閑話1 異世界の風呂&トイレ事情

「すいません、ちょっとお手洗いに行ってきてもいいですか?」


 アリアとの修行途中、トイレに行きたくなった秋人は宿舎のトイレを借りることにした。

正しくは、宿舎の外に備え付けてあるトイレだが。

この世界でのトイレにもそろそろ慣れたい。

異世界にやってきて数日ではあるが、トイレは日常生活でかかせないことだ。

この世界への適応の早さが、生きていく上で必要になっていくと秋人は思っている。


「あぁ、わかった。

 それじゃあ少し休憩にしよう」


 秋人の申し出を受け入れたアリアは、持参してきた布で汗を拭う。

そして木製の容器に入った水を飲むと、一人でまたトレーニングを始めた。

アリアにとっての休憩は、トレーニングのレベルを下げることらしい。

体力のない秋人は何もせずに休ませてもらってはいる。

いずれは自分も、アリアと同じようなトレーニングをすることになるのだろうか……


「って考えてる暇じゃない!」


 秋人は急いで宿舎近くの小屋へ入る。

そこには簡素な作りの個室がいくつか並べられている。

一応、男女別にはなっているが、比較的小さくまとめられているのが特徴だ。

秋人は個室に入ると、これまた簡素な作りの便器が目に入ってくる。

秋人の住む世界でいう、『和式トイレ』だ。

少し違う点があるとすれば、桶のようなものが取り付けられていること。

そこで用を足すと、トイレに置いてある使い捨ての安い布を水で濡らしてお知りを拭く。

布は小屋裏に捨てる場所があるのでここでは捨てられない。

用を足した後は、壁側に取り付けられている紐を引っ張る。

すると、便器側に取り付けられている桶が傾いて水が流れる仕組みだ。

水量はギリギリといったところで、足りなければ水を汲みなおしてまた流す。

最終的に流し終わった後も、次に使う人のために水を汲んでおくのが常識らしい。


「……なんとか、慣れてきた」


 最初はこの方式のトイレに戸惑った。

アリアに聞くわけにもいかないし、ニックにもなんとなく聞きにくい。

宿舎の兵士に事情を話して使い方を教わったのだが、秋人の歳になってトイレの方法を聞くというのはかなり恥ずかしいものだ。

風呂も、基本的には宿舎にあるものを借りるのだが、大体は水である。

温かいお風呂を想像していた秋人は最初、心臓が止まるかと思った。

ウォレスタ王都まで降りれば公共施設としてお湯を提供している店があったので、今はもっぱらそこに通っている。

湯に行く旨を伝えると、アリアがお金を貸してくれる。

たかっているようにも感じたが、疲労を回復させるためなので仕方がない。

アリアも湯のほうがいいと言っているし。


「さて、戻るか」


 さっき使った布を捨て終えた秋人は修行場所へ戻る。

身体はキツイが、これも生きるため。

ニックにも勝ちたい。


「よし、がんばろ」


 トイレをした後は、なぜか少しだけ気持ちが前向きになる秋人だった。

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