エピソード 4
エピソード 4
聖堂裏の、ひっそりと静まり返った墓地。ここ最近、太陽の光をアドルフは目にしていなかった。数週間にも渡る薄暗い天候、それでも不思議なことに雨は降らない。灰色の雲を見て、アドルフは自分と重ねる。自身の心は、あれと同じ色をしているのだとそう思った。
一体、自分は何がしたいというのだろう。光のない瞳で、マリアの名を見詰めるアドルフ。仕事を休み、育児放棄をし、こうして墓石の前に蹲り、神父に迷惑をかけ、マリアの死を嘆いている。マリアのあとを追おうとも抵抗を感じ、ただ無為に時間を過ごす。一体、何がしたいのだろう。
アランとマイクは、あれから此処に訪れていない。それも当然といえた。このような父親を見限っても、何らおかしい話ではない。アドルフにとってはそれでよかった。父親失格である自分のことなど、放っておいて構わない。しかし、何故だろう。アドルフはこのとき、どうしようもないほどの孤独を感じていた。それを紛らわせるかのようにマリアの名を呼ぶ。
「マリアよ。私には、お前がいないと駄目なんだ。お前がいなければ何もできはしない。何故、私のもとから去ったんだ。どうして死んでしまったんだ、マリア」
何度マリアの名を呼んだことだろう。それでもアドルフの耳に、マリアの声は届かない。マリア・ブラウンは死んでしまったのだから当然だ。目の前の墓石が、一体なにを示しているというのかアドルフにはもう分かっていた。
「もう一度だけでいい。お前の美しい声が聞きたい、お前の微笑みが見たい。私の願いはそれだけだ。それだけなんだ」
マリアが死んだということを理解していながら、それを受け容れられず、声が聞きたいと望むアドルフ。しかし、どうしてマリアの微笑みが見られよう、自身の足元に愛したひとは埋まっているというのに。それでも、アドルフは言わずにはいられなかった。考えが矛盾していようとも、胸の内を叫ばずにはいられなかった。マリアと一緒にいた二十年間もの思い出が、まるで本のページを捲るように、つぎつぎと浮かんでは消えていく。あんなにも幸せだったのが嘘みたいに、目の前につきつけられた現実は残酷だった。
「どうして、叶わない」
額を地面にあてて土がつき、アドルフはそのままの体勢で叫ぶ。
「どうして、これっぽっちの願い事すら叶わないんだ。何で、どうして。マリア、どうして死んでしまったんだ」
「あなた」
息が止まった。
聞き違いだろうか、いやしかし、そんな偶然があるはずもなかった。なら、幻か。いや違う、幻聴であるはずがない。何せそれは──
「願い事一つ、叶いましたね」
──愛する人の、声であったから。
「振り向かずに、話を聞いてください」
アドルフが振り向こうとしたそのとき、背後に確かな存在感を伴わせている愛しきひとがそう口にした。
「振り向いては、駄目なのか」
「あなたが私との会話を望んでいるのなら」
その言葉を聞いて、アドルフは振り向くという考えを一瞬にして捨て去った。もし振り向いてしまったら、この奇跡から醒めてしまうのではないか。そんな予感をアドルフは懐いた。
「ありがとう、あなた。私のいうことを信じてくれて」
澄んだ声。それはこのどこか寂れた場所に、光明を射すかのように凛として響き、アドルフにある感情を沸き上がらせた。それは溢れんばかりの感謝、溢れんばかりの愛情。これはけっして夢まぼろしではない。自分の頭がおかしくなったわけでもないのだ。
「お前の言うことを信じなかった日は、私にはないよ」
「あら、そうでしたね」
アドルフは自分の言葉に笑ってしまいそうだった。いまも信じられない気持ちでいっぱいだというのに。こうして遣り取りを交わしているだけで、何と幸福なことか。過ぎた幸せはときに恐怖を生む。いつこの夢が醒めてしまうのか、アドルフは恐怖した。しかし、何度瞬きを繰り返しても夢から醒めない。
