いたよー。…疲れた。」
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