プロローグ 井戸からはじまるなんちゃら

すべては井戸から

━━ボクは小さい頃から、『穴があったら取り敢えず入る』子どもだった。━━



『……華凛!あなたはいつもいつも!』


よく土管に夢を抱き、入ったまま寝てしまうことが多かった。そして毎度毎度、ママに怒られた。


『恥ずかしいからやめなさい!』


仕方ないじゃないか!土管を潜ったら、向こう側に何かあるかもしれないんだから!不思議なダンジョンになってたり、宝箱部屋だったり、モンスターの宝庫かもしれない!目眩めくるめく世界がボクを待っている!……かもしれない。ゲームの遣りすぎと言われたら、それまでだ。いくらいっても聞かないヤンチャな盛り……は、現在も続いている。


ボクは今日も、放課後にご近所の井戸や土管巡りを始めた。……ふと、視界に見慣れない神社があった。


「こういうとこに、古い井戸とかあったりするんだよね!」


ボクはもう、テンションMAXで階段を登る。待ってて!my井戸!そんなボクの後ろから声がした。


「おい!華凛!まぁた、"井戸"探してんのかよ?」


ボクは意気揚々と振り向き、鼻息荒く言ってやった。


「当たり前じゃないか!井戸がボクを待っているんだから!」


「いや、井戸は移動したりしねぇから。」


「お?上手いねー!だから、そこでボクが来るのをじっと待っているのだよ、ワトスンくん!」


「誰がワトスンだよ、誰が!俺は悠真だっつーの。」


「んなこた知ってるよ。ゆーまん。」


「…そろそろ、そのガキんときのあだ名やめてくれませんかね?クソ恥ずかしいし。」


「いいじゃないかー。ボクとゆーまんの仲なんだし。」


「……おまえん中の俺はどんな人間なんだよ。」


がっくり肩を落とすゆーまん。ボクは視線が外れた隙に階段を登りきり、中に侵入していった。


「お、おい!待てよ!」


バタバタ追い掛けてくる足音が聞こえる。構わず、ずんずん先に進む。石畳を越え、森林の中へ。階段を登りきったゆーまんもこちらに走ってくる。心配性だなぁ、ゆーまんは。


「ん?」


ボクは見つけた、見つけてしまった。草木に隠れた、蔦に覆われているmy lover井戸を!


「逢いたかったよー!」


ぴょ~んという形容が似合う姿で井戸に飛び付き、勢い余ってずるり……。


「おお?!」


「……華凛!」


追いついたゆーまんがボクの腕を掴むも、一緒にまっ逆さまに落ちた。


◆◇◆◇◆◇◆


「……いたたたた!」


あれ?言うほど痛くない?あ、何かゆーまんを下敷きにしてる。


「……さっさと退いてくれませんかね?"変態井戸フェチ"さん。」


「おおう!光栄な称号をありがとう!我が友よ!」


「ふざけてねぇでさっさと退きやがれ!」


「おっとぉー!」


こいつ!花の女子高生に蹴り噛ましやがりましたよ!ふてぇやつだ!お縄につけぇ!………古かったか。


「ったく、アブねぇだろ!飛び込んだら!」


何だかんだで心配してくれるいい幼馴染みです。


「気にしてたらロマン語れないよ!」


そんならやり取りをしていたら、何か暗く………。わぁお、何か鎧来たー!!


「……ロマン語る前に絶体絶命だな、相棒。」


「そうっすね……。」


うわぁい、何かいっぱい来たよー?


「……おまえたち、何者だ!見慣れぬ出で立ちだな!

もしや、"敵井戸"からの侵略者か!」


あれ?今、"テキイド"とか言いませんでした?

ナニソレ、ステキ!察したゆーまん、呆れてます。よく見ればこの場所、"井戸だらけ"!何、ここ!パラダイス?!まさにボクのためにある場所だ!


