第2話 ロクでもねえ日

ちょっとだけ明日の夜が楽しみになったがすぐいつものテンションに戻った。

それからスーツに着替えて、歯磨いて準備して出社した。

いつものようにくだらない上司の話を聞きながらクライアントからの依頼を淡々とこなし気づいたら時計の針は19時を回っていた。

俺の仕事は18時30分までの定時なのに30分もオーバーしていた。

で帰ろうとしたら「おはよう上司」に


今日は前から伝えていたように部長の送別会があるから絶対出席だぞ。お前まさか忘れて帰ろうとしてたんじゃないだろうな?今朝もメールで送っただろうが。


まじかよ。忘れてたぜ。すっかり。そんなめんどくせえことがあったなんてよ。まじで忘れてたわ。ていうかお前からのメールなんておはようしか読んでねーよ。おはよう以外にイレギュラーな内容ぶっこんでくるんじゃねえよ。


渋々俺はそのクソつまらない送別会に参加することになった。

送別会では腹の出た部長が誰でも言うであろう挨拶をしてお決まりの乾杯の音頭を腹の出た課長がとって、お決まりの送別会が始まった。

俺は酒がそんなに得意じゃないがこの場を穏便にやり過ごすぐらいのタンクは持っている。

飲みたくもねえ酒を飲んで、適当に酔っ払った振りをして、腹の出た部長に挨拶して帰ろうとした。そしたらまた「おはよう上司」がもう一軒いくぞと。


勘弁してくれ!なんで俺がお前なんかと飲まなきゃならんのだ。めんどくせえから帰らしてくれ!お前らのせいでなんか調子悪いんだよ。明日も仕事だしまじでめんどくせえ。


二軒目はバーだった。このバーは今まで来たことがない。ていうかムカつきすぎてどうやってこのバーに連れてこられたのかもわからない。「おはよう上司」が空気も読まず話しかけてくる。


お前はさあ、何を思って生きてるんだ?本当のお前ってどこにいるんだ?お前はいつも心に何かを隠して生きているだろう。俺にはわかるんだぞ?言ってみろ!本当は何を思っているのかを。お前の表情は薄気味悪いんだ。

笑いたくないくせに笑う。怒ってもないくせに怒る。お前は嘘つきの詐欺師のペテン師だ。

ほらどうだ、何か言ってみろ!悔しいだろ!


いきなりこのおっさんは何だ!頭おかしいのか?

何をいきなり喧嘩売ってきてるんだこのハゲは!!

お前ごときに何も言われたくないんだよ!人のこと知った風に言いやがって!お前が一体俺の何を知ってるっていうんだ!偉そうなことばっか言いやがって!俺はお前から毎朝くる「おはよう」メールにどれだけ気分を害されてるかわからないのか!


わけもわからず俺は上司の胸ぐらを掴んだ。そして上司を床に思い切り倒し、目の前にあった梅酒の一升瓶を手に取った。止めるバーのマスター。構うもんかこのままやってやると思った時に目の前の上司は頭から大量の血を流していた。見るも無残なそのハゲの姿を見て俺はただひたすらに笑ってやって唾を吐きかけた。ざまあねえ。欠カスが。お前が悪いんだからな。


おい!聞いてるのか!ふん!もういい。今日は帰れ。明日遅刻すんなよ。


残念ながらこのハゲは生きている。

俺はこのハゲの言う薄気味悪い表情を浮かべて帰ることにした。


なんて日なんだ今日は。


俺は妙な高揚感と絶望感をぐちゃぐちゃに混ぜた気持ちの中眠りについた。


その日は不思議な夢を見た。

今までの人生とは真逆を行く俺の姿。

自分の感情の赴くままに生きている俺。誰にも染まらない俺。


ああ。いいな。

お前は。羨ましいよ。まじで。

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