第二章「新たな冒険の始まり」
第31話「北へ」
お姉ちゃんたち、ロラン、ミオさん。
そして、お義父さん、お義母さん。
みんなと別れることになった。
余韻に浸る暇もなく、一気に存在感が消えて寂しくなる。
そんな気持ちを背負いつつも、私達はトンポリを目指すことにした。
いつもの三人に戻ったものの、祭りが終わった後のような寂しさがある。
なんというか、もう少し続いてほしかったというか。
そういう気持ちが心の底にこびりつく。
「メイ、トンポリは歩いて半日くらいで着くッス」
「……うん」
「あー……寂しいのはわかるッスけど、生きていれば、また会えるッス。その為に行くッス」
「行きましょう、メイ」
そう言って手を繋いでくれる理沙とノノ。
そんな二人の気遣いに少しだけ心が暖かくなる。
そうだよね、しんみりしてちゃダメだよね。
正直、この世界を守るとかそんな大それた事は考えていない。
けれど、お義父さんやお義母さん達と一緒に暮らすために。
お姉ちゃん達とまた笑って再会するために。
できれば、私の本当の両親とも再会したい。
そしてみんなで暮らせたらなと思う。
そうなる為に頑張らなくちゃ。
「王国からトンポリまで北にまっすぐッス」
「道も整備されてて進みやすいね」
道は付近の雑草が綺麗に狩られ、石畳の道となっていた。
石畳の道は歴史を感じさせ、情緒あふれる景観だと思う。
普通の土の地面よりも歩きやすくていい。
心なしか足も喜んでいるような気がする。
こういう道っていいよね。
「でも、何で石畳に?」
「この道は王様が避暑地に行く時通る道ッス。王様は馬車で行きますが、土のままだと雨降った時はぬかるんでしまうッス。そうなると馬車の車輪が泥の中に沈み込んで進めなくなるッス。そこで石畳にしたんスよ。こういう道なら徒歩はもちろん、馬車も楽に進めるッス」
「へぇ……相変わらず博識だね」
「ま、師匠から教わった受け売りッスけど」
「理沙、師匠さんがいるの?」
「ええ。ナイトゼナに来た時にお世話になったッス。その人から色々学びまして」
てへへと照れくさそうに笑う理沙。
まあ、理沙も普通の高校生だもんね。
いくら私より半年前にこの世界に来たとはいえ、博識すぎると思ってたんだ。師匠さんに教わってきたのなら合点がいく。
思えば私にはそういう人はいないな。
「師匠さんは今でも元気なの?」
「あー……えっと、その」
「号外でーす。はい、お嬢ちゃん達もどうぞ。はー、忙しい、忙しい」
と、急に男の人が割って入ってきて、何かを渡すとさっさとどっかへ行ってしまった。渡されたのは号外と書かれた新聞だ。
ナイトゼナにも新聞があるのは知っている。
以前、シェリルとミリィが捕まったと報じる新聞をロランさんと一緒に読んだことがある。でも、号外があるのは知らなかった。
日本でも超有名バンドが解散とか、大規模な災害、事件なんかが起きたら配られている。ニュースで号外が配られている場面を何回か見たことあるけど、実際に見るのは初めてだ。
「何々……ニルヴァーナ大規模大量殺人事件。昨日午後、死亡したと思われていた国際指名手配犯のミリィが大会参加者として変装し、出場。観客・来賓・参加者達の魔力を強制的に奪い取るという暴挙に出た。魔力の枯渇は死を意味する。動機は自分を捕まえた少女・七瀬芽衣への復讐だ。彼女は今回の大会に参加していた。しかしミリィは七瀬芽衣により返り討ちになり、遂に死亡した。一部観客による自主避難があったものの、犠牲者の数は8万人を超えるとされており、身元確認作業が急がれている」
私はそのまま続けて紙面の下の方に視線を移す。
「今回の事件で国際指名手配犯を事前に見抜けなかった王政に対し、国民は怒りを爆発。大規模なデモ更新を始め、城の前に連日座り込む住民も出た。また「これを期に古い王政は廃止して民主主義国家となるべきだ」という意見も強く出ている。ナイトゼナではシェリル・ミリィの暴挙により王や臣下のほとんどが死亡するという痛ましい事件が起きたことは記憶に新しい。しかし、皮肉にもそれが国民議会運動に火をつけるきっかけともなった。商店会同盟のトップが新しい政治を……ダメだ、長い」
まだまだ続きそうなのでここらでやめておく。
理沙が興味深く新聞を覗き込み、難しい顔をする。
情報収集が得意な彼女にとって新聞はまさに命の源泉だ。
真剣な表情をしているが、その必死さがこちらにまで伝わってくる。
「むむぅ、要約すると、ミリィ事件はニルヴァーナ国にとって相当な痛手みたいッス。国民達は王政を廃止して議会制民主主義にするかもしれません。まあ、それよりも王様が謝罪をする方が先ッス。あまりにも多くの人が亡くなりましたから」
「……私がもう少し強かったら犠牲者は出なかったのかな」
「メイ、IFは考えないほうがいいわ。メイはやれることをやったの。あなたに非は無いわ」
「ノノの言うとおりッス。もしミリィを倒さなければ、もっと犠牲者は増えたッス。メイが全力でミリィを倒したことを国民達は知ってるッス」
「でも、新聞には何も書かれていないね」
「多分、アイン王子の配慮だと思うッス。旅の支障になると考えたんじゃないッスかね」
「なるほどね」
「だから自分を卑下しないで欲しいッス」
「理沙の言う通り。メイはもっと自信を持たないと」
二人は優しい言葉を私にかけてくれる。
確かに頭でIFを考えてもどうにもならない事はわかっている。
それで死者が蘇るわけじゃないし、前向きにいかないといけない。
考えを切り替える必要がありそうだ。
「うん」
私はただ頷くだけに留めた。
そのまましばらく無言であるき続けた。
しばらく歩いていくと、そろそろ太陽が最も活動する時間になった。
ちょっとお腹も空いてきたかな。
「あと少しでトンポリッス」
私達は石畳を歩き、目的地へと向かう。
先程からモンスターも出ず、ただ自然が広がっている。
辺りは林が広がっているだけで他に人工物はない。
そんな中、奇妙な人を発見した。
「あれは……」
よく目を凝らして見つめてみる。
顔を白いペンキで塗りつぶし、鼻から耳、そして唇をショッキングな赤色に染めている。丸い赤鼻をつけ、派手な赤色のパンチパーマみたいなカツラをつけている。言うまでもなくピエロだ。
玉乗りをしながらお手玉もしており、実に器用だ。
けれど、周りには誰も観客がいない。
「……やあ、こんにちは。お嬢さん方が来るのを待っていたよ」
「なんか怪しいピエロッス」
「へぇ……これがピエロって言うのね。初めて見たわ」
三者三様の驚き方に「ははは」と軽く笑うピエロ。
私は不気味な姿に驚いて、コメントを避けた。
「よっと」と掛け声と共に玉乗りから降り、そのままお手玉だけ続ける。
ホント、何なんだろうかこの人は。
「実は道に迷ってしまってね。さっきから人が通りがかるのを待っていたんだ。僕は他の大陸から来ていてね。ナイトゼナの地理をよく知らないんだ。もう5時間近くもこうして待っていたよ」
明日の天気を話すかのように気軽に答えるピエロ。
でも、私達の警戒心はまだ解けないでいる。
「ここから南にまっすぐ行けばニルヴァーナに着くッス」
「そうか。それはありがとう。では、さっそくそこへ向かうとしよう。
優しいお嬢さん方、どうもありがとう」
「い、いえ……」
お手玉を止め、ボールを運びながらこちらに背を向けて去っていく。
しかし、何を思いついたのか動きを止め「そうそう!」と大声を出した。
「優しいお嬢さん方、君たちにお礼をしよう。ただ、生憎、僕は物もお金もないんだ。そこで情報を上げよう。この先にある林に行くといい。奥には温泉が湧いている」
「は? この地方に温泉は無いッスけど……」
「まだ誰も見つけていない秘湯さ。魔力の結界が貼られていたので解除したんだが、多分、ミリィが張ったものだろう。大雑把なように見えて物凄く繊細で細かい術式だった。ああいう書き方は恐らく、ミリィしかできないだろう。怪我を治すために使っていたんじゃないかな」
「なんでそんなに詳しいんスか?」
「優しいお嬢さん方。僕は道化師……ただのピエロだ。こうやって世界各地を渡り歩き、大道芸をしてお客さんを笑顔にさせることが僕の仕事だ。それ以外は何も知らないし、何もできないエンターテイナーさ。まあ、興味があるなら行ってみると良い。ではまた。君たちの旅に神の祝福があらんことを」
そのままピエロは去っていった。
残された私達はどうしようかと頭を悩ませる。
「……確か、ミリィと戦った時、火球を理沙が跳ね返したっけ。ワープで逃げたけれど、大火傷を負っていた。その湯治の為に温泉に来ていたのかな」
「可能性はあるッス。まあ、ピエロの言うことが全部本当ならという前提での話ですが。行ってみるッスか?」
「温泉……いいかも。いきましょ、メイ」
と嬉しそうな声を上げるノノさん。
何だか緊張感がないなぁ。
無視して行くのも一つの選択肢だ。
でも、後で気になるのもねぇ……。
あのピエロの言葉が本当かどうかはわからない。
罠の可能性もあるけど、そもそも、そんなことをするメリットがあるだろうか。もし私を狙う刺客なら回りくどいことをしないで戦えばいい。
時間はまだお昼だし、林に立ち寄る時間くらいはある。
「行ってみましょう」
トンポリのルートから少し外れ、林を歩く私達。
流石に獣道だけど気にせず進む。
アスファルトに慣れた私と理沙からすると、こういう土の道は気持ちがいい。疲れが大地に染み込むと感覚だ、これで石が無ければいいんだけど。
しばらく歩くと硫黄の匂いがしてきた。
「ん?この匂い……」
「見るッス、メイ」
林の開けた場所に温泉があった。
あのピエロの言っていたことは本当だったようだ。
しかもそこは動物たちが入っており、憩いの場のようだ。
こちらに気付くと動物たちはささっと逃げていった。
むむ、ちょっと残念。
「よし、さっそく入ろうか。ここなら他に人もいないだろうし」
「待つッス、メイ!」
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
現れたのは2メートルはあろう、大熊だ。
青い毛並みをしており、手と足には鋭い爪が生えている。
目は完全にこちらを威嚇しており、グルルルと唸り声を上げている。
口からはだらし無く涎が地面に溢れるほど出ている。
「よく銭湯出た後、フルーツ牛乳飲んで、お腹が空いたら、お好み焼きとか食べて、テレビで阪神戦を観てたッスね。奴はその気分でしょう」
「あの大きい銭湯、よく一緒に行ったよね。玄関付近のあのテレビ大きかったね。理沙サウナ大好きだから何度もサウナと水風呂を往復してたっけ」
「サウナは身体にいいんッス。また行きたいっス。今度はノノも含めてみんなで」
「うん」
「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」
俺を無視するなと言わんが如く、襲いかかる熊。
すぐに回避して距離を取る。
獲物は既に準備し終えている。
「さて、奴の射程は短いっスけどあの爪の威力は相当ッス。
近づいて戦うのは難しいかもしれないッス」
「理沙の斧を投げつけたら? その背後を私が狙うとか」
「いや……そう上手くもいかないようッス」
熊はいきなり胸を叩き出し、口からピューと吐息を吐きだした。
みるみる木が氷出し、その木を熊が持ち上げる。
氷の木は単に木が凍っただけではない。
氷が木をすっぽり覆い、強度を増している。
それをブンブン振り回しているではないか。
「ウガアアアアアア!!!」
熊は一本の木をこちらに投げつけた。
回避したものの、氷の木は他の木々を凪倒していく。
それでも氷の木は傷一つついていない。
熊はすぐに投げれるように準備している。
近づけば氷の木バットで殴られ、遠ければ氷の木ミサイルだ。
セグンダディオやハルフィーナで切り落とせるかな……。
「あの氷、もしかしてミリィが造ったモンスターなのかも」
「ナイトゼナに氷を吐ける熊なんて聞いたことないッス。恐らく門番として造ったのかもしれないッス」
「メイ、理沙、どうするの? これじゃ、攻めるに攻められないわね」
「耳貸して、ノノ、理沙」
しばし作戦会議。
そして二人は私の案に賛成した。
飛び出す私達。
「
ノノの手から中心に地面が凍りついていく。
すぐに熊の元まで凍りつき、すってんころりん。
こけたと同時に木も熊の手から離された。
私達は凍ってない地面を歩き、私が左、理沙が右を行く。
熊は爪を地面に刺し、何とか起き上がろうとするが、足がおぼつかない。
そこがチャンスだ。
私と理沙が左右から迫り、射程位置につく。
けど、動きは止めずに走り続ける。
そのまま勢い良くジャンプし、隼の如く左右から切り裂いた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
血しぶきが舞い、痛みにのたうち回る熊。
それと同時にノノが
普通の地面に戻る。
ここまでくれば熊は赤子同然だ。
理沙が遠慮なく斧で首を掻っ攫った。
「やった!」
「連携プレイの勝利っスね」
「流石ね、二人共」
ハイタッチを交わす私達。
よし、これで温泉に入れる!
「この熊は鍋に煮込みましょう。久しぶりの熊鍋ッス。
準備しとくんで二人は温泉入っててくださいッス」
「はーい。んじゃ行こ、ノノ」
「ええ」
私達は仲良く温泉に入ることにした。
タオルもないし、裸なのは恥ずかしいが、まあ女同士だし気にしない。
戦闘で汗臭くなっていたので、温泉は普通に有り難い。
ゆっくり浸かり、顔を洗う。
うん、湯加減もなかなかいい。
家のお風呂よりも少し熱いぐらいかな。
「メイ、まだまだ小さいのね」
「ノノ、どこの事を言ってるの!? そういうノノだって……」
「ふふ、私はそこそこあるのよ」
比べてみて愕然とした。
私の胸は例えるなら、コンビニに売っている丸いジャムパンぐらい。
なのに、ノノはハンバーガーぐらいの大きさがある。
うわ、これは何も言えないわ。
「でも、メイの、可愛くて好きよ」
「ちょ、やだ、揉まないでよ。もう、ノノの変態。まるで理沙みたい」
「女同士なんだから気にしない、気にしない」
「きゃー★」
とはしゃぐ私達。
理沙はそんな私達をじっと観ていた。
「あー……ビデオあったら録画しときたかっス。いや、脳内RECすれば大丈夫ッス。たまにはこうやってメイを視姦するのもいいっッス。うえへへ……」
「理沙。いやらしい目で見るなー!」
とお湯をぶっかけて上げた。
きゃはははと笑う私達。
すると、理沙は怒り沸騰。
ポイポイと服や下着を脱ぎ出して全裸になる。
「やったっスねー、倍返しっスー」
と、温泉にぶっ飛んでくる理沙。
ザッパーンと大きな音と衝撃が広がり、そこからお湯の掛け合いっこが勃発した。私達はそうやって温泉を満喫したのであった。
ついでに熊鍋も食べてお腹いっぱいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます