第33話「シンシナシティへ」



穏やかな漣に聞き入ってしまう夕方。

私こと七瀬芽生は久しぶりにゆっくりしていた。

ここ最近慌ただしい日々だったので、ちょうどいい。

渡し船でゆっくりと波に揺られている。

ワタベさんは酔いから完全に立ち直り、シラフだ。

昔の職人さんらしく酒を飲むときは浴びるように飲む。

でも、仕事は確実に完璧にこなすタイプのようだ。

お陰で航海は順調だし、乗り心地は快適。

渡し船はゆっくりとシンシナシティに向かっている。

理沙ものんびりしており、ぼーと地平線を見つめている。

ノノは海を初めて見たようで、興味深く眺めている。

じっとしてても暇なので、手元にあるガイドブックを読んる。

シンシナシティのページがすぐに見つかり、文章を目で追う。




シンシナシティ



トンポリ近郊の海にある島であり、ナイトゼナの国鳥・シンシナに島の形が似ていることから初代ナイトゼナ王が命名。王国の玄関口として知られ、貿易や漁業が盛んだ。人口30万人ほどで多くの人が港で働いている。観光地としても有名で、数多くのホテルが出店している。

料理も海洋料理が中心で、有名なグルメリポーターが3つ星をつけているレストランも複数存在するようだ。




……ふむ、海洋料理か。

お刺身とかうなぎとかかな。

ナイトゼナにあるかどうかはわからないけど。

じゃなくて、ギルドの事を調べよう。

少し先のページを捲る。




ギルド「マリア・ファング」



初代マスター「ルージュ・マリア」が創設したギルド。

ナイトゼナ国内にあるギルドとしては最古参の歴史あるギルド。

由来は創設者のルージュと飼い犬であり、最古参メンバーのファングから。また、名前を出すのは恥ずかしいという意向もあり「マリア・ファング」となった。現在はルージュのひ孫にあたる「サエコ・マリア」がマスターとなっている。その卓越した手腕は素晴らしく、多くのギルドメンバーが彼女を慕っている。




彼女こそ、この薄汚れた世界に現れた女神であり、天使である。

その豊満な胸、白く美しい肌、すらっとした脚、凛とした声……。

どれも素晴らしいのだが、24歳の彼女は彼氏はおろか、付き合った経験もない。仕事が恋人だと言い切る彼女に熱を上げる者は少なくない。

求婚者や交際を求める者は未だに数多くいるようだ。

彼女とて女性であり、付き合うことや結婚に興味がないわけではないだろう。女は生まれた時から現実的であり、ロマンチストな男性とは観点が違う。そんな女性の癒やしは昔も今も恋なのだ。

彼女の隙間心を埋めるのは果たして誰なのだろうか。




ちなみにギルドは大衆居酒屋として経営しており、メインはそちらだ。

仕事の請負はギルドメンバーのみ可能。厄介事等の相談、護衛、その他相談は2階の事務局で行うとのこと。場所は1丁目通り入ってすぐ。いつも閉まっているアイテムショップ「与太来堂」の隣。

 



……途中からライターさんの煩悩が出まくってるんだけど。

いいの、こんな文章をガイドブックに掲載して?

おまけにこのガイドブックはナイトゼナ国推薦本、シンシナ観光局特別推薦書とある。つまり国と市が認めたガイドブックだ。

ライターさんの文章は普通、上司に目を通されてOKが出るまで書かされる。観光局推薦とあるのに下手な文章を書くとはとても思えない。



なのに、この褒め殺しでさも狙っているような冷静な分析は驚きと同時に頭が痛い。ただ、ライターさんの一存でこんな事書いても絶対に通らない。推測だが、上の人から彼女を賞賛・賛美するような文章を書けという指示があったのかもしれない。

うーん……どれくらい美人なのかな。

ちょっと気になるが、問題はそこじゃない。




ナイトゼナの城の地下の事を思い出す。

私達は元の世界に戻るための手がかりを探すべく、城の地下へと向かった。ボルドーさんから鍵を借り、地下牢を歩いている時、死神と遭遇した。驚く私達を尻目に死神はあることを依頼してきた。



それはシンシナシティにある「マリア・ファング」というギルドの「サエコ・マリア」に手紙を渡すことだった。

人々から嫌われ者だと自覚している彼?は自ら手紙を渡すことはできないという。それは本当の理由でもあるのだろうが、渡し方は他にもあるはずだ。なのに、どうして私達に頼んだのかは不明。

その手紙は今も私が持っている。

どんな手紙なのか内容が気になるけど、他人の手紙を勝手に読む訳にはいかない。



でも、手紙を渡すのはついでだ。

私達の真の目的はギルドに加入すること。

シェリル・ミリィを倒した報奨金や王子の心付けもあり、お金には不自由していない。



だが、支出ばかりで収入が無ければ、いつかお金は尽きてしまう。

当分はシンシナシティを拠点にしつつ、ギルドのお仕事をして元の世界へ戻る情報を集める。シンシナシティは貿易なども盛んであり、各国の噂話なども事欠かない。またギルドには寮もあるのでそこで寝泊まりできたら尚、良しだ。




「お嬢ちゃん達、もう少しで着くゾイ」




太陽が最後の悪あがきに海を橙に染めていく。

夕焼けは数時間もすれば群青色に染まるだろう。

風が少し冷たくなってきていた。

港には渡し船専用の船着き場があり、そこから陸地に上がった。




「ありがとう、ワタベさん。はい、船賃ね」




予め用意していた金貨袋を渡しておく。

ワタベさんは頷き、受け取ってくれた。

実は少しだけ色をつけている。

いい航行をしてくれたせめてものお礼だ。




「ん、確かに。じゃ、飲んでから帰るゾイ」




「いや、昨日、さんざん飲んでたでしょ!!」




「ミリィ事件の後じゃ、王様も呑気に避暑とはいかんじゃろ。それにせっかくシンシナに来たんじゃ。美味い酒と風俗街……たまらんのぅ、ぐふふふ。ミストちゃーん、キャルちゃーん、今、会いにいくゾイ!!」




ワタベさんはそのままダッシュで歓楽街へと去っていった。

やれやれ、体力のあるおじいちゃんだ。

っていうか、男って異世界でもスケベだ。

なんか脱力するけど……まあいいや。

船着き場をざっと見回してみると、20以上の船が並んでいた。

そこでは大勢の男達が荷物を運んだり、船に入れたりと忙しそうだ。

海の男たちは誰もが筋骨隆々でたくましい人たちばかり。

船の整備をしたり、甲板を掃除をする人もたくさん見かける。




「んじゃ、さっそく行くッス。1丁目通りは……えーと……」




歯切れの悪い理沙。

ガイドブックを見つつ、考えているようだ。

あれ、いつもの理沙らしくない。




「理沙、シンシナは初めて?」





「あー……はい。実はナイトゼナのこっち側までは来たことないッス。他の島なら何回かあるんスけど。仕方ない、人に聞くッス」




「行きましょ」




ノノは私の手を掴み、笑顔で私に綻ぶ。

迷子にならないように配慮してくれたのかもしれない。

私、子供じゃないんだけど……まあいいか。

理沙は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、マップに集中した。

とはいえ、誰に聞くか悩みどころだ。

港で働く人は忙しそうだし、話を聞いてもらい難いかも。

取り合えず、港から移動して誰か話かけられそうな人を探すことに。










「……?」




港を出て少し進んだ先。

裏通りの路地裏に人が倒れている。

黒髪でお団子頭が可愛い女の子だ。

顔立ちは整っているが、どこか幼い。

冒険者用のローブを着込み、背には短いマント。

脚にはロンググリーブブーツを履いている。




「あ、このグリーブはミスリル製ッス。硬い鉱物ですけど軽くて評判が良いんスよ。まあ、その分お金はかかりますが。この子、結構なお金持ちっスね」




「そんなことはどうでもいいの! あなた大丈夫?」




ゆさゆさと揺さぶる。

女の子は薄っすら瞳を開けた。

そして。




「おなかすいた……」




壮大な腹の虫が鳴り、彼女は力尽きた。













「はむはむはむ、パクパクもぐもぐ、もぐもぐ……。

おっちゃん、おかわり!!」




「へいよ!!」




というわけでやってきたギルド「マリア・ファング」

彼女はここの所属でもあるということなので、ここでゴハンを食べたいそうだ。ガイドブックにもあったように、ここは大衆居酒屋としても開店していている。



開店は朝11時~夜の24時までだそうだ。

海洋料理に特に定評があるんだとか。

けれど、メニューはウニ、サザエ、蟹、貝料理ばかりだった。




「うーん、流石に鰻料理とかお刺身はなかったか」




「ですね。というか、そもそも蒲焼きにして食べるのは日本だけッス。

つか、異世界で鰻料理が出てきたらビックリッス」




「えー? でも、異世界で料理とか喫茶店とかやるラノベ多いって聞くよ」




「最近のラノベの流行りはよくわかんないッスね……。ところでメイ、お刺身はなんでお刺身って言うか知ってますか?」




「ううん、知らない」




「元々は切り身って呼ばれたんッスけど、武家社会では切るは忌み嫌われている言葉だったので「刺身」となったんス。ただ関西では「刺す」という言葉も嫌われていて、魚を切ることを「作る」と呼び、刺身は「作り身」と呼ばれたんス。お造りはその作り身に「御」をつけて「御造り」と呼ばれたんスね。関西地方発祥の言葉ですが、刺身の丁寧語でお造りという地域もあるそうでス」




「ふーん、なるほど」




理沙の薀蓄を聞きつつ、注文した貝料理を食べる。

サザエのつぼ焼き美味しいなぁ。

ガイドブックによると、なんでも元王族の専属シェフが料理を作っているそうだ。他にも元有名レストラン専属の料理人たちがスカウトされて来ているのだとか。



そして、可愛い女の子のウェイトレスが軽やかに料理を運ぶ。

たまにお金の無い下っ端ギルドメンバーがバイトをしていることもあるけど。料金設定はさほど高くなく、以前アイン王子と一緒に行ったレストランよりやや安い。庶民でも充分に払える金額だ。週末とかに行くにはちょうどいいかも。




「刺身とかうなぎって何?」




「私達の世界では魚は焼かずに生で食べる料理があってね。他にも鰻っていうのがいて……」




「魚を生で? 随分、チャレンジャーなのね、そっちの世界は」




そんな話題で盛り上がる私達。

店内では男たちが酒を手に盛り上がり馬鹿話や異性の話、仕事の話で盛り上がっている。しかも声が大きくて五月蝿くて、日本の居酒屋と何も変わらない。実際、家の近所にある居酒屋も声がよく漏れていたし。

さて、美味しいことは美味しいけど……それをも凌駕する女の子の食べっぷりに私達は驚きと同時にため息をついていた。ちなみにギルドのマスターさんは不在だった。




「……よく食うッスね。アタシよりスゴイかも」




「いやー、3日間何も食べてなかったからね。ホント感謝してるわ。もー、仕事急にキャンセルになっちゃうんだもん。路銀だって尽きるし……マジで死ぬかと思ったわ」




愚痴を零しつつもゴハンを食べる手は休まない女の子。

ガツガツ食べて咀嚼し、ガブガブとレッドスチルを飲みまくる。

口に汚れがついても気にせず、周りの人が引くくらいに食べまくる。

相当、お腹が空いていたみたいだ。




「あんた達もぼーとしてないで食べなさいよ。食事は天の恵み。きちんと食べないと罰が当たるわよ」




なんか図々しい気がするが、今は何話しても駄目かな。

とにかく、一旦諦めて食べることに集中することにした。








それから数分後、ようやく彼女も私達も胃袋が満足になった。

店内は盛り上がる海の男達でかなり五月蝿い。

まるで宴会場に来ているかのような盛り上がりようだ。




「ごちそうさまでした。あ、自己紹介がまだだったわね。私はミカ・ストライクよ。ミカでいいわ」




「あ、私は七瀬芽生です、よろしく。こっちは近藤里沙、妖精のノノ」




「よろしくッス」




「よろしくね」




というと、ミミちゃんは途端にこちらを凝視した。

明らかに信じていないジト目である。




「……あんた達がシェリルとミリィを倒したの? なんか見た感じ、全然強くなそうだけど?」




「あはは、そうかもね」




なにせ、少し前はごく普通の女子高生だったのだ。

別に部活で剣道や空手をしていた訳でもないし……。

そんな女の子が強く見える訳がない。

相手は嫌味のつもりで言ったのだろうが、それは無視しておく。

会話が流されたミカちゃんは不満げな顔をしていた。




「ところで何であんな所に倒れてたの、ミカちゃん?」




「仕事を請け負って遠くの街まで行ってたのよ。そしたら依頼人が急にキャンセルしてね。私、その時、行きのお金しか持って無かったの。お陰で飲まず食わずでシンシナに帰ってきたからね。流石にバテたのよ」




「なかなか大変なんだね、ギルドも。っていうか、そういうのってメンバー組んで行くんじゃないの?」




私はゲームをしないからよくわからないが……以前、理沙と一緒に遊んだRPGでは酒場で気の合う仲間を引き入れ、ギルドでクエストを請負、仕事に出ていた。この世界のギルドでも多分、似たような感じかなと思ったんだけど。




「わ、私ほどの実力者になるとみんな遠慮するのよ。あ、あっという間に出し抜かれちゃうからね。だ、だから誰も誘わないのよ。基本一人よ」




「生意気で上から目線だから、誰も来ないだけじゃないッスか」




「……あ? 今なんて言った?」




ミカちゃんがバンと机を叩き、立ち上がる。

周りが何事かと一瞬静かになる。

よく見ると、こめかみの辺りがピクピクと痙攣している。

この子、沸点低い。




「言うじゃない……このボール胸女! 格の違いを見せてあげるわ」




そう言って彼女は太腿に漬けいていたホルスターから銃を取り出した。

銀色に輝くその銃は無骨なデザインで装飾が殆ど無い。

それが却って異様な不気味さを醸し出している。

両手で銃を構え、右手でグリップを握り、左手は右手の上から添えて固定している。腰のふらつきなどもなく、足腰の強さや体力にもきっと自信があるだろう。彼女の瞳は敵意に満ちあふれていた。

いつでも撃てるぞという腹の決まった、濁りのないまっすぐな瞳だ。

って、こんなところでケンカは止めて!

私は止めようとしたが。




「フン、お団子チビに言われたくないッス。そっちがその気ならやるまでッス」




と、理沙もハルフィーナを装備した。

突然の乱闘騒ぎに周りは引くどころか、逆に盛り上がりだした。

こういうのは日常茶飯事なのだろうか。

っていうか、やめてよ、ふたりともー。




「だ、誰がチビよ!! つ、つーか、そっちの相方だってチビじゃない。胸だって無いし~」




「はあ!? メイを同じにしないでください。メイは優しくて、可愛くて、努力家で頑張りやさんッス。そもそも、アンタだって胸ないッス!!第一、メイは形こそ小さいですが、お椀型でとっても綺麗なんスよ。胸はね、大きさじゃないんス、大事なのは形ッス!! チビで胸なし&お団子なんて、ニッチ過ぎて変態しか来ないんじゃないッス! だから誰かもパーティに誘われなくて、ぼっちなんッスよ!」




「はあああああああああああああああああああ!?こ、このボール女がぁ……。もう我慢ならないわ。あんたは私の逆鱗に触れた。風穴が開く準備はよろしくて?」




「はん……生意気な。後悔しても知らないっスよ!」




「ちょっと二人共、ケンカはやめて!」




ノノの制止の声も届かず、一触即発の雰囲気だ。

理沙、そんなに私の胸ガン見してたのね。

あとでしばこう。



両者、睨み合う。

ピリピリとした空気が辺りに充満し、喉に酸っぱいものが込み上げてくる。二人はそのまましばらく動かず、相手の出方を探っていた。

斧が切り裂くのが早いのか、それとも銃弾が風穴を開けるのが先か。

周りの人たちは更に盛り上がりだし、中には賭けをする連中も出てきたが。




「ポールシェンカ、ポールシェンカはおらんかね!?」




と、お婆さんの声が割って入ってきた。




「あ!?」




「ひいい!!」




と、突然の闖入者に遠慮なく嫌忌を向ける二人。

お婆さんはびっくりして尻もちをついてしまった。

まったく……お年寄り相手に遠慮がないんだから。

私はそんなお婆さんの前にしゃがみ、手を差し伸べた。




「お婆さん、大丈夫ですか」




「あ、ああ、す、すまないね……。ええと、ワシの孫のポールシェンカはおらんかね? アンタ知っとるかのぅ?」




私の手を握り、ゆっくりと身体を起こしてあげる。

ハリもなく、シワシワでかさかさな手。

お婆ちゃん独特の心地よい臭い。

なんか、田舎のお婆ちゃんを思い出すな。

元気にしているだろうか。




「いえ、私は一般客なので。その人の事は……」




「あら、お婆ちゃん、何しに来たの?」




と背後から声がした。

振り向くと、女性がいる。

胸が大きくちょっぴり厚化粧な女性だ。

確か、ギルドの受付をしている人ね。




「おお、ポールシェンカ。実はランディが毒になってしもうたんじゃ。

お医者様が言うにはドルドルの毒だとか……」




「まったく、あの冒険者かぶれの弟は。まーた危ない場所に行ったのね、実力も無いくせに。トレーニングなら小規模なダンジョンに……え、ちょっと待って。ド、ドルドルの毒!?」




青ざめた顔をするお婆さんとポールシェンカさん。

そこへケンカ途中だったミカちゃんがやってくる。

その顔は岩のように険しい表情をしていた。




「危険よ、少しでも早く治療しないと手遅れになるわ。おまけにその毒は進行速度が早いから時間が経つほど、回復が難しいわ。急いで解毒剤を作らないと」




「そうなんじゃ……お金は出すから誰か作ってくれんかの?」




しかし、ミカちゃんは難しい顔をしたままだ。

言葉を選んでいるのか、慎重になっている。

そしてゆっくり話しだした。




「お婆さん、解毒剤を作るにはナイトーヴァという草が必要よ。あれはこの季節ならゴルツ山脈の頂上付近に生えているはず。でも、あの付近は大型モンスターが多いし、おまけに今はそいつらの繁殖時期。しかも夜。かなり興奮しているから、見境なく襲ってくるでしょうね。腕の立つ傭兵でも厳しいレベルよ」




「ミカちゃん、ゴルツ山脈はどこにあるの?」




「街を出て東に10分ぐらい進めば着くけど……まさか、アンタ、行くつもりじゃないでしょうね?」




「そのまさかだよ」




彼女の質問に私は頷く。

無理無理と腕を横に振るミカちゃん。




「さっきも行ったでしょう、大型モンスターが繁殖時期だって。奴らはメスと交尾する為に必死なの。体力を蓄える為に同族すら襲って食い殺し、栄養を蓄える。生き残った強い奴だけが子を残せるの。おまけに夜はモンスターが活発になる時間帯でもあるわ。そんな中に行くのは”お前らの栄養源になってやるから私を食ってくれ”って言ってるようなもんよ。自殺願望がなければ辞めるべきね。第一、アンタ達はギルドメンバーでもない、ただの一般客じゃない!」




「確かにそうだよ。でも、困っている人を放っておけないよ。それに私に自殺願望はないから大丈夫。実力なら大丈夫。それなりに経験もあるし、味方もいるからね。理沙、ノノ行くよ!」




「メイはお人好しッスねぇ。まあ、そこがいいところっスけど」




「だよね」



同意も取れたことで私たちは早速準備をしようとしていた。

そこへ様子を見ていたポールシェンカさんが声をかけてくる。




「あなた、メイさん……でしたね。お噂はかねがね聞いております。今回の件、お頼みしてもよろしいですか?」




「もちろんです!」 




私の言葉にポールシェンカさんは微笑を浮かべた。




「成功した暁にはギルドから報酬を出させていただきます。そういえば、あなた方はマスターともお会いしたいとの事でしたね。多忙な方ですが、特別に謁見の順番を最優先にします」




「わかりました。ミカちゃん、山まで案内してね!」




「わーたから抱きつくなって! 命知らずな連中ね。まあいいわ。

全員、ミカ様に着いてきなさい!」




ドダダダと先頭を走り出すミカちゃん。

小さい分、速度も早くあっという間に見えなくなる。

流石、プロのギルドハンターである。

その動きについていけているのが理沙。

少し経ってようやく追いつく。

二人の背を追う私とノノ。

やはり鍛えている二人は違う。




「言っておきますけど、決着はまだ着いてないッス。絶対に勝負してもらうッスよ」




「フン、そんな事は常識よ。太陽が東から出て西に沈むのと同じくらい常識よ。いずれ決着はつける。それまでせいぜい死なないようにね」




「そっちこそ、ビビっておしっこ漏らさないよう気をつけるッス」




「はあああ!? あたしは15よ、そんな子供みたいなことしないわよ!」




「じゅうごさい~? 5歳の間違いっス」




「コイツ……絶対ぶっ殺すからね! 覚えときなさいよ!! 絶対、そのどてっ腹に鉛玉ブチ込んであげるからね!!」




わーきゃーわーきゃーと痴話喧嘩が繰り広げられる二人。

あの、こんな所で戦わないで山の魔物と戦おうよ。

という私のツッコミは彼女たちには届いていない。




「メイ、妖精の魔法なら軽い毒や麻痺の治療もできるわ。気分が悪くなったらいつでも言ってね」




「うん。頼りにしてるね、ノノ」




ギルドを後にし、私達は町の外へと駆け出した。

陰気をぶちまけたような景色が街に広がっていた。

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