第一部 出会い

先ずはウェルグランド漫遊を堪能しよう

まぁ、ざっくり解釈するとだ。迂闊に井戸移動したら戦争に巻き込まれて危険ってことだね。……仕方ない。覗くだけで勘弁してやろう。


「俺の国は"ウェルグランド"。国の中の井戸は我々の移動手段なんだよ。だから領土内なら"敵井戸"に繋がらないで、安全に"井戸移動"が可能性さ。」


ああ!何てステキ!……じゃぁ、ここはドコダ?


「因みに、この場所の井戸は"敵井戸"区域。所謂、"井戸異世界"に繋がる、全世界の中心だよ。」


ざっくりざっくりすると、各領土内は国間移動の井戸があって、この区域は異世界に繋がる井戸があるってことかな。いやぁ、用途ごとに井戸がある。そして、何より"井戸"が中心の世界!きっとボクの想いが通じたんだね!井戸に!やだ!相思相愛?!もう、井戸と結婚しよう!ボクと井戸は切っても切り離せない、運命で結ばれてるんだよ!ビバ!井戸!更に、土管もあれば完璧だね。しかもこの国の名前は、"ウェルグランド"!直訳したら、"井戸の大地"!井戸様々な大地なわけだね!


「更に土管や穴とかないかな?」


ゆーまん、隣で疲れた顔してるけど見ないふりしとこう。


「アーセンパイプラインのことかな?アーセンパイプラインは電子盤にある行きたい場所をタップしてから、アーセンパイプに入ると出口がその場所になるんだ。」


あれだね!列車の簡易版!行きたい場所を提示したら、直通で行ってくれるんだね!超便利じゃん!高性能土管だね!


「入ったらダンジョンになってるから、迷わないようにね。」


……え?やっぱ土管なだけに徒歩ですか?


「穴は、森とかに点在してるけど……。」


ん?なんだろう、嫌な予感がするなぁ。


「たまに鉱石があったりするけど、大概モンスターが飛び出すからあまりオススメはしないよ?」


ミミズのモブとかが飛び出す、あれかな……。


「愉しそうだから、君の国を漫遊させて頂こう!」


井戸・土管・穴。全てが完備されているのなら、行かないわけには行かない!


「うん、案内させてもらうよ。俺の国を好きになってね、カリン。……それと、両親にも会ってほしいな♪」


王様と王妃様の謁見ってそんな簡単なの?王子ってすげーなぁ。


「……取り敢えず、国内散策だけにしとけ。何か嫌な予感がするから。」


ゆーまんが溜め息混じりに言う。何故かしらー?


◆◇◆◇◆◇◆


更に連れてこられた"ウェルグランド"。そこはまさに!天国だった!ボクにとってのね!国中にありとあらゆる井戸が点在した。誰でも入れるサイズだったり、子どもサイズだったり。そもそも井戸ってのは、"入る"ためのものじゃない。んなこたぁ知っている。だけど、"入る"ロマンを知ってしまったボクには"入る"ことこそが"井戸"の在り方だ。それがこの国では"日常"なんだ!


「……すげぇな。まさに井戸が中心の国か。」


ゆーまんが井戸を称賛しているわ!もうゲームの世界だけじゃない!今!現実に"入る井戸"が常識の世界が拡がってる!ママもこの世界を見たら文句も言えなくなるね!それが出来ないのが悔しいや。


「……今、言うことじゃないんだけど。」


「なに?今必要ないから言わなくていいよ。」


「まぁ、聞けって。………俺たち、堪能した後、どうやって帰るんだ?」


……………帰る?……………………………!考えてなかった。そういえば、来た井戸は消えていたような……。


「あんだけ"異世界"へ通じる井戸がいっぱいあるんだから、一個くらい元の世界に繋がっててもおかしくないよ。」


「……帰りたくなったら、しらみ潰しにさがすのか?」


「うん!その分、いっぱい井戸に入れるじゃん!」


「……じゃぁ、問題点をあげてやろう。先ず"井戸異世界間の戦争"が落ち着かない限り、他の井戸の捜索は危険。後、他の"井戸異世界"に行ったらどういう扱いをされるかわからない。ざっくりだとこの二点の問題点がある。」


「あー……、確かに。迂闊に調べられない上に、他の"井戸異世界"の情勢まではわかんないもんね。あのマクシミリアンくんも、軽く言ってたけど、実際はどれだけ危ないかわかんないし。わかんないだらけだ。」


「あのマクシミリアン王子についていって、王様と王妃様に会って聞けても、おまえは別の意味で危険だから下手に行かない方がいい。」


「あ、そっか。招待されてたね。んー、気になってたんだよ。なんでそう、行くなってゆーのさ?」


「………おまえな。性格はアレだが、見た目はかなりいい方なんだから気にしろ?おまえがいくら、井戸にしか興味がないと言っても、相手にそれが通用すると思うな。」


「………………そうだったんだ。知らなかったよ、ゆーまん。」


「……うん、分かってた。」


◆◇◆◇◆◇◆


「そいや、マクシミリアンくんどこいったのかな?」


着いた途端、待っててって入り口で待ち惚けなボクら。


「まぁ、俺たちはまかりなりにも奴らからしたら、"異世界人"だからな。」


「確かに……。さっきから超見られてるしね。」


遠巻きに国民さんがガン見してくる。早く戻ってこい、マクシミリアン!


