金色の城『ウェルゴールド』

「ん…。」


ま、眩しい…。

って!ここどこ?!

金刺繍の掛け布団を払い除ける。

ちょま…。

金屏風に襖の木の縁が金。

柱の木も金で塗られてる。

すげぇ目がチカチカする部屋。

和室…だよね?ここ。

……気持ち悪くなってきた。


で、何でここにいるのさ?

よし、思い出してみよう。


危険度が少ないはずの戦場に連れていってもらった。

そしたら、部下のおにーちゃんが必死で戻ってきた。

そのあと、"井戸異世界"から敵さんチーム登場。

何か知らないけど、ボクを戦利品に勝手に決めた。

…未完成の、禁忌の"償還"魔法で三人目として連れてきた人を生け贄にした。

彼の犠牲によってでっかい"鬼"みたいな化け物が現れて、マクシミリアンくんを庇ったバイザーのおにーさんがすごい怪我をした。

……そこまでしか覚えてない。


「ゆーまん…。」


ボクを支えてくれてたゆーまん。

皆大丈夫かな?バイザーのおにーさん生きてるかな?

ボクが好奇心でついてきちゃったのがいけない。


「…起きたようだな。」


ちょっと考え事中だから無視。


「聞こえているのか?」


「うるさいな!」


あ、あー!!


「趣味悪いおっさん!」


「趣味悪いとはご挨拶だな。この国の伝統だ。」


「金色の鎧は、観賞用であって実用的に使うもんじゃないんだよ!

目がチカチカするじゃないか!

子どもの将来を台無しにするだけだよ!」


あ、おっさんパチクリしてるや。


「何を言っているのか、イマイチわからないが。

王子がお会いになる。ついてきてもらうぞ、娘。」


「趣味悪い国の王子なんかに会いたかないわ!」


だけど力で敵うわけはなく、ボクは担ぎ上げられてつれてかれる。


「この人拐い!ろくでなし!悪党ー!」


無視決めやがったー!

そのまま一際目に悪い部屋に連れていかれた。

ボクはその間、ずっとバタバタしていた。


「…ほう?カイヅカ。その娘が?」


金色の趣味悪い袈裟懸けみたいのをつけた兄ちゃんが、肘おきに肘をつきながらニヤニヤ笑ってる。

ボクは目の前に落とされた。


「いた!扱いも酷いわ!勝手に拐っといて何しやがる、おっさん!」


あー!ソッポ向きやがった!


「くく…。威勢が良いな、娘。黙っていればかなりの上玉。大人しく出来ぬのか?」


「そんな心境ちゃうわ、ボケ!」


「…過ぎた口は災いを呼ぶぞ?」


負けないもんね!


すっくと立ち上がると、顔がよく見える。

…顔立ちはボクら日本人のそれと酷似していた。

イケメンだけど生け簀かない。


「…娘よ、口には気をつけろ。」


す、凄んだってダメなんだからね!

ボクはにらみ返す。

ぐぬぬぬぬ!みたいな感じで。


「王子!出陣のお時間で御座います!」


趣味悪い襖が開いて、別の趣味悪い金甲冑のあんちゃんが顔を出す。

これ以上、やめてくれ!吐くわ!


「…仕方あるまい。」


溜め息をつく。

なぁにが、『仕方あるまい』だよ!

って、顎を掴むな!変態!


「…娘よ、帰還するまでに大人しくなれ。

さすれば……、寵愛をやろう。」


「いらんわ!んなもん!

顔近い近い!金がチカチカして目が痛い!

さっさと離れろ!変態!」


流石に顔がひきつってる。


「ボクが好きなのは"井戸"なの!あんちゃんなんか興味なんて全くない!」


「……"井戸"?ならば、そこら中にあるぞ。好きに見て回るがよい。

どうせ、女一人では逃げることも叶うまい。」


そのまま揃って出ていく。

うわー!バカにしてるなぁ。

監視役もつけない余裕っぷりだよ。

…どうせさー?どうせさー?

真っ金々じゃないのー?

流石のボクも受け付けないわー。


…外にすんなり出れた。

セキュリティ、ダメダメじゃん。

ま、入っても金がメインの国じゃ、取るもんもないだろーけど。


「………うわー、ないわ。」


外からみたお城は………、まさにリアル金閣寺。

でも、金閣寺は中までは金じゃない。

この中は白と金の変なコントラスト。


「センスないボクでさえ、酷いって思うわー。」


城内の井戸はやはり、石が金に塗られている。


「だろうとは思ってたけど、まさかの覗きたくない井戸だわ…。」


しかし一歩城から離れると、城下町は結構な比率で金ピカだけど、ホントに離れちゃうとそうでもない。


「これくらいが妥当だよねー。」


振り返り、見比べる………必要はなかった。

もっと気になるのは、またも超見られてることかな。

だけど、誰も話し掛けては来ない。

城から出てきたからだろうね。

ホント、どんな独裁国家だよ。

イマドキ流行らないって。


戦国時代みたいな風景を眺めながら、読めるかなと看板を見てみた。

……残念ながら、読めなかった。

やっぱ、異世界は異世界なんだなぁ。

取り敢えず、散策しながら考えよう。

そうしよう。




この国は、『ウェルグランド』より小さいらしい。

30分くらいで回れてしまった。

あまり活気があるとは言えないし。

国民さん、何故かビクビクしながら歩いてる。


どこからともなく話し声がした。


「あんたんちのサヨちゃん。帰ってきたかい?」


「…いいや。あんたんとこのオハナちゃんはどうだい?」


「…帰ってこないさ。」


「奉公ったって限界があるだろうに。」


「言ってたってどうしようもないさ。

あの"王子"に目をつけられたらオシマイさね。」


自分の国の女の子を手当たり次第、手込めにしてるのかー!

ふてぇやつだ!お縄につけぇ~!

……今回は符合した。


「…オハナちゃん。」


後方から、圧し殺すような声がした。

振り向くと、年の頃は12、3くらいの少年が今にも泣き出しそうに歯を食い縛っている。


ふと、ボクは少年に歩み寄る。


「…ねぇ、ちょっといいかな?」


少年はびっくりして逃げようとするけど、むんずと掴んで路地裏に移動した。


「いやぁ、いきなりで悪いね。」


少年、怯えて真っ青だ。

仕方ないよね。放課後だったから、制服のまんまだし。

見慣れない服来た人に話し掛けられたら、怖いだろうよ。


「ボク、華凛ってゆーんだ。君は?」


まずは名乗ることが大事だね。


「………………チヨヒコです。」


「チヨヒコくんか。じゃぁ、あの趣味悪い城に住んでる残念王子は?」


「…………マサチカ王子です。」


「そうかそうか。最後に聞こう。

"オハナ"ちゃんは君の好きな子?恋人?」


あ、真っ赤になっちゃった。青春だねぇ。


……"井戸"にしか興味ないんじゃないのかって思った奴、名乗り出ろ!

ボクだって、最低限の知識くらいあるわ!


「…オハナちゃんにおいらが釣り合うわけねぇです。」


ほうほう、絶賛片想い中か。

ボクはニヤリとした。


「君にチャンスをあげようじゃないか。

成功すれば、オハナちゃんと恋仲になれるかもしれないぞ。」


「オハナちゃんと!?………いや、でも。」


「男だろ!オハナちゃんを始め、連れ拐われた女の子たちを救う勇者になれ!チヨヒコ!」


「え?あ、はい!」


「大丈夫だ、ボクに任せておけ。失敗しても君に危害はないようにしようじゃないか。」




ボクは回って、色々面白いものを発見していく。

あの生け簀かない王子の鼻を明かしてやる。

待ってろ、バカ王子!

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