「ちょっとちょっと!おにーさん!ここってば、井戸いっぱいあるじゃん?!どんな仕組みなの!?」


目を爛々に輝かせるボクに、流石に後ずさる鎧来たにーさん。


「な、なんだ?おまえ、何も知らない?」


「いやぁ、多分ね?ボクたちって、おにーさんたちからしたら"異世界人"じゃないすかね?ボク、井戸を愛して止まないんすよ!説明願えませんかね!?もー、かなり興味沸いちゃってー!」


あれー?何やら、こそこそ話し合い始まっちゃったよ?ボクの井戸愛ぶりに会議でも開かれちゃうかなー?困っちゃうなー!絶対、この世界は井戸中心のパラダイスなわけでしょ?ボクのボクによるボクのための世界なんじゃないのー?!


「……そうだな。"王子"にお伝えしろ。」


へ?"王子"?やっぱ、ファンタジーな世界だったか。しかも、井戸ありきの!


「おまえたち!取り敢えず、駐留場所まで一緒に来い!話はそれからだ、いいな?」


まぁ、仕方ないっすね。付いていってあげましょう、井戸の為ならば!


「……ついてくしかねぇけど、おまえの井戸フェチがいい方に転ぶことを願うしかねぇな。」


「大丈夫さ、ワトスンくん!井戸に罪はない!」


「だから、誰がワトスンだ!」


◆◇◆◇◆◇◆


ボクらは、"駐留場所"に連れてこられた。どうみても、"テント"だよねー。さっきの偉そうなおにーさんが、一番大きな"テント"の前で畏まっている。あー、そこに"王子"がいるのかな?"王子"にゃ興味ないけど、井戸についてきけるかしら?


「おい!"王子"がお会いになる!面を下げて待て!」


えー?やだなー。偉くても知らない人だし。


「………いいよ、"バイザー"。初めまして、レディ。」


ほー。出てきたのは金髪が眩しいイケメンの、同い年くらいの少年だ。ゆーまんと見比べてみる。


「良かったな、ゆーまん。イーブンだ!」


「何の話だよ!てか、ちゃんと答えてやれよ!」


「ああ、イケメン王子くん!ハジメマシテ!

ボクは《東雲華凛》だ!ヨロシクネ!」


悪いがボクは、"井戸"にしか興味がない。


「俺は《早乙女悠真》……。」


「"カリン"と言うのか!俺は"マクシミリアン"だ。」


ゆーまんの自己紹介を遮りやがったぞ、こいつ。しかも、ボクの手を握ってきやがった。何なんだ、こいつは!やんわり振りほどきながらいい放つ。


「因みに、ボクとゆーまんはセットだ。何せ今、ボクの暴走を止められるのはゆーまんだけだ。」


自信満々。


「胸を張って恥ずかしいことを言うな、バカ!」


ふん、最大の賛辞だね!


「……二人は恋人同士か?」


「「いやいや!」」


揃って否定する。んなわけない。


「そうかそうか♪」


否定したら何だか嬉しそうだ。


「そうそう、聞けば"異世界"から来たそうじゃないか。服装から察するに、"敵井戸"の"異世界"とは違うようだね。」


「いやー、さっきから"テキイド"って聞くけど何?」


あ、何か勿体振った感じで仁王立ちになったよー。


「説明しよう!"敵井戸"とは!"井戸"ごとの"異世界"。更に敵対関係にある"井戸異世界"のことだ!」


あー、すんません。単純過ぎて説明いらなかったわ。漢字分かれば、それで充分でした!


「まぁ、あれだよね?井戸に入れば、色んな異世界を漫遊出来るわけだ!夢のようじゃないかね?!ワト…!むがっ!」


「言わせねーよ?!同じコント続ける気はねぇかんな?!」


ちっ、ゆーまんてば学習能力高すぎるぜ!


「いや、申し訳ないが……。今、"敵井戸"戦争中で下手に移動するのは危険なんだ。」


へ?戦争中っておっしゃいましてぇ?

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