悪雲招来
「はー!愉しかった!」
かれこれ一時間、1人で回ってたよ。
あれ?マクシミリアンくんが案内するとか言ってなかったっけ?
まぁ、いいや。皆いい人だし。
案内なくても、知らなけりゃ説明してくれたもん。
アーセンパイプラインも中々愉しかった!
そもそも目的地がないから、読めない文字を適当に押して入っただけだけどー。
正直、出口出るまでは違いが全くわからない!
ダンジョンはランダムみたいだし、関係ないか。
さて、二人のとこに戻ろう。
「おーい!」
あれ?さっきのとこにいるね。
男同士、友情でも深まったかな?
善きかな善きかな♪
…ま、ボクにはゆーまん以外に友だちらしい友だちはいないんだけどさ。
「おまえ、どこまで行ってんだよ?」
「大丈夫さ。たとえ、迷子になっても直ぐに見つけられるからな。」
「マテマテ。ボクは方向感覚かなりいいんだぞ?そうそう迷子にはならんさ。」
「それはマジなんだよなー。コイツ、道覚えるの早いんだぜ。」
「それは頼もしいな。」
他愛もない会話が何か心地いいなー。
「よし!マクシミリアンくん!今日から君は、ボクの友だちだ!」
「それは嬉しいな。宜しく頼むよ、カリン。」
「…さっきの"プロポーズ"紛いは無かったことにされてるな。」
え?プロポーズ?されたっけ?まぁ、いいや。
「彼女には挨拶と変わらないんだろうよ。俺も逸りすぎた。
いつか正式に申し込むよ。もっと親睦を深めることが大切だ。」
「超ポジティブなのな…。」
何の話かよくわからないけど、仲良くなったみたいで良かったよ。
「あ!マクシミリアンくん!」
「何かな?」
「バイザーのおにーさんのお仕事ぶりをみてみたいんだけど、ダメかな?
危険は承知だよ。…好奇心が勝ってしまって。
敵さんの出現を見てみたい!」
「…んー。俺と同行しているから、そこまでは危険じゃないけど…。」
ふざけてるつもりじゃないけど、友だちになったんだから何か出来ること探したいだけなんだけどなー。
「遊びじゃないから、近寄らない方がいいんじゃねぇの?」
デスヨネー…。
「いや、この世界を知りたいカリンの気持ちは嬉しい。
だから、何かあったら守る。ユーマンも一緒に来てくれ。
危なくなったら彼女を連れて逃げられるように。」
「コイツが行くなら、最初からついてくつもりだけどな。」
ボクらはまた、駐留場所に来ていた。
何やら騒がしいねー。
やっぱちょっと問題になってるのかな。
ヤキモキしている間にマクシミリアンくんが帰ってきた。
バイザーのおにーさんを連れて。
「やあ、待たせたね。」
「…厄介なことを言ってくれたな、小娘。」
ひゃー!おにーさんこわーい!
ボクは颯爽とゆーまんの後ろに隠れた。
「苛めてくれるなよ。大丈夫だよ、カリン。」
ゆーまんの後ろからそーっと見る。
「…おまえはガキかよ。」
あ、ゆーまんが呆れた。
「仕方ないじゃないかー。バイザーのおにーさん、おっきいんだもん。」
理由になっていないのは承知だ。
「………いつヤバくなるかわからない。
おまえたちは逃げる準備を怠るな。」
渋々了解してくれてるんだね。
納得出来ないまでも。
「イレイス。準備はいいかい?」
マクシミリアンくんが別のテントを覗いている。
「はい、大丈夫です。」
中から出てきたのは、ローブですっぽり隠れた細身の人。
全てが中性的で性別わかんない。
ボクらを見るといぶかしがっているのか、見られてる感じがする。
だって、目が見えないからわかんない。
「…そちらは…。先程の?」
話はされてるんだねー。
「そう、カリンとユーマンだ。」
「だから、ユーマンはやめてくれ…。
お願いだから、誰かしらちゃんと"悠真"って呼んでくれよ…。」
あ、ゆーまんてば、哀愁漂ってる。
「…原因はおまえだからな?」
「あははははははははははは。」
乾いた笑いを返してあげる。
「カリン様とユーマ様ですね。私はイレイス。ソーサラーをしております。」
ソーサラー…魔術師だね!
「バイザーのおにーさんとイレイスさんとマクシミリアンくんのチームなの?」
「そうだよ。バランス重視のチームだ。」
そんな中、バタバタと騒がしくなった。
遠くから、よろめきながら誰か来るね。
「ザイル?!どうした!」
マクシミリアンくんの前で、鎧着た人が転ぶ。
「お、王子!我がチームは壊滅しました!お逃げください!」
一瞬で空気が張りつめる。
「どういうこと………。」
最後まで言う前に、少し離れた"井戸異世界"の井戸から這い上がってくる人影が見えた。
「…あれは!」
え?まさかの敵さん登場?
見たかった光景だけど、何か…何かおかしいよ。
寒気がする……。
「…ユーマン。合図したら、カリンを連れて国まで逃げろ。」
マクシミリアンくんも感じてるんだ。
…好奇心が仇になるかもしれない。
「マクシミリアンくん…、ごめんね?」
「カリン。そんな顔をするな。
俺が決めたことだ。君は、悪くない。」
そう言われても、言い出したのはボクだし…。
「ほう、今日は女性をお連れとは…。」
耳障りな声がする。
金の甲冑を着た、無骨なおっさんがにやにやしてるよ…。
趣味悪い…。後ろの人はすっぽりローブ着ちゃって気味悪い感じだし。
………あれ?三人目の人、どう考えても戦えそうにない?
「…戦国武将みたいな格好だよね。」
「一番後ろのヤツなんか、罪人みたいだしな…。」
その人は何だか、異常にガタガタ震えてる。
「マクシミリアンくん…、もしかしたら……。」
嫌な予感がする…。
「今日は"実験"に付き合って頂きたい…。」
「"実験"…だと?」
真ん中のローブが何やらブツブツいい始めた。
「!?ユーマン!カリンを連れて"戻れ"!」
「わかった!カリン行くぞ!」
ゆーまんがボクの腕を掴んだ瞬間。
「待たれよ!」
…へ?
「彼らは客人だ!関係ない!」
「そうは行くまいて。帰るなら、兄さんだけにしな。お嬢さんは残ってもらう。」
はぁ?
「此度の戦、我々が勝ったならば!
戦利品として、お嬢さんをもらい受ける!」
マテマテマテ!意味わかんない!
「客人を戦利品などにするわけにはいかない!」
「無理矢理連れていくまでよ!」
……ローブが静かになる。
「あ、ああああああああああ!!!!!!」
罪人みたいな格好の男が叫びながら、崩れ折れる。
……そのまま倒れて動かなくなった。
「な……、まさか!」
禁呪の……"償還"魔法?
その人を"犠牲"にした…の?
立ち竦むボクをゆーまんが抱き締める。
… ボクの目から、涙が落ちる。
男の体から、黒い湯気みたいなのが上空に立ち込め始めた。
……おっきな赤い………"鬼"みたいな化け物が浮かび上がった。
「王子!危ない!」
バイザーのおにーさんがマクシミリアンくんを庇う。
"鬼"みたいな化け物が腕を一閃させていた。
「がぁ!!!」
バイザーのおにーさんが呻く。
「バイザー!!!」
…赤い血が一杯出た。
ボクの視界はその一部始終がスローモーションみたいに見えた…。
ボクは甘かったんだ。
心の奥で期待していたのかもしれない。
自分の力が通用すると、自分の井戸愛が項をなすと。
剣道とかの試合みたいに開始の合図があるわけじゃない。
役者が揃ったら開始される、本気の一騎打ち。
悪意が勝つか、善意が勝つか。
いつも軍配がどちらにあがるかもわからない。
ボクらの世界とは違うけど、"生死"を懸けたものにかわりない。
…空は同じ色をしていると言うのに。
そのままボクは意識を手放した…。
「お、おい!華凛!」
……コイツ、許容範囲越えやがった。
「その目障りな近衛隊長が倒れたらこっちのものよ!」
金の甲冑野郎がマクシミリアンに向かってくる。
すっと、こっちの華奢ローブのイレイスが前に出る。
後衛が前に出るのはこんなときくらいだろうな。
「It's requested from light. I'm here. I hope. Vice is person's sanction.