「やぁ、悪かったね。ちょっとした野暮用だよ。」


爽やかに戻ってきた。


「周りに超見られてて困ったよ。」


「ああ、それはカリンが可愛いからに決まってるじゃないか♪」


………ボクの井戸愛を、あれだけ聞いておいて気にしない辺り、かなりの強者だ。


「さぁ、案内するよ。ついておいで。」


然り気無くボクの手を取ろうとしたマクシミリアン。気がつかないふりをしてやった。宙ぶらりんな手を、にこやかな顔で一瞬見つめたが、すぐに何事も無かったように先導を始めた。


「あ、聞きたかったんだけどさ?」


「なんだい?カリン。」


「戦争ってどんな感じなの?」


「3対3のトリプルバトル式だよ。」


……は?


「……あれか。戦に行くときは、3人チーム行動ってヤツ?」


「うん、そうだよ。相手も3人チームでの行動が義務づけられているんだ。」


それはなんと言うか、フェアプレイしてる時点で、危険とかあまり感じないんだけど。しかも、ゲームみたいだな。


「勝ち負け判定は?」


「……相手側をより早く戦闘不能にすることだよ。負傷側が対応が早ければ再戦も可能だけど、大多数が兵士だから"生きるか死ぬか"を念頭に戦ってるんだ。3対3なのは、消耗戦をしないためさ。」


……うわー、一気に重くなった。


「ま、現在のところは全ての"敵井戸"と接戦状態かな。まだそんな死傷者は出ていないよ。今のところはね……。」


「今のところはってことは、今後増える可能性があるってことだよな。」


ゆーまんが割って入ると、少し嫌そうな顔。


「……そうだね。一部の"敵井戸"が不穏な動きを見せているんだ。高度技術である、償還魔法が完成間近っていう噂があるからね。」


「しょうかんまほー?」


「……禁忌に近い"償還"。仲間を犠牲にして、強大な"償還"魔獣を使用しようとしてるってことさ。通常の"召喚"魔法は精霊の力を借りるだけだけどね。」


「……早く掌握したい"井戸異世界"がある?」


マクシミリアンは頷いた。

戦争なんだから、悪どいことしようとする"井戸異世界"もあるってことだよね。正義だけを翳して戦うなんて出来ない。少しでも自分の優位にしたいとこがあるはずだ。ほら、ボクらの世界だって戦争がないわけじゃない。今だからこそ、平和な国があるだけ。昔はどこもかしこも、戦場だったんだから。だから今現在、戦争の真っ只中なこの"井戸異世界間"は全てが戦場状態。こんなに平和そうなのは、何とか接戦を保っているからなんだよね。ボクらは戦争を知らない世代だ。どんなに知ろうとしても、真っ只中に飛び込む勇気のないチキン。いざ、戦争が始まったら何も出来ない一般市民でしかない。


「……マクシミリアンくんも戦ってるんだね。」


「うん、王子だから前線には出られないけどね。」


いづれこの国を背負う立場だから、激戦へは行けないわけだね。


「……カリン。」


「なぁに?」


「俺の国を一緒に守っていってくれないか?」


「だが、断る!……ごめんね。ボクは今、井戸にしか興味がないんだ。」


「俺と一緒になれば、この国の井戸は全て君のものだよ?」


ブレねぇな、ヲイ。確かに甘美なお誘いだが、ボクの美学に反する。


「マクシミリアンくんが、真剣にこの国のことを考えてるのはわかるよ。でも、ボクらはいづれ帰らなきゃならない。ボクは戦争を知らないチキン野郎だ。君の抱えているものを一緒に抱えてくことは、ボクには重すぎる。」


真面目に答えた。


「まぁ、ボクらしくない言い方だけどね。でも、本音だよ?ボクらしい言い方をすれば、ボクのものにしたらロマンがロマンでなくなる。ボクのものじゃないからこそ、神秘的で魅力的なんだよ、井戸は。欲しいものは欲しがっているときが一番輝いているもんなんだ。手に入れてしまったら、形が変わってしまうからね。いつも勝手に覗く井戸も、パワースポットの観光地井戸も同じだよ。」


「……すげぇ持論だけど、説得力あるだろ?こいつの話。」


「……うん、そうだね。何か諭された気分だ。本気で好きになりそうだよ……。」


「すまん。ボクには井戸がいるんだ。」


二人が苦笑することは分かりきっていた。だけど、ボクがボクでいられるのは"井戸"ありきだと思うから。


「……井戸は生きてねぇからな?」


「ふ、そんなことくらい分かっているさ。」

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