マリア。
また、逢えた。また、声が聞けた。欲を言ってしまえば、マリアの顔が見たかったアドルフ。しかし、それはできなかった。マリアのことを心の底から信じているからこそ、アドルフにはそれができない。もし振り向いてマリアの存在が消えてしまったら。そう考えただけで恐ろしかった。
「マリア」
「はい、あなた」
「私はお前がいなくて寂しかった」
マリアが死んでから、一体どれだけの苦しみに苛まれたのだろう。寂しかった、辛かったのだ。毎日、当たり前のように笑いかけていたひとがそこにはいない。その現実を目の当たりにしただけで、心臓が何かに掴まれたかのように苦しかった。
「マリアがいない日々を、私は考えたことがなかった。こうしてマリアがいない日々を過ごして、お前がどれだけ大切なひとだったかを実感したんだ。──マリア」
アドルフは、もう二度と訪れないであろうこの機会を逃したくなかった。ここで言いたいことも言えないままマリアが去ってしまうのだけはどうしても避けたい。アドルフの頭は、少しずつ、冷静さをとり戻す。マリアともう一度会話をするという望みは、願うことすら馬鹿馬鹿しい話だ。だってそうだろう。死者と生者が言葉を交わすなど不可能だ。けれども奇跡が叶っているいま。アドルフはどうしても言えずにはいられなかった。
「一緒に帰ろう、我が家に」
なんと烏滸がましい願いだろう、とアドルフは自分でも思った。『もう一度だけ』『それだけでいい』などと口走っていた自分がどうしてこのような言葉を口に出しているのだろうか。
実際に願いは叶った。マリアの声を聞き、マリアと会話ができた時点でアドルフの願いは叶っていたのだ。しかし、それだけで我慢できるわけもなかった。立ち上がっては直ぐ様、マリアを抱き締めるために全力で駆けたい。その衝動を抑制するだけで、アドルフはいっぱいいっぱいだった。
「ごめんなさい、あなた」
だが、そんな都合のいい話が許されるわけもなかった。
「こうして会話をできるのは、これが最期なの。だから、ごめんなさい」
悲しみを帯びたマリアの謝罪を聞いたとき、アドルフの胸は痛んだ。一緒に帰ろう、なんて、叶うはずもないと分かっていたのに、マリアの口から『ごめんなさい』と言わせてしまった。
「いや、こちらこそ悪かった。すまない」
「あなた……」
「私とて分かっているんだ。物事が自分の思い通りにならないことくらい、分かっていた。お前を困らせると分かっていたのに、どうしても我慢ができなかった。すまない」
「謝らないで。あなたの気持ちは痛いほど伝わったわ。……ねえ、あなた」
「どうした、マリア」
アドルフは耳を澄ます。目を閉じ、何一つ聞き逃さないようマリアの言葉を待つ。
「あの子たちのところへは行かないの?」
あの子たち、とは誰のことを指しているのか。アドルフは瞬時に察し、返事ができなかった。
「あなたがいなくて寂しい思いをしてるわ、きっと」
アドルフの反応に構わず、続けてマリアはそう口にした。それはあの頃と変わらない優しい口調、普段通りの会話。このような有り得ない状況に置かれているのにも関わらず、アドルフもまたあの頃と同じように言葉を返す。マリアが生きていた、あの頃と同じ感覚で。
「そうだろうか。アランとマイクは、私がいなくなって寂しがっているのだろうか」
「それが分からないあなたではないでしょう?」
「……だが、いまさら息子たちに会わせる顔などあるわけない」
「いまならまだ間に合うわ。それよりも、あの子たちを放っておいて、あなたは何で此処にいるの?」
「ここでお前を想っていた。お前の骨が埋まったこの場所で、マリア、お前のことをただ想い続けていたんだ」
「ありがとう。でも、もう充分に届いてるわ。その愛情を少しでも、あの子たちに届けてあげて」
「……私にできるのだろうか。いまさらそんなことが」
「できるわよ。それとも、いままでアランとマイクに注いできた愛情は偽物なの? もちろん違うでしょ。あなたはあの子たちを愛してた。それに、あなたは生きているんだから。愛することは、とても簡単なこと」
生きている。
自分が生きているということ。生をアドルフは実感する。死人であるはずのマリアと会話を交わしているこの場所は天国ではない、墓地だ。知らぬ内に自分が死んでいて、マリアのもとに辿り着いたわけではない。
確かに生きているが、しかし、自分は何も成し得ることはできないとアドルフは思う。もう何もかもが遅いのだ。父の情けない姿をさんざん見てきた息子たち。心配して墓地にまでやって来たアランとマイクの言葉に耳一つ貸さなかった。なら、父親の言葉に耳を貸す理由もアランとマイクにはない筈だ。その旨をマリアに伝えると、返事がない。何か言葉を選んでいるようでもあったが、やがてマリアが小さな笑い声をあげた。
「あの子たちがあなたを見捨てるわけないでしょ。こうしてるいまも、アランとマイクはあなたのことを想っているわ」
「しかし、アランとマイクはもう此処に訪れていない。きっと、こんな父親に呆れて、」
「じゃあ、あなたの首もとに巻いてあるそれはなに?」
風が吹いて、首もとを巻いていたマフラーが揺らめいた。
「父親の情けないところを見てもね、あなたを見る目は変わらないの。いつまで経っても、あの子たちにとってあなたは父親なんだから。それに、マイクは同級生にあなたのことをからかわれて、涙を流したわ。自分のお父さんが情けないという気持ちも、マイクの中にはあったでしょう。でも、それ以上にあなたを馬鹿にされたのが悔しかったのよ、あの子は」
そんな話、アドルフは知らなかった。あのマイクが自分のために涙を──アドルフの胸の内に、熱いものがこみ上げてきた。
そこで、沈黙が訪れる。アドルフは静かにマリアの言葉を待つ。
「ねえ、あなた」
不意に。マリアがアドルフに呼び掛け、そのまま言葉を繋げた。
「後悔、してる?」
「後悔?」
「ええ。私が死んだことで、後悔してる?」
「何を言ってるんだ。そんなの当然──」
──?
後悔?
「…………」
マリアが死んで悲しい思いをしたことはあっても、それを悔いたことはなかったのではないか? アドルフは惑う。マリアに言われて初めて気付いた。アドルフにとって、マリアと一緒にいる毎日は幸せなものだった。
思えば、本当に自身とマリアの仲は睦まじいものだったとアドルフは思い返す。アドルフとマリアの関係は端から見れば羨ましいと思われるほどに良好だった。
「後悔はしていない」
はっきりと、そう返事ができた。
「私は常にお前を愛していた。だから、後悔はしていないんだ。お前に対して私は全力であったから」
「うん。私も同じ」
マリアと過ごした一日一日を大切にしていた。後悔なんてしていない。それがアドルフの正直な気持ちだった。
「私もね、アドルフ。自分が死んだことを悲しいとは思っていても、後悔はしてない。全力であなたと向きあって、あの子たちを心の底から愛した。だから、悔いなんてない。それに、あの子たちにはあなたがいるんだから、心配をすることもない」
目を閉じて聞いていても、マリアが微笑みながら、自分に語りかけているのが分かった。
「このままここで時間を過ごして、死んでしまったとしたら。あなたは絶対に後悔をする。自分自身を憎む」
アドルフは沈黙しか返せなかった。簡単に未来を想像できてしまったからだ。もしこのまま自分が死に至ったとして、天国でマリアと再会しても、果たして心の底から喜ぶことができるのだろうか。そんなの、できるわけがなかった。父親としての役目を果たさず、息子たちを置き去りにしたことを一生、アドルフは後悔する。
「私は、私が醜い」
声は、相変わらず掠れていた。目を開けば、アドルフの視界は滲んでいた。
「言われなければ、そんなことにすら気付かないなんて、どんな顔をしてあの子たちに会えばいいんだ。私は非情だ、父親として最低だ! 軽蔑しただろう、マリア。お前が死んでから、ここでただ蹲り、泣いているこの無力な男を。お前の夫だった男は、こんなにも、こんなにも醜い……!」
「どうして私があなたを軽蔑するなんてことがあるのでしょうか」
マリアは毅然としてそう言い放つ。
「あなたの私に対する想いや、アランとマイクに対しての葛藤を見て、どうして蔑むの? あなたを醜いなんて思わない。だってそうでしょう、この奇跡は、あなたの私に対する愛情がどれほどのものか教えてくれた」
アドルフは何か言葉を返そうとしたが、声が詰まって返事ができない。
「あの子たちは、アランとマイクは、私とあなたの愛の証。ここまでの奇跡を起こすんですもの。あの子たちに、私に負けないくらいの愛情を注いであげて」
「しかし、私は」
「あなたはあの子たちの父親よ。生半可な覚悟で子供を授かったわけではないでしょう? 私とあなたは」
「…………」
「あなたは生きている。いまを、生きているの。あなたは、自分がこのまま死ねば後悔することを、もう知っているわ」
「後悔……」
「私はもう死んでしまったから、あの子たちに愛情を与えられない。天国から見守ることしかできないわ。でもあなたは生きてる。あの子たちを抱き締められる。愛することができる」
「……アランとマイクは、それを望んでいるのだろうか。いまさらのこのこと顔を出して、私は、怒られないだろうか」
「怒るに決まってるでしょ。そして怒ったあとに、きっと笑うわ」
「お前には、そのような未来が見えるのか?」
「未来は見えないわ。でも、家族だもの。どんな反応をするのかくらい予想がつくわよ」
きっと、あの頃と同じように、マリアはうしろで微笑んでいる。そう思い浮かべただけで、悲嘆に暮れたアドルフの表情は少しだけ和らいだ。
「あの子たちは私を許してくれるだろうか」
「許してくれる」
「私は、ちゃんと父親の役目を果たせるだろうか」
「私と一緒にいたときの、いつも通りのあなたでいいのよ。無理はしないで」
「私は、情けないな。天国にいるお前にまで心配をかけさせてしまって」
「本当ね。でも、もう大丈夫でしょ?」
「……ああ。ああ、大丈夫だとも」
顔をあげたアドルフ。そこで目に飛びこんだのは、愛したひとの名前が刻まれた墓石だった。アドルフはじっと、動きが止まったかのように、黙ってその名前を見詰めていた。──アドルフの頭は、少しずつ、少しずつ、冷静さをとり戻す。
果たして、うしろにいるのは本当にマリアなのだろうか。
会話を交わしてからというものの、アドルフは一度もマリアの顔を見ていない。かぶりをふるアドルフ。あの声も、言葉も、何一つ違和感はなかった。しかし、と、墓石の名を見詰め直す。マリアはもう現実にはいない。そのことを、誰よりもアドルフは知っていた。
疑いの心を抑えつけようと思っても、アドルフは、それでも願ってしまう。
「マリア」
「はい、あなた」
「私の願いを、どうか聞いてほしい。最後に。最後に、もう一度だけ。お前の微笑みを、私に見せてほしい」
心から惹かれたあの微笑みを、誰かと見間違えるなんてことは、アドルフには有り得ない。これが夢まぼろしなんてことを、アドルフは思いたくなかった。だからこそ、マリアの微笑みを目にしたいとアドルフは望む。
そこで、沈黙が降りた。まさか、と、いやな考えがアドルフの頭を支配し始めた頃に、僅かな光が、この墓地に射していた。見上げれば、灰色の雲から一筋の光──
「分かったわ、あなた」
マリアの言葉に、心臓が高鳴る。
「でも、その前に伝えたいことがあるの。まず、振り向いたら、すぐに前を向いて。そこから、もう、うしろを見ないように。あなたには、前を向いて生きていてほしいから」
「……分かった。約束する」
「あとね、伝えたいことがあるの。時間があまりないから、伝えたいことを伝えるね」
「なんだい、マリア」
「私を愛してくれて、ありがとう」
それは、アドルフにとってあまりに不意討ちだった。
アドルフは再び俯き「マリア」と小さな声で呼ぶ。
「なに?」
「私を愛してくれて、ありがとう」
「はい」
「私に逢いにきてくれて、ありがとう」
「はい」
「マリア」
嗚咽を洩らしながらも、涙をこぼしながらも、それでも、言わなければいけないことがアドルフにはあった。
マリアとの出会いを、アドルフは思い返す。恋愛に不器用だった二人。でも、二人は息がぴったりだった。まるで写し鏡のようだった。ゆっくりと、ゆっくりと。その距離は縮まっていった。
マリアにプロポーズした場面を、思い出す。あの日、互いにできた目の隈が、二人の緊張を表していた。マリアから快い返事をもらったとき、アドルフがどれだけ嬉しかったことか。あのとき、マリアもまた幸せそうに笑っていた。
結婚式の場面が、頭の中で蘇る。沢山の友人たちに祝福された。怖いほどに、アドルフは幸せだった。そして、二つの命が、アドルフとマリアの両腕にあった。あのとき、初めてその腕に抱いた小さな命、その感覚を思い出して、アドルフは泣きながら、あのときと何一つ変わらない言葉をマリアに告げる。
「アランとマイクを産んでくれて、ありがとう」
心からの感謝を、アドルフはマリアに伝えた。アランとマイクは無事に産まれ、元気に育ち、健やかにいまを生きている。病弱な体のマリアは、自分のお腹に小さな命が宿ったその時から、元気な子が産まれてきてほしいと口にしていた。そしてアドルフがマリアのお腹に小さな命が宿ったと知ったあのとき、胸に感じていたのはどこまでも深い愛情だった。
いまなら間に合う。マリアの言葉で目を醒ますアドルフ。もう迷わない。その虚ろな瞳に確かな光が宿り、そこで「振り向いて」とただ一言、うしろから声を掛けられた。
「マリア──」
振り向いたアドルフ。
それは、決して幻想ではなかった。
灰色の雲から射す太陽の光に照らされた、愛しきひと。
マリア。
マリアは、アドルフに微笑みを向けていた。その微笑みを見て、アドルフは確信した。自分の目の前にいるのは、本当にマリアなのだと。アドルフはその笑みをしっかりと目に焼き付けて、そして前を向いた。アドルフはもう、振り向かない。
「見ていてくれ、マリア」
墓石に刻まれた名を見詰めて、涙声で言葉を発するアドルフ。
「私は後悔のないような生き方をする。あの子たちが私を誇りに思うような、そんな父親になる。お前に負けないくらい、あの子たちを愛してみせる」
だから、マリアよ。
「私たち家族を、見守っていてくれ。そして、どうか、笑っていてほしい」
そうして灰色だった空が嘘みたいに晴れて、陽光がこの墓地に降り注いでいた。まるでこの光は新たなる門出を祝うかのようで、煌煌としていて眩い。
もう、うしろにひとの気配はなかった。だが、アドルフに未練はない。一刻も早く息子たちのもとへ駆けようと立ち上がろうとしたが、体が言うことを聞かない。頽れた姿勢のまま、嗚咽を洩らし、涙を地面に落とす。
いまはまだ、このままで。
立派な父親になることを墓前で誓う。しかし、いまだけは立ち上がることのできない自分を、アドルフは許してもらいたかった。首もとに巻いたマフラーを強く握り、アドルフは声をあげて泣いた。現実をしっかりと受け容れなかったアドルフにとって、これがマリアとの本当の別れだった。自身を包むような太陽の温かさをその身に感じながら、アドルフはただ一人、静かに涙を流す。
いまはまだ、このままで。
いまはまだ、このままで。
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