(光に乞う。我、ここにあり。我願う。悪しき者の制裁を。)」
短い詠唱と共に光が上空より、金の甲冑野郎に命中する。
砂塵が舞い上がった。…ヤツは?!
俺は華凛を支える腕を緩めず、目を凝らす。
「くそ!思わず足を止めてしまったではないか!」
金の甲冑がぼこぼこになってるけど、ピンピンしてやがる…。
「邪魔をするな!」
イレイスを腕一本で吹き飛ばす。
…彼の口から赤いものが見えた。
肺をやられたかもしれない…。
少し離れた場所に落ちるが、治療しなければ何も出来ないだろう。
「王子よ。出来れば、あなたにも味わって頂きたかった。
だが、まだ実験段階でしてな。
呪術師の消耗やら、人数制限が悔やまれる。
王子に味わって頂くのは、完成品にしよう。」
確かにあの気味悪いローブ、かなり疲弊してる。
「くっ…。そんなことさせるか!」
金属音が響く。マクシミリアンは短剣を巧みに扱っていた。
……弓を背負ってるってことは、近距離はお家芸じゃない。
次第に押され、………短剣を飛ばされた。
「懐に入ってしまえば、あなたは実力を発揮できない。
余裕をかまして"客人"をお連れになるからだ。」
最後、鳩尾に一発……。
「カリン……、ユーマン……。」
マクシミリアンは倒れた。
「殺しはしません。それは我の役目ではないからな。
…さて小僧、腕の中の"姫"を渡されよ。」
「ひ、人の幼馴染み連れ去るとか!誘拐じゃねぇか!」
虚勢にもならないことはわかってる。
俺が無力だってことも…。
「…ふん!ならば、助けに来い!
娘には一切手を出さないと誓おう。
……我が国の王子はわからぬがな。
ソイツら、早く手当てをせぬと危ないぞ?特に"近衛隊長"殿はな。
先にも言ったが、実験段階だ。威力の判断も出来ぬ。」
…力で敵うはずがなかった。
力一杯抱き締めていたのに、こともなくあっさり奪われた。
「貴様が非力なのではない。我が強すぎるのだ。」
意識のない華凛を担ぎ上げると、魔力消耗で動けないローブを掴み、もと着た"井戸"にダイブした。
…残ったのは、見るも無惨な"生け贄"と、重症のバイザー、気絶したイレイスとマクシミリアン。そして、俺。
あのときどうして、走り去らなかったのか。
留まらなければ何とかなったはずだ。
俺だけが何もしてやれなった。
「…華凛。」
涙が溢れ出す。
いつも一人で暴走して、俺を見ると巻き込んで。
俺は臆病者だ。
最近は"井戸"と一緒に、"何か"を探していたのに、それが"何か"を聞けないでいた。
…聞いたら、聞いてしまったら、アイツが壊れてしまう気がして。
「…ン!ユーマン!」
…え?泣き崩れる俺を我に返したのは、マクシミリアンだった。
「マクシミリアン…?目が覚めたのか?」
「すまない、ユーマン!俺が弱点強化を怠ったばっかりに!」
「違う!俺が合図されたのに走り去らなかったから!」
「あんなデカブツに叫ばれたら、誰だって萎縮して動けなくなる!
そこまで考えなかった俺の落ち度だ!」
そのとき、二ヶ所からうめき声がした。
「…あ!バイザーとイレイス!
いい争いしてる場合じゃないな!
ユーマンはイレイスを頼む!」
そういうとバイザーをゆっくり肩に担ぎ、駐留場所に向かい始める。
俺もイレイスさんを担ぎ上げた。
……う、ちょっと重い。
でも、助けなきゃならない。
「マクシミリアン…。俺、華凛を助けに行くよ。
だから……。俺に何か教えてくれ。」
「無茶言うなよ!敵の居城に行くなんて自殺行為だぞ?!」
「わかってる!だけど、あの金甲冑が言ったんだ。
誘拐だって言ったら、『ならば、助けに来い。』って。」
「…ふぅん。あちらさんからのご招待ね。」
華凛が取り戻せるなら、なんだってしてやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます